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連載コラム

店長の仕事をドラッカー経営学からみると――結城義晴氏著『店長のためのやさしい〈ドラッカー講座〉』①

[ 2012年5月30日 ]

 怒涛のドラッカー本ブームがつづいている。
 火をつけたのは、いうまでもなく、岩崎夏海氏著『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を 読んだら』(ダイヤモンド社)だった。これが、アニメ化や実写映画化の効果もあってダブルミリオンセラーになり、それに伴い、本家本元の『マネジメント【エッセンシャル版】』(同)も、100万部を突破している。ドラッカー関連本や特集雑誌も、数多く刊行されてきた。とはいえ、小売業にからんだものは、あまりなかったといってよい。
 それがようやく(というべきか)、生まれたのが、本書、結城義晴氏著『店長のためのやさしい〈ドラッカー講座〉』(イースト・プレス)である。

1 本書について

 カバーをながめると、書名の上と下の両方に、キャッチ的な文章がついている。上は「ドラッカーは小売り・サービス業を応援している!」、下は「もし、ドラッカーがあなたの会社の社長になったら」である。
 とその下には(裏のカバーにも)、ドラッカー博士(以下、敬意をこめて「ドラッカー博士」もしくは「博士」と呼ばせていただく)の可愛らしいコスプレイラストが6種類も! どんな絵かは、ぜひ店頭でご確認いただきたい。
 著者の結城義晴氏のところには、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科教授と、株式会社商人舎代表取締役社長という、これもふたつの肩書きが載っている。
 著者略歴には

株式会社商人舎代表取締役社長、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科教授、コーネル大学リテールマネジメントプログラム・オブ・ジャパン副学長。1977年、株式会社商業界入社後、編集長、取締役編集統括、代表取締役社長を歴任。2008年、株式会社商人舎を設立。「商業の現代化」とその実現のための「知識商人の養成」を標榜し、鋭意活動中。ブログ『毎日更新宣言』はその名の通り、2007年8月から毎日更新続行中

 とある。
 そこで、「商人舎」のサイトを開くと、そのプロフィールには「商人の魂をもったジャーナリストを標榜し、主にイノベーションとホスピタリティの側面から論述を展開中」とあった。「商人の魂をもったジャーナリスト」か、カッコいいなと思った。

帯にはあっと驚く方々の推薦の言葉が!

● 伊藤雅俊氏(セブン&アイホールディングス名誉会長)

なるほど。ドラッカーのマネジメントは、小売経営にこそ、その真髄が発揮されるのだとよくわかります。

 ● 上田惇生氏(ドラッカー学会代表)

これは小売業・サービス業の店長のためのドラッカーである。

● 柳井正氏(ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長)

自分の頭で考えてお店を動かし、成果を上げられる。そんな店長が率いるお店は、どんなときでも絶対に強い。

 本をひっくり返して帯の裏を見る。ここにも、キャッチがタテヨコふたつと目次の案内。ここでのキャッチのタテ書きには「実は、ドラッカーは小売り・サービス業の店長を応援しています!」、ヨコ書きには「店主・店長・店舗マネジャー必見! ドラッカーなら、あなたのお店をこう変える!」とある。さらに、本の背表紙には、書名以外にも「店長・店舗経営者のための今までにないドラッカー本」というキャッチが! 
 要するに、店舗責任者こそドラッカー本を読もうと、本の外側から、幾度も呼び掛けているのである。
 カバーを開くと、誰もが、この本を読みたくなるだろうフレーズが目についた。

ドラッカー、マネジメント、イノベーション・・・・・・。
「なんだか流行ってるみたいだけど、よくわからない」
「会社や部活には使えるかもしれないけど、ウチの店ではどうしたらいいの?」
「理屈はいいから、もっと現場で使える話はないのかな」
そんな疑問や不満は、この一冊でイッキに解決できます!ありそうでなかった《店長・店舗マネジャー》のための「本当に使える」ドラッカー本!

 ここでは「もっと現場で使える話」というのがポイントになる。では、本文に入る前に、注目される目次に当たっておこう。

プロローグ―小売業とサービス業の店長はドラッカーに応援されています!
1章 あなたの「お客様」はどんな人たちか
2章 あなたの「お店」の強みは何か
3章 店長が行う「マネジメント」
4章 マネジャーはどうやって「組織」を引っぱっていくべきか
5章 店長の最大の任務、「マーケティング」と「イノベーション」
6章 「成果を出せる」店長の条件
エピローグ―ドラッカーと倉本長治「商売十訓」

