連載コラム

再考 蛍光灯のアカリ

[ 2009.10.28 ]

はじめに

 エジソンの電球発明から今年で130年。地球温暖化対策の一環としてエネルギー効率の悪い白熱電球を段階的に廃止する政策がEUやオーストラリア、米国など世界各国で打ち出された。2012年をめどに、我が国でも一般白熱電球の製造・販売が中止され、代替ランプへのシフトが進んでいる。その代替ランプとしてなにかとLEDが注目される昨今だが、今回のコラムではそんな時代だからこそ、改めて「蛍光灯」にスポットをあててみたい。

日本の照明の7割は蛍光灯

我が国で一般的に使用されている全ランプの消費電力量のうち、白熱電球は全体の約10%だけで、蛍光灯が実に約70%を占める。1938年にアメリカGE社が開発、発売した蛍光灯は、我が国では1940年に現在の東芝が製造を開始。当初は、軍艦で使用されていたが、法隆寺壁画の模写用に初めて一般用途として使われた。蛍光灯はエネルギー効率が高く、光色や形状が豊富で、線や面照明を容易に実現する。演色性に優れ、色や明るさのばらつきが少ない安定した光質と、拡散性があり取り扱いも簡便だ。頻繁な点滅や微妙な調光、寒さに弱いなど幾つかの弱点はあるが、長寿命で経済性も高く、このようにバランスのとれたランプは、今のところ蛍光灯を除いて他にない。ちなみに、LEDは 2008年に100lm/Wを超え、2015年には150lm/Wに達するとされるが、これはLED素子単体に限ったことで、器具全体の総合効率としては、残念ながらHf蛍光灯にまだ及ばないようだ。下のグラフは2005年のデータである。電球形蛍光灯やLEDが浸透しつつあることを考慮すると、2009年のデータがどのような構成になるのか興味深い。

図1:全ランプの消費電力量の構成比率(2005年)資料:(社)日本電球工業会
図1:全ランプの消費電力量の構成比率(2005年)資料:(社)日本電球工業会

蛍光灯の出来るまで

蛍光灯は低圧の水銀蒸気中の放電によって発生した紫外光を蛍光体で可視光に変換するという原理で、様々なニーズに対応できるようバリエーションを増やしてきた。先日、筆者はスリム蛍光灯を主力とするニッポ電機の平塚工場を訪ね、その製造工程を見学してきた。蛍光灯の製造には7つの工程がある。(図1~図6)

写真 写真 写真

写真 写真 写真

(1)塗装工程:ガラス管を洗浄、乾燥後、蛍光塗料を塗って乾燥。量産品は自動塗装ラインで塗装するが、写真は少量生産品を手塗りで塗っている工程。
(2)焼成工程:ガラス管端部カット後マーク刻印、焼成。
(3)部品工程:フィラメントやリード線など電極となる部品の組立。
(4)封止工程:焼成工程後のガラス管両端を部品で封止。
(5)排気工程:中の空気を抜きながら不純物を出し、真空状態にしてアルゴンガスと水銀を封入。
(6)仕上工程:口金の挿入、接着と口金ピンの圧接、エージング確認。
(7)梱包工程:サック詰め、梱包。
1946年創業のニッポ電機では年間300万本以上を生産し、エースラインランプ、スリムラインランプ、シームレスラインランプ、紫外線ランプなどの種類がある。こんなに大掛かりな工程を経て、蛍光灯はできている。
筆者は間接照明に蛍光灯をよく使うが、中でもよくお世話になるのは1997年に登場したシームレスラインランプだ。ランプ両端にソケット部がなく端から端まで均一に光るので、連続した美しい光を容易に得ることが可能だ。器具断面が非常にコンパクトなため限られたスペースにも無理なく設置できる。5種類の長さが選べ、2500K、2800K、3000Kと電球色のバリエーションも充実している。筆者がこのランプを初めて使ったのは、東京・赤坂にあるアーク森ビルロビー改修でのこと。改修前は2層吹抜け天井面に40W白色蛍光灯トラフが連続配置され、2階からランプが丸見えだった。当時は、発売後まだ2件目の施工例だったが、シームレスラインランプは今や間接照明の定番となった。

