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連載コラム

O2Oの進化と店舗再生の道筋を示す――松浦由美子著『O2O、ビッグデータでお客を呼び込め! ネットとリアル店舗連携の最前線』 (平凡社新書)(4)

[ 2014年6月2日 ]

前回からつづく)

(2)東急ハンズのO2O施策

 東急ハンズのO2O施策もまた独特といってよい。
 まずは仰天の在庫公開である。そのやり方は並でない。以下にその概要をみてみよう(p148~149)。

 2012年12月、東急ハンズはネットストアを大々的にリニューアルした。ネットストアの在庫情報に加え、リアル店舗の在庫も確認できるようにしたのである。消費者が、ネットストアで商品を検索すると、この情報とともに、現在、在庫がある店舗が一覧でつかめるようになった。ポイントは、データ更新の頻度であり、それはなんと15分に1度という。ほぼリアルタイムである。
 全国の店で売れた商品を、即座に表示する機能も追加した。ネットストアのトップページには、「今、コレ売れました!」と、レジを通過した商品画像が表示されていく。これもまた、ほぼリアルタイムで、各店舗のPOSシステムと連動しているとのこと。

「15分に一度」の更新というのは、驚愕以外のなにものでもない。これは「ネットとリアルのシームレス化(p149)」に沿ったものであり、「ネットとリアルでサービスを連携、統合し、顧客満足度を上げる戦略(同)」を考えているとのこと。

 出会いの演出、きめ細かな接客、コンサルティングセールスなどで店舗体験の提供を強みとする東急ハンズでは、その強みをO2Oに生かしている。「世の中のO2Oの主流であるクーポンなどの『お得感』ではなく、消費者の商品に関する『課題解決』や『ワクワク感』といった点に力を入れ(p150)」ているという。
 とはいえ難しいのは社内の理解や店舗の協力。ここで著者はこう述懐する。

多くの流通・小売業では、IT部門、リアル店舗の部門、広報などと、縦割りの組織となっています。O2Oのような横断的な施策を推進するうえで、そこが壁となりうまく前に進まない企業は多いようです。私も、ネット部門と店舗部門の摩擦を聞く場面は少なくありません。時には、組織間の軋轢(あつれき)にまで発展することもあります。(p153~154)。

 東急ハンズではそれがヴィレッジヴァンガードとの共同イベントがきっかけとなり、社内の風向きが変わったそうである。
 社内対策として、費用対効果の見える化、店舗への説明強化のほか、チラシの継続、自社内ショールーミング、そのショールーミングへの対策のひとつとして、店舗がきっかけとなりネットストアで購買された場合、売上をその店舗に〝つけ替え〟するやり方も組み込んだ。
 チラシ継続については、155ページにその背景が描かれている。

 こうしてみてくると、業種業態によりO2Oの使い方も異なってくると思われる。自社の強みを発揮できるように組み込むのが肝要といえようか。

5 第4章 O2O成功企業から学ぶ五つのポイント

 第4章「O2O成功企業から学ぶ五つのポイント」はわずか21ページしかない。
 にもかかわらず、本書中最も重要な章である。著者が渾身の力をふり絞って書いたことは、読んでいただければ誰でもわかるにちがいない。
 本章には、小売業といわず、サービス業といわず、飲食業といわず、店舗ビジネスであればその再生を願う著者の祈りにも似た思いが、まさにすみずみにまで潜んでいる。
 ここだけは一度、二度、三度、いや五度、六度と読み込んでいきたいものである。それもゆっくりと一行、一行をていねいに・・・・・・。
 したがってこの箇所の紹介は、冒頭で展開されている課題の一部を除き割愛とする。本に直接当たり、著者の願いを汲み取っていただきたい。
 ちなみに、章タイトルにある「五つのポイント」とはなにか。ここはひとつ自分なりに腕を組んで考え、もしくは想像してみて、それから本章に当たってはいかがだろうかと思う。

