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連載コラム

O2Oの進化と店舗再生の道筋を示す――松浦由美子著『O2O、ビッグデータでお客を呼び込め! ネットとリアル店舗連携の最前線』 (平凡社新書)(5)

[ 2014年6月24日 ]

前回からつづく)

7 第6章 O2Oプラットフォームを狙う電通、NTTの野望と「ビッグデータ」ビジネス

(1)電通のO2O施策

 ラスト、第6章「O2Oプラットフォームを狙う電通、NTTの野望と『ビッグデータ』ビジネス」では、O2Oの進化形――未来形が探られる。
 電通とNTTがねらうのは「マスメディアとO2Oの価値を掛け合わせた進化版(p202)」ではないかと、著者は、その象徴的シーンを概ねこう描き出す(p202~203)。

テレビに炭酸飲料のCMが流れている。それを知った視聴者のAさんは、すぐスマートフォンでスマポを立ち上げた。すると、CMが発信する、人には聞こえない音声信号をスマポが読み取って、ポイントがつく。
テレビで商品に興味を持ったAさんは、スーパーマーケットに行き、CMで見た炭酸飲料の特設売場に向かう。その売場でスマポのポイントがつくのに加え、CMを事前に見て来店したので、特典クーポンももらえる。
来店前、詳しい情報の確認のため、飲料メーカーのウェブページにアクセスすると、そこでも、スマポのポイントがもらえる。そのポイントは、店舗の商品券などと交換できる。

 ポイントだけでも、CMを見てポイント、メーカーサイトにアクセスしてポイント、特設売場でポイントと三段階でポイントがつき、最後は商品券に替えられる。なんという驚きの施策なのか、とためいきさえ出てしまう。
 ともあれ、電通が意図するのは一気通貫の仕組みらしい。

メディアに触れ、商品・サービスのブランド感、魅力、特徴、性能、価格などを十分に把握したうえで来店してもらい、店頭での購買率を高めるのが狙い。消費者の一連の行動ログを、スマポを活用して記録、追跡し、ポイントを付与する仕組みをクライアント企業に提供します(p204)。

 電通と提携するスポットライト社ではこう語っている。

スマポを使って、テレビCMの視聴や来店を記録できます。視聴者にはスマポのポイントを与えて、来店をもう一歩、後押しできます。店舗側にとっても、「認知」を担うマスメディア、「来店」が強みのスマポを組み合わせれば、来店客の拡大が狙えます。将来的には、来店した後の「購買」の部分で、企業の顧客データベースなどと連携していき、効果的な購買や再来店につなげるようにしていきます(p205)。

 電通はメーカーに対し、お店での棚取りに有効なO2O施策を、テレビCMとワンセットで提供することも考えている。

 たとえば飲料メーカーが、スーパーマーケットで自社製品の取扱いを増やしたいとき。通常、メーカーは「テレビCMをたくさん打つ」と交渉して、売場を確保する。それが、「当社の予算でスマポの仕組みを作るので、売場を設けてほしい」と働きかけられるようになるという。
 具体的には、飲料メーカーがスーパーの特設売場に、スマポの超音波を発信する装置を設置する。すると、先ほども触れたように、テレビCMを見て来店した消費者は、売場に来れば、ポイントや特典クーポンがもらえるようにできるのである(p207)。
 
 ビッグデータを消費者の購買により生かそうという構想もあるようだ。

現状、多くの小売店舗は、決済時に買い物客から会員カードを出してもらいます。ですが、その段階で過去の来店、購買履歴がわかっても遅い。本来は、入店時に来店や購買の履歴を把握し、接客に生かせなければ意味がありません(p211~212)。

 そしてスポットライト社の見解を披露する。

もし入店時、消費者のスマートフォンアプリに、その人だけの特別セールの案内を出せば、買ってくれるかもしれません。あるいは、ITを使って店頭や販売員側をより情報武装させる必要があるかもしれません(p212)。

 そのうえで「マスメディアとO2Oのタッグにより、広告・販促領域は、確実に新たなステージに入ろうとしています(同)」と総括している。

(2)NTTのO2O事業

 最後のテーマは、NTTグループのO2O事業である。NTTはこれに総力をあげているという。

2012年10月、NTTグループが総力を挙げて、O2Oに乗り出しました。阪急阪神グループ、博報堂と協同でモバイル会員向けO2Oサービス「SMART STACIA(スマート スタシア)」を始めたのです。同時に、12年10月から13年7月までの期間限定で、会員を対象とした大規模O2O実証実験を西日本最大級の商業施設「阪急西宮ガーデンズ」で行いました(p212~213)。

