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連載コラム

リーダーシップはアートである――マックス・デプリー著『響き合うリーダーシップ』 (海と月社)(3)

[ 2014年9月30日 ]

前回よりつづく)

● 推進力


 ビジョン
 戦略
 方針・計画

 つぎに推進力。
 推進力のもとになるのは、明確なビジョン、周到な戦略、そして「慎重に考えられ、従業員に伝えられた」方針や計画――この3つのことという。推進というのは、ただやみくもに押せばよいのではなく、ビジョン→戦略→方針・計画という流れで実施すべき、との画期的な考え方になる。

 ではどういう状況でなら、その推進力が高まるのか。これについては3つの事柄が述べられている。

すぐれた才能、たぐいまれな才能を持つ人々が、適切で柔軟な研究開発プログラムを進めるかどうかで、推進力はちがってくる。また、マーケティングやセールス部門に、積極的でプロ意識が強く、やる気のある人が集まっていると推進力が生まれる。業務部門の社員が、最高の手段、設備、サービスを提供していると顧客に思ってもらえるときもそうだ(p44)。

 この3つの事柄が自社ではどうなっているのか、具体的なイメージを思い浮かべながら読み込んでいきたい。
 つづいて「これら多くの活動の基礎として欠かせないのが、財務部門の役割だ。彼らは財務上の指針と必要な数値を与える(p45)」と述べ、財務部門の役割を重視する姿勢を示す。

● 効果


 潜在能力の発揮
 遊軍リーダーシップの奨励

 つぎのテーマ、効果について著者はこう述べる。

効果については多くの著作がある――なかでもすぐれているのは、ピーター・ドラッカーによるものだ。彼には概念を簡潔に表現するすばらしい能力がある。たとえば、こう述べている――効率性(エフィシエンシー)とは正しくおこなうことだが、効果(イフェクティヴネス)とは正しいことをすることだ(p45)。

 そのうえで言及する。「リーダーは『効率性』は人にまかせてもいいが、『効果』にはみずから取り組まなければならない」と。なるほどと思わされる。
 このあと、効果を上げるために、潜在能力の発揮と遊軍リーダーシップの奨励の2点を強調する。ともに非常に重要と考えられる。とくに遊軍リーダーシップのテーマは、本リーダーシップ論の特長にほかならない。
 遊軍リーダーとはなにか?
 著者はいう。

遊軍リーダーとは、日常生活のなかで必要とされるときにその場にいる、欠くことのできない人々のことだ。彼らは日々多くの組織で、程度こそさまざまだが、主導権を握っている(p84)

と。「主導権を握っている」「欠くことのできない人々」とあることから、状況を主導的にリードし、事態を解決に導く人たちのことと考えられる。
 著者によればリーダーには2種類ある。ヒエラルキー上のリーダーと遊軍リーダーである。このことを教示しつつ、こう語り上げる。

特別な状況においては、ヒエラルキー上のリーダーが遊軍リーダーを認め、サポートし、その指示にしたがわなければならない。また、潔く遊軍リーダーに主導権を譲らなければならない(p85)。

 これはかなり難しい問題となろう。しかしその心は、「遊軍リーダーシップは『問題』に焦点を当てた考え方だ(同)」と明かされる。つまりこれは、「問題」の解決を重んずるスタンスといってよい。
 ではヒエラルキー上のリーダーは、このことをどうとらえるべきなのか、そのややこしい側面について、著者はこう指南する。

遊軍リーダーシップが発揮されるということは、ヒエラルキー上のリーダーに、問題を共有する能力(言い換えれば、他人にある状況をゆだねることができる能力)があるということにほかならない(同)。

 一歩踏み込んで考えるなら、組織を官僚化させてはならない、また官僚化によって組織を崩壊させてはいけない、という決意がここからは読み取れるといえようか。

 では遊軍リーダーシップを成り立たせるための条件とはなにか。このことについて、著者は「深い信頼と、自分たちは依存しあっているという自覚」と「規律」のふたつをあげる。そのうえで、重要なのはある目標を達成するかどうかではなく、「個人としても集団としても、潜在能力をフルに発揮する」ことと説く(p87)。
 目標を達成しなくていい、のではもちろんない。目標は「潜在能力をフルに発揮する」ことをとおして達成されるべきだ、ということが示唆されているのである。
そして以下のようにまとめる。

健全な心、開かれた態度、高い能力、経験に対する信頼――これらが仕事に活力を与え、人生に意味をもたらし、遊軍リーダーシップを可能にする。そして遊軍リーダーシップは、私たちが自由かつ率直な態度で協力し合うとき、潜在能力をフルに発揮するための手段となる(p87)。

 何度も味読したい箇所である。

● 礼節と価値観


 流行に乗らない
 労働の尊さ
 シンプルであることの美しさ
 互いに奉仕し合う精神

 最後の問題は礼節と価値観である。
 この礼節と価値観を育むには、流行に乗らないこと、安易な満足を求めないこと、労働の尊さ、シンプルであることの美しさを知ること、互いに奉仕し合う精神を大切にすることなどが示されている。
 シンプルの重要性を説くために、ある判事の「複雑さを超越するシンプルさのためなら命を差し出してもいい」という言葉を紹介しつつこう述べているのは注目される。

活力ある経営とは「複雑さを超越するシンプルさ」を求めることだ(p48)。

 経営の骨格は「シンプル」であっていい、という哲学がここで開陳される。

5 参加型マネジメントと愛着について

 次章は「参加型マネジメントで組織を変える」である。
 著者は、読者にまず問いをひとつ出す。その問いとは「私たちのほとんどが仕事に求めるものはなんだろうか?」である。この答には目を見張らされる。

それは、もっとも効果的、生産的で、見返りの多い共同作業の喜びだ。 私たちは、仕事のプロセスに必要なヒト、モノ、カネをすべて利用したい。どこかに帰属し、貢献し、意味のある仕事をしたい。熱意を注ぎ、成長し、自分の運命をせめてある程度はコントロールする機会を得たい。私たちはこうした個人的ニーズを満たす仕事と人間関係を求めている。そして誰かから「ありがとう!」と言われたい(p50)。

「自分の運命をせめてある程度はコントロールする機会を得たい」という「個人的なニーズを満たす仕事と人間関係」がその答となる。
 
ついで「昔は権力によるマネジメントがよしとされ、実践されていたが、やがて説得によるリーダーシップに移り変わった。公然と組織的権力を行使するのはもはや時代遅れだ」とあるのが衝撃になる。そんなことはこれまで聞いたことがない。
いや、正確にいうなら聞いたことはあるが、組織的権力を行使しない会社や組織がどれほどあるのか、大いに疑問に思っていたし、いまも思っている。最近の企業のうわさを聞くにつけ、そのように感じざるをえない気もする。そのような企業の皆様にも、この1冊はぜひ読んでほしいと切に願う。

 それはそれとして、リーダーはリーダーとして、理想の関係をどう生み出すのか。著者はこのテーマに踏み込んでいく。
 これは難問というしかない。とはいえ、ここには5つのヒントが述べられている。リーダーの経験がある方は、やはりこれまでの経験を踏まえ、「理想の関係をどう生み出すのか」という重要問題を、自分でも考えてみてはどうだろうか。そのうえで著者の差し出した答と照合してみたい。
 このきわめて重要な答は52ページから56ページに、5項目提示されている。この部分も熟読したい。「これらのことを、自分たちは本当にできているのだろうか」と、もしかしたら、少しばかりの反省心も秘めながら......。

次回につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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