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連載コラム

ネットから店舗への送客に挑むO2Oの全貌――松浦由美子著『O2O 新・消費革命』(東洋経済新報社)(4)

[ 2014年1月6日 ]

前回からつづく)

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 つぎは「世界同時キャンペーン」。
 世界に進出した良品計画のO2Oビジネス。旅行商品を扱う良品計画の専門店「MUJI to GO」は、国内に加え世界の空港や国際ターミナルにもあるが、2012年夏、世界同時キャンペーンに挑戦した。

キャンペーンサイトでは、世界各国を巡るスゴロクゲームで、旅におすすめのMUJI to GOの厳選50アイテムや無印良品の各国店舗の情報を紹介。旅をモチーフにした、スーツケースなどに貼るステッカーがもらえるクーポンが全世界先着50万人に当たる(p52)。

 50万人! というところに世界的スケールを感じた。ここでは興味深い施策も紹介される。

ソーシャルゲーム「MUJI LIFE」もグローバルで展開。無印良品の商品アイテムを並べて自分好みの棚を作り、友達をシェアし合うことができるゲームだ(p53)。

「ブランド価値の向上」は、どの店にとっても重要なテーマになる。この点における良品計画のコンセプトは、明快としかいいようがない。良品計画のネットビジネスリーダーのコメントは、O2Oの本質をついて心に刺さる。

個々のお客様とコミュニケーションをとる。そうした積極的な姿勢がないのにO2Oと言っても進まない。そもそもの企業姿勢が大事。お客様の意見を聞く。お客様とモノづくりをする。近年は同じ考えを『店舗送客』の中で特に意識している(p54)。

 そして同じリーダーはこうも語る。

今は頻繁に買ってくれていても似たようなブランドが登場したらそちらに移ってしまうかもしれない。無印ブランドのコンセプトやどうしてこの商品を作っているか、を伝えたい。コンセプトや考え方への「共感」を作っていかなくてはいけない(p56)。

ソーシャルメディア活用の成功企業といわれる良品計画にして、この危機感である。

 ついで「デジタルサイネージ(電子看板)」
 良品計画では、店舗スタッフのO2Oへの理解と参加意識を高めるため、ツイッターと店頭のデジタルサイネージを連動する実験をおこなった。その際、

Twitter上のユーザーのコメントがリアルタイムに店頭のデジタルサイネージに表示されるようにした。店舗にいる顧客も、その場で自分のスマートフォンから参加できる。店頭スタッフも顧客への声掛けにつながる(p57)。

 このあとで言及される、店舗自体をメディアととらえる、未来型のデジタルサイネージも斬新といえる。ここはぜひ本書でご確認し、刺激にしていただきたいと思う。その姿こそ、ネットストアとリアル店舗で、相互に顧客を送り合う「オフライン・ツー・オンライン・ツー・オフライン(p58)」になるのかもしれない。

「ネットのリアル店舗化」も大切な課題である。
 現実の店には多くの商品が並んでいるため、お客さまからみると少し探しにくい面がなくもない(ネットストアに慣れた人だと、とくにそう感じるだろう)。
 その点、ネットストアは当然ながら1点1点の画像が並ぶ。同じことをリアル店舗でも実現できないか、という発想からネットのリアル店舗化(あるいは「リアル店舗のネットストア化」といってもいいだろうか)という構想が生まれた。「まるで1個1個の商品の展示をするショールームのような実店舗を作る(p58)」。これに店頭受け取りを組み合わせる。
 そのことを良品計画ではこう考える。

お客様がネットで注文や予約をして、来店する日を決めておく。店舗に行くと、レジの代わりに、巨大なお客様用の棚がある。「いつもありがとうございます」とチェックインしてもらい、商品をお渡しする(同)。

「巨大なお客様用の棚」にはどうしても目が引き寄せられた。
 さらにリアル店舗の強みをこのように話す。

今後も、リアルの店舗の体験はなくならないと思う。運動のために店に行く人もいれば、商品を見るのを楽しむ人もいる。店舗に行けば新たな発見がある。非日常がある。これがリアル店舗のよさ。だけど、店に行くというトリガーをどう作るのかということ。(p59)。

 そのなかでO2Oのようなデジタル施策も求められてくるのであるが、同時に考えなくてはならないことがある。かつては店舗も商品も顧客も増やせばよかった。だが「今やその戦略は通用しなくなっている(同)」。たしかに「O2Oという前に、お客様が関係を築きたい企業なのかどうかということ。関係を築きたくないという企業は生き残りが難しい(同)」といえよう。
 これは最後のキーワード、「エバンジェリスト」につながる。

