日経メッセ > リテールテックJAPAN > 連載コラム > 新・お店のバイブル > すべての店長のバイブル――川崎進一著『新・店長の条件』(2)

連載コラム

すべての店長のバイブル――川崎進一著『新・店長の条件』(2)

[ 2013年5月1日 ]

前回よりつづく)

2 店長とはなにか

 店長の本である以上、最初に問われるのは、やはり「店長とはなにか」ということである。だがその前に、著者川崎進一氏は、第1章
「店長の役割と責任」で、「お店とはなにか」の話から議論をスタートさせる。店とはいったいなんなのか?  著者はまずつぎの言葉を引く。

店はお客のためにある(p12)。

 じつはこの言葉、著者が師事した商業界の主幹であった倉本長治氏のものであり、「思想の深さにおいて、よく比較される『消費者は王
様である』『消費者は常に正しい』という言葉よりも優れている(p13)」という。
 もっともこの表現、平易なだけにわかったつもりになりやすく、「店はお客のためにある」にもかかわらず、いつしか自分本位――「店は
自分のためにある」となっていることに気がつかない。そうならないためには、つぎの至言を胸に刻みたい。

 思想というものは、その人の日々の行動を規制するものである。本当に理解しているかどうかは、日々の行動の中にある(p14)。

 これは日頃の小売行動において、しっかりした思想の必要性を謳った一節といってよい。売場での日常的な対応は、顧客志向に立脚した
思想の裏づけがあって、はじめて生きることを示唆する文章である。このことは以下の見解によっても裏打ちされる。

 「お客のために」は、商人にとって自明の真理だが、ときには忘れがちである。物が不足すると、高く売って儲けようとする。商品を隠匿(いんとく)して小出しにして儲けようとするものもある。しかし、いつの時代においても成功した小売業の創業者たちは、正しい理念と、新しい経営理論をもって新しい時代を拓いてきた(p15)。
 

したがって「店長とはなにか」の議論も、この思想を前提に進められていく。

 店長にとって店とは何かということである。店長にとって店とは、お客の要望、期待、必要を満たすために、企業の持つあらゆる可能性を実現する場所でなければならないということである(p17)。

 このあと著者は、ヨークベニマル創業者、大高義雄氏の「利益とはお客様から頂く満足料である。それは目的ではなく結果である」というフレーズを紹介しながら、より詳しくこう言及する。

 店とは、理念や政策、技術によって生み出された可能性を実現する唯一の場所なのである。経営的な言い方をすれば、店とは、蓄積された可能性を利益として実現する唯一の場所である。店長とは、可能性の実現、利益実現のためにその役割を引き受けた人なのである(p18)。

で、まとめとして大事なことを言い添える。

 最後に重要なことは、小売業の最先端にあって、お客とじかに責任をもって接触できるのは、店長しかいないということであり、お客を直接観察でき、話もできて、その変化を知ることができることである(p19)。

ここには4つのことが指摘されている。

① 店長がいるのは小売業の最前線、つまり戦いの現場であること
② 店長はお客さまに対する責任者であること
③ 店長がお客さまをマーケティングできること
④ 店長はお客さまの変化をいち早く知れるし、知らなくてはならないこと

 ついで店長の役割が説かれる。店長はなにをなすべきか、ということだ。
 
 著者はここで10のおもな機能を指南する。はじめの「その地域における会社の代表」から、最後の「店舗利益計画達成の責任者」まで、総合的、統括的な店長の仕事について、詳細に解説されている。ここは基本中の基本であり、最初に精読すべき箇所となる。実際、いま店長であれば、これらが着実に理解できているか、また実現されているかを、みずからに問わねばなるまい。たとえひっそりとでも、である。

 さらにそのうえで、予算の遂行と経費の節減、労働生産性の向上など、7つ+アルファの重要な課題に触れている。ここも同様にしっかりと読み込みたい。ついで、時代に応じた店長機能をみたあと、第2章の「これからの新しい店長の役割とは」で、新しい役割に言い及んでいく。
 まず環境変化の意味が問われる。

 経営環境が変わるということは、これまでの経営の在り方、人の使い方、仕事の仕方も変わるものであるということが分かるには時間がかかる、少しでも成功している人間は、どうしても保守的になる(p39)。

「少しでも」にショックを受けた。店長は変わらねばならない。店長の変化対応力の必要性は、こう教示されている。

 店長に要求される能力は、数字で店の業績を判断でき、しかも数字という抽象的な表現を、なぜそうなっているのかを実務的に判断すると同時に、具体的に行動をどう変えるべきかという判断ができる能力である。言いかえれば、求められる数字を行動や作業に翻訳して部下に指示し、目標としての結果をつくるという能力を育成しなければならないということである(p40)。

