NFC & Smart WORLD

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NFC & Smart WORLD 2014 | 2014年3月4日(火)~7日(金) 東京ビッグサイト

イギリスに見るデビットカードの普及事情

文・多田羅 政和(電子決済研究所 代表)

 『IC CARD WORLD』ウェブサイトをご覧の皆様、こんにちは。電子決済研究所の多田羅です。

 関係者にとっては年に一度のビッグイベント、『IC CARD WORLD』がいよいよ目前に迫りました。ご出展される皆さまは準備が本格化し、お忙しい時期を過ごされていらっしゃると思いますが、今年も大いに盛り上げたいですね。

 開催2日目に当たる3月10日から12日の3日間は、本連載のパートナーでもある山本正行さん(山本国際コンサルタンツ)が会場内のワークショップ「NFCカンファレンス」のモデレータとして大活躍されます。当電子決済研究所も陰ながらサポートさせていただいておりますが、連日かなり興味深いセッションになりそうですよ。ぜひお時間をお作りいただいて、会場まで足をお運びください。

 さて、今回は昨年末の欧州視察でも見聞してきましたイギリスのペイメントカード事情についてご紹介いたします。

デビットカード人気は世界的な流れに

 島国であるという点で日本と比較されることも多いイギリスですが、生活者のクレジットカードやデビットカードの利用状況は、日本とはかなりかけ離れています。

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ハロッズのイルミネーション

 まず、発行枚数を見ると、クレジットカードが約7,300万枚であるのに対して、デビットカードは約7,600万枚が発行されています。イギリスでカード利用の対象となる成人人口は4,500~4,600万人と言われますので、平均すると1人当たり1.5枚のデビットカードを持っていることになりますね。つまり、英国民にとっては、デビットカードのほうがクレジットカードよりもメジャーな存在になりつつあります。

 日本では「J-Debit(ジェイデビット)」の名前で知られているデビットカードですが、要するに、カードを利用するとその時点で自分の預金口座から利用代金が引き落とされる仕組みのカードです。分割払いやリボ払いに限らず、1回払いであっても、基本的にはカード会社が立替払いしてくれるクレジットカードとは、仕組みがまったく違います。

 もっとも、イギリスでも先に普及したのはクレジットカードでした。デビットカードの発行枚数や利用が、先行したクレジットカードを追い越すほどに伸び始めたのはこの数年間のトレンドで、成長はまだまだ続くと予測されています。しかも、これはイギリスに限らず、アメリカなどにも共通した傾向となっています。

デビットカードと小切手の、切っても切れない関係

 では、なぜイギリスでそんなにデビットカード人気が高まっているのでしょうか。

 ヨーロッパでデビットカードが普及したきっかけとして、小切手(Cheque)の存在が欠かせません。クレジットカードの普及する以前、ヨーロッパでは現金に次いで小切手が日常的な支払いに利用されていました。

 しかし、ご存知のように小切手は単なる紙片ですから、利用に際しては所持人や利用金額の確認などが非常に重要です。さらさらっ、と小切手にサインをする場面を思い浮かべた方も多いかもしれませんが、振り出した小切手の支払いについて残高を一定額まで銀行が保証するものとして、チェック・ギャランティというカードが利用されていました。

 これは少し面倒な仕組みですね。しかも小切手そのものは減らすことができませんので、お店の方の処理は煩雑になる一方です。

 では、デビットカードを使うとどうでしょう。処理は一度で済み、預金口座からの自動引き落としですから、こんなに便利なものはありません。ですからデビットカードは、このチェック・ギャランティカードを置き換えるものとして普及が進んだと考えることができます。

 また、クレジットカードの支払いにも小切手が利用(請求書の金額に応じて郵送で送付する)されていましたが、最近はイギリスでも日本のように預金口座からの自動引き落としが普及し始めており、これも小切手を減らす一因になっています。

 日本で個人が小切手を利用する場面なんてほとんどないですよね。背景がまったく違うことがわかります。

日本ではどうしてデビットカードが普及しない(と言われる)のか?

 また、最近のデビットカード人気の理由として、昨年末に現地で伺った中に面白いものがありました。「経済不況の影響で、生活者が『クレジットカードは借金』という思いを強く持ち始めた」というのがそれです。財布のヒモを締めるために、デビットカードが最適なカードとして選ばれているようです。

 このような世界の流れに対して、日本のデビットカード事情はどうでしょうか?

