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連載コラム

O2Oの進化と店舗再生の道筋を示す――松浦由美子著『O2O、ビッグデータでお客を呼び込め! ネットとリアル店舗連携の最前線』 (平凡社新書) (3)

[ 2014年4月30日 ]

前回からつづく)

(2)スマポによるO2O施策

 LINEのつぎに、著者の筆は、ネットベンチャー企業であるスポットライト社のスマートフォンアプリ「スマポ」に進む。これは消費者が来店するだけでポイントがたまるというO2Oサービスである。小売業で導入が進んでいるというから、なんとしても紹介しないわけにはいかない。

同社が提供するスマートフォンアプリ「スマポ」は、消費者が参加企業のリアル店舗に〝来店するだけでポイントが貯まる〟というO2Oサービス。ポイントというわかりやすい動機づけで集客をします。13年10月時点で、会員数は数十万人。導入店舗は、大丸百貨店、ビックカメラ、ユナイテッドアローズ、マルイ、ファミリーマートなど、約90ブランド、約700店舗にまで拡大してきました。百貨店や家電量販店などの大型店だと月に1万人、年間十数万人来店する店舗もあるといいます(p79)。

 スポットライト社は、来店ポイントに加えその先もねらっている。ここで著者はO2Oのおおまかな流れを示す。

店舗・商品の認知

来店

購買促進

という3つのステップである。スマポはこの3つの連携を図るという。

スマポはO2Oの「認知」「来店」「購買」まで一気通貫でかかわります。そうなると、多くのO2O事業者がめざす、「ビッグデータ」を活用した〝いまだけ、ここだけ、あなただけ〟の、ワン・ツー・ワンの接客の実現が近づくのです。 もちろんユーザーの許諾をきちんと取ったうえでの話ですが、テレビやウェブメディアとの接触履歴、来店履歴、購買履歴などの行動ログをもとに、スマポ上で特別なクーポンやポイント優待、商品情報などを提供できるようになります(p81)。

 宣伝媒体が紙のチラシからスマートフォンなどに移りつつある現在、「いかに費用対効果を考えて集客するかが小売企業共通の課題(同)」となっている。スマポで集客できたところは、購買率のアップに挑む。具体的にいうなら、ネットサービスを駆使した接客の向上――新しい接客サービスの提供である。

スマポを使う消費者は来店すると、まずスマートフォンでスマポを立ち上げてポイントをもらいます。つまり、スマポは、来店したユーザーが最初に接触するメディアとなります。そこで、来店してスマポを見たときに、頻繁に買い物をする顧客に、「今日だけ、あなた限り半額ですよ」」「あなたにおすすめの商品はこれ」など、クーポン、割引などを提示することが可能になるといいます(p82)。

 どうだろうか。O2Oの世界が、徐々に広がっていく様には、どうしても「すごい(!)」と思わざるをえないが、いかがだろうか。
 このあと話題は購買との連携に移る。店頭の購買データとスマポの来店履歴をつなげる方法は3つ。

1 提携先店舗のID‐POS(顧客ID付POSデータ)との連携
2 決済(クレジットカード、電子マネーなど)との連携
3 クーポンの利用データの連携

である。
ではこれらをいかに実施するか。この興味深いことが86ページから89ページにかけて活写されているが、ここも必読部分となろう。

(3)tabによるO2O施策

 tabについては、小見出しに「伊勢丹が飛びついた最新型O2O 素人メディア『tab』の磁力」とあったため、これも見逃すことができなくなった。ではこのtabとはどんなものか(以下の引用文にある頓智ドット株式会社は、2014年1月22日、「株式会社tab」への社名変更を発表している)。

三越伊勢丹、六本木ヒルズ、東京ミッドタウンなど、いま、ファッション性の強い商業施設がこぞって注目する、次世代型O2Oサービスがあります。ベンチャー企業、頓智ドット株式会社が提供する「tab」です(p100)。

 そしてつづける。

同社のパートナー企業は、13年9月時点で約200社。冒頭の企業のほかに、三菱地所、高島屋、HIS、ビームス、シップス、東急ハンズなどそうそうたる企業が並んでいます。さらに、雑誌の「pen」(阪急コミュニケーションズ)、「GINZA」(マガジンハウス)、「DIME」(小学館)などのメディアまでもがtabを活用しています(同)。

 そのコンセプトは「〝行ってみたい〟を集めた、みんなの〝My雑誌〟」で、写真をベースとしたスポット(場所)共有サービスであるという。〝My雑誌〟とはなんだろうか、少し、というかだいぶ気になる。著者はこのように記す。

ライフスタイル雑誌、旅行雑誌、ファッション雑誌などの誌面で組まれる特集を思い起こしてください。「下町探訪」「世界遺産」「渋谷の夜カフェ」「30代女子の通勤スタイル」など。tabでは、そうしたテーマをユーザー一人ひとりが作れます。テーマごとに、〝行ってみたい〟〝食べてみたい〟〝買いに行きたい〟などのリアルの場所を集めて、自分の〝tab帳〟としてまとめます。自分の興味・関心、独自の目線やセンスで作れる〝My雑誌〟というわけです(p101)。