 これもすごい!としかいいようがない。訪れた消費者にはこんなふうにメリットが多い。それらのメリットをステップで表すと

○ スマートフォンで「阪急西宮ガーデンズアプリ」を立ち上げる

○ モール全域でWi-Fi環境の高速インターネット通信が無料で利用できる

○ Wi-Fi端末の電波は屋内位置計測にも利用できる

○ 館内地図上の自分の人型アイコンが、お目当ての店までルート案内してくれる

○ お気に入りの店に近づいたタイミングで、クーポンなどの知らせが自動で届く

○ クーポンは各店頭で、NFC搭載のスマートフォンをかざして受け取る

○ スタンプカードもアプリで管理しており、従来のように持ち歩く必要はない

○ 館内12箇所に設けられた専用端末に、NFC搭載のスマートフォンをかざすと、来館ポイントをもらえる

○ NFCタグを埋め込んだ店舗ポスターにスマートフォンをかざすと、店ごとの情報にアクセスできる

○ レストランに予約を入れておくと、自動的に連絡が入る

○ 駐車場入り口の地図で、車を止めた場所にスマートフォンをかざすと、アプリにその位置を記録できる

となる。
 どうであろうか。このようなら、なんとしても行きたくなるなぁという感慨に襲われてしまうのではないか。
 大阪・梅田の商業施設「阪急三番街」「HEP FIVE(ヘップ・ファイブ)」などの実験では、画像共有SNS「Pinterest(ピンタレスト)のような写真共有アプリ「ウメダ・スタイルクリップ」を提供した。このアプリにより、つぎのことができるようになった。

来店者と店員は、自分の好きな商品、おすすめ商品などの写真を投稿してアルバムのように一覧にし、共有できます。来店者と店員はお互いにコメントし合い、コミュニケーションをとることもできます。 このアプリは利用すればするほど、自分の好みや関心に合った写真が自動的に優先して表示されるようになってくる仕掛けを取りました。ここにはビッグデータ分析が活用されています(p215~216)。

 NTTグループはビッグデータの活用を本気で考えているそうだ。ビッグデータを使った場合と使わなかった場合のちがいを検証するとのこと(p218)。
 「ビッグデータをいかにマーケッターに意味がある形に可視化できるか(p219)」という視点も重要と思われる。
 NTTは語る。

ビッグデータを有効活用できれば、アプリを使っていくうちに自分好みの商品写真が目に入ってくるとか、おすすめ情報も自分の趣味・嗜好、興味・関心に合ったものが来たりするようになります。そうなってくると本当に価値が出てくると思います 。お客様が使っていて「気持ちいいな」と思ってもらえるか。そのあたりが大きなチャレンジ(p219)。

 著者はそれをこう引き継いでいう。

クーポンを配信するO2Oサービスが、ビッグデータで一歩先へ進化します。消費者が本当に喜ぶ情報を、心地よいタイミングで送れるかどうかが成功のカギを握ります(同)。

まとめ

 「おわりに」では本書の内容が、企業と消費者、技術とビッグデータ、各々の側面からまとめられる。そこでは本文で最も強調された「徹底した顧客目線」が重要ということが改めて語られ、「O2Oの普及は、一般消費者、店舗にいかに大きな価値を提供できるか、使ってもらえるかという点につきる(p226)」と訴えられる。

 そして最終のまとめ文。

ネットを活用することで、新しい消費者の心をつかみ、顧客満足度を上げ、消費者に選ばれる企業、店舗になる。21世紀、O2Oの大きな波から企業は逃れられないでしょう。企業が生き残るために現状を直視し、新しい取り組みに挑戦していただきたいと願っています(同)。

 くり返しになるが、業種業態により、O2Oとしておこなうべき施策も変わるだろう。そこも大きな研究課題となる。ともあれ、一日でも速く取り組むことにより、苦境を脱皮して欲しいというのが、ほかならぬ著者の願いにちがいない。 

 最後の最後に、もう一度、本連載①にある41ページの図を見てみよう。
 ここには、O2Oの提案をとおして、店舗ビジネスの再構築を促そうという意図が感じ取れる。いっそ書名は「お店のためのO2O入門書」でも行けそうなほど、店舗への配慮が行き届いているのである。
 O2Oの世界から目が離せない。とはいえ、その進化を、迅速に、同時並行的に、体系的に、かつ有効につかむには、現況を知るための存在――キーとなる人物が欠かせない。だから、このフィールドを徹底追究する著者、松浦由美子氏の描く世界から一瞬たりとも目が離せないのも、当然の話といっていい。
 今後のさらなる活躍を期待したい。

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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