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連載コラム

永遠の経営バイブル『マネジメント【エッセンシャル版】』をとことん学ぶ⑤

[ 2013年3月4日 ]

前回よりつづく)

マーケティング論

 本書のタイトルは「マネジメント」であるが、とはいえ、マーケティングに関する記述も、少なからず見受けられる。以下、ドラッカー博士のマーケティング論に触れていきたい。博士のマーケティング論を簡潔にまとめると、つぎのようになる(p16~17)。

 過去のマーケティングは、販売の全職能を遂行するに過ぎなかった。だがそれでは単なる販売である。「われわれの製品」からはじまって、「われわれの市場」を探しているだけになる。
 これに対し、本当のマーケティングは顧客からはじまる。つまり、お客さまにとっての現実と欲求、価値からスタートするのである。「われわれは何を売りたいか」でなく、「顧客は何を買いたいか」を問わねばならない。「われわれの製品やサービスにできることはこれとこれである」でなく、「顧客が価値ありとし、必要とし、求めている満足がこれである」というべきである。

 ふり返って身近な店を見ると、「顧客は何を買いたいか」よりも「われわれは何を売りたいか」がより目立つように感じられるのは、錯覚であろうか。
 もっとも、小売業で話題になりやすい店は、独創的な品揃えを誇る店が多く、一見「われわれは何を売りたいか」の店であるように見えなくもない。だが仮に、出発点こそそうであっても、それらの店は、お客さまのフィルターを通して、「顧客は何を買いたいか」に到達していると思われる。

 ところでつぎに掲げる一節は、マーケティングの特質をよく表している。ここには、なんと「世界の持ち上げ方」が説かれているのである。博士のマーケティング論を学ぶとき、とくに小売店の関係者は、この点を熟考したい。

古代の偉大な科学者アルキメデスは、「立つ場所を与えてくれれば世界を持ちあげてみせる」と言った。アルキメデスの言う「立つ場所」が、集中すべき分野である。集中することによって、初めて世界を持ちあげることができる(p29)。

「世界を持ち上げてみせる」というのは、不可能を可能にする、つまり奇跡を起こすということだろうか。「集中すべき分野」とは、小売りでいうなら、専門化とか特化を指すととらえられようが、そのコンセプトで、たしかに「世界を持ち上げる」ことができるかもしれない。ともあれ、世界を持ち上げられる場所、そここそが「集中すべき分野」というのである。ここではなによりも、世界を持ち上げることができるという、その確信に心が震えてしまう。
 あとマーケティング上の問題について、博士の刮目(かつもく)すべき見解を、3つ紹介しておきたい。

① 市場で目指すべきは、最大ではなく最適の地位である(p31)
② 新市場、とくに巨大な新市場では、供給企業が1社であるよりも複数のほうが、速く拡大する傾向となる(p30~31)。
③ 成長企業にとっては、消費者の欲求のなかで、「今日の財やサービスで満たされていない欲求は何か」という問いを発し、正しく答える力を持つことが、波に乗るだけの企業との差になる。「波に乗っているだけの企業は、波とともに衰退する(p27)」

 それぞれうなづけるが、ここでは、そういう博士の教えを、しっかりと受け止めておこうと思う。
 最後の文は、実践的な言及といえよう。「今日の財やサービスで満たされていない欲求」を最大限リストアップし、一つひとつ確認していくことで、新商品や事業機会を発見できる可能性は高まっていく。それにしても「波に乗っているだけの企業は、波とともに衰退する」という一節は、過酷な事実を示しているが、現実は現実として受け止めるしかない。

イノベーション論

 最後のテーマはイノベーションになる。イノベーションが必要にもかかわらず、それがあまり挑まれないのには理由がある。
 その理由について博士は、市場を支配して惰眠を貪ったり、自己満足で失敗したり、組織内で革新に対する抵抗が出てきたりで「外部の変化に対する適応が危険なまでに難しくなる(p30)」と述べ、怠慢、自己満足、抵抗勢力の存在などが問題と指摘している。