図8: 製造途中のシームレスラインランプ
図8:製造途中のシームレスラインランプ

2009年8月、店舗照明用蛍光灯60%のシェアをもつニッポ電機と、30%のダイア蛍光が、共同出資による合弁販売会社DNライティング(株)を設立した。今後、DNLブランドを立ち上げ、製品の統合が行われるらしい。

木の温もりがやさしいオフィスビル ライティングM

図9:木材会館の夜景
図9:木材会館の夜景

施主:東京木材問屋協同組合
建築設計:山梨知彦/日建設計+勝矢武之/NSD
照明デザイン:ライティングM
http://www.lighting-m.co.jp/
所在地:東京都江東区
写真提供:ライティングM(図9-12)


1950年代、オフィスビルの建設ラッシュとともに、蛍光灯の普及が爆発的に拡大していった。オフィスビルに煌々とした蛍光灯の白い光が、日本の都市の夜景を象徴するようになって久しい。そんな中、東京木材問屋協同組合の100周年記念事業で、今年、新木場にオープンした木材会館は、新時代の潮流を感じさせるオフィスビルだ。木材需要が低迷する中、都市部において木材を使いながら安らぎのある魅力的な空間と、地球環境の貢献をテーマに、1,000㎥以上の国産木材が、地上7階、地下1階建の内外装や構造に使用されている。
外観照明は、ボックス状のテラスを壁面から軒裏にかけてL字型にアップライトし、リズミカルな表情を出している。1階外部間接照明は、ニッポ電機の防雨形シームレスシェル(2800K)で、2階から上のテラスにはウシオスペックスのHCI-T35W床埋込照明器具が使われている。

図10:1階エントランスホール
図10:1階エントランスホール

1Fエントランスホールは、杉の風合いを映したコンクリート天井にスリットが切られ、そこに納められたウシオスペックスHCI-TC35Wアジャスタブルダウンライトが、檜のオブジェを象徴的に照らす。照明器具はスリット短辺に対して偏芯配置し、立ち上がり面に余計な光が引っかからないよう細やかな配慮をしている。ガラス越し正面の壁は、床との境界に溝を掘り、パナソニック電工の仮設工事用・防水型蛍光灯FL40W(3000K)を並べて、エントランスホールからの視線を受け止めている。

図11: 1階ギャラリーの天井もエントランスホールと同じシステムで、スリットには空調設備や照明が組み込まれている。
図11:1階ギャラリーの天井もエントランスホールと同じシステムで、
スリットには空調設備や照明が組み込まれている。

図12 ランダムに組み合わせた檜の角材による壁面がユニークだ。
図12:ランダムに組み合わせた檜の角材による壁面がユニークだ。

1Fギャラリーは、檜で組んだ壁とコンクリートの天井を高照度形シームレスライン(2800K)のアッパーライトが、やわらかく包み込む。角材をランダムに組み合わせた大壁面は、エルコのHCI-TC35Wウォールウォッシャーダウンライトが照らす。木扉を照らす軒下ダウンライトは、大光電機のダイクロハロゲンランプ50Wだ。「木の風合いに最適な色温度にこだわってランプを選択した」、と照明デザインを担当した森秀人氏(ライティングM)は言う。建築全体に亘って統一された温かく穏やかな光が、素材の風合いと空間の魅力を最大限にひき出し、オフィスとは思えない程、香しく安らぎのある建築に仕上がっている。

テーブルが光るレストラン 岩井達弥光景デザイン

図13
図13:テーブル面を透過した光が、
人々の表情を柔らかく照らし上げ、
非日常的に魅せている。

施主:リストランテ・ヒロ
インテリアデザイン:渡辺康建築研究所
照明デザイン:岩井達弥光景デザイン
http://www.lumimedia.jp/
所在地:東京都中央区
図、写真提供:リストランテヒロプリモ(図13)、岩井達弥光景デザイン(図15)、渡辺康建築研究所(図14,16)