 成功ポイントの記述の前に、お店がO2Oを推進するための課題が3つあげられている。社内のO2O推進体制の確立、ショールーミング対策、ネット起業のO2Oサービスを利用した場合の顧客化である。
 第一の課題だけみても解決は容易でない。ネットストアとリアル店舗は縦割りの別組織、そのうえ情報システム、広告、販促、CRM(顧客関係管理)などの部署も異なるというところが多いが、O2Oはこのすべてにかかわっていく。

新しい消費者は、ネットとリアルをつねに行き来するようになっていますが、企業や店舗はまだ十分に連携がとれていません。そのため、O2Oのような横断型の施策を推進するうえでそこが障害となって難しいという課題があります。 特に、O2Oでは、店舗の方に理解、協力してもらうのが重要なのですが、そこがうまくいかないで悩んでいる企業が実はとても多いのです(p160)。

 著者の嘆息が聞こえてくるような一節である。
 他のふたつの課題も、微に入り細に入り具体的に書き込まれているが、ありがたいのはその突破策も、事例やヒントとして提示されていることだ。もっともその大前提が「徹底した真の消費者目線を持つこと。消費者を中心に置いて施策を考えること(p164)」であることもつけ加えられているのだが......。

6 第5章 「ビッグデータ」で融合するO2Oの世界

 第5章ではまずふたつのことが述べられる。「リアルメディア、リアル店舗がネット化されて、すべてのデータがビッグデータとしてつながっていく(p184)」ことと「進化するO2Oの世界では、リアルの世界がネット化される(同)」ことである。
そのうえで著者は以下のように書く。

大きな特徴として、三つあります。まずひとつが、従来のテレビ、雑誌、店頭のPOP、屋外広告などのリアルメディアがネット化していきます。二つ目に、リアル店舗もネット化が進みます。その結果、三つ目の現象として、将来的には、リアルとネットの消費者の行動履歴をすべて蓄積して分析する、いわゆるビッグデータの動きが進んでいくでしょう(p184~185)。

 ついで、リアルメディアのネット化、リアル店舗のネット化、ビッグデータ活用の進展、これらの一つひとつを詳述していく。
 はじめのリアルメディアのネット化は、目を覚まさせるテーマだ。たとえば、テレビ番組を視聴した人にネットで特典を与え、リアルの場所に集客するという流れである。

仕組みとしては、番組やCMのなかで音声情報を流し、視聴者が、スマートフォンのアプリなどでその情報を読み取ると、連動したコンテンツなどがスマートフォンに配信されます。視聴者は、テレビで詳しい情報を把握したうえで、クーポンやポイントなどの特典をスマートフォンで取得し、店舗などへ行きます(p187)。

 屋外広告のネット化も興味深い。
 この計画は、2013年10月、東急電鉄、東急百貨店、東急モールズデベロップメント、ソフトバンクギフト4社の協力で、東急線渋谷駅地下4階を、バーチャルショップ「SHIBUYA HALLOWEEN SELECT SHOP」に変貌させるものであった。消費者が、駅構内のポスターにNFC搭載スマートフォンをかざしてタッチすると、商品情報が閲覧でき、そのまま商品を購入できる。東急百貨店東横店や東急ハンズ渋谷店で使えるクーポンも取得可能。さらに、VASILYが運営するファッションコーディネートアプリ「iQON」とも連携したため、掲載商品のファッションコーディネート情報を参考にする仕掛けもあったという(p188)。

 つづけて「NFCタグを活用すれば、駅に貼られたポスターや店頭のPOPなどの紙メディアが、ネットへの入口に生まれ変わります(同)」とも言及しているから、店のPOP(店頭販促広告)の世界もだいぶ変貌することになるかもしれない。
 このリアルメディアのネット化は、オンラインに入るきっかけを作る以外に、3つの「新しい価値」を生むという。3つとはマーケティング上の効果であるが、それがなにかは読んでからのお楽しみ(p189ご参照)。

