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一歩踏み出すあなたに(2)ノーベル物理学賞受賞者天野浩氏――欲することを見つめよう。

[ 2019年4月3日 / 日本経済新聞 朝刊 ]

いま20代なら... 日本のエネルギー自給率を高めるために奔走したい

 20代前半から後半にかけては、人生で最も無心に頑張れる時期だと思う。この大切な「瞬間」を絶対無駄にしてほしくない。

 わたしは名古屋大の博士課程の間にドクター(博士号)を取れず、満期退学になった。そんな時、恩師の赤崎勇先生に「きみは一生懸命に実験に取り組んでいる」ということで助手として研究室に残してもらった。

 朝10時から夜中1時まで、実験、実験、実験を繰り返す毎日。なんとしても博士号をとらなければならない、そのためには(のちにノーベル賞の成果となる青色LEDの)p型を作らなければならない。とにかく必死だった。今、振り返って考えると、がむしゃらに突っ走ったとてもいい時期だった。

 だからといって皆が無理にがむしゃらになることはない。どうしてもやりたいことが見つからなくてもこれは面白いから頑張ってみようというスタンスで精神的なバランスをとるのでもいい。人との調和を大事にしていく生き方もある。自分が一体何を欲しているかをきちんと見つめて、そして行動してほしい。

 これまでずっと(青色LEDの材料となる)窒化ガリウムの研究を続けてきたが、最初からこれに命をかけてやる、と思っていたわけでない。やっていったらどんどん面白くなり、のめり込んでいった。まさかこの年になるまで一途に取り組むとは20代の頃は思ってもみなかった。まあ、結果オーライといえる。

 出会いは大切にしよう。赤崎先生と出会い、青色LEDと出合ったから今のわたしがある。とてもラッキーだった。

 社会人になったら、やはり社会的な価値を追い求めていきたい。そのためには世の中でいま何が起きているかを正しく知ることだ。

 研究者にはありがちだが、狭い世界に閉じこもっていてはいけない。世界の動きや日本の動きに関する情報を広く入手するためにアンテナをはる。どんな仕事でも自分のやっていることが社会でどういうポジションにあるのか、いつも把握しておくことが大事だ。

 わたしはサイエンティスト(科学者)でなく、エンジニア(工学者)だ。エンジニアから見ると、今の日本はひずんでいる。解決しなければならない課題はたくさんある。

 社会を変えたりイノベーションを起こしたりするには、信念と行動力がいる。どうしてもやり遂げるという気持ちだ。日本はこのままではダメだという危機感も持ってほしい。

 今の世の中で20代に戻れるのなら、日本をエネルギーの観点から自立した国にするため、研究所やシンクタンクを作って活動したい。LEDや窒化ガリウムは省エネに適したデバイスになる。民間企業も巻き込んで、技術開発と政策立案・実行の両面からアプローチする。

 日本が持続可能な社会を実現するには、エネルギー問題の解決は欠かせない。自給率8%ではいずれ破綻する。今度は最初から人生をかけて頑張るでしょう。

(聞き手は編集委員 矢野寿彦)

 あまの・ひろし 83年名古屋大工学部卒、同大学院を経て89年に博士号。学生時代から仕えていた赤崎勇氏らと2014年に青色LEDの発明でノーベル物理学賞を受賞した。今は窒化ガリウムを使った省エネ半導体などの研究開発に産学連携で取り組む。静岡県出身、58歳。

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