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連載コラム

店長の仕事をドラッカー経営学からみると――結城義晴著『店長のためのやさしい〈ドラッカー講座〉』④

[ 2012年8月30日 ]

前回よりつづく)

6 マネジャーは組織をどう作るか

 いよいよマネジャー論である。マネジャーとはなにか。
 本書によれば、ドラッカー博士はマネジャーについて「上は社長から下は主任クラスまで、部下を率いて一つの組織に責任を担う立場」と記している(p127)。著者、結城義晴氏は、これをお店に当てはめて「主に小売業やサービス業の店長と、お店の中の一部門に責任を担う人(同)」と述べる。したがって、著者によるマネジャーの定義は「組織の成果に責任を持つ者(同)」となる。
 
 定義はつかめた。ではそれを踏まえて、マネジャーはなにをなすべきか。といえば博士の言はこうである。マネジャーにはふたつの役割がある。ひとつは、オーケストラを例に、「投入した資源の総和よりも大きなものを生み出す生産体を創造すること」、もうひとつは「ただちに必要とされているものと遠い将来に必要とされるものを調和させていくこと」(p129)。

具体的には5つあった(p126)。

1 目標設定
2 組織化
3 動機づけとコミュニケーション
4 評価測定
5 人材開発

 ここは4章だが、そのタイトルは「マネジャーはどうやって『組織』を引っぱっていくべきか」である。
 すなわちマネジャーの仕事とは、いま紹介した5つの遂行を通じ、チームを「引っぱっていく」ことだ。適切な目標を立て、その達成にむけての組織を作り、スタッフのモチベーションを上げるためのコミュニケーションを図り、結果やプロセスを評価し、これらを通して人材の養成を成し遂げていくのである。

 このあとは、とくに目標と組織について、ていねいに解説される。
目標に関しては、数値化(数値化できないものは具体化)、地域貢献、短期長期の視点、全員参加、個人目標といった辺りがポイント。
 組織について著者は、ドラッカー博士の「組織は一つの目的に集中して、初めて成果をあげる(p140)」という言葉に従って、シンプルさを重視しその効果をこう説く。

ドラッカーはまた、「組織は、一つの使命しか持ってはならない。さもなければ、組織の構成員は混乱する」とも言っています。使命は、「われわれの事業は何か」「われわれの顧客は誰か」の問いかけから定まってきます。お店の場合は、それぞれの強みを明確にして「私たちのお店は、○○によって地域社会に貢献する」といった表現になるでしょう。〝○○〟のところがそのお店の強みを前提にした存在意義となります(p141~142)。

 すなわち使命とは、みずからの事業、顧客、強み、貢献とはなにか、という問いかけから定まるものといってよい。
 さてここに、組織についてのドラッカー博士の重要な指南がある。

組織は道具である。他のあらゆる道具と同じように、組織もまた専門分化することによって、自らの目的遂行能力を高める。しかも組織は、限定された知識をもつ専門家によって構成される。したがって、目的すなわち使命が明確であることが必要である(p142)。

 著者の結城義晴氏は、これを「小売業やサービス業のお店にはぴったりくる指摘」と解説するが、全面的に賛成である。で、この文はこうつながっていく。

小売業のお店の場合、青果売り場の担当ならば、彼はお店の中では青果に最もくわしい〝専門家〟です。菓子売り場の担当者は〝お菓子の専門家〟です。外食店なら、厨房で働く人たちは〝料理の専門家〟であり、フロアで働く人たちは〝接客の専門家〟です。それぞれが異なる専門家ゆえに、ドラッカーは「明確かつ焦点のはっきりした共通の使命だけが、組織を一体とし、成果を上げさせる拠り所になる」と言っているのです(p143)。

 明確かつ焦点のはっきりした共通の使命だけが」、というところに心を打たれる。そんなこと、これまで聞いたことがなかった。この辺の指摘には、店長を長くつづけた時代の、もやもやしたものが解消される思いを持った。

 組織の盲点についての言及もある。
 セクト主義、つまり「悪い意味での職人化」の問題である。これは、およそ組織である以上、宿命といっていいくらいつきまとうことだ。この縄張り主義を乗り越えるには、なにが必要か。それを著者は、やはり「焦点の定まった」使命と目標と教示する

