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連載コラム

第1回「情報化社会における照明デザインのフィールド」

[ 2013年9月20日 ]

2013年8月24日、東京スカイツリーの開業1周年を祝して企画された、小学生のアイディアによるライティングが点灯された。いつもの粋と雅の趣とは違うけれども、彩り豊かで無邪気でかわいらしい光は、新鮮な風を東京の街に吹き込み、夏の話題の一つとなった。私は選考者として、また、選考後も当選案のオリジナルのイメージやコンセプトを具現化するための実施案作成者として、この企画に参加した。今回は応募可能な小学生は地元の墨田区に限られたけれども、墨田区の全小学生の約3分の1にあたる3,444名がこのライティングコンテストに参加した。提案の内容は学年に関係なく、どれも夢や想いのつまった力作ぞろい。大人顔負けのアイディアも数多く見られた。
 照明デザイナーとして感慨深かったのは、未来を担う子供たちがライティングに対して非常に強い関心を示してくれたこと。さらに、自分でコンセプトを考えて光を具現化するという照明デザインのプロセスを理解してくれていたことだった。これからの日本の照明デザインの未来は明るい。日本の照明文化が花開き、世界から一目置かれる時代は近いのではないかと思えるイベントであった。


東京スカイツリー(粋と雅)

情報化社会が照明デザインを広めた!?

16年前に私が照明デザイン業界に飛び込んだ当時、ライトアップするということ自体が、アーティスト作品のように特別扱いされていた。まだ日常に照明デザインはなく、一律に明るくしようとする電気設備的な考えが、つい最近まで支配していた。先輩の照明デザイナーは照明デザインの大切さについて、仕事を通じて懸命に表現されてきていたが、ここ数年のうちに照明デザインが注目を浴び始めてきたことについては、インターネットの普及が非常に大きいと私は思う。いわゆる情報化社会の恩恵である。
 日本の照明デザイン業界は、依然としてまだまだ小さくて業界専門誌もない。しかし情報化社会のもとでは、ネットで発信した情報に力があれば、あっというまに様々な形で拡散され、いつしか大きく知られることとなる。ネットで有名になって大ヒットした商品のように、照明デザインもその流れに乗った感がある。私自身の経験で言えば、独立直後に手がけた住宅の小さな仕事がネットの口コミで取り上げられ、それを機に住宅雑誌で照明特集が組まれ、照明デザインが住宅業界関係者や一般個人に広く知られることとなった。東京スカイツリーのライティングについて言えば、一般メディアでも紹介され、東日本大震災の影響でLEDに大きな関心が集まったこともあるが、実際目にした人たちによるネットでの口コミによるところは大きい。
 今やネットで検索できれば、自分の興味に従って多くのライティングに関する情報を得ることができる時代なのだ。小学生のライティングコンテストに多くの応募があり、コンセプトがしっかりしていた案が多かったのは、スカイツリーの光を調べて学んでくれた小学生が多かったからに違いない。

House N

あざみ野の家

海外からいつも見られている

 ネットの情報は、当然ながら日本だけでなく海外にも自動的に開かれている。私は今、日本の他に香港に照明デザインの事務所を持ち、日本、香港をはじめ、台湾、中国、韓国、シンガポールほか、最近では中東のカタールなど、気が付けば10か国に渡って仕事をしている。誤解を恐れずに言えば、独立した当時は日本に根付いて仕事しようと思っていたし、英語があまり話せないこともあって海外志向はあまりなかった。海外で仕事を始めたきっかけは、独立して3年目に、ある香港人のインテリアデザイナーが担当する日本のホテルのプロジェクトに急きょ呼ばれたことだ。欧米の文化の影響の強い香港では、重要なプロジェクトに照明の専門家が加わることは常識なのだが、彼らと協働する日本のクライアントや設計事務所側にその認識はなかった。しかしインテリアデザイナーが強く要望するので、我々に白羽の矢が立ったらしいのだが、当時は海外実績もなく、英語が話せるわけでもなかったから、きっと使い勝手のいい若手ということで呼ばれたのであろう。もちろん私自身はそんな経緯は関係なく、嬉々としながらも多少緊張してデザイン提案をしたところ、プレゼン後のエレベーターホールにて、その場でいきなり香港の仕事を3つも発注されてしまった。「事前にネットで君たちの仕事をチェックしていて気に入っていたし、今日も満足した。次の仕事のクライアントにも既に紹介してOK出ているからよろしく。」知らないうちに隠しカメラで見られていたような戦慄を覚えたのは言うまでもない。
 ええい、ままよ!と香港の仕事を初めて以来、今現在もこのようにネットで事前調査されたうえでの海外からの問い合わせは頻繁にあり、可能性は無限にあると感じさせられる。むしろ自分たちの余力がなくて、積極的に受注に動けないことがあるのがもどかしいぐらいだ。

