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連載コラム

店長の仕事をドラッカー経営学からみると――結城義晴著『店長のためのやさしい〈ドラッカー講座〉』⑤

[ 2012年10月2日 ]

前回よりつづく)

8 店長のイノベーションとは

 マーケティングはまだわかるが、店長はイノベーションまでしないといけないのか?
 チェーン店によっては、こう考える店長もおいでかもしれない。しかし、マーケティングを突き詰めると、イノベーションまで行き着かざるを得ないのも真実だ。顧客ニーズを徹底して追うと、新しい発見とか対処まで、到達してしまうからである。

 著者、結城義晴氏は、ここでドラッカー博士のイノベーション研究に触れる。

企業にとってのイノベーションを「不可欠の機能」「重大な社会的責任」と指摘した彼は、およそ一〇〇〇件のイノベーションの事例を集めて研究したと伝えられています(p173)。

 で、北極で暮らすエスキモーに冷蔵庫を売る話が披露される。寒いのだから冷蔵庫は不要だろうという考え方ではなく、凍結防止用として売るという、もうひとつの発想があるとのこと。このことがエスキモーにとっては「新たな価値の創造」であるとし、こうつづける。

これこそ、イノベーションです。冷蔵庫を開発することと同じぐらい、重要な価値をつくり出し、顧客の創造をしたことになります。こうしたイノベーションの機会は、人が生活する社会や経済のあらゆる分野にある、とドラッカーは言うのです。『マネジメント エッセンシャル版』の中では、「現代というイノベーションの時代において、イノベーションのできない組織は、たとえいま確立された地位を誇っていても、やがて衰退し、消滅すべく運命づけられる」と言っています(p174)。

 小売店の店長にとり、大いに重要な考え方であり、くり返し、みずからにいい聞かせたい一文といってよい。
 つぎに著者は、ドラッカー博士の「すべてのイノベーションに共通する」5大原理を紹介する。機会を徹底して分析する、理論分析とともに知覚的認識が大切、焦点を絞って単純化する、小さくはじめる、トップの座を最初からねらう――以上の5つである(p177~181)。

 この辺りが本書の圧巻部分と思われるため、精密に読み込みたい。このあと、イノベーションを進めるときに、満たすべき成功条件と、してはいけないタブーを、それぞれ3つずつあげている。
 成功条件は、知識と創造性の集中、強みがベース、社会への貢献、タブーは、懲りすぎと散漫、そして未来任せである。それぞれ「うーん」とうなりたくなる視点である。なので、この箇所も、必ず目を通してほしいと思う。
 すべきことの3つ目に「つまるところ経済や社会を変えなければならない」とあるが、ここは、まじめな店長にとっては少し衝撃的かもしれない。え~、そこまでやらないといけないわけ? というように。だが著者は優しく、そう大げさに考えないで、お客さまがハッピーな気持ちになり、それが広がっていくことも該当する、という旨の記述もしている(p187)。

 そして、イノベーションに取り組む小売店の例として、東北のスーパーマーケット、ヨークベニマルを紹介する。ある店がレジで混むと、店員にそのことを告げるためのサインとして、鉄腕アトムの曲を流すことをあげ、こう語る。

お店のイノベーションは、こんな小さなことから始めればいいのです。店舗全体をリニューアルするような大げさなことばかりがイノベーションではありません。お客様の利便を考えてちょっとした売り場の工夫をするなど、ほんの小さな観察やアイデアをきっかけにして小さなイノベーションを日常的に重ねていくことが、楽しいし、大事なのです(p189)。

 たしかにそうだ、と思わされた。売場のスタッフには、嬉しくて勇気づけられる一節にちがいない。
 ここで、1軒のお店が地元に愛されているかどうかを、簡単に知れるモノサシが教示されている。読むと、ああそうか、そうですねと納得させられるものだ。さあ、なんでしょう?
 時間があれば少し考えてから、190ページを開いていただきたい。参考になること、請け合いといっていい。