 〝My雑誌〟は公開されているため、他の人のも見ることができる。「他人のtab帳を見て、行きたい場所があったら、自分のtab帳に入れておけます。雑誌の気になるお店を切り抜いて、自分のスクラップ帳を作る感覚(p102)」と同じとのこと。そうか、なるほど・・・・・・。
 ではこれを伊勢丹はどう利用したのだろうか。

三越伊勢丹は、伊勢丹新宿店のtab帳を作り、店舗のイベント情報、商品情報を配信します。その情報がたまたま誰かの目にとまって、その人のtab帳に追加されます。さらにはフォローしてもらうことを狙います(p106)。

 うーん、そうだったのかとうならされた。
 このあと話題はプッシュ通知、攻めのショールーミングなど、興味をかきたてられる事柄に移っていくが、それらについては、本書104ページ以降でご確認いただきたい。

4 第3章「一歩先をいく先進企業は、O2Oをこう使いこなす」

 第3章の「一歩先をいく先進企業は、O2Oをこう使いこなす」は、ジーユー、コカ・コーラ、東急ハンズ3社の事例を追う。本書評は小売業が前提のため、コカ・コーラ以外の2社についてみていきたい。

(1)ジーユーのO2O施策

 ジーユーとは、ご存じのように、ファーストリテイリングが経営するユニクロの妹分で、20代女性をメインターゲットにしている。これがなんと「O2Oでは小売企業では代表格といえる存在(p119)」だという。

「ポケットにGU(ジーユー)を」。これが、ジーユーが推進するメディア戦略のコンセプト。ジーユーは、スマートフォンを中心に据えたO2O戦略を積極的に仕掛けています(中略)。 2012年3月にリリースした会員向けアプリのダウンロード数は、一部報道によると、320万件を超え、アプリを月1回以上起動する人、メールのプッシュ通知を希望する人がともに約80%、という驚きの水準です(同)。

 この成功の秘訣として、企業本位の発想ではいけないことが明かされる。
 著者は、ジーユーのダイレクト事業部リーダーの「企業側から一方的に情報を発信しても支持されません。企業の自己都合ではいけません。そこに気を遣い続けてきた結果が、利用率の高さに表れたのでしょう」というコメントを紹介しながら、以下のように述べる。

企業から一方的にクーポンや情報を配信するようなO2Oでは、メール通知も解除され、アプリも削除されてしまいます。友だちからのメールなら受け取るでしょうが、嫌いな人からのメールは受け取りたくないのとまったく同じことです。 ここにきてO2Oの事例は増えてきましたが、その多くは単発のイベントや実証実験です。ジーユーの特徴のひとつに、毎月連続してO2Oキャンペーンを実施し続けていることが挙げられます。参加者は毎回数十万人に上るといいます(p120)。

 ジーユーのO2Oはじつは毎月実施される。2013年おこなわれた施策が、たとえば1月はお正月おみくじキャンペーン、2月はバレンタインスクラッチというように、季節販売にも応用できている。参加者は各月とも40万人を超えたという(p122)。
 このあと成功の要因が、参加者に最新技術を意識させないこと、心から楽しんでくれたかの検証を数字からおこなうこと、みずからおもしろがること、それに徹底した顧客目線、店舗協力などの観点から分析される。

 たしかに「若い女の子を飽きさせない、前回キャンペーンを上回る体験を与え続けなければいけない(p123)」というのは楽ではないだろう。そのためにも、最初の「技術を見せつけない」のは大切と思われる。

実は、一連のキャンペーンは、スマートフォンの最新機能を駆使したものです。たとえば、叫んだ言葉を識別する「音声認識技術」、シェイクの回数を判別する「加速度センサー」、ロゴを認識する「AR技術」など。しかしジーユーは、消費者にはこうした最新技術を一切伝えず、意識すらさせません(同)。

 ついで、紙のチラシよりスマートフォンによるO2Oの優れている理由が、有効性、コスト、物理的制限、消費者の関与性などから明確にされている。
 
 ジーユーのO2O施策の決定版が「2013年春、街頭の人々を熱狂させ、ネット上でも大きな反響を呼んだイベント(p129)」、店頭のショーウインドーで繰り広げられた〝生着替え〟ファッションショーである。ここにO2Oのモデルケースとでもいうべきイベントがあったが、大事な点なので、こちらも詳細は本書に当たっていただきたい。

 それにしても驚くことばかりである。「店舗こそがブランド体験であり、最終的なファンを作る場(p134)」と語るジーユーは、徹底した顧客目線を貫き、最後は自社そのものをメディアとする。

一部報道によると、2013年11月時点で、ジーユーのモバイル会員は、アプリ、メルマガ、LINEを合わせて約900万人、短期的に1000万人をめざしているといいます。アプリの会員数、ソーシャルメディアのフォロワー数が増えれば増えるほど、それ自体が強力な自社メディアとなります。自社メディアの数が増えれば、コストを抑えた施策が幅広く展開できます(p135)。

 ジーユーのケース紹介の終わりで、著者は「O2Oは消費者が主導権を握る初めての消費革命(p136)」と喝破している。意義深いコメントといえよう。

次回につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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