連載コラム

輝きのある日本へ

[ 2010.01.08 ]

冬を彩るアカリ

いつの頃からか、冬の街にはイルミネーションが灯されるようになった。寒い夜に、星屑のような無数の煌(きらめ)きを見ると、心が温かくなったような気がするのはなぜだろうか。日本のクリスマスイルミネーションの起源は、1904年、銀座の明治屋からとされ、年々派手になる装飾に大勢の人々が押し寄せた。光源には、かつて豆電球やムギ球が用いられたが、球切れや消費電力が多いこと、発熱などの問題から、近年、LEDを目にすることが多くなった。LEDのイルミネーションはどのくらい普及しているのか。適当なデータを探してみたが見つからなかったので、装飾照明の分野でトップ・ブランドの地位を築く、トキ・コーポレーションに聞いてみた。トキ・コーポレーションのデータから、全体市場におけるLED化が読み取れないかと考えたわけである。同社にLEDイルミネーション発売開始以降の出荷量の推移を折れ線グラフにしてもらった。データによると2007年で出荷量が逆転していることがわかるが、LED製品の価格が高いこともあり、イルミネーション市場は輸入品がほぼ席捲している状況だという。よってそれらの廉価品を含めたLEDイルミネーションの市場への広がりは、グラフの推移を劇的に上回る伸びを示すことが容易に想像される。

図 1:現在の明治屋京橋ビル図 1:現在の明治屋京橋ビル。本社社屋として1933(昭和8)年に建てられた。近代建築の巨匠、曾禰達蔵が手掛けた希少な現存作品で中央区指定文化財に指定されている。イタリア・ルネサンス様式のファサードをLEDで装飾したオーソドックスなイルミネーション。

図 2:イルミネーション光源のLEDと白熱ランプの出荷量の推移図 2:イルミネーション光源のLEDと白熱ランプの出荷量の推移(トキ・コーポーレーション提供)。2003年以降にLEDが徐々に普及し、2004年から2005年にかけて急激に普及。2007年に白熱ランプとLEDの出荷量が逆転している(縦軸の単位は千球)。

16世紀、宗教改革で知られるマルティン・ルターは、ミサの帰りに、森の中で煌く満天の星に感動し、木の枝に多くのロウソクを飾ることで、その景色を再現しようとした。これが、クリスマスイルミネーションの起源とされるが、その後、ロウソクは白熱ランプに変わり、500年の時を経て、煌く星はLEDに。景気後退や環境問題から自粛の動きも一部にあったようだが、2009年から2010年にかけて、例年のように日本各地をイルミネーションが彩った。以下に、東京、大阪、福岡各地のイルミネーションをレポートする。

東京・六本木ヒルズイルミネーション

およそ400mの並木道を約43万個のLEDが煌くけやき坂は、洗練された大人のイルミネーション、とでも呼ぶべきか。白い雪が結晶となって、青い光をまとう無数の煌きは、ホワイトクリスマスを想起させる。2003年の開始からデザインを変えずに、7年続いているイルミネーションだが、照明デザイナーの内原智史氏(内原智史デザイン事務所代表)によれば、けやき坂のブランドに対して、年々新しさだけを追い求めずに、且つ経済的要因に影響を受けにくい「継続的に施工費を軽減する仕組み」を提案しているという。実は、デザインマニュアルや現地監修で大変厳しい施工監理がされているのだ。たかがイルミというなかれ、けやき坂のイルミネーションは、ただ巻いてあるように決して見えないように徹している、とのこと。職人には継続的な担当を要望し、施工者も日本一の自負をもって毎年挑む。そのこだわりの最大のポイントはLEDのピッチで、特注ピッチのLEDが使われている。毎年イメージにあった色が選ばれ、2009年は、1/8ブレンド比による青と白。この絶妙なバランスも美しさの秘密である。砲弾タイプのLEDをいまだに使用するのは、動きに合わせて煌く輝度ムラを好むため。イルミネーションツリーの王道を行く六本木ヒルズには、いくつもの技が隠されていた。クリスマス直前の週末、デジカメ付ケータイを片手に六本木ヒルズは大勢の人で溢れていた。

図3:けやき坂イルミネーション。
図3:けやき坂イルミネーション。照明デザイン:内原智史デザイン事務所、イルミネーション製作:株式会社フォーディー有限会社スリーピース飯田電機工業株式会社、施工:飯田電機工業株式会社。写真:内原智史デザイン事務所。