 そのうえで店長の仕事が、顧客管理から事務管理まで12項目、指南される(p42~44)。これらのものが店長業務の柱になっていく。8番目に課題の管理があるが、この件は、取り上げられたとしても、なかなか実行されないテーマである。深く研究したい。

 時間管理の格好の例として、アメリカのスーパーマーケットと、専門店のストア・マネージャーの1日が紹介されている。こういう生の素材が駆使されていることが、本書の尽きない魅力のひとつであろう。
 スーパーマーケットと専門店のちがいにも触れる。

 専門店の場合は、どうしても店のマーチャンダイジング機能に重点が置かれるから、それに関する仕事を遂行しやすいように店長に評価基準を示し、教育・訓練するほうが効果的であろう(p56)。

 同じ小売店であっても、業種業態により運営方法が異なる面もある。したがってこの1日のスケジュール案内は、両方読んでおくにこしたことがない。

3 顧客に向き合う

第3章のテーマは顧客関係であり、店長は、自店の顧客とどう向き合うべきかが説かれている。
 顧客や地域に対し店長は、店と企業の代表であることに加え、信頼関係の作り方、顧客の心のつかみ方、苦情対策といったテーマが展開されている。
  
 店長が店と企業の代表なら、当然、店と企業が果たすべき経営理念を知らねばならない。著者はまずその理念についての考え方から迫る。アメリカのコンサルタント、トム・ピーターズの「組織の中で顧客問題を最優先させることが――あらゆる部で、あらゆる課で、あらゆる手続きで、あらゆる措置で、あらゆる会議で、そしてあらゆる決定で、何よりも優先的に扱うことが必要(p59)」という言葉を引用してこう述べる。

 彼の言いたいことは、店長は、組織を守る人ではなくて、顧客を支援する人であるべきであり、これまでの顧客関係を変革するチャンピオンでなければならないというものである(同)。

 さらにこう追う。

 ピーターズは経理部でも商品部でも開発部でも総務部でも、企業のいかなる部門でも〝自分の企業を守る〟ことだけを目的として存在すべきではない。お客の目で、そのために仕事をすべきだと言うのである。それは、利益のことばかり思いわずらっていると、いつの間にか理念を忘れ、必ずお客に迷惑をかけることになるからである(p59~60)。

 これからは、市場シェア、売上、利益だけでなく、「顧客対応を抜本的に改善(p60)」すること、つまり「〝市場の分け合い〟の思考形態から〝市場を創り出す〟という思考様へと転換しなければならない」ということが訴えられている。きわめて重要な教えといってよい。
 
 そして、無料クッキングスクールを開いたり、小中生徒の店舗見学を受け入れたり、高校生の1日店長に挑んだりする、アメリカのスーパーマーケットの例をあげながら、それらは経営理念の実現であると、つぎのようにコメントする。

 経営理念とは、企業経営に対して経営者が抱いている基本的な考え方、あるいは価値観、したがって、経営者の行動基準になるもので、それを部下にも行為として準拠すべきと示したのである。このような経営理念をもって、企業の将来を創造しようとしたときに、これをロマンというのである(p61~62)。

つづいて信頼関係を作りだす大切さが指南される。著者、川崎進一氏は、信頼感の生まれ方について、医師や教師を例にこう語る。

 患者なら誰でも病気のとき利害を離れてつくしてくれる医者には信頼感を持つではないか、生徒のためを思って真剣に教える教師には誰でも信頼感を持つではないか、それは、商人でもまったく同じことだ。そのような信頼関係を真剣に築き上げたとき、シアーズも、ペニーも伸びた(p66)。

ほんとにそうだなぁ、と思わされた。ここは、CS(顧客満足)で有名な百貨店、ノードストロームを例に議論が展開される。同店の8

つの特長、そして興味深いエピソードが披露される。このふたつの話は〝絶対必読〟といってかまわない。
 そしてサービスの本質が明らかにされる。

 サービスはお客の期待を超えなさい(p71)。
 サービスというのは、スマイル以上のものである。結局のところ、顧客との取り組みの姿勢であり、それを支えるのはシステムである (p67)。

 顧客の心のつかみ方では、南カルフォルニアのスーパーマーケット、アルバートソンの事例が生々しく紹介され、アンケート用紙(裏面はオーダー用紙)、リーフレット、店長への手紙の写真が掲載される。
 
 苦情対策では、苦情の種類、ルート、処理の要領などの要点が、簡潔にまとめられている。スタンスを表すつぎの方針が店の将来を決めていく。

 お客は自分に正当な理由があると思って苦情を言ってくる。しかし、どんな苦情でも、感謝し、それは店の繁栄のタネであると思って正当に評価し、分類し、整理し、店の仕事に反映させなければならない(p87)。

次回につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

バックナンバー

PAGE TOP