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日経の紙面から

紙の伝統技「一品」に昇華――日本人の感性、香港魅了し凱旋。

[ 2019年6月12日 / 日経MJ(流通新聞) ]

耳飾りに極小芸 見た目は異素材
木の葉型のお香 ホテルから人気

 4月に東京・表参道で開催された展示会「マテリアル・イン・タイム」。日本独自の素材や技術で製品化したものを、香港から発信する試みが好評で、東京に「凱旋」した。初回は紙がテーマ。アートのような製品が海外の目に触れることで、商業展開もみえてきた。

 「ikue」と名付けられたイヤリング。一見すると金属製のようだが、紙でできている。極小の書物を作るように紙を束ね、仕上げは聖書などの切り口を金箔で縁取る「三方金」という伝統技術で作った。プロダクトとグラフィックのデザイナーユニット「タントインク」による製品だ。

 東京・表参道のギャラリーで開催されたマテリアル・イン・タイムでは、段ボール箱の上で光の粒が文字やイラストを浮き出させるデザインも披露された。導電性インクという電気を通すインクを通じて発光ダイオード(LED)を光らせる「ボックス型ライト」だ。開け閉めするたびに光が点灯する。プロダクトデザイナーの岡室健さんが開発した。

 板紙の加工技術を生かし、硬質な紙製プロダクトを生み出したのはデザイナーユニットの「ブルーム」。貼合(てんごう)という段ボールや板紙を貼り合わせて強度を出す技術に着目。この合紙を型抜きして細い輪や半円のパーツをつくり、それを組み立てて雑貨を入れるバスケットに仕上げた。

 他にも竹製紙のメモパッドや石川県の伝統和紙「二俣和紙」をリボンのようにしたアクセサリー、染めに使う型紙でつくった照明など多種多様。日本で古来伝わる伝統的な手法を生かした品々が来場者の注目を集めていた。

 展示会を企画したのはデザイナーの秋山かおりさんだ。自身が運営する「スタジオ・バイ・カラー」で色や素材の観点からプロダクトを研究・開発している。「日本人は古くから障子やふすま、扇子に至るまで生活の中で紙を生かしてきた。日本人の持つクリエイティビティを表現するのにこれほど良い素材はない」と話す。

 企画の始まりは香港だ。2017年11月、香港の若いデザイナーの活動を支援する半官半民のクリエイティブ施設PMQから、中国主催のデザインコンペで受賞歴のある秋山さんに「日本のいいものを紹介する企画ができないか」と声がかかった。

 18年9月、香港で開かれたマテリアル・イン・タイムで秋山さんは、1回目のテーマとして日本が高い技術を誇る紙を選ぶ。日本企業12社、デザイナー6組が参加してこの企画のために新製品や新アイデアを披露した。

 大手オフィス家具メーカーに勤務しデザイン製品のビジネスを知る秋山さんは「単なるデザイン発表の場にはしなくない」と考え、展示会をテストマーケティングに使ってもらった。製品を展示する参加企業にはたとえ少量であっても、その場で販売できる製品の展示を求めた。

 参加企業は実際に製品を販売することで顧客の声に耳を傾け、改良点を見つけることもできた。兵庫県淡路島のお香メーカー、薫寿堂は「HAKO」という木の葉をモチーフにしたお香を発表した。和紙を立体的に造形し、お香の香りを染み込ませた。飾ってもいいが、特許を取った紙で作られており、火をつけてたくと香りと燃えて変わる形を楽しむことができる。もともとは消費者向けに少量生産していた。香港の大手ホテルから関心が寄せられたことで企業向けの需要に気づき、生産体制を大きく見直した。

 秋山さんは「日本市場で成功しないと、海外に出られないと考える企業もあるが、海外の展示会で外国人の目に触れることで、日本人が感じる魅力とは別の面が発掘されることもある」と指摘する。そのうえで「特に仏具やお香、和紙などで共通する文化を持つアジア圏での発信は、ミラノやドイツなど欧州圏からの発信とは違う商機が見いだせる」と話す。東京展の初日から海外向けのオンラインショップも開設した。

 香港展は高い評価を受け、今年12月に2回目の開催が決まった。次のテーマは「金属」。銅、すず、ステンレスなどを扱う。日本の技術がどのようにプロダクトに昇華するのか今から楽しみだ。(ライフスタイルジャーナリスト 本間美紀)

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