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連載コラム

店長の仕事をドラッカー経営学からみると――結城義晴氏著『店長のためのやさしい〈ドラッカー講座〉』②

[ 2012年6月28日 ]

前回よりつづく)

 「プロローグ」で説かれるのは、本書のメインテーマであり、ドラッカー思想の核心であるイノベーション、それとイノベーションを成し遂げるべき、知識労働者のことについてである。
 店舗においてイノベーションとはなにか。著者は、これ以上はできないまでにわかりやすく、こう指南する。

もし店長が、去年も今年も、昨日も今日も同じことをしていたとしたら、明日のお店のために何もせずに、ひたすら今日の延長線上で仕事を続けていたとしたら、お店は必ず滅びる。逆に、お客様のために今日何をして、明日のお客様をどうお迎えするかを考え、店員とともに毎日お店の変革を続けていたら、お店の売上げはきっと伸び続け、地域ナンバーワンの店であり続ける――。ピーター・ドラッカーは、このことを「イノベーション」と言いました(p9)。

 このなかの「店員とともに毎日お店の変革を続けていたら」という文章には、お店におけるイノベーションの4条件が示されている。

① 店員とともに取り組むこと
② 毎日おこなうこと
③ お店を変革すること
④ 続けていくこと

 もちろん、このことを実践するのは、簡単ではない。しかし、店長である以上は、挑むべきテーマにはなってくると思われる。で、つぎの文章は

明日のお客様のために何をするか。どう運営すればロイヤル・カスタマー、すなわち信頼感で結ばれたお客様を増やしていくことができるか。店長の仕事における「イノベーション」とは、そのことを日々考え、店員とともに実践することです(同)。

 とつづく。これらの考えは、イノベーションはお客さまにとっての「価値の創造」を指し、科学技術的な重要性だけではなく、まさに顧客への貢献で評価され、その必要性は、非製造業、つまり、小売業やサービス業ほど高い、というドラッカー博士の思想から来ている(p10)。

ふたつ目のテーマは、知識労働者についてである。

 博士は『ポスト資本主義社会』(ダイヤモンド社『ドラッカー名著集8』)のなかで、「資本」の代わりに「知識」が最大資源となる「知識社会」の到来を予見しているが、そこで活躍するのが知識労働者である(p12)。

 ではこの知識労働者とはなにか。

 直訳すると「ナレッジワーカー」である。ナレッジとは「知識」のこと。だが著者は、「自分の意見や知識をもって」「自分なりに考え工夫する」ことを重んずるという、ユニクロ・柳井正氏の言葉を引きながら、「知識」に「知恵」を加える(p13~14)。

「知恵と知識」。それが「Knowledge」です(p14)。

 さて、ナレッジの特質とその学び方に触れた、つぎの文章を美しいと感じるのは、どうしたわけだろうか。

 「ナレッジ」という資源は無限です。また人が自由に、かつ限りなく保有できるものです。そしてこの「ナレッジ資源」は、学べば学ぶほど増えていきます。また、使えば使うほど磨かれていきます(同)。

 くり返そう。なぜこの一文は美しいのか?

 おそらくであるが、お店の店長なりスタッフが、学んだものを、店づくりや売場づくりに生かすと、そこを起点にお客さまのリアクションが起こる。その売れ行きや反響、お客さまの声といったものが、つぎのステップで新たなナレッジを生む。それがまた店づくりなどに反映し、つぎのリアクションにつながる、というように、お店とお客さまの間に、幸福なサイクルができるからであろう。そこをこの文章から、自然に予感できるところが、美しいのではないだろうか。

 ともあれ、ナレッジを基に、そういう「幸いのサイクル」を作れる人が、知識労働者なのかもしれない。著者はそのことをこうまとめる。

店長が中心になって、店員とともにナレッジという資源を拡大し、お客様のために有効に活用できるか否か。それが、お店の優劣を決定する最も重要な要素だと、私は確信します(同)。

 なおドラッカー博士が「知識労働者」とともに「知識経営者」という言葉も使っていることから、著者、結城義晴氏は、ふたつ合わせて、「知識商人」あるいは「ナレッジ・マーチャント」と呼んでいることを覚えておきたい(p17)。

 さて本文に入る。

 1章には、お店はお客さまをわかっているか、という問いが秘められている。まずは、胸をえぐる、つぎの言葉を読んでみよう。

モノが売れなくなったのは、誰のせいでもない。景気のせいでもない。政治の無策のせいでもない。それは、われわれ自身がお客様を見失っているからだ(p31)。

 なんとハッキリした断言であろうか。しかしそれは間違っていない、どころか、まぎれもなく正しいと考えられる。

 1章は、企業の目的は利益ではなく顧客の創造、という、ドラッカー博士のあまりにも有名な思想からはじまる。著者は書く。

ドラッカーは、「利益は企業の外にある」と言いきります(p28)。

 企業の外にある? どういう意味だろうと誰もが思う。これはこうつながる。

モノが売れなくなってくると、企業は内部から利益を確保しようとします。小売業であれば、商品の仕入れコストを下げ、お店の運営コストを下げ、人件費を下げ・・・・・・という具合に、コスト低減によって利益を捻出しようとします(同)。

