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連載コラム

リーダーシップはアートである――マックス・デプリー著『響き合うリーダーシップ』 (海と月社)(2)

[ 2014年9月1日 ]

前回よりつづく)

3 リーダーシップはアートである

 本書のメインテーマ、リーダーシップについて著者は、「はじめに」で早くも結論を出している。それはつぎのようなものである。

リーダーシップは「アート」だ。時間をかけて身につけるものであり、たんに本を読んで学ぶものではない。リーダーシップは科学というより伝承であり、情報の蓄積というより関係の構築なので、その意味では、私はそのすべてを明らかにする方法を知らない(p28)。

 リーダーシップは「たんに本を読んで学ぶものではない」点に共感、「時間をかけて身につけるもの」に身を引き締め、「科学というより伝承」という考え方に正座してしまう。
 それはとにかく、この一節を読むものは、誰しも「リーダーシップはアート」という言葉に驚くであろう。ここでいう「アート」とはいったいなんだろうか?
 この件に関し、本書の「改訂版序文」のつぎに収められた「本書に寄せて 理想を現実に変えた会社」という文章で、ジェームズ・オトゥール氏がこう述べている。

リーダーシップの「アート」[訳注:技(わざ)、技術、芸術]とは、「人々を解き放ち、もっとも効率よく人間味のある方法で働いてもらう」ことだ。部下の仕事の障害を取り除くという意味で、リーダーは「奉仕する者」だ。要するに、真のリーダーは部下の潜在能力を最大限まで引き出す(p18)。

 アートの訳注として、ここに「技(わざ)、技術、芸術」とていねいに3つ載せられていることは注目される。このことから勝手に類推すると、訳者は著者がいう「アート」を、ヒューマンな「技(わざ)」、テクニカルとしての「技術」、人と人が織り成してつくりあげる「芸術」という、3つの融合体としてとらえたものと思われる。リーダーシップを、人間性と技術性だけでなく、芸術性も加味し複合的、統合的に押さえたのである。

4 ある親方の死

 本文に入る。
 本文は、1章の「ある親方の死」から、マネジメントについての考察が深められていく。
「工場の操業全体を担うキーパーソン」である親方が亡くなった。弔問に自宅を訪ねたところ、なんと、親方は美しい詩をつくる詩人であることがわかった。そのことは、じつはあまり知られていなかった。
 この話から著者は導き出す。リーダーは一人ひとりの才能、力量、スキルの多様性、つまり人間の個性、多様性といったものを認めなくてはいけない、と。

 この辺を読むと、一人ひとりの人間を愛することが大事、といっているようにも聞こえてくる。リーダーシップのアートとは、個々の才能を「磨き、解き放ち、発揮させること(p35)」という。ここでは才能、能力といったものを、研摩、開放、発揮という3つの観点から生かすべきことが説かれている。
 リーダーが才能の多様性を生かすと、果たしてどうなるか。著者は説く。

リーダーに多様性への理解と受容があれば、社員一人ひとりが、自分は大切にされていると感じることができる(p33)。

 その結果、社員は

① 職場で機会や平等やアイデンティティを求められていることがわかる
② 仕事に意味、充実感、目的を見出すことができる
③ 目標と報酬が根本的に異なることを理解するのに役立つ
 
というようになる(p34)。これらのことには「リーダーシップで大切なのは、優秀な頭脳ではなく、全身のたたずまい(p38)」という認識も関係しているはずである。 

 ではそのリーダーはどう成長するのか。

リーダーは、まず最初に現実を明らかにしなければならない。そして最後にありがとうと言わなければならない。その間、リーダーは部下に奉仕し、部下に借りをつくる。すぐれたリーダーはこうして成長する(p38)。

 はじめに状況を明示し、終わりに感謝の意を表明する。このプロセスにおいて、部下のために尽くし、「借り」をつくることでリーダーは成長するという。思い起こすと、逆の例は多くても、このとおりのことはあまり目にしない。その意味からも、ここで展開されているのが、卓越したリーダー成長論であることがわかってくる。
 ところで、あるリーダーが優れたリーダーシップの持ち主かどうか、それはなかなかつかめるものではない。この点は悩むべき問題となる。できるなら「しるし」とかないのであろうか。本書によると、それがあるのだという。