 かつて筆者はよく、「日本ではデビットカードは普及しない」との見解をお持ちの方にお会いしました。それは2010年の現在でも、事実ではあると思います。

 ただ、日本のクレジットカードの使われ方が特殊な点には注目する必要があります。それはクレジットカードの支払方法(返済方法)に関してです。

 リボ払いが多く利用される欧米のクレジットカードに対して、日本ではカード利用の90%以上で、1回払いが選ばれているといわれます。翌月や翌々月に一括で支払いが完了することから「マンスリークリア」方式と呼ばれますが、非常にわかりやすい仕組みです。そして、このマンスリークリアでカードを利用している分には、金利はまったくかかりません。

 もちろん、1回払いであろうとつけ払いであることには違いないのですが、借金という感覚はあまり覚えません。このことを指して「日本のクレジットカードは実質的にデビットカードだ」とおっしゃるカード会社の社長さんもいらっしゃるほどです。

 しかも、イギリスなどでは最近になってようやく普及し始めた口座自動引き落としは、日本のクレジットカードが40年も前から備えていた機能です(この点は、特筆すべき日本のクレジットカードの先見性だと思います)。

 もしかすると、欧米でデビットカードが切り拓きつつある市場は、日本ではすでにクレジットカードが担い手になって確立されていると考えてもよいのかもしれません。

『VISA・MasterCard=クレジットカード』の誤解

 ところで、イギリスをはじめとする諸外国のデビットカードの中には、「VISA」や「MasterCard」のロゴマークを配したものがよく見られます。それではクレジットカードと見分けがつかないので、店員さんが困るのではないかと心配される方もいらっしゃるかもしれません。

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VISAデビットカードの例
出典:バークレイ銀行のウェブページより

 これは見分けられなくて正解なんです。VISAやMasterCardのクレジットカードと同様、お店のPOSレジやCAT端末の処理方法は同じですので、店員さんが気にしてオペレーションを変える必要もありません(むしろ、『このデビットカードで支払います』などのコメントを添えると、店員さんがパニックに陥る可能性が高まります)。

 実は、日本でもスルガ銀行など一部の金融機関がVISAマークの付いたデビットカードを発行していますが、全体から見るとまだまだ少数派のトレンドに過ぎません。

 ここでぜひ理解いただきたいのが、VISAやMasterCardは必ずしもクレジットカードだけに付けられるブランド名ではないということです。預金口座から代金が引き落とされるデビットカードであっても、極端な話、前払い式のプリペイドカードであってもいいんです。

 その証拠をお見せしましょう。下は昨年、筆者がロンドンの街中にあった一般的なキオスクショップで購入してきたカードです。見慣れた「MasterCard」ロゴがありますね。これ、カードを購入した時点ではまったく残高は入っていませんが、れっきとしたプリペイドカードです。ショップやウェブサイトから必要な金額を入金(チャージ)することで使えるようになります。

 「MasterCard」のロゴマークを掲げたお店では原則、世界中どこででも利用できるプリペイドカードです。魅力的なカードだと思いませんか?

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ロンドンで購入したMasterCardのプリペイドカード

デビットカードでも非接触決済

 ICカードの話題を忘れてしまいました。これまでイギリスのペイメントカードをご紹介してきましたが、クレジットカードとデビットカードはすでに100%がICカード化(EMV仕様の接触型ICチップ対応)されています。カード側だけでなくお店側の処理端末も100%、ICカードに対応していますので、原則として暗証番号(PIN)を忘れてしまうと買い物ができません。これらの徹底した対応ぶりの甲斐もあって、イギリス国内での偽変造カード被害は近年、大きく減少しています。

 一方で、イギリスでも、日本では電子マネーや交通カードでおなじみの非接触ICカードが普及し始めています。先述したVISAやMasterCardのカードでは、非接触決済の機能が付帯した新しいカードがいくつか発行されています。

 クレジットカードだけでなくデビットカードもまた、同じように非接触決済が利用できる環境が整いつつありますので、非接触決済でもデビットカード人気は続きそうです。

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ロンドンでも非接触ICカードで決済できる


追記

 ところで、毎年11月にパリで開催されている『Cartes & IDentification』展示会のアジア版に当たる『CARTES in Asia』が、3月16日~19日の3日間、香港で初開催されます。電子決済研究所でも現地視察を予定しており、今後の連載でも内容をご紹介してまいりますので、どうぞお楽しみに。

電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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