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すべての店長のバイブル――川崎進一著『新・店長の条件』(4)

[ 2013年7月9日 ]

前回よりつづく)

 さらに著者は、中堅幹部を動かすため、トップは3つの行動基準を示さねばならない、として以下のものを提示する(p117)。

① 商品政策やサービスに関する(価格や品質を含む)基準
② 達成されるべき数値基準
③ ローコスト・オペレーションの基準

 ②には、ROI(総資本対経常利益率)、ROE(自己資本対税引後純利益率)、損益分岐点、労働生産性、賃金分配率、商品回転率、各種経費率が例示されている。
 ここで「管理」や「理解」といったキーワードに関する手ほどきがある。店長は、言葉を適切にとらえることが、不可欠になってくる。
 著者によれば「管理」とは

今日の経営資産(人、金、物、知識、情報など)を最大限に活用して明日の投資のための利益を獲得すること(同)

であり、「理解」とは

 単に「分かった」ということではない。抽象的な指示、方針を現場に具体化して、期待された結果をつくること(同)

である。なおかつ「理解」については、「上からの抽象的な指示は、中堅幹部のところで具体的な作業に翻訳され作業化されなければならない(p118)」ともつけ加えられる。ともに、一般的な意味合いより、積極的かつ実践的、つまりクリエイティブにとらえられていることがわかる。
 中堅幹部は自己育成も欠かせない。自己を育成する、というその意味もまたクリエイティブである。

 自己育成というのは、単に、本を読み、すぐれた国内の他店舗を見学したり、海外店舗を見学し、調査、実験することだけではない。自分の与えられた権限と責任の範囲内でいかに貢献するかを調査し、実験するようなことも、自分の成長を育てる重要な方法である(p119)。
   組織論を締めくくるのは、労働生産性の議論である。  なぜこの話はここに登場するのか。それは124ページから125ページで打ち明けられている。
 店長がもっともコントロール可能な領域は売上げよりも、まず経費であり、ロスであり、在庫であり、品揃え計画であり、陳列であり、売場のクレンリネスであり、部下の管理である。 特にストア・オペレーションにとって最重要な課題は、営業利益の確保とともに、店の労働生産性の向上策である。少ない人数でそれを達成するということである。しかも、そのベースの上で、お客の満足を保証することができなければならない。

 その達成に向け、まずは営業利益の重要性が語られる。

店長の数値目標としては、まず単位店における営業利益の確保が目標である。店によっては単位店の利益を店段階利益と言っている。チェーンストアの場合は、本部費を賄う本部費配賦を経費に加える(p121~122)。
店長の具体的な活動としては、その会社が既に、潜在的に持っている営業利益の可能性を、現実に店で実現することでなければならない。バイヤーの仕入活動にしても、教育・訓練の効果にしても、また陳列や催事企画にしても、売場で現実に利益として転化されなければ、企業としての活動ではない。単なる趣味にしか過ぎなくなる(p122)。

 具体的でわかりやすい説明といえよう。
 この大切さを訴えたあと、算出の公式を分解し、ここからそのための対策5項目を提示していく。荒利益率の確保、従業員一人当たりの売場面積の拡大、坪効率の向上、在庫管理力の強化、労働生産性のアップである。
 そのつぎに解説される具体的アイディア12項目と合わせ、大いに研鑽したいところだ。
 
 対策のなかで、在庫管理に関する卓見をご案内しておきたい。店舗の大型化が進んでいるが、その考え方についてである。

(大型化した場合の)効率は、圧倒的な客数動員力と品揃え計画を基礎にした在庫管理力がポイントになる。食品のようなものは売場効率を高めるには複数の商品を売ることである。売場を回りやすくし、拡大して複数の商品の販売で在庫回転率を上げることである。ただ大型化しても、客数動員力(トラヒック・パワーという)は上がるわけではない。重要なポイントは部門構成であり、陳列技術である。この動員力がないと在庫は、過剰在庫になる恐れがある。したがって、重要なのは、在庫管理力だといってよい(p132)。
 さらにこう補足する。
店長は、常に可能性を持った若者である。今日の在庫管理に苦労すると同時に、この業界の将来の展望について勉強することを忘れてはならない。現在、やっているやり方もどんどん変わると考えるべきである。しかし、在庫管理の必要性は変わることはない(p133)。