図4:毛利庭園図4:毛利庭園。イミネーション製作・施工:飯田電機工業株式会社 、オブジェ製作・施工:株式会社つむら工芸、照明演出制作・施工:株式会社テクニカル・サプライ・ジャパン、低木用イルミネーション製作:株式会社フォーディー 、施工:飯田電機工業株式会社 。写真:内原智史デザイン事務所。

図5:66プラザ図5:66プラザ。イルミネーション製作・施工:飯田電機工業株式会社、オブジェ製作・施工:株式会社つむら工芸 、照明演出制作・施工:株式会社テクニカル・サプライ・ジャパン。写真:内原智史デザイン事務所。

大阪・御堂筋イルミネーション

2009年LUCI(光景観創造国際ネットワーク:世界56都市)に日本で唯一加盟した大阪は、光のまちづくりを通して国内外の観光客誘致に取組む。大阪市のシンボル、御堂筋のイチョウ並木1.2kmをイルミネーションで彩る「御堂筋イルミネーション」は、橋本知事の肝いりで、府民や大阪を応援する個人、団体、多くの企業から寄付金を集めた。イチョウの幹を中心に高さを活かした光の列柱は圧巻で、個性的な景色をつくっている。沿道のビルの協力と照明メーカーの協賛により実現したファサード演出からは、大阪をみんなで元気にしようという熱い思いが伝わってくる。照明デザイナーの起用を条件に、大阪府が公募型プロポーザルを実施し、長町志穂氏(LEM空間工房代表)がデザインを担当している。

図6:御堂筋イルミネーション
図6:御堂筋イルミネーション。照明デザイン:株式会社ハートス・LEM空間工房、主催:大阪府。約350本のイチョウの幹を中心に装飾したことで、枝への負担を軽減し、天に向かうようなダイナミックな垂直性を生み出している。「御堂筋イエロー」、「水都ブルー」など2色を微妙にミックス。電力は全てグリーン電力証書システム(大阪府産の太陽光)によるものだ。写真:LEM空間工房。

図7:樹木のイルミネーションだけでなく、歴史や風格のあるビルの壁面や窓を照らした光の回廊は、都市的スケールのあるパースペクティブな(絵画的な)表現。左手ガスビルの期間限定らしい晴れやかな色使いが楽しい。図7:樹木のイルミネーションだけでなく、歴史や風格のあるビルの壁面や窓を照らした光の回廊は、都市的スケールのあるパースペクティブな(絵画的な)表現。左手ガスビルの期間限定らしい晴れやかな色使いが楽しい。照明器具は、パナソニック電工製40W蛍光灯ホルダーに日本コーバン製ウルトラカラー・カラーフィルター巻き。写真:LEM空間工房。

図8:右手の御堂筋武田ビルでは、柱の足元にLEDス ポットライトを置き、両側からアップライトしている。図8:右手の御堂筋武田ビルでは、柱の足元にLEDスポットライトを置き、両側からアップライトしている。カラーライティングが、オフィス街を非日常的な風景に変えている。照明器具は、パナソニック電工製LEDマルチカラー投光器(NND26250K)10台。写真:LEM空間工房。

図9:子供たちの目線で見えるグリーンベルトのイルミネーション。 図9:子供たちの目線で見えるグリーンベルトのイルミネーション。 川の街大阪の「南北の光の川」を表現。他には、家族やカップルが楽しめる記念撮影ポイントなど、楽しい試みも。写真:LEM空間工房。 御堂筋イルミネーションの協力ビルと照明器具の寄付(レンタル)は下記のとおり。御堂筋三井ビル:(株)遠藤照明。本町ガーデンシティ(建設中):エルコライティング(株)・華やいで大阪・南河内観光キャンペーン協議会。石原ビルディング:ウシオライティング(株)。あいおい損保御堂筋ビル:(株)コンテンツ。御堂筋本町ビル:アル・ワズン。三菱東京UFJ銀行:(株)遠藤照明・大光電機(株)。武田御堂筋ビル:パナソニック電工(株)。日本生命:パナソニック電工(株)。淀屋橋odona:ウシオライティング(株)。

福岡・天神イルミネーション

福岡天神地区は商業施設やオフィスビルなどが立ち並ぶ九州一の繁華街。「天神のXmasへ行こう2009」と題して天神一体でイルミネーションが実施された。主催するのは、地区内の商業者や企業、地域団体など約100団体で構成するWe Love 天神協議会。事務局の平井氏によると、イルミネーションはこれまで各施設が個々に行ってきたが、2006年の天神協議会設立を機に連携的な取組が始まったという。今回初めて、ガイド付きのイルミネーションツアーを企画したというので、早速筆者も参加してみた。