ICC Light & Music Show / Hong Kong


L'etage SOHO Bar & Humidor / Hong Kong

日本らしさを生かして世界で戦ってみる

 海外の仕事をしてみて、初めて気づいたことがいくつかある。自国内だけでやっている照明デザイン事務所は海外にはいない。香港、台湾、シンガポール、オーストラリア、ヨーロッパ、アメリカ等の有名事務所が、こぞってアジアの各国でしのぎを削っているのだ。私は香港人のデザイナーの手招きで、この戦いの場に恐る恐る加わったのだが、案外と面白い。やはり自分は日本で学んだ照明デザイナーだけあって、彼らとは違った長所があるし十分戦えるのだ。詳しいところは次回にお話しするが、イエス・ノーをはっきり言えない日本人的気質、真面目で相手を立てるところ、丁寧な仕事などは、海外でこそ輝きを放つようだ。もちろん逆に自分たちの欠点も露わになる。海外の競合他社の提出する図面の精度の高さ、細かさなどには驚かされた。日本では求められたことのない図面の質の高さであった。自分たちの立ち位置や長所や短所を確認できるというのは、海外で仕事をしている大きなメリットだろう。
 日本と比べてプロジェクトのバリエーション、サイズに大きな違いがあることも、海外の仕事をやる理由になる。日本の場合、ライトアップやオフィス・施設系の比較的コンパクトな仕事が多い。海外の場合は、高級ホテルや高級マンション、大型リゾート開発物件の仕事が大半なのだが、ランドスケープを含めて、全体のスケールがけた違いに大きい。どちらにも一長一短があるのだが、やはり隔てなく経験できる方が視野が広がる。日本での経験を海外プロジェクトのデザインに反映することで、新鮮味を海外のクライアントが感じるのだから面白いものだ。
 まだまだ私たちは海外ではルーキーみたいなもので、これから鍛え上げて勝負を挑んでいく立場である。いい仕事を残すだけではなく、ネットを駆使して世界に自分たちを知ってもらう努力を続けなければならない。また自分たちも海外の競合他社を知り、自分たちにないものを学び、自分たちの長所を生かして対抗し続けなければならない。同時に、海外で得た経験や知識を日本の仕事に還元し、日本の照明デザインの仕事に深みを与えていきたいと考えている。日本で育くんだ美意識を海外へ発信し、海外の仕事を通じて自分たちを見つめなおす。そうした行き来がしばらく続きそうだ。

Rex Hotel / Ho Chi Minh City / Vietnam

The Spa, Mandarin Oriental / Singapore

Totsune’s Lighting Insight
執筆者:戸恒浩人

照明デザイナー/照明コンサルタント/一級建築士
有限会社シリウスライティングオフィス 代表取締役
Sirius Lighting Office (HK) Limited President


1975年生まれ。東京都出身。建築・環境照明そして都市計画に至る豊富な経験を生かし、都市照明や商業施設などの演出性の高い照明デザインから、住宅や病院などの心地よい光環境のデザインまで、幅広く照明のデザイン及びコンサルティングを手がける。2011年からは香港にも進出し、アジアを拠点に活躍の場を広げている。


1997年 東京大学工学部建築学科卒
1997年~2004年 株式会社 ライティング プランナーズ アソシエーツ
2005年 有限会社 シリウスライティングオフィス設立
2007年 照明学会照明デザイン賞受賞
2010年 IALD(国際照明デザイナー協会) Award of Merit 受賞
2011年 Sirius Lighting Office (HK) Limited 設立
2012年 IALD(国際照明デザイナー協会) Award of Merit 受賞
2013年 ICC Music & Light showにて 世界最大のファサードライティングショーとしてギネスを取得


主なプロジェクト
情緒障害児短期治療施設、ホテル日航東京チャペル”ルーチェ・マーレ”、浜離宮恩賜庭園ライトアップ”中秋の名月と灯り遊び”、HOUSE O、日本経済新聞社東京本社ビル、武蔵野美術大学 美術館・図書館、ユニクロ心斎橋、東京スカイツリー、ICC Music & Light showなど

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