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連載コラム

「イケてる」戦略は汗と涙と志から――『ストーリーとしての競争戦略』②

[ 2012年2月28日 ]

前回よりつづく)

 第1回の話は、なでしこジャパンなどサッカーとの関連が中心だった。
 ここで改めて、本書、楠木建氏著『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)の論旨を確認しておきたい。著者は「まえがき」でこう述べている。

「ストーリー」という視点から、競争戦略と競争優位、その背後にある論理と思考様式、そうしたことごとの本質をじっくりお話ししてみよう(pⅱ)

 つまり、競争の本質を「ストーリー」という観点から解いてみようではないか、ということである。競争は、小売店にとっても、死命を決する最大テーマになる。この難問がどういう姿を持ち、いかなる対処をすれば、これをクリアできるのか、ここは深く勉強していきたい。著者はさらに、競争を考えるに当たり、重要な視点を提示する。

わかっているつもりになっている人ほど、言われてみないと意識にのぼらない盲点を抱えているものです。そうした「賢者の盲点」を衝くような、望むべくは「目から鱗」の話をしたいというのがこの本の意図です(pxⅰ~xⅱ)。

 賢者の盲点・・・・・・。うまい表現だなぁと感嘆した。賢者かどうかにかかわらず、人である以上、盲点なり死角は、必ず誰もが持っている。気をつけなくっちゃ。
 それでは、これ以降(少し硬くはなるが)、著者の考える「ストーリーとしての競争戦略」の論点を、本書の流れ――戦略、ストーリー、コンセプトという順序で分解、紹介していこう。
 その前に、第1回目でも申し上げたが、著者は本書の読み方として、現実の仕事に当てはめる、前から順序よく読む、最後まで読むという「3つのお願い」をしている。その趣旨からすれば、現段階で、依然、この本を未読の方は、この書評に当たる前に、本書をぜひ読みはじめてほしいと思う。

4 戦略とは

 まず俎上にのぼるのは、戦略である。戦略とはなにか?
 だが結論に先立ち、ちょっと気になる、いくつかの前提に触れておこう。はじめは、この戦略論で問題にしているのが、戦略の「当たり外れ」ではなく「優劣」であるということだ(pⅱ)。 もちろん結果は大事であるが、それだけでなく、戦略の良し悪しが分析の対象になっている。このことは頭に入れておきたい。

ついで戦略の「仕事」について。

放っておいたら二割以下にとどまる打率を、少なくとも三割、できたら三割五分に持っていく。これが戦略に与えられた仕事です(pⅲ)。

 これは大きい。なんだ、1割ないし1・5割程度のアップに過ぎないのか、と軽くみてはならないと考える。この差がどれだけの意味を持つか、野球を観戦する方はおわかりだろう。そのような方向を示しつつ、もうひとつの前提にも触れていく。

実際に考え、決定し、行動するのはあくまでも皆さんです。本当の答えは皆さんの中にしかありません。しかし、新しい視界や視点を獲得すれば、背中を一押しされるようにアクションは自然と生まれるものです。この意味で「論理ほど実践的なものはない」と私は確信しています(p11)。

 論理は実践的、というのが3つ目の前提になる。
 それにしても、この前提に至るなか「本当の答えは皆さんの中にしかありません」と断言できるのは、じつは著者が、理論家であると同時に、実践家なのではと思わされた。そのゆえにこそ「新しい視界や視点」、つまり戦略が切り拓く観点によって、「アクションは自然と生まれる」といえるのである(この辺りにも、なでしこジャパンのことが頭をよぎる)。

 これらの前提を踏まえ、著者の戦略論に入り込みたい。といいながら、いきなりの結論になってしまうが、著者は、簡潔に

「違いをつくって、つなげる」、一言でいうとこれが戦略の本質

 と語っている(p13)。ストーリーとしての競争戦略は、「違い」とともに、それを「つなげる」ことに重きを置くのである。ここが戦略論の肝になる。

 この「違い」と「つながり」のうち、「違い」のほうから入りたい。
 著者は、他社との「違い」をつくることの重要性をこう指南する。


競争戦略は個々の企業の間にある差異にこだわります(中略)。プレイヤーの間に違いがあれば、完全競争にならないので、利益を生み出すチャンスが拓けます。これが競争戦略の一番根本にある考え方です(p110)。

このように、まずは「差異」というものに、焦点を合わせるのである。
とはいえ、著者の戦略論は、世間でよく目にするものと異なり、「違い」だけでは終わらない。


個別の違いをバラバラに打ち出すだけでは戦略になりません。それらがつながり、組み合わさり、相互作用する中で、初めて長期利益が実現されます。ストーリーとしての競争戦略は、さまざまな打ち手を互いに結びつけ、顧客へのユニークな価値提供とその結果として生まれる利益に向かって駆動していく論理に注目します(p20)。

ここで著者は

違い

つながり

相互作用

顧客へのユニークな価値提供

長期利益


 という流れのなかで、「つながる」ことの必然性と有効性を教示しているのである。
では、「違い」が「つながる」と、なにがどう変わるのか?
 本書は、個々の「違い」は静止画だが、「つながる」ことで動画になると説く。「個別の違いが因果論理で縦横につながったとき、戦略は『動画』になります。ストーリーとしての競争戦略は、動画のレベルで他社との違いをつくろうという戦略思考(p21)」なのだという。

