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連載コラム

第2回「海外仕様の照明デザイン」

[ 2013年12月11日 ]

 この場をお借りして最初にご報告を。2013年の北米照明学会(Illumination Engineering Society:略称IES)の照明アワードにて、東京スカイツリーが最優秀作品賞にあたるDistinctionを受賞した。陰影を生かした日本の美意識によるライティングデザイン、およびLEDによる省エネルギー化への取り組みが海外でも高く評価されたことは、私にとって今後の活動に対する大きなモチベーションとなった。応募時には、「粋と雅」という日本固有の感覚を英語で表現することに苦労したが、英語圏の方々にも一応は理解されたようである。しかし、賞状や会報誌には「粋でも雅でもなく」赤と白のキャンドルツリーの写真が大きく取り上げられていたのはここだけの話としておこう。


左:東京スカイツリー:キャンドルツリーのライティング
右:IESアワード受賞式の様子(2013年10月26日:アメリカ ロサンゼルスにて)

郷に入れば郷に従う!?

 日本と海外で同時に仕事をしていると、光に対する価値観の違いをよりはっきりと感じる。例えば光の質で比較してみよう。障子越しの灯りのようにぼんやりと柔らかい光が日本人に好まれるのに対し、同じアジアでも香港では、もともとイギリス領にあった影響からか、明暗のコントラストが強い方が確実に好まれる。香港で仕事を始めたばかりの頃、日本では比較的好まれるシンプルな光壁を自信満々で提案したところ、かなり反応がよろしくなく戸惑ったものだ。日本ではまず最初に空間全体を包む柔らかい光をつくり、そこからメリハリをつけていくデザインプロセスを定石としている。しかしこの一件以来、香港では、先にメリハリを作ってから足りない地明かりを補う設計プロセスに変えた。なお中東の仕事では、キラメキの光を用意してから、メリハリを与えていくというプロセスを取っている。空間をつくるために使用する光の要素自体は世界共通だが、それらの割合が国ごとによってかなり異なる。

 香港での実績が豊富な欧米の照明コンサルを選べるのに、それでもなぜ、あなたがたは私たち日本人に依頼するのか?と、正直に香港のクライアントに聞いてみたことがある。彼らの答えはこうであった。「あなたたち日本人は、デザイナーとしてのこだわりがあると同時に、一方でクライアントの要望を受け入れて調整することができるからだ。」イエス・ノーをはっきりと言えない日本人という自虐的なフレーズがはやった時期もあったが、なんと彼らは我々日本人がイエス・ノーをはっきり言わずに、デザインを押しつけるわけでもなく、クライアントの意見を鵜呑みにするでもなく、素敵なグレーを作ってくれるからだ、と言っているのである。もっともそれはすなわち、君たち日本人は振り回されることを受け入れてくれることが生命線なのだ、と言われているに等しいのであるが。続けてそのクライアントはこう補足した。「君らの価値観が許容できる中で派手な案を作ってきてくれ。それこそが香港人が求めているものだ。ローカルのデザイナーが作ると派手になり過ぎてしまいがちだけど、君ら日本人は上手に抑制してくれる。それがいいんだよ。」自分たちの価値観を貫く一方で、相手の価値観にも寄り添う態度の大切さをそのとき教わったように思う。


左:日本を代表する拡散光の優しい光
真ん中:コントラストを強く効かせた照明計画(香港の住宅プロジェクトより)
右:中東らしいきらめきの強い照明環境(バージ・アル・アラブのエントランスホール)

ビジネス視点で較べてみる

 照明デザイン業というビジネスを考えたとき、日本と海外とでは立ち回り方が大きく異なる。建築をつくるとき、日本ではクライアントが設計者にまるごとお任せという気質が強いのが特徴である。照明デザイナーのような専門コンサルタントを起用するかしないかは、設計者の判断に委ねられることが多く、結果として設計者に照明デザインの関心があるかどうかで、我々の出番の有無が決まる。このスタンスの良い点は、設計者と深く協働することになり、テクニカルで精度の高いデザインが実現できることだろう。一方でクライアントと近い立場で仕事をすることができないことが多いので、照明デザイナーの設計料は設計者が捻出できる範囲にしぼられるのが実情だ。日本の場合、むしろアーティストのように振る舞うほうがビジネスとしては正解なのかもしれない。