 具体的アイディアの局面では、人手を掛けることと減らすことの区分、定型作業と非定型作業の区分などに、深い見識を感じさせられた。

4 能率的作業の仕組づくり

 組織のつぎの第5章は、作業の問題が取り上げられる。作業は日々の実務局面であり、店長にとっては非常に重要なテーマとなる。店長は作業を、いかに組み立て統括していくべきか。著者はていねいに順序だてて説明していく。
 改まって問うと、組織の活動とはなにか。それは仕事の分担による活動にほかならない。したがって店の組織のトップである店長は、オーケストラの指揮者のように、「全体の職務を統括し、店の目標を達成しなければならない(p138)」のである。

 店長は、この作業の改善にも取り組む。著者はその前提として、目標の明確化、経営トップ方針との合致につづき、「能率、効率、経済原則、ABC分析などの原則を知っていること」「たえず仕事上の課題をもっていること」「労働力としての人間の本質を知っていること」をあげているが、これらも大切な点であり精読が望まれる箇所だ。

 能率と効率のちがいについての言及もある。このふたつはどうちがうのか。皆様はどうお考えだろうか。著者は、前者が「目標を達成するためにできるだけ、手段、コスト、時間などをかけないで達成すること」なのに対し、後者は「手段が決まっているときは、それを最高の効果があるように生かすこと、すなわち、目的を最大にすること」と述べている(p140~142)。
 「労働力としての人間の本質」のところで、かのマグレガーのX理論、Y理論について「X理論は筋肉労働で働く者、Y理論は知的労働で働くものに応用する理論」とわけて把握していることも、ビックリしつつ勉強になった。

 ついで作業割り当ての話に変わる。
 ここではムリ・ムダ・ムラがないようにと、作業を合理的に編成することが重視される。そのための注意事項、改善の必要事項、考慮ポイント、割り当ての原則という4つの事柄が、箇条書きにより詳細に指南される。それぞれ、10、19、10、8という数の項目になる。

 本書は、店長はなにをなすべきかという、いわば哲学の書であるとともに実務の書である。だから具体的な行動指針ともいうべき教示が、箇条書きで豊富に掲載されており、これが〝売り〟のひとつにもなっている。あまたある図表と合わせ、これらの部分を、そこだけ読んでいくのも、本書攻略法のひとつだろうか。
 またこれらをただ読むのではなく、その前に自分で考えてから参照すると、勉強になること、このうえない。現在、店長の方、もしくは店長経験のある方は、ぜひとも試みていただきたい読み方である。

 作業割り当ての際、少し前であげた、注意事項、改善の必要事項、考慮ポイント、割り当ての原則という4テーマが重要になるのだが、とりわけ注意事項にある「効果から逆算して分解してみる」「動作の経済を忘れない」「効果の測定と記録を取る。改善点を発見する」などに目を引かれる。当たり前といえば当たり前の事柄かもしれない。とはいえ店長のとき、しっかりこれらに取り組んでいたかというと、私自身、少し心もとない気もしてくる。

 ところで、147ページ以降に、あの科学的管理法で著名なテイラーの、おもしろいエピソードが記述されていた。若いころ製鉄所の監督をやっていたテイラーは、約600人のシャベル作業の非能率を改善しようとした。作業改善の優れたモデルになるので、やや長くなるが、ここに引用しておきたい(p147~148)。

シャベルすくいの重さが何ポンドのときに、もっとも作業成績を上げることができるかについて課題をもち、標準型のシャベルと人夫を数人選んで、一すくいの重さをいろいろ変え、これを慎重に観察、記録し、標準化して一日の作業成績を分析した。(Plan=計画を立て)

すると、一すくい三八ポンドの場合には、一日二五トン、三四ポンドの場合には一日三〇トンという効率の違いが分かった。すなわち一すくいの重さを減らすことによって、一日の作業成績が上昇するが、一すくい二二ポンド以下になると、今度は逆に一日の作業成績が 下降することを発見したのである(Do=実行する)。
これは偉大な発見であり、能率化の法則の採用であった。そこで彼は、重い鉱石灰には小さい方のシャベルを、軽い灰には大きい方のシャベルを用いることを提案し、一すくいの重さをちょうど二二ポンドになるように工夫した。これは量の標準化である。そして、これに基づいて六〇〇人の人夫を合理的、計画的に働かせ、仕事の成果を二倍にすることができたのである(See=チェックする)。

 つぎのテーマ、割り当てられた作業を生きたものにする、マニュアル作りと教育・訓練の方法については割愛する。
 ただ、必要な枠組みと内容が、秀逸なまでに解説されており、必ず当たっていただきたいと思う。

次回につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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