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連載コラム

永遠の経営バイブル『マネジメント【エッセンシャル版】』をとことん学ぶ④

[ 2013年1月29日 ]

前回よりつづく)

マネジメント実践論

 このマネジメント実践論では、マネジメントの各論部分を扱いたい。大きくは、重要なテーマである目標管理をはじめ、コミュニケーション、多角化、働き(労働)論、生産性などのテーマになる。

問題解決と意思決定

 だがマネジメントの各論に入る前に、問題解決と意思決定についての大切な記述があったので、ちょっとだけ触れておきたい。
 博士は、問題を解決するには、正しい分析以外にないと語っている。この内容はというと、活動分析、貢献分析、決定分析、関係分析の4つになる(p194)。おれらについて要点のみ箇条書きしたい(p184~191)。

1 活動分析の「活動」とは「組織の基本活動」のことで、これを明らかにするのは、組織の卓越性、弱点、本当に重要な価値の3つである。

2 貢献分析については「企業内の活動は、その貢献の種類によって大きく四つに分類できる(p186)」とし、成果、支援、家事、トップの4活動をあげている(家事?と首をかしげる方もおいでかもしれないが、その意味は189ページを当たっていただきたい)。

3 決定分析では、意思決定の4つの観点として、影響する時間の長さ、他部門と全体への影響度合い、考慮すべき定性的要素(原理・価値観など)の数、問題が発生する頻度を提示している。

4  関係分析は「組織構造の設計の最終段階」でおこなうものであり「活動相互間の関係の分析」のこと。ここでの原則は「活動間の関係は重要な意味あるものだけに限らなければならない」ことである。

 これだけだと少しわかりにくいかもしれないが、興味ある方は、本書を精読して深く研究していただきたいと思う。
 意思決定の原則のところに「決定分析による活動の位置づけと関係分析による活動の位置づけの間には、矛盾が生じることがある。その場合には、関係分析の結果に従わなくてはならない(p193)」とあったが、重要な見解といってよい。

 あと、同じく意思決定上の原則の箇所に、低いレベルと高いレベルのふたつの原則が紹介されているが、これも必読部分なので、192ページをご参照いただきたい。
 別のところには、意思決定に関する、挑発的で意味深いフレーズを発見した。「意見の対立を見ないときには決定を行わないこと(p152)」。考え込ませられる。
 ところで、危機におけるリーダーシップについて記される以下のコメントは、たとえが秀逸。

危機に瀕したとき命運を決するのは、明快な命令の有無である。沈没しかけているときに会議を開く船長はいない。命令する。船を救うために全員がその命令に従う。意見も参画もない。危機にあっては、階層と服従が命綱である(p281)。

 これこそ有無をいわさぬ、説得性の高い指南である。

目標管理

 さてここからマネジメントの各論部分に入る。
 最初は目標管理である。目標設定の基盤についての話のなかで、博士は、目標には、最初からチームとしての成果を組み込んでおくこと、またそれらは、つねに組織全体の目標から引き出したものであるべきと教示している(p139)。それはそうだと思っても、現実、果たしてそうなっているか。無理では、という声に負けていないかどうか。

 140ページに「目標管理の最大の利点」が、「自らの仕事ぶりをマネジメントできるようになることにある」と記されているが、さらにおおよそこう述べる。
 自己管理は強い動機づけをもたらす結果、人に最善を尽くす願望を起こさせる。だから目標管理は、マネジメント上不要でも、自己管理するためには必要なのである、と。
 「自己管理による目標管理」についての、つぎの一節もお読みいただきたい。

自己管理による目標管理は、人間というものが責任、貢献、成果を欲する存在であると前提する。大胆な前提である。しかしわれわれは、人間というものがほぼ期待どおりに行動することを知っている(p141)。

 性善説と性悪説の間で、人間論をどう説くのかと思っていたが、納得できる見解といえよう。性善説とは異なるが、とはいえ人間に限りない期待を寄せる、博士の透徹した人間観といってよい。いずれにせよ、ここらを当たると「自己管理による目標管理」が、マネジメントと個々人の仕事をつなぐもの、ということがわかってくる。このことを博士はこう述べる。「自己管理による目標管理こそ、マネジメントの哲学たるべきものである(p141)」と。

