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連載コラム

ネットから店舗への送客に挑むO2Oの全貌――松浦由美子著『O2O 新・消費革命』(東洋経済新報社)(2)

[ 2013年10月30日 ]

前回からつづく)

3 なぜO2Oに挑むべきか

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 第1章は、代表的な事例やノウハウを通し、「なぜO2Oに挑むべきか」に迫る。その代表例が、冒頭で取り上げられているローソンの成功例である。

ローソンは、2012年4月、ソーシャルメディアFacebookのクーポンの仕組みを利用し、人気商品「からあげクン」半額券を先着30万人に配布した。開始後たった17時間で配り終えた。消費者がクーポンを取得すると、Facebook上の友人に共有・拡散されるため、あっという間に情報が広まったのだ。実際、6万個以上の「からあげクン」が売れた。さらに、7割以上の消費者が飲み物などの他の商品も合わせて購入した。店頭の売上アップに成功している(p2)。

 もうひとつ、驚くべき事例も合わせて紹介されている。
 それが「たった1週間で来場者約6万人超、売上高約8000万円という驚異的な数字をたたき出したイベント」――「日本全国すぐれモノ市――コロプラ物産展2012」である。当イベントは、位置情報ゲームの企業であるコロプラにより、東急百貨店吉祥寺店で、2012年5月31日から6月6日まで開催された。同社が運営する携帯位置情報ゲーム「コロニーな生活」と連動する提携店を、全国から結集した物産展であった。
 このイベントは、どうして大成功を収められたのか。「イベントでは、商品を購入すると限定カードを入手できるほか、ゲームのキャラクターにちなんだ特別商品を購入できる。一見子供だましに見えるこの仕掛けが、爆発的な効果を生んだ(p3)」という。

 これらの成功事例を著者はこう方向づける。

スマートフォン、位置情報、ソーシャルメディア、ゲームなど最新のキーテクノロジーを駆使し、ネットの世界から、リアルの世界へ消費者をいざなうマーケティング手法が、現在の消費冷え込みという長いトンネルを抜ける一筋の光明となっている(同)。

 この背景にあるソーシャルメディアとスマートフォンのうち、前者について消費者は、マスメディアによる一方的な広告宣伝だけでなく、ソーシャルメディアでの企業発信やそれとつながったファンの評価を参考にしているという。
 後者のスマートフォンに関し本書は、PCにない技術として、位置情報のほか、現実の映像に3Dコンテンツなどを投影するAR(拡張現実)とか、かざすだけで決済やデータのやり取りが可能になるNFC(近距離無線通信の国際規格)の技術に触れながら、ソーシャルメディアと「抜群の相性」があると言及している(p5~6)。
 ARとNFCというふたつのキーワードは、このあと何度か登場するので、記憶に留めておいてほしい。

 ついで新しい消費者像と、その生活シーンの一端が描かれる。こんな姿だ(p6~7)。

●最近、駅や街中でスマートフォンを片手に歩く若者が増えた
●スマートフォンの画面を友達と見せ合って盛り上がっている
●店の中で文字を打ったり、写真を撮ったりと、何やらせわしない

 そしてつづける。「2011年後半から、スマートフォンの本格的な普及とともに、街中で急増しているこれらの光景を見逃してはいけない。新しい消費者が台頭している兆候だ(p7)」と。

 ついで「彼らは、スマートフォンで強力に情報武装した消費者」として注意を促す。新しい消費者は「もはやテレビや雑誌などの情報に頼らない。代わりにスマートフォンのアプリを駆使する(p8)」と述べ、フェイスブックの例をあげる。それは、つぎのようなステップになる。

 友人の感想を見る
 ↓
 共感コメントを書く
 ↓
 店のリンクをクリックして詳細を確認する
 ↓
 スマートフォンで地図を検索する
 ↓
 ルートや周辺写真に加え画面映像にデジタル情報も映る
 ↓
 フェイスブックの「チェックイン」でクーポンを取得する
 ↓
 スマートフォンをかざして支払う
 ↓
 写真やコメントを投稿する
 ↓
 一瞬で拡散する
 ↓
 友人たちから共感が寄せられ、ともにお店に行く

 そして、これらの流れを「ARASL(アラスル)」とする、野村総研のとらえ方を紹介する。

野村総合研究所は、『知的資産創造』2012年2月号の中で、O2O時代の新しいマーケティングモデルを「ARASL(アラスル)」と名づけている。ARASLとは、「Attention‐認知」「Reach‐送客)」「Action‐購買・利用」「Share‐共有」「Loyal‐再利用」から成る(p10)。