 さてイノベーションの最後に、イノベーションすべき7つの機会が紹介されている。

① 予期せぬ成功と失敗を利用する
② ギャップを探す
③ ニーズを見つける
④ 産業構造の変化を知る
⑤ 人口構造の変化に着目する
⑥ 認識の変化をとらえる
⑦ 新しい知識を活用する

 項目だけでは少しわかりにくいかもしれない。ここも勉強のしどころなので、詳しくは、本書の192ページから200ページまでを当たっていただきたい。1番目の「予期せぬ成功と失敗を利用する」は、1節を設けており、また重要な点なので、まとめだけ紹介する。
 お店の仕事には、毎日、成功と失敗があふれかえっているが、それがイノベーションのよい機会となると説く。 

因果関係を考えることは、おもしろい作業です。最初は優先順位をつけて、重要だと思われる現象から順に、因果関係を考察する。それを毎週毎週、毎日毎日繰り返しているうちに、因果関係を解き明かすスピードが速くなる。これが知識商人(ナレッジ・マーチャント)の一番のスキルとなります。そうした作業を店長だけではなく、各売り場のマネジャーや担当者を含めて定期的に実施することを、ここでもお勧めしたいと思います(p200)。

 それと、2番目の「ギャップを探す」のところも、小売店でよくある話なので、引用しておきたい。

ある商品分野において需要が伸びている。他のお店では売れている。したがって、「うちの店でも売れるはずだ」と考えて大量に仕入れたのに、現実には全然売れない。この思惑と現実のギャップに、イノベーションの機会が存在しています(p194)。

 で、こうアドバイスする。「ギャップを、思いつきではなく体系的に分析すれば、何が間違っていたか、何を変えればよいかが見えてきます(同)」と。

9 成果を出せる店長とは

 6章の冒頭に、ドラッカー博士のリーダーの要件に関する言葉が掲げられる。これは何度でも熟読すべき内容。もしいま、リーダー的な立場だとしたら、自分はこれらのことができているか、と胸に手を当てながら読みたいものである。以下にそれを掲げたい。

リーダーたることの第一の要件は、リーダーシップを仕事と見ることである。効果的なリーダーシップの基礎とは、組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で明確に定義し、確立することである。リーダーとは、目標を定め、優先順位を決め、それを維持する者である。リーダーたることの第二の要件は、リーダーシップを、地位や特権ではなく責任と見ることである。リーダーたる第三の要件は、信頼が得られることである。信頼が得られないかぎり、従う者はいない(p204)。

 著者はこの章で、店長が、〝マニュアル店長〟から、「お店のリーダーとして『最大の責任』を担い、『最大の挑戦』をする」ゼネラル・マネジャーに進化すべきことを、一貫して説いている。
 とはいえ、マニュアルの必要性は認めている。

 ドラッカーも「ブレインズ&ハンズ(頭と手)」という言い方で、ハンズ=手順の標準としてのマニュアルの必要性を肯定しています。問題は、その運用です。すべてのお客様に判で押したように応対するようなマニュアル依存になってしまったら、お客様への真の貢献はできません(p208~209)。

 つづく文章は、人間讃歌ともいうべき美しいものだ。

ドラッカーは「人こそ最大の資産である」と言いきっています。本来それぞれの店長は、資産たる人としての〝強み〟を持っているはずです。いえ、店長だけではありません。お店で働く人たちは皆、資産たる人です。一人ひとりが自らの強みを持ち、心を持っています。お客様に心から「ありがとう」と感謝します。また、お客様に感謝されたときの喜びを知っています。店長も、マネジャーも、店員も、みんな働きがいを求めています(P209)。

 そんなことはわかっているよ、という声が聞こえてきそうである。大事なことは、このことをわかっているかどうかではなく、みずからのお店で実現できて、お客さまもスタッフも、幸せ感なり充実した思いを持っているかである。自戒の一文として受け止めたい。
 ついでアメリカの状況が、以下のように報告される。

アメリカのチェーンストアがこのことに気づき、マニュアルだけでは真のお店の運営はできないという反省が生まれたのが二一世紀に近づいたころでした。そして多くのチェーンストアが、店長から〝マニュアル店長〟という衣を外したのです(同)。