コミュニケーション

 目標管理と絡んで、大事になるのがコミュニケーションである。「目標管理こそコミュニケーションの前提となる(163)」からだ。
 コミュニケーションは、いうまでもなく井戸端会議でも小田原評定でもない。あくまで、目標をどう達成するかという重要事がその骨格になる。これなくして、コミュニケーションが成り立たない、そのことが痛いほどわかった。
 
 コミュニケーションの重要性は、「組織において、コミュニケーションは単なる手段ではない。それは組織のあり方である(p164)」や、「コミュニケーションが成立するには、経験の共有が不可欠だ(同)」といった発言からも伺われる。
 それにしても「経験の共有」が不可欠ということは、こう鮮烈に教示されてはじめて、インパクトを放ってくるのだ、と実感させられる。この点は、小売業で働く人間にとり、理解しやすい哲学となろう。

多角化

 つぎのテーマは多角化である。大企業でも、失敗が相次ぐテーマとなる。詳しくは本書でご探究いただきたいが、博士ならではの迫り方を、3つ紹介しておきたい。

 まずひとつめ。
 多角化を進めるには、単純さと複雑さがともに必要で、そのふたつは事業を反対方向に引っぱるが、かといって、これらを対立させてはならず、むしろ調和させるべきということ。「共通の軸によって多角化を一体化する」ことが、トップマネジメントの仕事になる。これは、小企業、中企業、大企業のいずれにも当てはまるという(p248)。
 ここでは、多角化成功のためには、単純さと複雑さの調和、共通軸の必要性が、規模にかかわらず不可欠なことが説かれている。
 小売業で「共通の軸」が作りにくいのは、それぞれの業種様態とその運営に特徴があるからだ。とはいえそのなかで、「共通の軸」をどう作っていくのかが、課題となるのにちがいない。

 ふたつめは「共通の市場あるいは共通の技術を軸にしない多角化は失敗する」ことである。その結果、マネジメントは不能となってしまう。「好天のもとでは順調でも、ひとたび荒れれば難破する(p251)」のである。
 このような失敗の事例が、いかほど多くあったか。「好天のもとでは順調でも、ひとたび荒れれば難破する」という、この教えを肝に銘じたい。

 みっつめである。
 多角化は、共通の市場と共通の技術によるものを、ふたつ同時におこなうのは難しいこと。ふたつを同時に取り組むことは「異なる思考、姿勢、戦略を必要とする。そこに生ずる問題もあまりに多様」となる。これを成功させるには、「マネジメント特にトップマネジメントを、二つに分けるか、一方の軸を軽視するか」のどちらかを選べねばならない(同)。
 ここも実現不可能とはいえないまでも、マネジメント現場に、複雑でやっかいな問題を投げ込む結果になる。店舗ビジネスでは、なさそうで多いケースだけに、こういう指南を生かせば、悲劇は避けられるかもしれない。
 多角化を図るには、合併と買収という方法も考えられる。この点に関し、博士はこうアドバイスする。

合併と買収は量を狙ってはならない。不適切な基盤の上に量を加えることは、さらに問題を求めることでしかない。手持ちのものと合わせて完全な全体となるような相手を見つけだすことでなければならない(p242)。

 ところが小売業の場合、「手持ちのものと合わせて完全な全体となるような相手を見つけだすこと」というケースは、そう多くないように見えるし、そのように見えても実際は量をねらっていたのだ、と考えざるを得ないことも少なくない。「娘の相手を探すときは誰がよい夫になるかを考えるな。誰のよい妻になるかを考えよ」というフレーズを、心に刻みたい。自分たちではなく相手中心に考えなくてはならない、ということと思われる。

働き論

 本書の一大特長と思えるのが、労働論の部分である。ここでは「働き論」と名づけておきたい。働くことがいきがいに結びつくことで、企業の生産性が上がる、つまり会社の業績に結びつくことを、博士は証明している。たとえば、このことは前回にも触れたが、こう明快に断言する。