 ここで著者は、ソーシャルメディアの魅力は「リアリティのある共感」だから「メール、ブログではありえないスピードと伝達範囲で、書き込みは拡散していく(p12~13)」と、これまでとは異なるコミュニケーションの形を明らかにしたうえで、「企業は、消費者へのアプローチそのものを根本的に見直すことを余儀なくされるだろう(p11)」と、新たな対応を呼び掛けている。
 ここでのキーワードは、スピード、伝達範囲、共感などであろうか。なおかつ著者は、時代が革命的に変わることを以下のように喝破している。

 現在は、そうした大量消費社会が解体され、ソーシャルメディアとスマートフォンにより、新しい消費社会が生まれようとしている。人と人の共感をベースにした新しい購買慣習が形成される。若い世代を中心に自分の情報をリアルタイムにオープンにし、時間の過ごし方、趣味・嗜好を広く共有し合うという新しいライフスタイル、価値観が形成されるようになっている(p14~15)。

 意味深い指摘である。したがって企業は、

1 ソーシャルメディアの特性を充分に理解する
2 消費者の心をガッチリつかむコミュニケーションをおこなう
3 企業価値を高める

という3つのことが必要になる、というのが著者の結論。
 では小売店は、ネットを店の成果に結びつけるため、O2Oビジネスを実施するに当たり、消費者にどういう価値を提供すればよいのだろうか。著者は7つの価値をあげている。それが

① クーポン、ポイントなどのお徳情報
② ソーシャルメディア上で伝えたい話題や感動
③ 特定の分野での商品・サービスの口コミ情報
④ 店頭での商品価格・在庫情報の事前確認
⑤ ゲームの仕掛けを利用した楽しみ
⑥ 出会いや交流
⑦ ギフト

である。ここは読みどころ、学びどころだ。詳しくは本書の16ページ以降に当たっていただきたい。

 このあとでは、ゲーミフィケーションとスタートアップ企業との関連が取り上げられる。ゲーミフィケーションとはゲーム化のことであり、ゲームを「ゲームではない分野への応用」を図ることで、知らず知らずのうちに利用者を熱中、没頭させ「気持ちや意欲を高め、楽しんで積極的に参加し続けてもらうこと」を目的とする(p24)。
 そしてこの応用が期待できる分野として、企業のイノベーション、マーケティング、顧客維持、教育、健康、社会貢献などを例示する。その仕組みとして、目標を設け達成したらポイント・アイテム・レベルアップなどの報酬を用意する、ゲーム上で店や街をつくるといったストーリーを取り入れる、利用者間のチームプレイ・対戦・競争で交流を深める、というようなものが案内されている(p25)。
 でこのゲーミフィケーションがO2Oと「実に相性がいい」という。「逆に言えば、O2Oビジネス拡大のカギとなる」

というのも今後、O2Oビジネスが成功するために、最終的に最も重要な課題となるのが、消費者を店舗に誘導した後、いかに再来店につなげてその店舗の「お得意様」になってもらうかということだろう。そうした消費者の「お気に入りの店舗」となるために、ゲーミフィケーションが注目されているのだ(p25~26)。

 その具体的な例として、店を訪れ一定条件を満たすと、ポイント・バッチ・称号をもらえたり、ある店でチェックインするとアプリ内で自由に配置できるその店の建物アイテムをゲットできたり、レシートのQRコードを読み取ると入手できる「鍵」アイテムで、チェックインの回数ごとに取得できる「宝箱」アイテムを開けられる、などがあげられている。
 詳細は24ページから28ページをご覧になっていただきたい。

 ところで、起業したばかりの「スタートアップ企業」がO2Oビジネスに取り組む例が増えているという。「IT革新による参入コストの低減」と「現実の世界のすべての商品がネットにつながる方向性で動いている」からである(p30)。ここで著者は、リーン・スタートアップという考え方を打ち出す。

ありとあらゆるリスクを想定して事業プランを作るという、大企業のような悠長なやり方では、新しいITビジネスは生み出しづらい。小規模でスタートし、市場の声を聞き、フィードバックを受けながらビジネスを修正していく「リーン・スタートアップ」という方法論が、注目されている。予測不能な世の中において、〝走りながら考える〟ことが、企業生き残りの有効な手段となっている(p31)。

ついで具体事例を紹介してからこう述べて、起業を目指す人たちを励ましている。

O2Oビジネスは起業を目指す人にとってひとつの「門戸」になりうる。その扉を開ければ、そこには広大なビジネスチャンスが広がっている可能性がある(p32)。

次回につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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