 そして理想的店長である「知識商人としての店長」像を、川崎進一著『新・店長の条件』(商業界)の30ページの一部分を引用しながら、こう描く。

今日の店長は、決して年功序列でその座に就き、上から移譲された権限によってメンバーを動かしているような人ではありません。知識商人の組織は、そういうリーダーでは動きません。成果をつくり出すこともできません(p210~211)。

 最後に「現代の店長に求められる10の条件」をあげる。これらは「ドラッカーの考え方をベースにして」いるだけあって、誰が考えてもこうなるだろう、という包括的、かつ画期的なものだ。ためしに、自分で10項目考えてから、照らし合わせてみることを提案したい。

 この章から、店長の役割について、見過ごせない視点をふたつ紹介したい。
 まず、ご満足をお客さまに保障する責任者が、店長であるということ。

お客様が実際にお金を出して購入するのはお店においてです。お金を出して購入する。その瞬間にお店はお客様に対して「満足」を約束することになります。満足を約束してくれなければ、お客様はお金を払いません。お店が約束するということは、お店の全責任を負っている店長が約束するということなのです(中略)。お客様と店長の約束。それが「満足保障」にほかなりません(p219~220)。

 もちろん人間たるもの、すべてがそううまく運べるものでもない。とはいえ、そんなことをいってばかりでは、店が成り立たない。ここは覚悟を決めて、思い切ることも必要だ。私はそう考えて、店長の仕事をつづけた。

 もうひとつは、みずからの強みを知ることについて。著者は、「フィードバック分析」という、ドラッカー博士の貴重な指南を紹介する。

何かをすることに決めたならば、何を期待するかをただちに書きとめておく。九か月後、一年後に、その期待と実際の結果を照合する。私自身、これを五〇年続けている。そのたびに驚かされている。これを行うならば、誰もが同じように驚かされる。こうして二、三年のうちに、自らの強みが明らかになる(p231~232)。

 数年後に実現したものが、自分の強みということであろうか。実際やってみなくっちゃ、と思わされた。
 この章のまとめにある最後の1行にも注目したい。

店長にもっとも必要な資質は「真摯さ」である(p234)。

 岩崎夏海著『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(「もしドラ」)でも目を引いたテーマである。このことこそ、一番心に刻みつけるべきなのであった。

10 まとめ

 本書は、最後の最後で、著者の師、「商業界」の初代主幹である、倉本長治氏の「商売十訓」を「まさしくドラッカーの思想そのもの(p235)」として紹介する。
 その一つひとつを、ドラッカー博士の言葉につき合わせながら、解説するのだ。ここも絶対必読の箇所である。
 そしてこうつけ加える。

ドラッカーのマネジメント体系は、一そろえになったとき初めて「一人前の大工道具」となります。倉本長治の『商売十訓』もまったく同じです。一つひとつの教訓はむしろ、当たり前のものです。しかしその当たり前の十の要素がすべてそろったとき、真の知識商人(ナレッジ・マーチャント)が誕生するのです(p241~242)。

「一つひとつの教訓はむしろ、当たり前のもの」であっても、それが「一そろえになったとき」、つまりワンパッケージになったとき、効果を最大限に発揮するのである。ここも繰り返し熟読したい。

 店長はなにをなすべきか。
 このことを、本書『店長のためのやさしい〈ドラッカー講座〉』を導きとして、ドラッカー博士から学んできた。いや、ドラッカー思想をベースに、著者、結城義晴氏から教示してもらった、というほうが正確かもしれない。
 その答は、経営的でありながら人間的でもあったと思う。「店長としてどう生きるか」、それは「人間としてどう生きるか」という問いと変わらない。
 店長は、一個の人間として、いかに生きるべきか? この永遠の問いに、本書は、全力で応えたことになる。その意味で、改めてこの書を、店長、あるいは店長に準ずる主任クラス、もしくは統括店長、そして本部の人々、もしくは、店長とか主任でなくても、店長になりたい、なろうと思っているすべての方々にも、強く推薦したい。

 この本は必ず役に立つこと、まちがいない!

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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