 つぎのリアル店舗のネット化であるが、以下の引用文にある「自分の人型アイコン」にはぶっ飛んだ。

館内のいたるところにWi-Fi端末が設置され、電波の強さを3点間で測量。精度の高い屋内位置計測を実現しました。来店者は、自分が現在、巨大施設の何階のどこにいるかをスマートフォンのアプリ上のフロアマップで確認できます。自分が歩くと、フロアマップ上の自分の人型アイコンが連動して動く仕組みです。自分の居場所から行きたい店舗まで、ルート案内します。店舗に近づいたタイミングで、クーポンなどのお知らせが自動的に配信されます(p190~191)。

 驚く間もなく、著者はこうまとめる。

リアル店舗のネット化によって、屋内位置計測、ルート案内、クーポンのプッシュ通知、来店ポイントなどが実現できます。これがうまくいけば、店舗内の顧客の行動を誘導できるようになるのです。さらに、従来は取得が難しかった、顧客が〝購買にいたる前〟の店舗内の行動をデータとして取得できるようになります(p191)。

 3つめのビッグデータ活用の進展については、流通企業、ネットメディア、大手広告代理店にとっての目的が吟味される。小売店はもちろんリアル店舗への来店促進と店舗間送客、優良顧客の確保だが、他のふたつ――ネットメディア、大手広告代理店も最後は店への来店を促すことで、メリットを獲得することが書き表されている(p192)。

 ネット広告の最新テクノロジーについても記される。「現在、ネット広告は進化しており、ユーザーの膨大なネットの閲覧履歴をつなげ、ネット上の広告をユーザー個人個人に最適化して出し分けています(p193)」として、「自動車の新車情報のサイトを見て買い替えを検討した後、いつも利用している地図サイトにアクセスすると、ファミリーカーのバナー広告が表示された(同)」例があげられる。とはいえ、ネットの履歴以外を含めてとらえようとする動きもあるらしい。

現在、ネット起業や広告代理店を中心にDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)という、消費者のネット上の閲覧履歴、ソーシャルメディア上のデータ、リアル店舗の持つ購買情報や顧客属性データなどをひとつのプラットフォームにまとめて、ネット広告や幅広いマーケティング活動に利用しようという動きが活発化しています(p193~194)。

 それで今後は店内や街に、消費者の行動をつかむセンサーとか計測機器が配備されるという。

位置情報を加えることで、消費者が現在いる場所に合わせて、ネット広告が最適化され、近くの店舗のおすすめクーポン、お得情報が、スマートフォンアプリにプッシュ配信されるようになります(p194)。

 ビッグデータの活用で「いまだけ、ここだけ、あなただけ(+あなたの友だちだけ)の世界(p196)」の情報が生まれる。注目すべきは、世界最大の検索企業であるGoogleという。

 Googleは、スマートフォンのOS、Androidで利用できるパーソナルアシスタントサービス「Google Now」を提供している。利用者が現在いる場所やスケジュール情報、検索履歴などのデータから、利用者がそのときに必要な情報を予測し、自動的にスマートフォンやタブレット端末に表示してくれるそうである。たとえば、移動している際、周辺のお店や興味深いスポットなどを自動的に表示しておすすめしてくれる。駅に着くと、つぎの電車の到着時間を知らせてくれる。
 Googleは、検索履歴、端末情報、メール、スケジュール、ソーシャルメディアなどGoogle利用者の情報を、同一利用者のものとして、サービス横断で共有できるようにしている。利用者の役に立つ広告や要求する情報を正確に推測し素早く提供できるようにしようという狙いである(p196~197)。

 行くところまで行き着いたと思っても、それもまた乗り越えられていく。O2Oの世界を著者・松浦由美子氏は、どこまで追究していくのだろうか。

次回につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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