日経メッセ > リテールテックJAPAN > 連載コラム > 新・お店のバイブル > すべての店長のバイブル――川崎進一著『新・店長の条件』(3)

連載コラム

すべての店長のバイブル――川崎進一著『新・店長の条件』(3)

[ 2013年5月30日 ]

前回よりつづく)

3組織管理

現代は組織の時代である。
 いかなるグループ、団体も組織の問題から離れることはできない。これは小売店の経営においても同様だ。はじめはなんでも組織づくりからはじまるのである。しかしながら、組織の問題はつねに複雑といってよい。
 著者は、第4章で、組織の問題に本質論、中堅幹部(ミドル・マネジメント)論、労働生産性論という3つの観点から切り込む。この順序に沿って、本書の考えに当たっていこう。
はじめの段階で、組織の本質にかかわる、いくつかのテーマが論じられる。それは、組織の必要性、重要要件、成立要件、組織構成、組織変革の必要性、組織硬直化などの課題についてである。少しずつ触れて生きたい。
まずは組織の必要性。組織はなぜ必要なのか? 著者はこの根本問題をこう解く。

 人がある目的を達成するために、一人で何もかも行うには、仕事の量にも質にも限界があるので他人の援助を得て、他人と協働して仕事をする。すなわち、チームを編成して、仕事を分業して行うということが組織である(p96)。

 これで組織の意味合いは充分とも思われるが、著者はしっかりと組織の定義づけもしておく。

 一般に、組織とは、仕事の量や質の増加を前提として一定の目的を達成するために、意識的に協働する二人以上の人間の行動システムのことである(同)。

 著者は、この定義から組織の重要要件を7つ導き出す。協働の目的、意思を持った統一的行動、時間的な目標、構成員による自発的協力、構成員の自主的自己管理、統一行動のための規律、組織活動はコストというとらえ方だ(p97)。
つづいて述べられる、成員のモラル(協働精神)と能力、コミュニケーション、共通用語、統括者(マネジャー)、組織活動といった、経営組織の成立要件も押さえておかねばならない。



 ついで話題は、職位を核にした組織の構成に移る。職位は権限とそれに伴う責任からなり、権限には決定権、命令権、行為権の3つがあるという。店長の職位はというと「オペレーション・ラインという営業ラインに属している。現業部門の第一線のディレクターである(p98)」
 

 このあとで著者は、組織はつねに変革していかねばならないことを訴える。

 経営の環境は絶えず変わる。企業も成長する。環境の変化と企業の成長によって、ある時点をとると、環境の変化に対応しながら他方、将来への手を打つために、組織は絶えず自らを変革する必要がある(p100)。

 ここで注目したいのは、この背景に「ナイルズの法則」というものがあることだ。ナイルズの法則? それってなに、と思われる方がおいでかもしれない。このことはこう解説されている。

 組織は、成長とともに漸増的にマネジメント力を強化しなければならない。これをナイルズの法則という。中堅幹部の個人からみれば、より高度のマネジメント能力が要求されるのである(同)。

 この図表があるのでそちらをみると、タテには規模別にワンマン企業、小企業、中企業、大企業と4つの枠、ヨコに組織力・管理力、マーチャンダイジング力、営業力、財務能力、会計能力、保全・維持能力の6つの能力(機能)があり、規模別の重みが、総能力を100とした場合の数値として示されている(p102)。

 たとえば、ワンマン企業の組織力・管理力とマーチャンダイジング力が15と40に対して、大企業のそれは、ちょうど反対の40と15になっている。この事実は、大企業は、本部のマネジメントが、数多いお店のマーチャンダイジングを、強力にリードしなくてはならないことが示唆されている。そのほかにも、興味深いことがわかるので、この表はぜひご参照いただきたい。

 つぎに指摘される組織の硬直化の問題は、大いに重要なため、ちょっと深堀りしてみたい。102ページから103ページにかけて、あるビッグストアの例が示されているが、これがもう、なんともすさまじい。
予算の達成意欲のみ高い、自分の役割内ではよく働くなどに加え、従業員は接客やクリンリネスに関心が薄く、販売課長は店頭よりもデスクワークなどの後方作業に熱心、あるいは「チェックがほとんどないから、やったつもりでいる」といった現象がみられるのには、心底驚愕してしまう。この辺、ビッグストアでなくても、決して他人事ではない。