図10:集合場所の大丸パサージュ広場で図10:集合場所の大丸パサージュ広場で。福岡歴史探訪ガイドの井上氏、黒田氏とともに、天神の歴史を織り交ぜながら見所を散策。

図11:VIOROクリスタルツリーツアーは4ヶ所のスポットを巡るが、最も注目を集めていたのは20-30代の女性をターゲットとする商業施設VIORO。花の結晶をシンボルに、8mの柱をクリスタルツリーに見立てている。スワロフスキーのクリスタルビーズを2万4000個使用しているが、ピンクのハート型ビーズを1個だけ忍ばせ、「見つけると幸せになれる」という噂が。照明デザイナーの馬渡秀公氏(アカリファクトリー代表)によれば、数万の中の1つを探すという行為と、「願いごとが叶う」、「幸せになれる」などのジンクスを合わせ、参加型の演出を試みたという。ツリー裏側のボタンを押すと鐘の音と共に幻想的なクリスタルの結晶が浮かび上がる仕掛けも。「来場者が演出の第三者から当事者になる事で満足度を高めようという意図と、製作者側も予期せぬ展開を期待した。参加者のモチベーションを上げる事が重要だと考えた。」と、馬渡氏。天神界隈で常に人だかりがあったことからも、仕掛けは成功したと言えよう。 図11:VIOROクリスタルツリー。照明デザイン:アカリファクトリー、監修:株式会社西広、企画:株式会社利助オフィス、施工:新日本工業株式会社、写真:アズマスタジオ。

図12:VIORO前でハート型クリスタルを探す人々 図12:VIORO前でハート型クリスタルを探す人々。大人ピンクをイメージカラーにしたというが、向かいの岩田屋百貨店のクリスマスツリーやソラリア西鉄ホテルの柱まわりなど、VIOROのある交差点一体はピンクのイルミネーションが目についた。示し合わせたわけではないようだが、冬空に灯るピンクのアカリはフェミニンな優しさと温かい感じがした。LED:Elite Lighting、照明制御:ライトウェーブネット、写真:アズマスタジオ。

図13:WISH BALLをツリーに飾り付ける子供達図13:WISH BALLをツリーに飾り付ける子供達。

ツアー最終地点の警固公園では色とりどりの球体オーナメントが1個ずつ配られる。球体オーナメントは、元来、星や、闇を照らすキリストの光を象徴するらしいが、警固公園では、それを「WISH BALL」と名づけて願い事を書き、ツリーに吊るす。2011年に九州新幹線の全線開業で、福岡は九州各地との往来が更に活発になり、東アジアの玄関口として国際観光にも力を入れている。We Love 天神協議会は、集客力向上と地域経済の活性化などを目指して他にもイベントを展開するが、中でもクリスマスは重要な位置を占めるという。気に入ったスポットを投票するコンテストも実施されている。ツアー参加者は、カップルだけかと思いきや、予想に反して子供連れが多い。2時間弱の街歩きは、いわば「光の体験学習」で、天神の歴史や夜の魅力を再発見する機会となった。

照明力を検証する

図14:第2夜「光の恋愛力」の会場風景
図14:第2夜「光の恋愛力」の会場風景。2009年12月17日-18日開催。会場は五反田・東京デザインセンター。

クリスマスイルミネーションを多くの人々が支持するように、照明の役割が、ただ明るくするためのものではなく、人間の心理や生理に直接作用する力のあることが理解されている。そのような、照明の持つ本来の力を「照明力」とよぶ。魅力的な照明は集客効果や経済効果をもたらしてくれるし、美しい夜景は、恋愛力を発揮して恋人たちの気分を盛り上げる。そのような「光の経済力」と「光の恋愛力」をテーマに、2夜連続のトークイベントが開催された。主催は、内原智史、東海林弘靖、武石正宣、東宮洋美、富田泰行の5人の照明デザイナーをメンバーに2002年に発足した円卓会議・照明楽会。第1夜はゲストコメンテーターに星野佳路氏(星野リゾート代表取締役)、第2夜は平井秀樹氏(テレビディレクター)を迎え、熱いトークが繰り広げられた。

