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連載コラム

すべての店長のバイブル――川崎進一著『新・店長の条件』(6)

[ 2013年9月3日 ]

前回よりつづく)

8 売上と利益の対策

 第9章は、売上げ一辺倒から営業利益重視へ、収益性を高める陳列・演出のチェック、現場チェックは収益のかなめ、売上げ不振の原因をチェックして対策を立てよ、という4テーマからなる。
 話は結論からはじまる。

店長の最終成果の一つは目標売上高または予算売上高の達成である。もちろん、売上高は、会社の持つあらゆる可能性――店長の店舗内環境の整備、マーチャンダイジングの企画力、仕入力、価格設定政策、商品開発力、品揃計画、品質管理、立地条件、店舗規模、売場構成、陳列技術、接客技術、駐車場の広さなどの総合力の実現である。可能性があっても、それをフルに店舗で実現し、目標の売上高にするのは、チーム・メンバーの働きを統率している店長の力量である(p274)。

 で、売上に関する店長のおもな仕事が5つ示される。

① 店舗(売場)の原則の確保
② 陳列・演出のチェック
③ 売れない理由のチェック
④ 担当店舗の利益計画を立てる
⑤ 上司への提案

 ①は基本方針に関することと思われるが、これは売上の確保、伸長にとり最も大事なことであろう。つぎに売上一辺倒から営業利益重視の時代への流れを描く。
 「収益性を高める陳列・演出のチェック」では、その要点が列挙されている。詳細を究める内容なので、本書の284ページ以降でぜひ研鑽を積みたいところである。

 「現場チェックは収益のかなめ」は、「売上高の構造を知ること」と「売上げ不振をチェックする」のふたつの観点からなる。296ページの売上構造の体系図は、しっかり頭にたたきこんでおきたい。
 売上不振の6つのチェック項目は、どんな時代でも変わらないテーマである。日々、確認せねばならない。「売上げ不振の原因をチェックして対策を立てよ」は、いまの6項目につき、膨大なチェックポイントをあげたものだ。加えて、客単価が低下していないかと探るチェックテーマもあった。ご確認をいただきたい。

9 店の利益計画

 最後の10章は、利益計画に関するものである。店長の新しい地位と権限の拡大、損益分岐点の理論と計算の仕方、経費の削減法という3つの切り口から迫る。
 「店長の新しい地位と権限の拡大」の最初のページに

これからの小売業の戦いは第一線の店長のマネジメント能力で決まる(p316)

 というフレーズがみえる。胸に刻みつけたい一節だ。
 店長の職務と権限は、アメリカの小売企業を参考に語られている。具体的項目は317ページから320ページを当たってほしいが、このなかにこんなにも激しい文章があった。

欠品が出た場合、その欠品商品をライバル店へ買いに行ってでもお客に満足を保証する(p317)

 アメリカでのことだろうが、品切れさせてなんとも思わないお店があるなか、こういう考え方が厳存するのは、心強い限りである。
 さらに、店長ではないものの、つぎのような好例が紹介されている。
 ウォールマートの創業者、サム・ウォルトンは自分に店舗回りを義務づけていた。その際、店長にマネジメント上の計数を必ず聞くことで、店長の責任を感じさせていたのだ。

このように社長や地区長が店回りをして聞くことを、経営では課題管理というのである。責任を感じさせ、やる気を持たせる教育手法の一つである(p319)。

 本当に素晴らしいことと考える。
 私事ながら、コンサルタントとして、いつもこれと同じような提言をするが、もともと実践している経営者はつづけているにしても、そうでないトップはこの実施が難しい。ぜひこの例にならっていただきたく思う。
 ついで店長が知っておくべき計数となる。1日の時間帯別買上客数から、最後の月別売上予定比率と実績まで19項目ある(17番の粗利益ミックスの手法は、322ページの図表で、わかりやすくなっている)。19項目のなかでも、店長にとり重要なのが325ページに教示されている。
 それは

● 平均客単価
● 売れ筋と死に筋
● 労働生産性を見るための一人当たりの売上高
● 経費率
● 月別目標売上高
● 月別人件費比率
● 商品回転日数
● 今月の損益分岐点の日

 の8項目である。ここはとりわけ、深く研究しておく必要があろう。

 損益分岐点と経費削減についても、着実に受け止め勉強しよう。
 とくに経費の考え方はみっちりと読み込みたい。経費削減に関する基本的考え方から、経費は経営貢献度から分類する、金額の大きい費目に重点、隠れたコストを洗い出すまで、目からウロコが落ちるような指南がつづく。
 経費の関しての方針は、以下のような考え方に基づく。

成功した創業経営者の共通の条件は「ケチだが、生きた金の使い方をしている」ということである。生きた金の使い方ということは、ただ無茶苦茶にケチだというわけではない。むしろ必要だと思えば、相当巨額でも支出は惜しまないということである。「必要な」ということは、目標と判断基準を持っているということ、小売業であるからお客の満足の保証であり、それによる利益が重要である(p346)。

 加えて、ウォールマートの創業者、サム・ウォルトンの言葉、「競争相手よりもうまく経費をコントロールせよ(同)」や「必要な人材を獲得しようとする場合のキー・ポイントは、給料をはずむことだ。そのかわり報酬に見合う一〇〇%の努力を期待することだ(p348)」を引用しつつ、その徹底を提言する。
 経費は経営貢献度から分類すべきという考え方には、そうだ! と思わされた。知らなかったというよりは、長年のもやもやが解消される思いを持った。経費の性質から、投資的、消耗的、浪費的、労働節約的、転位可能、公的、その他とわけ、具体例をあげている(p353)。

 「隠れたコスト」という表現も意表をつく。
 「隠れたコスト」とはなにか。「コスト意識をもって注意深くみないと分からないコストのこと(p355)」である。ここから、お金だけの問題でなく時間も対象となる。すると当然、会議や部下の使い方も問題視される。部下が上司に相談するときの方法が、こう示されている。

問題を持ってくるのではなく、よく考えた上での解答や提案を持ってくるように教育しておけば、自分の時間を取られることはない。時間は節約できる。部下の教育にもなる(p356)。

 つぎに、経費削減のためのチェック項目が記されている。本部要因の固定費が全店売上の2%以内に収めること、各経費項目の3年間の増加率を売上の増加率と比較することなどは、ハッとさせられた。

 最後の最後に「店長への提言」が4つ掲げられている。

● 商品を売るより誠意を売れ
● やる気と勇気は数字で示せ
● すすんで学び、すすんで生かせ
● 今日やることは、明日に延ばすな

10 まとめ

 以前、この連載「新・お店のバイブル」で、同じ著者、川崎進一氏の『新・小売業経営の条件』(商業界)を紹介させていただいた。このことは先述しているが、本書『新・店長の条件』と合わせてお読みいただければ幸いである。今度の本とは、若干、内容が重なるが、ご寛容をお願いする次第である。

 この本は、通読するだけでは、まことにもったいないと思う。店長業務の専門書であるから、研究書のように腰をすえてじっくりでもいいし、手近に置いて事典やハンドブック代わりに読むのも効果的。もちろん特定のテーマを追いながら、大事な箇所に線を引き、そこだけ一気に読み通すのも効率的だ。
 だがこの書に関し私は、逆読み方や拾い読み法もおこなっている。一番後ろのページからさかのぼったり、パッと開いて目がいったところに当たったりする。ここで気になった文を思考してみるのだ。そうすると思いもよらなかったひらめきが生まれたりする。
 本書『新・店長の条件』は、ファッション系の某チェーン店で、現在でも研修のテキストになっているという。真に内容のある本は決して古びないのである。

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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