 ではどうすればいいのか、といえば、著者は「正しい組織」を作るしかないという。ではこの正しい組織とはなにか? 著者は、変化に対する弾力性をはじめ、組織成員への要求拡大による能力伸長など9つの特長をあげている(p104~105)。このなかに、自然に自己育成をさせる企業文化とか、年功序列でなく実力と働きと成果によるポスト配置、などがあることには心が引かれる。この箇所も深く読みこなしたいところ。

 ここで刮目(かつもく)すべき見解が明らかになる(p103~104)。
が、その前段として、ドラッカー博士のたとえ話――表面積と容積の増え方のちがいが紹介される。どんな物でも、表面積は直径の2乗倍、容積は3乗倍で増加する。つまり直径が2倍、3倍、4倍になると、容積は8倍、27倍、64倍と膨張するのに対し、表面積は4倍、9倍、16倍しか拡大しない。
 著者はこのたとえから、「組織体の規模と構造と顧客関係の間に密接な関係がある」との見方を導き出し、その意味を3つ記している。


① 規模が大きくなると管理主義に陥りやすい
② 規模には限界があり、それを超えると組織の生産性は低下し、組織が管理できなくなる
③ 規模の変化は連続的でなく、成長のある一定点で「純粋な質的変化」を起こさなくてはならない

 それぞれ、うすうすとは気づいていたが、こうはっきり断言されると、改めて愕然(がくぜん)としてしまう。これらのことは非常に重要なことなので、表面積と容積の増え方のちがいということもイメージしながら、心に留めておきたい。

 正しい組織に関連し、反対の「不良な組織」への言及もある(p105~107)。ここらも、よく読んで心当たりがないか点検したい。

 さてつぎは中堅幹部(ミドル・マネジメント)論。
なぜここでこのテーマが入ってくるかというと、もちろん店長が中堅幹部だからである。なおかつ、小売業にとどまらず、この中堅幹部こそが企業の現在と未来を、担っているからにほかならない。したがって、この点に問題があると企業は停滞するしかなくなってしまう。
企業の命運を左右するのは中堅幹部、ということを著者はこう語る。

 変革期における企業の新しい戦略や政策が確実に現場で実施されるかどうかは、信頼できる有能な人材を持つかどうかにかかっている。またその会社が良い社風(企業文化)を持っているかどうかも組織の中核になる中堅幹部の努力によるところが多い(p109)。


 で店長を含む中堅幹部が力を発揮するには、組織の法則を知るべきとし、企業は生物同様に生き物である(組織は前進すべき)、「混沌の時代」は「機会の時代」など、4点を教示している(p112~113)。

 ここでの議論は、変化への柔軟な対応を促す点にこそある。組織は一度、構築すると変えるのには、大きな決断が要る。だが「長い間業界のトップに立っていた企業でも、変化を見ず、自らを変えることをしなかった企業は衰退する(p113)」。成長しない企業は「澱む水は腐る」ように、組織に弛緩が起こるのだ。そこでよく顧客第一とか原点回帰とかいわれるが、それらは掛け声倒れになりやすいという。

 著者は、店長、中堅幹部がなぜ「本当に働こうとしないのか」と問題提起しつつ、「組織が硬直化してくる最大の理由は、中堅幹部のところにある(p114)」と結論づける。
 その理由として、希望ややる気がないこと、仕事がおもしろくないこと、それが組織内に伝播して業績がますます悪化していくこと(これらが負の連鎖になっていくこと)、トップと危機意識を共有していないことなどをあげている。
対策として「中堅幹部の深層部に向って刺激を与える」、つまり「意識を高め仕事に感動を与える」ことが提案されている(p115)。
 著者はそのことをこうまとめている。

 組織の硬直化の原因は、中堅幹部にあり、彼らの、いわゆる「やる気」喪失の中にある。その最大原因は、トップの企業観にある。従業員に対する考え方、人事政策の転換を示唆している。結論的にいうと、仕事を通しての自己実現型の人間をどう育成するかということである(同)。

 ついで紹介されているのは、ウォールマートの「サム・ウォルトンの法則」である。「社員にはできるだけすべてのことを知らせなさい。彼らは多くのことを知れば知るほど、よりよく理解し、より理解すればするほど、もっと関心を持つようになる」以下の言葉は太字になっている。この部分は組織の本質を喝破したものであり、熟読すべき一文となろう。

次回につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

バックナンバー

PAGE TOP