マネジメントの第二の役割は、生産的な仕事を通じて、働く人たちに成果をあげさせることである(p53)。

 この労働の本質と役割を、5つのレベルから分析しているのには、驚愕させられた。5つのレベルとは、生理的、心理的、社会的、経済的、政治的という5次元である。
  このうち、たとえば生理的次元では、仕事は均一に設計すべきだが、労働には多様性を持たせねばならない。スピード、リズム、持続時間を変える余地を残しておくためと記されている(59)。また心理的次元では「人にとって、働くことは重荷であるとともに本性である。呪いであるとともに祝福である。それは人格の延長である。自己実現である。自らを定義し、自らの価値を測り、みずからの人間性を知るための手段である(p59)」と、働くことの人間的多様性を謳い上げる。
 さらに社会的次元では「組織社会では、働くことが人と社会をつなぐ主たる絆となる(p59)」と教示する。

 これらの洞察には、口幅ったいことながら、その通り! と叫びたくなってくる。現場で働く人間の事情が、どうしてここまでつかめるのか、と驚かざるをえない。店頭で、年数を掛け少しずつ身につけたことが、ここには簡潔に書かれている。
  仕事そのもののおもしろさが最重要ということについて、博士は「ソースがまずければ、最高の肉も台なしになる。だが、そもそも仕事そのものにやりがいがなければ、どうにもならない(p73)」と言及している。ソースとは働く環境を指し、肉は仕事そのものであろう。肉という仕事自体がまずければ、いかに働きやすい環境を作っても意味は少ない、ということと考えられる。

 仕事がいきがいになるにはなにが必要か、についても明快な指針を打ち出す。「働きがいを与えるには、仕事そのものに責任を持たせなければならない。そのためには、①生産的な仕事、②フィードバック情報、③継続学習が不可欠である(p74)」と。『もしドラ』にも引用された文章である。
  責任ある仕事をしてもらうには、仕事そのものが生産的であること、経過なり結果を知らせること、継続的に勉強できる制度なり環境が必要と指摘されている。これは、つぎの生産性の向上に直結している。
 職務設計の視点から指南された以下の一節は注目される。

 割り当てる仕事というものがある。個々のマネジャーに対し、組織や上司が設定する責任である。この貢献の責任が、職務規定に示したものを超えていることが、優れた成果をあげる者の印である(p134)。

 ここには、規定の範囲を超えることが成果に結びつく、という観点が示される。決まっていること、指示されたことしかやらないうちは成果が出ない、ということの裏返しといえようか。
 仕事を生きがいにつなげるには、人事もかなり重要といってよい。
 博士が「成果中心の精神を高く維持するには、配置、昇給、昇進、降級、解雇など人事に関わる意志決定こそ、最大の管理手段」と明言するように、人事の決定は、「組織のなかの人間に対して、マネジメントが本当に欲し、重視し、報いようとしているものが何であるかを知らせる(p147)」のである。

生産性の向上

 企業経営の指標のひとつは、生産性である。どの店、どの企業にとっても生産性をいかに上げるかが、マネジメントの大きな課題となる。
  では生産性とはなにを指すのかと聞かれると、私たちには、簡潔に答えにくいような気がする。が、博士はここでも、「生産性すなわち経営資源の活用の程度とその成果(p34)」と明確に答えている。
 さらに、その重要性をこうまで言い切る。「生産性の目標がなければ方向性を失う。コントロールもできなくなる(p34)」と。

 ではその生産性をいかにアップするか、といえば62ページに「四つのものが必要」と解説されている。それは

① 分析 仕事に必要な作業と手順と道具を知ること
② 総合 作業を集めプロセスとして編成すること
③ 管理 仕事のプロセスに、方向づけ、質と量、基準と例外といった管理手段を組み込むこと
④ 道具 

  ③の管理については、方向づけ、質と量、基準と例外の3つが管理手段としてあげられている。基本的にどういうスタンスで仕事に向き合うか、質と量のケースバイケーズの選び方、基準となることと例外の選択、これらのことを、マネジャーはよくつかんでマネジメントしなくてはならない、ということであろう。

次回につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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