 ここまで読むと、「利益は企業の外にある」の意味が明らかになってくる。大事なのは「顧客の創造」であり、その結果として得られる利益なのである。「利益は企業の外にある」は、「売上を上げる」という直截な言い方よりも、はるかにお洒落な表現といえようか。

 ところで、「店長に課せられた一番の役割(p33)」、つまり最重要な仕事はと聞かれたら、いっぱいあるけど、はてさて、それはなんだろうとなりがちだ。これについて著者は、博士のつぎの言葉を引用する。

「われわれの事業は何か」との問いに答えるには、顧客からスタートしなければならない。すなわち顧客の価値、欲求、期待、現実、状況、行動からスタートしなければならない(p32)。

 このことを著者は、「商圏内のデータを調べる」といったことでなく、「その地域に住むお客様、もしくはお客様になりうる人たちの生の声であり、行動(p33~34)」であるという。で、それを実践する好例として、東京・町田の「でんかのヤマグチ」をあげる。ヤマグチの話は、これだけで1冊の本になりそうな、地域密着、顧客本位を徹底する感動的な記録といってよい。ぜひとも本書の34ページから、また41ページ以降をも当たっていただきたい。

 この点にからんで「顧客を知る」ことの意味が教示されている。

ヤマグチの外販営業マンも、製品についての知識を備えているでしょうが、量販店の販売員ほどではないかもしれません。そのかわり、〝担当地域のお客様についての知識〟は、量販店の専門販売員ではとてもかないません。ヤマグチの営業マンにとっての必要知識とは、個別のお客様についてインプットされた、豊富な情報なのです(p38)。

 心に響く指南である。とりわけ苦境に立つ小売店と店長にとり、「顧客を知る」ことこそが、たしかにいま、最も重要な仕事といえないだろうか。
 1章には、もうひとつ重大な観点が、明示されている。店長の仕事は店内マネジメントだけでなく、地域貢献も重要ということについてである。
 アメリカのスーパーマーケットの店長は、ふたつの仕事を持つそうだ。ひとつは店内マネジメントだが

もう一つは、地域コミュニティの一員となって、地域に貢献するという仕事です。アメリカでは、後者の仕事が非常に大事だと考えられています(p42)。

 地域貢献は、アメリカの店長にとって「非常に大事」というが、日本の例でも、イトーヨーカ堂の体験学習や、無料の「マタニティ・育児相談室」、イオンにおける店舗周辺での清掃、空き缶回収、福祉施設への慰問といった活動が、取り上げられている(この地域貢献という点では、6章の「『成果を出せる』店長の条件」のところでも、小売企業の取り組みとして、地元関連のお祭りや子ども向けのマラソン大会、サッカー大会などをみずから催す事例が、東日本大震災におけるチェーン店の支援活動とともに、詳細に報告されており《p214~218》、必読部分)。

 問題は、方針を受け、この活動に取り組む店長の本気度だという。

お店の数字ばかりを気にして、自分の実績として評価される目の前の売上げと利益ばかりを見る、お客様や地域社会への貢献に本音の部分では無関心――これでは、店長の役割を果たせないでしょう(p44)。

 熟読玩味したい一節である。
 つぎはポジショニングの話。ポジショニングと聞くと、その手法は知っていても、意味までキチンとつかんでいたろうかと思う。著者はポジショニングの意味を「地域における自分のお店の特徴、存在意義」を定めることと記している(p49)。

 あとひとつ、顧客テーマで最も重要と思われる――ノンカスタマー(非顧客)の問題が提示されている。
 まずはドラッカー博士の考えから。

ほとんどあらゆる組織にとって、もっとも重要な情報は、顧客ではなく非顧客(ノンカスタマー)についてのものである。変化が起こるのはノンカスタマーの世界である(p54)。

 その例として博士は、アメリカの百貨店をあげる。「かつて、デパートほど自らの顧客についてよく知っている業界はなかった。一九八〇年代まで顧客をしっかりつかんでいた。しかし、ノンカスタマーについては何も情報をもたなかった(p55)」と。著者、結城義晴氏は、日本でも同様としてこう述べる。

デパートは、消費者のうち「顧客」として分類できる二八%についてはよく知っていたものの、七二%の「非顧客」については無関心だったゆえに、新しい顧客の創造ができず衰退の道を歩む結果になった――これがドラッカーの指摘です。日本の百貨店の幹部、従業員を含め、多くの小売業界の人たちは、この指摘を否定できるでしょうか(p56)。

 この問い掛けは、ここで示唆されているように、ひとり百貨店だけのものではないだろう。業績が厳しい業種は、この指摘を胸に刻まないと、同じ道を歩むことになるかもしれない。
 その意味で、59ページの「もし、ドラッカーが常連に頼ったお店を抱える社長だったら」の一文は、繰り返し読み、なおかつコピーして、肌身離さず持ち歩いてもいいくらいのものである。ぜひご参照を!

(次回につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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