「使命」の明確化がそれぞれの力(専門能力)を一つのベクトルに合わせる効果をつくり出す(p145)。
「使命を実現するために、そのときそのときで、どういう成果をつくり出すか」を明示したものが目標(同)。

 そしてこうつづける。

全員が同時に共有する一つの目標があるからこそ、自分の担当する持ち場から「何によって目標の達成に貢献できるか」をつかむことができます。他の部門のことは知らない、と自己中心的な仕事をするのではなく、協力しながら仕事を進めることができます(同)。

 つまり「小売り・サービス業のお店は、知識労働者(知識商人)同士で協力しあいながら仕事をする舞台(p147)」なのである。著者は、この組織モデルをオーケストラに求める。まずは、ドラッカー博士の重要な言葉から。

明日の組織のモデルは、オーケストラである。二五〇人の団員はそれぞれが専門家である。それも極めつけの専門家である。しかし、チューバだけでは音楽を演奏できない。演奏するのはオーケストラである。オーケストラは、二五〇人の団員全員が同じ楽譜をもって演奏する。オーケストラでは、すべての団員が、それぞれの専門能力を全体の使命に従属させる(p148)。

「明日の組織のモデルは、オーケストラ」という表現に、改めてびっくりした。ここで著者は、「オーケストラをお店、指揮者を店長、演奏者を知識商人たる店員たちに置き換え(同)」ながら、スーパーマーケットを例にして解説する。ここらも学びどころなので、本書の149~151ページは、ぜひ当たってほしい。

 理想の組織についての記述もある(p152~154)。
 著者は、野球型、サッカー型、テニスのダブルス型の3つのうち、どれが理想かと問題提起する。たしかに配置、攻守、分担の仕方が異なる。この問題をどう考えるか。自店に照らしたうえで、本書の答をお読みいただきたく思う。

7 店長マーケティングとは

 ついでマーケティングとマネジメントの関係について、論及される。著者、結城義晴氏は、マーケティングについて博士が、「核心を突いたポイントをずばり指摘」していると強調したうえで、こう述べている。

ドラッカーにとってマーケティングは、マネジメントの中に位置づけられる機能の一つです。とりわけトップマネジメントが担うべき最も大きな機能が「マーケティング」と「イノベーション」だと言いきっています(p159)。

 そうか、ドラッカー経営学においては、マーケティングはマネジメントのなかに位置づけられるのか、とわかった。
 それと、トップマネジメントの最大の役割が、マーケティングとイノベーションということも、再確認した。チェーン店の場合、店長はミドルマネジメントだが、店舗ではトップマネジメントになる。したがって店長も、そのおもな仕事は、マーケティングとイノベーションのふたつになる、ということは前にもお伝えした。

 著者は、博士のマーケティングについての発言を引いていう。

ドラッカーは著書の中で、「現実にはほとんどの企業でマーケティングは行われていない」ということを言っています(p163)。

ドラッカーは『マネジメント エッセンシャル版』の中で、「販売とマーケティングは逆である。同じ意味でないことはもちろん、補い合う部分さえない」と言っています(p164)。

 ご覧のように手厳しい内容だが、その真意は、マーケティングに対する博士の定義でつかめてくる。その定義。

マーケティングの理想は、販売を不要にすることである。マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、製品とサービスを顧客に合わせ、おのずから売れるようにすることである(p164)。

 このことを著者は、「〝売るしくみ〟ではなく、〝売れるしくみ〟をつくれ!」が真意と解説する。こういう言い方なら、たしかに理解しやすい。で、これを店長の仕事に位置づけると・・・・・・。

店長のマーケティングとは、地域のお客様をきめ細かな切り口から十分につかみ、お客様に合わせてお店づくり、売り場づくりを行うことによって、「おのずから売れるようにする」ことなのです(p167)。

 ここで著者は、店長よ、理想を持て! と叱咤する。

店長は常に理想を心に抱いていなければならないと思います。理想は、お店の「使命」に直結しています(p168)。

 こういう叱咤にどう応えるか。それは日々の仕事を、レベルアップしていくしかない。
 このあと文章は、店長が理想を持たず使命を忘れたなら、お店のスタッフは、なんのために仕事をしているのかを忘れ、生きがいをなくしてしまう、とつづく。

もちろんマーケティングも全員参加となる。「お店のマーケティングは、そこで働く人たちみんなで行うべきです。お店はオーケストラなのですから(p170)」

(次回につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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