お客様とコミュニケーションをとるのは手間がかかり大変。でもそこをやるのが無印良品らしさ。無印良品を好きと思ってくれるエバンジェリスト(自分が支持する製品などの良さを他人に伝えて広めようとする人)になってもらえるとうれしい。ソーシャルメディアやO2Oの積み重ね自体がひとつのブランディング、ひとつの差別化になる(p60)。

 良品計画のこのような構想に対し、著者はこう結ぶ。

無印良品にとって、O2Oはひとつの手段にすぎない。顧客との良好な関係をいかに築いていくか。そこに主眼がある(同)。

 第3章、第4章ともに読み応えがあるが、本書での深いご研究をお勧めし、第5章に進みたい。

5 ビッグデータとO2Oビジネス

 第5章のタイトルは「O2Oはこれからどうなるのか?」である。冒頭に掲げられている警句があった。

    データは新しい石油だ 

 これはアメリカのメディアで流れている言葉で、20世紀の石油に対し、21世紀のデジタル経済では、データが富の源泉になることを示している(p176)。
 O2Oビジネスの今後にとり重要な課題になるのが、超巨大データすなわちビッグデータの活用である。小売店にとってビッグデータとはなにか。どういうものがあるのだろうか。

ネットの検索履歴や閲覧履歴、ソーシャルメディアなどに投稿するコメントや写真、リアルの位置情報や行動履歴、そしてリアル店舗への来店履歴や購買情報。こうした生活や人生のデータ(ライフログ)は、ギガやテラの上の単位であるペタクラスの膨大なデータになっている(p177)。

 このようなデータをいかなるスタンスで生かせばよいのか。

多種多様な大規模データを収集・分析して自社の商品・サービスの向上に生かし、顧客満足度を上げる。いかに、自社の競争力の強化につなげ、最終的に利益につなげることができるか。こうしたビッグデータの活用は、今後はネットとリアルの融合したO2Oの世界にも決定的に重大な意味を持つ(同)。

 では各企業は、このビッグデータをO2Oビジネスにどう生かしているのか、これについて本書は、ネット企業、リアル企業、通信キャリアなどの例をみていく。

 ネット企業にとりO2Oの役割は、ネットでの認識、店舗送客、決済サービスなどである。一例をあげるなら、グーグルの機能には、「利用者の現在地やスケジュール情報、検索履歴などのデータから、利用者がそのとき必要とする情報を予測して、自動的に先回りしスマートフォンやタブレット端末に表示してくれる(p178)」ものがあり、そうなると「利用者はもはや〝自ら検索する必要すらない〟ということだ(同)」。街を歩いていると、当人にとりおもしろそうな近くの店や場所を、自動的に表示するという。

 広告も個人により最適化され「利用者にぴったりの役に立つ広告や要求する情報を正確に推測して素早く提供できるようになる(同)」。その結果「膨大なデータを広告のために有効に活用できれば、利用者、小売企業双方にとって、かつてない価値を提供できる(p179)」ことになる。
 さらにクーポンも細かく対応できていく。

O2Oビジネスでおなじみの割引クーポンなども、顧客ごとに差別化できるようになる。来店5回目の顧客にだけ特典クーポンを提供するなどといった、細かな顧客対応が可能になるのだ(同)。

 つぎは小売を含むリアル企業である。
 小売店がO2Oに取り組む目的は、来店促進、店間の相互送客、継続する優良顧客の拡大である。
 たとえば「週末にコーヒーを頻繁に購入する顧客に対しては、週末のコーヒー無料券を配信する(p180)」というように、顧客の購買履歴を分析し、個人に最適化したサービスを提供する日本マクドナルドホールディングスをはじめ、ローソン、セブン&アイ・ホールディングス、東急電鉄の例を紹介する。
 ローソンではポイント会員のデータから、年齢や性別など正確な属性ごとの購買情報がわかる。

特定の顧客の来店頻度や、どの商品を一緒に購入するか、1回買った商品をその後継続して購入しているか、なども追える。再来店につながるためのより効果的な販促施策が期待できる(p181)。

 セブン&アイ・ホールディングスは、ネットとリアルの融合を図り、「顧客ごとの細かい情報がグループ横断で分析できる」ようにしていく。同社は

コンビニで頻繁に買い物をするある顧客が、何に興味があり、何を買いに百貨店やスーパーに行き、いつファミレスで食事をするのかといった具合だ。販促や商品開発はもちろんリアル店舗の開発にも生かせる重要なデータとなる

とみているという(同)。

次回につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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