定員300名の会場を満杯にして始まった第1夜のテーマは、「光の経済力」。高度経済成長期の照度の推移や、上海からのライブ中継による中国の照明レポートなど盛りだくさんの内容だったが、中でも筆者が注目したのは、リヨンの事例。フランス第2の都市リヨンは、ライトアップの先進都市として知られ、人口42万人と規模は小さいが、美しい街並みが残り、300箇所を越える歴史的建造物や橋梁のライトアップを実施している。1989年から「光で街のイメージを変えよう」と市長の指揮のもとライトアップを継続的に充実させてきたが、世界文化遺産登録を契機に規模を拡大。毎年12月に開催する世界最大の光の祭典「ルミエール祭」では、4日間で400万人を集める。観光客は年々増加し、多大な観光収入をもたらしているという。通常の道路照明などの機能照明と演出照明の総合的な整備も特徴で、民間が器具費を、市は工事費とメンテナンス費、電気代を出す仕組みがユニーク。市の年間照明予算は約40億円(3000万ユーロ)だが、この事例の発表を担当した田中レポーターの試算では、ルミエール祭での1人当りの消費を3万円と仮定すると、4日間でのべ1200億円。仮に税金を10%とすると120億円で、年間照明予算額の3倍の観光収入が見込めるらしい。だからと言って、どこでもライトアップさえすれば人が集まるわけではない。リヨンは、照らされるべき美しき景観資源が元々あった上に、高度な照明技術とデザイン力を備えていたからだ。 第2夜は、暗闇の中で生まれる特別な力を「くらやみ力」と題したレポートや、「光の恋愛距離」の計測実験、パリからのライブ中継など「光の恋愛力」がテーマ。20代男女の「プロポーズの理想的シチュエーションランキング」(コブスオンライン調べ)によると、男女ともに「夜景がステキな場所」が1位、「イルミネーションのきれいな場所」が4位と5位にランクイン。「雰囲気のよいレストラン」や「おしゃれなホテル」なども入っている。つまり、恋愛には光の演出が必須であることが、このデータから読み取れる。これは、ドラマや映画のラブシーンによる影響が大きい、ともされるが、ともかく光の感受性を高めることが恋愛力をつける秘訣らしい。「光の恋愛力」をテーマに筆者が反省したことが一つある。それは、照明デザイナーを生業とするからには、いくつになっても恋する心を忘れないこと。・・・修行が必要だ。

輝きのある日本へ

前述の六本木ヒルズイルミネーションをはじめ、平等院などの歴史的建造物、地方都市での光によるまちおこしを数々手掛ける内原智史氏に、照明デザイナーの立場から、クリスマスイルミネーションに対する思いと今後のあり方についてコメントを頂いた。「日本のクリスマスのイルミネーションの殆どが商業目的といえるが、都市的スケールで見ると、期間限定とは言え、その地域の大きなアイデンティティとなる可能性を秘めている。時流に媚びず、継承される価値を付加していくことが出来れば、商業目的のイルミネーションもその場所に不可欠なブランドアイテムとなるのでは」。前述のトークイベントでは、ゲストコメンテーターの星野佳路氏が下記のようにコメントしている。「日本各地にも、光のイベントは浸透しているが、問題は自分たちでやっていること。照明デザインのプロがやるものとの差がわかれば、質が高くなり、良くなるのでは」。 日本政府は成長戦略の柱として、環境などの他に、「観光・地域活性化」の強化を掲げた。年間約8000万人の観光客を受け入れるフランスは、世界第1位の観光大国。それに対する訪日外国人観光客は、800万人程度の28位である。「観光」とは、「易経」の中の「国の光を観る」に由来するといわれるが、地域に住む人々がその土地に誇りや幸せを感じることによって、その地域が光を示すことでもある。省エネにおける光の経済力が昨今、注目を集めているが、日本に輝きを取り戻すためには、本来の「照明力」と「プロの力」に頼ってみるのも一考だ。

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泉 ルミ
執筆者:泉 ルミ

照明デザイナー、イルミデザイン主宰。
1969年青森県黒石(津軽)生まれ。1991年株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツに入社し、住宅から店舗、美術館、オフィス等の建築照明、橋梁、公園、都市計画等の都市・環境照明まで幅広い分野の照明デザインプロジェクトに従事。その傍ら、面出薫氏が組織する「照明探偵団」に所属し、世界の夜景調査や照明文化を研究。2003年独立し、九州・福岡にてイルミデザインをスタート。
現在、緑に覆われた環境実験住宅・E-sevenを基地に、エコロジカルで魅力的なアカリを探求している。

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