すぐれたリーダーシップのしるしは、まず部下に現れる。部下は潜在能力をフルに発揮しているか。学んでいるか。人に奉仕しているか。求められた成果を出しているか。品位を保って変化しているか。争いにうまく対処しているか(同)。

 つまり部下が優秀ならリーダーも優秀である、ということだ。たしかに「部下」がこのように素晴らしいのなら、優れたリーダーシップといえるにちがいない。それにしてもこの箇所を読むと「部下の仕事をみるポイントはこんなにあったんだ。自分はこれほど深く把握できるだろうか」とついつい思ってしまう......。

 つぎに、リーダーシップのアートを身につけるには、どうすればよいのかが問われる。その答として、なにより著者は、リーダーを「世話役」として考えるべきと記す(p39)。この点も独創的である。「世話役」を具体的にいうと、「資産と遺産、推進力と効果、礼節と価値観」になるとのこと(p39~48)。いわばこのフィールドは、リーダーが「世話役」としてなにをなすべきか、という各論の領域である。
 以降しばらく、これらのテーマに触れていきたい。

● 資産と遺産
資産と遺産に関する事柄はつぎのとおりである(以下のテーマも同様に列挙する)。

財務状態 
従業員
 組織の価値観(価値体系)
 質への意識
 心の関係をつくる
 成熟した人間性
 筋道を通す
 「場」の提供

 資産はむろん財務の観点からはじまるのだが、それだけでなく、このフィールドには従業員(人)、組織の価値観(価値体系)、未来のリーダー(の育成)、質に対する意識、心の関係、リーダーの成熟した人間性、筋道を通す姿勢、ビジネス・リテラシー、才能を生かせる「場」の提供なども入ってくるという。資産と遺産のつかまえ方が、なんと幅広いのだろうと、驚きかつ同感を覚えた。
 一つひとつのどれもが、あまりにも重要なテーマになる。このなかから、質に対する意識、心の関係、筋道を通す姿勢について要の文章を引用しておきたい。
 はじめは「質に対する意識」である。

リーダーは組織内で「質」に対する意識を高め、さまざまな影響や変化への対処法を明らかにしなければならない。すぐれたリーダーは反対意見を奨励する。それが重要な活力源となるからだ。そうしてリーダーは組織の基礎を固め、組織の存続を意識し、組織文化を築く(p41)。

 ここでは、濃密な内容がやさしい言葉で語られている。「変化への対処法」を確立するために「リーダーは反対意見を奨励する」。それは「重要な活力源」となり、このことが「組織の基礎を固め、組織の存続を意識し、組織文化を築く」ことにつながる。なんという驚異的な哲学であろうか。
 ついで「心の関係」

リーダーは組織内に「心の関係」をつくらなければならない。組織は結局、人の集まりだ。思いやりがあり、目的を持ち、熱意のある人が組織のなかでどうなりうるか。リーダーは彼らを正しく評価する新しい基準を示さなければならない(同)。

「思い重視」という価値観を構築し、そこから新しい評価基準をつくるという意欲が示される。そして「筋道を通す姿勢」が語られる。

リーダーは筋道を通さなければならない。それによって企画や人間関係に理由や共通の理解が生まれる。筋道を通せば、秩序ができる。秩序のあるところでしか、人々のすぐれた面や熱意や能力は引き出せない。秩序だった環境では、信頼と人の尊厳が重んじられ、組織の目標を達成しようとする人々に自己啓発と自己実現の機会が与えられる(p42)。

 3つめの引用文を読むと、経営の思想がなんときらめいているのだろうと感じ入った。とはいえわかりやすくフローで表すとこうなるだろうか。

筋道

秩序

理解

人間力の発揮

自己実現

組織目標の達成

次回につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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