 目次は順序よく進む。
 お店のメイン・ターゲットと強みの分析、つぎに、マネジメントとリーダーシップという組織運営が問われ、そして「店長の最大の任務」――マーケティングとイノベーションになる。最後に、これらを担う店長の条件が説かれる。
 「お客様」「お店(の強み)」「マネジメント」「組織」「マーケティング」「イノベーション」「成果を出せる(店長)」というように、カギの部分を並べると、それがそのまま、本書のキーワードになっていることがわかる。
 目次の構成は、もちろん本書のモチーフを物語る。これを見るかぎり店長の仕事は、お客さまにはじまり、お客さまに終わる、あるいはお客さまに還ることで循環する、といえようか。

 読み進めると論術は、だいたい3段階とつかめてくる。

第1ステップ ドラッカー博士の言葉
第2ステップ 小売業としての受け止め方
第3ステップ 当てはまる小売店の事例紹介

うまい段取りである。

 各節のラストページの多くに、「もし、ドラッカーが○○な社長だったら」というページが組み込まれている。これがまた、ひときわおもしろいのでお楽しみを! もっとも、この文章を読む前に、自分がドラッカー博士だったら、該当テーマにどう答えるか、と考えるのも一興だろうか。

 それと各章の最後には「まとめ」がついている。これが、本当にまとまりがよい。簡単明瞭で、ついつい「先に読んでおきたいな」と誘惑されるかもしれない。だが「まとめ」は「まとめ」なので、これはやはり本文に当たってから、お読みいただいたほうがと思う。
 ともあれ、至れり尽くせりの創意工夫があふれた本、といえよう。

 全国の店長に聞いてみたい。
 店長としての仕事は、会社として定まっていますか。それは、お客さまの立場に立ったものですか。店長としての生きがいを達成できるものですか、と。
 これらの問いに答えつつ、店長としてなにをやるべきか、この軸を考える本が、本書『店長のためのやさしい〈ドラッカー講座〉』となる。ではこの本には、どんなことが書いてあるのか、それをひとつずつ見ていこう。

2 プロローグで説かれること

 本書のエキスは「プロローグの前に」と「プロローグ」に存する。
「プロローグの前に」は、小売業、サービス業、外食業は、多数の人間を組織し、商品やサービスを提供する「人間産業」である、と示すことからはじまる。つぎに、お客さまも人間集団であり、このふたつの「接点をつくるリーダー」が店長であると進む(これは、店長はなにをなすべきかの答にもなる)。
 ついで、ありがたくも恐ろしくもある、店長の存在性に関する一節が示されている。

どんなお店も、店長が代わると、業績が変わる(p2)。

 これは小売業にとり、普遍の真理といえる。なにが変わっても、これだけは変わらないし、変わりようもない。でこのあとは、こうつづく。

どんなお店も、店長次第で、お客さまの評価が違ってくる。 不思議なことです。 他の条件がいっさい変わらずとも、店長によって、大きく変化する。

 ほんと、そうなのである。ついで、「だから私は『店長』を応援したい」という思いが吐露されるが、そのあとで、優れたジャーナリストでなければいえない、真実に迫るフレーズが配される。それは

店長がみんな良くなれば、産業全体が良くなる

 というものである。
 これは経済の本質を衝く至言というべきであろう。この見解は、リーマンショック以降の世界不況とか、人口減少時代への突入とかで、経済停滞が当然といった議論に対する、異議申し立てかもしれない。仮に、すべての店長が成長し、すべての業種の、すべての店が回復するなら、日本経済は復活する可能性が高い。この本は、その点を目指して書くのだ、という宣言にちがいない、
 この考え方には大いなる味方がいた。それが、ほかならぬドラッカー博士であった。

この私たちの願いに、あのピーター・ドラッカー先生が応えてくれています。その数多の言葉を紐解くと、ドラッカー先生はまるで小売業やサービス業の組織リーダーたちだけに、言葉を投げかけてくれているようにさえ思われてきます。そう、「ドラッカーは小売り・サービス業の店長を応援している!」のです(p2)。

 ドラッカー経営学、あるいはドラッカー思想というものが、不景気に沈んだ企業、業種だけでなく、産業、国、いや世界までを復興させる力を持っていることを、示唆する言葉である。
 このつぎに著者は、東日本大震災における店長たちの感動的な活躍を紹介しつつ、本書の意図をこう記す。

ドラッカー先生の教えを、店長や、店長を志す人々向けに絞って紹介し、解説したのが本書です。ここにあるのは私個人の言葉ではありません。敬愛してやまないドラッカー先生の、励ましの言葉の数々です。この本を読んだ店長さんたちが、自らの仕事の意義を深く理解し、確認し、自らの能力開発と自己育成に勤しみ、もっともっと「ドラッカー思想」に触れ、その考え方を拠り所として職務に臨んでくれることを、願ってやみません(p3~4)。

 著者である結城義晴氏の、お店の店長と、ドラッカー博士という経営思想家に対する、ふたつの思いが交錯している姿が、ここにかいま見られる。
 そして、本書の印税は、東日本大震災の被災者への義援金にすることが、打ち明けられる。

(次回につづく)

 
新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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