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連載コラム

店長の仕事をドラッカー経営学からみると――結城義晴著『店長のためのやさしい〈ドラッカー講座〉』③

[ 2012年7月30日 ]

前回よりつづく)

4 お店(の強み)とは

 改めて問う。店長はなにをなすべきか?
 著者、結城義晴氏によれば、ドラッカー経営学において、お店の仕事は「事業」という言葉に置き換えられるという(p63)。そうなると、お店を知るには、事業というものを分析しなくてはならない。博士は事業を3つの観点から定義している。それが

環境

使命

強み

 である。
 これは、市場の特徴、提供するもの、自店の優位性とも言い換えられるとのこと(p63~64)。であれば私見だが、「環境、使命、強み」は、コンセプトを構想する際のWho、What、Howに照応するとも考えられる。
 それはとにかく、著者は、この環境、使命、強みという3つを店づくりに生かすのが、店長の仕事という。

店長の皆さんがやるべきことは、ドラッカーの言う「環境、使命、強み」の三つの要素を前提として、「どういうお店をつくっていくか」を決めることです(p63)。

 さらにこうもつけ加える。

この三つの要素を前提にして、自分の事業やお店を定義するのです。「定義する」とは、何のために存在しているのか、どういう役割を持っているのかといった観点から、〝お店の原点〟を定めることです(p64)。

 定義されたことが原点になるのか、と小さな驚き。でもいわれてみれば、たしかにそうだと納得する。
 つぎに著者は、「事業の定義」を、「小売業は何をつくっているか」という問いに置き換える。荒井伸也氏の「店舗」、大久保恒夫氏の「売り場」、矢作敏行氏の「業態」という答を総合しながら、著者は「フォーマット」という回答を示すのである。

 ではフォーマットとはなにか。著者は、ローソンに対するナチュナルローソンやローソンストア100を例に、こう概念づける。

企業の新しい店舗戦略に基づいて次々に生まれていくお店のタイプ(p68)。

 そして、これを成り立たせるのが

Time(時間)

Place(場所)

Occasion(場面)

Style(ライフスタイル)

 の4要因であり、略してTPOSという。これは重要な切り口であり、性別や年令に加え、顧客ニーズを探るときの新しい枠組みにもなろう。つづいてこう述べる。

お客様が「どんなときに」「どんな所で」「何をしたいか」「どんなライフスタイルか」を考えることでターゲットとする客層を分析し、最適の店舗をつくりだしていくという手法です。つまり、ドラッカーの言う「顧客の価値、欲求、期待、現実、状況、行動からのスタート」を実践する考え方なのです。これによって「特定のニーズのために存在する」お店が、具体的な形で実現するわけです(p69)。

 このように読んでくると、フォーマットというこの考え方こそ、現代小売店が陥った危機を突破できる方向と思われるが、いかがだろうか。

 で、小売業界は知識社会、店で働く店長とスタッフは知識労働者(経営層は知識商人=ナレッジ・マーチャント)と位置づけ、店長の役割をこう指南する。

店長には、このような現場のナレッジ・マーチャントたちの専門知識を活用しながら、お店をプロダクトしていくことが求められます(p75)。

 この具体例として、22期もの間(現時点では23期)、増収増益をつづけるヤオコーを持ち出す(p77~80)。ここに描かれている、パートタイマーと店長を知識労働者ととらえ、その力を生かそうとする姿は感動的といえよう。詳細は本書に、ぜひとも当たっていただきたい。

5 店長マネジメントとは

 いよいよ、本書の核心である店長マネジメントに突入する。
 ここで著者は、まず玩味すべきドラッカー博士の言葉を掲げる。

マネジメントとは、事業に命を与えるダイナミックな存在である。彼らのリーダーシップなくしては、生産資源は資源にとどまり、生産はなされない(p84)。

 なんと衝撃的な見解であろうか。マネジメント=管理、という固定観念を打ち破るだけ の破壊力を持った一言である。ここで読者は、同じマネジメントでも、博士のマネジメントは、これまでと同様の意味ではないぞと知らされる。
 ではどういった意味なのか? 著者は、博士の言葉を重ねた末に

組織に成果を実現させるための機能、機関

 という表現に到達している(p86)。「機能」と「機関」、つまり役割性と組織性を、合致させた点が新しいと思われる。そのうえ、説得力が高くてわかりやすい定義といえよう。
 ついで著者は、マネジメントは管理もするが、同時に起業家でなければならない、という博士の考えを引きながら、店長の仕事は「お店の明日を創造するマネジメント」と結論づけるのである。
 ここでマネジメントの語源を披露する。

私の師匠の一人であり、チェーンストア経営指導の権威だった故・渥美俊一先生は、マネジメントという言葉について「マネジ(manage)の語源は、昔、数人で丸太を漕いで目的に到達しようとしたところからきている」と言っていました。これはなかなか面白い指摘です。つまり、マネジメントは「力を合わせて目的を達成する」という意味だ、という解釈につながっていきます(p89~90)。

 そうだったのか、と心のどこかでうなづけるものがある。
 このあとの事例が、またまた仰天すべきものとなる。なんと、チリの鉱山崩落事故のリーダーがドラッカーの信望者で、助かったのはドラッカー理論のおかげというのである(p88~94)。ここは、危機を乗り越えるマネジメントのモデルになるため、2度、3度と繰り返し読みたい箇所となろう。

〝危機のマネジメント〟のあと、話は、知識労働者である店長やスタッフの、〝喜びのマネジメント〟に移る。店長やスタッフは、「お客さんに喜んでもらえることが一番」の感激で、お客さまとの間で、相互に、感謝の気持ちを伝え合うことが「お互いの喜びの瞬間」であるという。

お客様にとっては、買い物の喜びです。店員にとっては、仕事の喜びです。これらは〝小さな喜び〟であり、〝ささやかな幸せ〟です。しかし、こういう日常の喜びこそが〝明日への希望〟につながっていくのだと思うのです。店長のマネジメントとは、働く店員さんたちにこの〝小さな幸せ〟や〝ささやかな幸せ〟を感じてもらうことです(p103)。

 そして仕事の喜びは「命令・統制のマネジメント」からは絶対に生まれず、「自らの意思で仕事をしたときでなければ得られない」と断言する。この文章はこうつづく。

たとえば、自らの考えで素材を選び料理の工夫をしたとき、自らの考えを提案して売り場を変えてみたとき、自らの意思でお客様に「いかがでしたか」とやさしくたずねてみたときです。自らの意思や考えを持つ知識商人である彼ら彼女たちにとって、自分なりの仕事の成果としての、お客様からの「ありがとう」の言葉は、給料よりもっともっと誇り高い成果です(p104)。

 長年、小売りの現場にいた私も、そうだ、そうだ! ともろ手をあげて賛同したくなる。「誇り高い成果」という温かい表現には、胸が詰まった。

 小売業における知識労働者の例として、柳井氏が「全員商店主」という意識を持つことを社員全員に呼びかけているユニクロの話を紹介する。そのあと、著者はこう締めくくっている。

お店で働く人の「やりがい」「生きがい」――店長のやるべきマネジメントで一番大事なことは、それを働く人に実感させることではないでしょうか(p116)

 終わりに、博士の「働きがいが持てるお店の三つの条件」をガイドしているが、さてその3つとは、果たしてなにか。じっくり考えて自分の答を出したいものである。そののちに、118ページ以降をご覧になり、見解を照合することをお勧めしたい。

(次回につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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