 この箇所を最初に読んだとき、こういう実例を何度目にしたことか、とつい寂しくなってしまった。それでも成功した企業なり店舗が、また同じ道を辿っていくのはどうしたわけだろう。ともあれ、そのような事情があるから、変革は不可欠になるのである。この変革の必要性を、博士はこうも語る。

成長は自動的には起こらない。事業の成功によって、自動的にもたらされるものではない。成長は不連続である。成長のためには、ある段階で自らを変えなければならない(p259)。

企業が存在しうるのは、成長する経済のみである。あるいは少なくとも、変化を当然とする経済においてのみである。そして企業こそ、この成長と変化のための機関である(p17)。

 ここでは、成長は不連続だから、成功したからといって、そのあと自動成長はしないこと、成長するには自分を変革しないといけないこと、そのうえで、企業こそ、この成長と変化のための機関であると、教示されている。
 ぼんやりと想ってはいても、言葉にできず、モヤモヤしていたものが、博士の歴然とした言明で明瞭になったことは、私にちょっとした開放感をもたらした。
 別のところで指南されている「新しいものは、常に小さなものから始まる(p240)」というフレーズも、補足として読むと印象的。イノベーションに挑もうとする人間に対する、ドラッカー博士の励ましのメッセージであろうか。

改めて問う。イノベーションとはなにか。博士はその意味を、以下のように書き留める。

イノベーションとは、科学や技術そのものではなく価値である。組織のなかではなく、組織の外にもたらす変化である。イノベーションの尺度は、外の世界への影響である。
(p266~267)。

 イノベーションは科学や技術の問題、という既成の概念がここで打破される。そのうえでイノベーションとは「組織の外にもたらす変化」であることが指南される。
 ではそのイノベーションの「種」には、どんなものがあるのか。これを博士は、多角的に検証する(p267~268)。それを5つにまとめてみた。

① すでに発生しているのに、その経済的な衝撃がまだ発生していない変化
② 最も重要な変化は人口構造の変化(最も確実な変化)
③ 知識の変化(確実ではないものの、イノベーションの機会にはなる)
④ 意識の変化、ビジョンの変化、期待の変化
⑤ 起業家が世界の動きそのものを変えようとする試み

 このうち⑤について、博士は「真に重要なイノベーションである」といい、このあとに「成功一件につき九九件の失敗がある」とも述べている。
 イノベーションの必要性はわかっていても、現実、しゃにむに取り組んでいるというところは、そう多くない。これには、前述した事情とは別の訳がありそうだ。

イノベーション(革新)の必要は、マネジメントについてのあらゆる文献が説いている。強調もしている。ところが、イノベーションを促進し方向づけ成果をあげさせるために、マネジメントや組織構造はいかにあるべきか、何をなすべきかについてはほとんど言及していない(p264)。

 重大な指摘である。
 つまり「イノベーションは、機能としてではなく事業として組織する必要がある(p271)」のであり、また「イノベーションのためのチームは、既存事業のための組織の外に独立してつくらなければならない(p272)」のである。

まとめ

 本書としての結論は、275~276ページに載っている。
 少なくとも、お店や企業のリーダー層は、ここもまた熟読玩味して、みずからの心に問わねばならないところだろう。自分は真のマネジメントをきちんとこなしているのか、と。 

 現場に身を置いてきた私にとり、本書を読むのは「救い」であった。
 だが時を経ていま再読するモチーフは、「確認と学習」になっている。現場時代に体得したことをこの本で改めて確認するとともに、新たに学ぶことも少なくなかった。今回の書評は、どちらかといえば、確認とともに学習に重きを置いたものになったのである。
 
 本書は何度読んでも、常に新しい、という思いを抱かされる。読むたびに、いつもなにかを学べ、汲み取れ、体得できる。さらにそれ以上に、呼び掛けられ、励まされ、勇気づけられもしている。
 ドラッカー博士の言のように、マネジメントはいまや企業だけのものではない。ありとあらゆる「組織」がマネジメントに取り組まないと、やっていけなくなりつつある。その意味で(これだけ支持されている本を、こと改めていうのも誠に口幅ったいが)、すべての人に、重ねて、初読みあるいは再読、再々読をお薦めしたい。心底から!

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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