 海外の中でも欧米の影響の強い国では、クライアントがそれぞれの分野について各々のコンサルを決める。代理としてプロジェクトマネジメント会社がその役を務める場合もあるが、彼らはプロジェクトの性格を考え、実績やフィープロポーザル(設計料の提示)を評価しながら、そのプロジェクトに最適なコンサルを選ぶ。近頃はメールにて頻繁にフィープロポーザルの依頼が各国から飛んでくる。ここが自分たちの価値を自ら示す場面であり、なかなか緊張する。入札とは異なり、安いからといって仕事を獲得できないのが面白い。クライアントのコンサルの評価とフィープロポーザルのバランスが釣合うことで受注を獲得できるのである。

 このスタイルでは、各コンサルはクライアントとほぼ直接の契約関係になるので、クライアントのために仕事をしている感覚が強くなる。他の設計者と調整する場面も少なからずあるものの、基本的には分業だ。照明デザイナーは独自にクライアントにプレゼンを行うし、良い提案をすればクライアントからの評価が上がり、次回から報酬が高くなっても承認されることもある。当然ながら逆もまたしかりである。つまりは立場も報酬も自分たちの頑張り次第であるというところが海外の仕事の醍醐味だ。

いい仕事を残す、という視点で較べてみる


香港の現場風景

 海外では、施工者もまた分業として請け負っている意識が強い。施工者は入札時の設計図書に書かれた内容をそのまま作るだけである。現場に入ってから改めて検討し、当然のように設計変更すると言う日本的な方法は通用しない。したがって図面にしっかりと詳細を表現し、設計内容を漏れなく完璧に仕上げておくことが重要になってくる。一方、アジアの多くの国での施工図となると、それは結構いい加減なもので、とりあえず作ってだめだと指摘されたら作り直すという方法が一般的だ。現場で見て指摘すればすぐに直してくれるが、その場に立ち会っていなければ既成事実となってしまい、後から修正を求めても直してくれなかったりする。いい結果を残したければ、足しげく通うしかないのだ。まさしく私が香港に会社を持った理由は、現場監理をきちんと行うためである。そう思うと、「現場がきちんと仕事する」、高い志をもつ職人さんが集まる日本の現場は本当にすごい!

 自分は建築学科出身ということもあり、建築家や建築設計者と協働する仕事が多い。その経験から言えることは、日本での仕事の方がクリエイティブで魅力的だ。自分のフィールドだけでは表現できる幅に限界があるが、他の設計者と議論を重ねながらお互い協力しあうことで、見たこともない空間や光が生まれるものだ。日本の設計者は良くも悪くもあきらめが悪いので、時間もかけ、何度もやり取りしながら練り直す。なんとも効率が悪いのだが、それによって素晴らしい結果も出てくるのだから難しいものだ。海外では、あまりお互いの領域を侵さず、自分の仕事をプロフェッショナルにこなすことに全員が集中する。明快で効率的でビジネスライクなのだが、私の仕事人としての内面には物足りなさがいつもつきまとっている。結局どちらも一長一短ということだ。

 あ、またイエス・ノーを言わずにグレーのままにしている日本人の自分がここにいる!

Totsune’s Lighting Insight
執筆者:戸恒浩人

照明デザイナー/照明コンサルタント/一級建築士
有限会社シリウスライティングオフィス 代表取締役
Sirius Lighting Office (HK) Limited President


1975年生まれ。東京都出身。建築・環境照明そして都市計画に至る豊富な経験を生かし、都市照明や商業施設などの演出性の高い照明デザインから、住宅や病院などの心地よい光環境のデザインまで、幅広く照明のデザイン及びコンサルティングを手がける。2011年からは香港にも進出し、アジアを拠点に活躍の場を広げている。


1997年 東京大学工学部建築学科卒
1997年~2004年 株式会社 ライティング プランナーズ アソシエーツ
2005年 有限会社 シリウスライティングオフィス設立
2007年 照明学会照明デザイン賞受賞
2010年 IALD(国際照明デザイナー協会) Award of Merit 受賞
2011年 Sirius Lighting Office (HK) Limited 設立
2012年 IALD(国際照明デザイナー協会) Award of Merit 受賞
2013年 ICC Music & Light showにて 世界最大のファサードライティングショーとしてギネスを取得


主なプロジェクト
情緒障害児短期治療施設、ホテル日航東京チャペル”ルーチェ・マーレ”、浜離宮恩賜庭園ライトアップ”中秋の名月と灯り遊び”、HOUSE O、日本経済新聞社東京本社ビル、武蔵野美術大学 美術館・図書館、ユニクロ心斎橋、東京スカイツリー、ICC Music & Light showなど

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