図14
図14:蛍光灯の色温度や設置間隔の
検討と共に、天板に使用する人工大理石を比較実験した。

東京駅構内にある客席数30席程度のイタリアンレストラン・ヒロプリモは、「光るテーブル」が特徴だ。照明デザインを担当した岩井達弥氏(岩井達弥光景デザイン)によると、床よりも目立つテーブルトップを光らせることで空間の広がり感を強調している。光源にはLEDも含め何種類かが検討されたが、テーブルの厚みに制限があったため、輝度ムラや明るさ、色温度に問題があった。均一に光らせるためには、実験の結果、蛍光灯のシームレスラインランプ(3500K)が最も好ましいという結論になった、と言う。


図15

図15:テーブルのディテール。蛍光灯を並べるとそれなりに熱を持つので、
冷たい料理の提供には問題がある。強制ファンを設置して熱対策を講じている。

光るテーブルは、それ自体が空間の照明装置だが、上に置かれたお皿がシルエットになって肝心の料理がよく見えないという問題もあるため、お皿を個別に多灯ユニット式ダウンライトで照らしている。MODULAR LIGHTING INSTRUMENTSの多灯ユニット「Mini-Multiple」シリーズはトリムレスで、AR70ハロゲン50Wが、まぶしさを抑えながら天井面をスッキリ見せている。

図16
図16: 円形の光が、ランダムに現れるハーフミラーの壁面

ハーフミラー壁面の裏側には森山産業の長寿命キセノンランプLEランプホルダー100Vタイプが仕込まれ、円形の光がぼんやりと現れては消える。これは、簡易なプログラムサーキット調光器によるものだが、筆者が訪れた時には、店内に流れるBGMと何となくタイミングが合っていて、さりげない遊び心に好感がもてた。
ダウンライトの直射光が料理を必要な明るさで照らすという機能的な役割に対して、テーブルやハーフミラーから透過する光と、壁や天井に反射する光のレイヤーは、機能的な必然性より、そこにいる人や空間を豊かにする「場の空気」のようなもの。東京駅構内の喧騒を遮断し漂う非日常的な空気感は、巧みに計算された光の効果によるものだ。

成熟社会の照明はどうあるべきか

ランプが丸見えでも明るければ良し、とした我が国は、高度経済成長とともに蛍光灯王国となった。蛍光灯は、あらゆる場所に使われ、ついには住宅にまで及んだ。これ程普及したのは、第二次世界大戦中の灯火管制の反動によるものとも伝えられる。時代は成熟社会を迎えようとしていて、低エネルギーで高度なライフスタイルが求められている。日本古来の伝統的家屋は、直射光を軒先の白砂に反射し、更に畳やふすま、壁への反射を繰り返しながら室内の奥まで光を届けた。障子は透過光をやさしく拡散し、夜ともなると低い位置に置かれた行灯が室内を仄かに照らした。日本の伝統的なアカリは透過と反射による間接照明で、豊かなライフスタイルを体現していた。成熟社会の照明はどうあるべきか。照明を取り巻く環境は、白熱電球を捨てて一気にLEDにシフトするかのような勢いだが、今後LEDを利用するためにも、70年も付き合ってきた馴染みの蛍光灯を、改めて見直すことも有効だと筆者は考える。成熟社会のキーワードの一つに「引き算」があるが、エネルギーだけでなく、総体的な明るさの引き算も必要ではないか。変革期に立たされた今こそ、戦後の呪縛から脱皮する絶好のチャンスだ。

この記事を共有する

泉 ルミ
執筆者:泉 ルミ

照明デザイナー、イルミデザイン主宰。
1969年青森県黒石(津軽)生まれ。1991年株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツに入社し、住宅から店舗、美術館、オフィス等の建築照明、橋梁、公園、都市計画等の都市・環境照明まで幅広い分野の照明デザインプロジェクトに従事。その傍ら、面出薫氏が組織する「照明探偵団」に所属し、世界の夜景調査や照明文化を研究。2003年独立し、九州・福岡にてイルミデザインをスタート。
現在、緑に覆われた環境実験住宅・E-sevenを基地に、エコロジカルで魅力的なアカリを探求している。

バックナンバー