 ただ、これではまだ理解しにくいかもしれない。そこで、このことをもっとわかりやすく、ここでもサッカーにたとえる。選手の配置を「点」、その選手が繰り出すパスを「線」と位置づけ、以下のように訴える。

サッカーの戦略というのは、要するにそのチームに固有の「攻め方」なり「守り方」を意味しているわけですが、攻め方なり守り方はいくつもの線で構成された「流れ」や「動き」として理解できます。戦略の実体は、個別の選手の配置や能力や一つひとつのパスそのものではなくて、個別の打ち手を連動させる「流れ」、その結果浮かび上がってくる「動き」にあるのです(P21)。

 うーん、これならよくわかる。ついで記される「勝負を決定的に左右するのは戦略の流れと動き」という言葉を読むと、やはり、パスサッカーで金メダルを獲得した、なでしこジャパンの手法を思い出す。なでしこ選手たちの「動き」や全体の「流れ」を追っていき、ゴールする姿をイメージすると、ここでの話が胸に響いてくるのだ。
 そしてスッキリこうまとめる。

「静止画を動画に」、ここにストーリーの戦略論の本領があります(P27)。

 ついで、戦略ストーリーを創ることについて。
 著者は、その意味を「現在地や目的地や地図情報を記した地図の上に、自分たちが進むべき道筋をつけること(p48)」であるという。

将来はしょせん不確実だけれども、われわれはこの道筋で進んでいこうという明確な意志、これが戦略ストーリーです。ストーリーを語るということは、「こうしよう」という意志の表明にほかなりません。「こうなるだろう」という将来予測ではないのです(p50)。

 戦略の本質は予測でなく意志である、という趣意には、強く共感させられる。
 例えばであるが、小売業などの店舗ビジネスにとり、生命線のひとつは出店になる。ところが、この大事な出店の売上予測を、それこそ予測だけで済ませていないだろうか。
「××の売上が予測される」ではなく「○○の売上を作る」という「意志の表明」でなくては、意味が少ないのではないか。予測だけの店と、これだけはなんとしてもたたき出す、という意志ある店では、経営の戦略も変わっていくに違いない。
 さらにいうなら、事は逆なのかもしれない。ストーリーのある戦略を打ち立てての出店でこそ、あるべき売上をつくれるのではないだろうか。そのストーリーのなかには、市場や競合などの外部要因と、ヒト・モノ・カネ・情報・ノウハウといった内部要因をつなぐことも、おのずと含まれるであろう。

 売上を創るには、要素だけでの強みでなく、それらのつながりが生むストーリーが大事という示唆が、こんなふうにも記されている。

要素の強みではなく、要素がつながって生まれる流れで勝負するという、まさにストーリーの発想です。ストーリーの共有は勝負を総力戦に持ち込むための条件として大切です。ストーリーを全員で共有していれば、自分の一挙手一投足が戦略の成否にどのようにかかわっているのか、一人ひとりが理解したうえで日々の仕事に取り組めます。戦略がどこか上のほうで漂っている「お題目」でなく、「自分の問題」になります。自分が確かにストーリーの登場人物の一人であることがわかれば、その気になります。こうしてビジネスは総力戦になるのです(p51~52)。

 すなわち「戦略の実行にとって大切なのは、数字よりも筋の良いストーリー(p52)」なのであった。著者はこれを、「戦略はストーリーであるべき(p63)」と、ひとことに収めている。

 この戦略をストーリーとして組み立てる仕事は、創造的で面白いという。なぜなら「戦略ストーリーは文字どおり『お話』です。 お話を聞いたり、読んだり、話したり、つくったりすることの面白さは、人間にとって本源的なもの(p65)」だからである。
 ということは、ドラマや映画、あるいはコミック、アニメのように面白い、というレベルに達しない戦略は、戦略と名づけられていても戦略とは呼べない、のであろうか。
ここらを読んで、ならば私も、現場時代に心の支えとなった「宇宙戦艦ヤマト」「機動戦士ガンダム」、それから「新世紀エヴァンゲリオン」などのアニメ作品を、この戦略ストーリーという観点から、もう一度、見直してみたいな、とそう思った。いや思わされた。

 それはとにかく、著者の楠木氏は、「企業がめざすべきゴール」は、本当はなんなのかと問題提起し、その候補を7つあげている。利益、シェア、成長、顧客満足、従業員満足、社会貢献、株価(企業価値)である。
 はてさてと7つの候補を眺めるうち、不思議なことに、どれもが正解に思えてくるから、この問いは難問といってよい。ではこの答えはどうなるか? 
 この部分をまだお読みでない方は、せっかくなので、じっくりご吟味いただいたうえで、答えのある71ページ以降をご参照のほど。ここで著者が、なんのためにこう聞いたかといえば、議論の出発点を明らかにしておきたかったのである。

 戦略構築に深くかかわる、環境変化と競争という興味深いテーマについては、次のように言及する。

グローバリゼーションや技術革新、規制緩和といった大きなトレンドは、ほとんですべてが競争の圧力を強め、以前は光り輝いていた星を一つまた一つと消していく方向に作用します。つまり、マクロで見れば、やっかいなことに世の中は必ずといっていいほど利益が出にくいような方向へと進んでいくのです(p99)。

 そうなると、すべての店や企業が衰亡していくのでは、と心配してしまうが、むろんそうはならない。そうならないように、意志を持って、突破口を見つけるべく、戦略を打ち立てていくからである。

次回につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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