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連載コラム

ネットから店舗への送客に挑むO2Oの全貌――松浦由美子著『O2O 新・消費革命』(東洋経済新報社)(5)

[ 2014年2月3日 ]

前回からつづく)

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東急電鉄は街づくり事業の立場からO2Oに取り組むという。データの範囲が広く

利用者の属性や野外での行動履歴だけではなく、商業施設など屋内での利用者の位置情報や行動履歴を追跡・活用する(p181~182)

のが、その特長である。
 O2Oの主役、スマートフォンを提供する通信キャリアのところもおもしろい。ここでは

① ビッグデータのおもな収集はスマートフォンになること
② ソーシャルメディアへの投稿もスマートフォンが主流となること
③ モバイル決済が普及していくこと
④  ポイント管理やクーポン配信はスマートフォンでおこなわれるため、財布が不要な時代になること

などが記される。
 ネットのどの情報から店舗に行くことになったか、それを分析する必要がある、と述べられたあと、利用者と企業の関係についての本質的な議論があった。

利用者からライフログを受け取る以上の価値のあるサービスを提供し、アピールできるかが、企業がビッグデータを活用するうえでの重大なカギとなる(p184)。

 この点は、小売店も深刻なくらい検討しなくてはならないテーマであろう。
 ビッグデータ論の最後を締めくくるのは、その課題である。プライバシー、価値あるデータへの変換、分析専門家(データサイエンティスト)の養成などがあげられている。詳しくは、184ページから186ページまでをご参照いただきたい。

いよいよ大詰め、O2Oの未来像についてである。ここでは未来のO2O技術のもたらす消費体験がどんなものになるのか、これを展望するために最新の事例がレポートされる(p186~194)。

① 実験的取り組み「リアルいいね!」→店やイベント会場に置かれたリーダーに、専用のリストバンドをかざすと、自分のフェイスブックに「いいね!」が送信され拡散される
② 世界の誰かにコーラを無料サービスするキャンペーン→コカコーラの専用自動販売機にコーラとメッセージを送る(グーグルが自動翻訳)
③ フェイスブック上の「いいね!」を店舗の商品周辺パネルに表示
④ スマートフォンによるカード類の一元管理→ポイントカード、クレジットカード、ギフトカードなどだけでなく、会員証やクーポン券、飛行機搭乗券、映画チケットを含む

 うーん、そうなのかと納得させられる。
 つぎにスマートフォンさえ不要となる形も描かれる。腕時計やめがねのように身につけられる小型のコンピュータ(ウェアラブルコンピュータ)が登場すると、SF映画のようなシーンも可能性が高まりそうである。そのひとつ、話題になっているグーグルのウェアラブルコンピュータも取り上げられた。

AR機能付きのメガネ型コンピュータ端末をかけると、自動認識や音声操作等で、付近のリアル店舗の情報や、商品情報、友人の情報などがメガネのディスプレイ上に表示され、利用できるようになる(p194)。

 このような流れを受け、著者は195ページで、技術革新によるO2Oの未来をこんなふうに予測する(これらのなかには、本書の刊行から1年以上経過した現在、すでに実施・検討・報道されているものもある)。

① スマートフォン、ソーシャルメディアのさらなる普及を踏まえ、NFC、AR、モバイルウォレットなどの技術でネットとリアルの融合が進む
② ネットにつながった各種センサーが、店舗、街、施設に設置され、その情報をもとに、消費者の行動を先回りした情報やサービスが提供される
③ 顔パス決済や指紋認証などの「生体認証」から、新しいサービスが生まれる
④ 時計やメガネみたいに身につける端末がネットにつながる

 ついで著者は、O2Oビジネスが「新時代の消費革命」を開始させることを指摘する。

O2Oは、消費者にさまざまな新しい価値を提供することで、商品を購入、あるいはサービスを利用してもらう。従来の消費の置換えではなく、まったく新しい消費を生み出す可能性がある。ここが大きなポイントだ(p197)。

 この一文には、新しい価値の提供が「新しい消費を生み出す」ことが謳われている。「新しい消費」を担うのは「新しい消費者」である。では「新しい消費者」とは、どのようなスタイルを持っているのか。著者は語る。

信頼する友人・知人、同じような趣味・嗜好を持つ人とのつながりが、ネット上でリ    アルタイムに形作られる。ネット上のつながりが、商品やサービスの消費に大きな影響を与えるようになった。評判のよい商品・サービス・企業の情報は、より力強くソーシャルメディア上を駆け巡り、リアル店舗へ新たな客を呼び込む。消費者一人ひとりがメディアとなり、お互いにコミュニケーションをとる(p198~199)。

 このなかで、「消費者一人ひとりがメディア」というところが肝心要といっていい。
 つけ加えるなら、O2O拡大のカギに触れる、つぎの言及は原点回帰といえるかもしれない。

消費者やリアル企業が本当に求めるサービスを提供することが大切だ。そのためには、消費者、リアル店舗、現場の店員の気持ちを理解する必要がある(p201)。

 このあとの文章に出てくる「本当に価値あるもの」「ユーザーみんなで作っている感」「日々地道な企業回り」といったキーワードも、とらえ方の原点回帰を裏づけているように思われる。O2Oという注目トレンドの分析の底に、このような人間的観点が感じ取れるのは、決して偶然でない。
 本文の締めは――あえて割愛するが――熱く語り上げたこの本にふさわしく感動的といってよい。ぜひとも本書でご確認いただきたい。

6 むすび

 

 「おわりに」では、今回学んだことを再勉強しよう。
 まずは最も大事な原則を掲げる。

新しい消費体験を提供できる企業は、新しい消費者の心をつかみ、成長をし続ける(p203)。

そのうえで、改めてO2Oビジネスをこう位置づける。

クラウドコンピューティング、スマートフォン、ソーシャルメディア、ビッグデータ。今、起こっているテクノロジーの大潮流だ。その4つのテクノロジーの潮流がひとつに重なり合い、そこから生まれた新しいビジネスが、O2Oといえる(p204)。

そして結びの一言。

O2Oは、まだ黎明期だ。無限のチャンスが広がっているといえる。O2Oの未来に期待せずにはいられない(同)。

 本書はもちろんO2Oの成功事例を紹介したものである。
 とはいえ、単に事例を並べただけと考えてはならないと思う。いま先ほども触れたが、事例紹介の奥、文章の狭間からは、著者の熱烈な思いが伝わってきた。現実の厳しい小売状況をなんとか打開できないか、いやしなくてはという情熱が潜んでいるのだ。それは、小売業の未来、かつ人間社会の将来に期待する思いでもある。この思いこそが本書の「いのち」といえようか。
 明日の小売業を信じるすべての方々に、改めてこの1冊を推薦したい。

 なお次回からの紹介本は、同じ著者、松浦由美子氏の新刊、『O2O、ビッグデータでお客を呼び込め! ネットとリアル店舗連携の最前線』(平凡社新書)である。最近の動向をも取り入れたO2Oの入門書といえる。今回までの『O2O 新・消費革命』(東洋経済新報社)との併読をお勧めする。

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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