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九大大学院教授安達千波矢氏――有機EL、未知の材料追う(肖像九州沖縄)

[ 2012年10月6日 / 日本経済新聞 地方経済面 ]

 有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)の材料開発で世界をリードする人物が九州にいる。九州大学大学院教授で、最先端有機光エレクトロニクス研究センター長の安達千波矢(48)。「できないことはない」。革新的な電子機器の扉を開こうと、未知の有機化合物を追い続ける。

 緑豊かな九大伊都新キャンパス(福岡市)の研究棟にある安達の部屋は全面ガラス張りだ。「学生や職員といつでも自由に議論できる」。外から丸見えの部屋の理由は明快だ。

 安達は昨年、高価なレアメタル(希少金属)を使わない「TADF」と呼ぶ有機EL材料の開発に成功。発光効率も高く、国内外から大反響を呼んだ。現在の第2世代材料はレアメタルを使い、生産コストはTADFの10倍。安達が心血を注ぐのは第3世代材料を使った製品をいち早く実用化することだ。

常識覆す解求め

新分子構造発見

 安達がTADFに着目したのは10年前。TADFはほとんど発光しないというのが当時の定説だったが、「分子は設計次第でどんな機能を発揮するか分からない」。常識を覆す解を求め、忍耐強く研究を重ねた結果、第3世代材料につながる新たな分子構造を発見した。

 「できないことはない」。安達の信念を確固たるものにしたのは、第2世代材料の特許を独占する米ベンチャー企業の社長、ステファン・フォレストだ。出会いは安達がリコー化成品技術研究所の研究員だった約20年前、米国での国際学会に初参加した時だ。風邪で40度の高熱にもうろうとしながら、拙い英語で当時傍流だった有機ELの新技術を発表する安達にフォレストが声を掛けた。「おまえの話が一番面白い」

 それから8年。米プリンストン大学教授だったフォレストに呼ばれ、同大研究員に。名門大学での研究に期待を膨らませたが、安達を待っていたのは「拷問のような指導だった」。毎朝7時のミーティングで前日の成果を報告できなければ、研究書と罵声が飛んできた。研究室では2〜3時間ごとに「何か発見は?」と問われ、「ノー」と返答するとごみ箱が蹴飛ばされた。書いた論文は疑問点を投げ付ける文字で真っ黒になり、何度も書き直しを命じられた。

高まる発光効率

抑えきれぬ興奮

 「連日しごかれたが、有機化合物の実験データを数式や理論で示し、化学の本質を徹底的に議論する大切さを学んだ」。第2世代の研究では高い発光効率を引き出すのに悪戦苦闘し、実験室で2カ月も缶詰め状態に。生みの苦しみを味わったが、発光効率が少しずつ高まる様子に「興奮を抑えきれなかった」。

 安達は中学時代に生徒会長になるなど人望もあったが、「いつしか人間関係が煩わしくなり、不可解な科学現象を数式で解き明かせる魅力にはまっていった」。この原体験が安達の飽くなき探求心を下支えしている。

 内閣府の総合科学技術会議で、ノーベル賞受賞者の田中耕一らと並ぶ国内トップ30の研究者に選ばれた安達。次は「伊都キャンパス周辺を有機ELビジネスを手掛けるベンチャー企業の集積地にする」と青写真を描く。有機化学に魅せられた「夢追い人」は今日もガラス張りの自室と実験室をせわしなく行き来する。=敬称略

西部支社 上阪欣史

写真 斎藤一美

 あだち・ちはや 1963年(昭38年)東京都世田谷区生まれ。91年九州大大学院総合理工学研究科修了、リコー入社。99年米プリンストン大研究員。2004年千歳科学技術大助教授。05年九州大教授。10年から現職。

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