日経メッセ > リテールテックJAPAN > 連載コラム > 新・お店のバイブル > リーダーシップはアートである――マックス・デプリー著『響き合うリーダーシップ』 (海と月社)(4)

連載コラム

リーダーシップはアートである――マックス・デプリー著『響き合うリーダーシップ』 (海と月社)(4)

[ 2014年10月28日 ]

前回よりつづく)

 つぎは、本書中、最も大切かもしれない「『愛着』について」である。この愛着の項は、味わい深い箇所でもあるため、愛着という言葉の意味をアレコレ想い浮かべてから、ページをめくっていくことをお勧めしたい。
 わざわざ愛着についてテーマを別立てしているのは、くり返すが、相当に重要な問題だからにほかならない。では愛着は、本書のテーマであるリーダーシップとどういう関係になるのか。リーダーシップの枠内でいかなるポジションを占めているのか。いや、そもそも愛着は、リーダーシップ上、必要なのか。ないといけないのだろうか。そのメリットとデメリットは? という感じで、その位置づけについても、思いを巡らしてから当たってみよう。

 冒頭の一節が心に突き刺さる。そこにはこう書かれている。

人の能力の中心には、愛着がある。愛着によって理解や信念が生まれ、仕事が充実したものになる。愛着は、あなたと仕事の関係を築く(p58)。

 つかまえ方が人間的、文学的といえるが、ことの本質を考えれば、まさに核心を突いた一節にちがいない。「愛着」という表現は、ここではいっそ「愛」とだけ呼んだほうがいいのだろうか。
 ともあれ、すべてはこの一節からはじまる。つづいて著者は、愛着は仕事と組織の両面で必要と語る。

愛着は、仕事の進め方からこまかい技術的なことまで、大小さまざまな点で私たちにかかわってくる。したがって、共同作業の道しるべとなる組織構造を設計するときには、愛着について考慮しなければならない。愛着は、個人にとっても、仕事にとっても、組織にとっても重要だ。 愛着は、私たちが責任をもって仕事を遂行するかどうかにじかに影響を与え、働くうえでの誠意を生み出す。愛着のいちばん大切な要素は、情熱だ(p59~60)。

 「仕事の進め方」「こまかい技術的なこと」「共同作業の道しるべ」「組織構造を設計」「責任をもって仕事を遂行」「働くうえでの誠意」「いちばん大切な要素は、情熱」というように、リーダーシップ上、不可欠なキーワードが並んでいる。よくよく読み込みたい。
 この延長でこんな「哲学」も語られる。

私たちが会社についていくのではない。会社がわたしたちについてくる(p61)。

 意味深な表現と思われるが、どんな意味なのかは61ページでご確認いただきたい。
 つぎに、ではそれほど大事な愛着は、どうしたら生まれてくるのか、という最も肝要な箇所に差し掛かる。ここで著者はこう教示する。

愛着は、あいまいさを認め、それに慣れようとする態度から生まれる。私たちは、答えをすべて知ることではなく、疑問とともに生きることによって成長するのだ(p62)。

 なんということだろう、あいまいさを認め慣れよ、すべてを知るのではなく疑問とともに生きよう、という驚愕の一節である。
 この意味を「正解の幅はある程度広い」ととらえてもいいだろうか。問題にもよるが、正解はつねにひとつとは限らない、ということから愛着は生まれるのかもしれない。
 この文章のあとに、もうひとつ指摘されていることがある。

 愛着はまた、個人と企業の価値観を日々の業務に反映させること、知識と知恵と正義を探し求めることから生まれる。とりわけ愛着は何かとの強い結びつきから生まれ、その愛着がさらに強い結びつきをつくり出す。愛着とは、人と仕事の理想的な関係を表すことばでもある(同)。

 愛着を生むものとして「知識と智恵と正義」という3つがあげられているが、ここに「正義」が入っていることには注目しておきたい。「正義」の意識が愛着を生むということを、もっと深く考えたくなってきた。

 最後にまとめとして、7つの重要事項が示される。7つとも納得できる内容であり、それらがなにかは、本書65ページにぜひとも当たってほしい。
 愛着にからんで、もうひとつ大切なテーマに触れられる。それは「関係の構築」である。「関係の構築」と聞くと、ややこしそうだな、それってなに? となるが、これには法律に基づく「契約」と「心」というふたつの「関係」がある。このうち心の関係は、愛着のテーマにつながっていくという。その重要性はこう訴えられている。

「心の関係」は、みんながともに熱意をもってアイデアを出し、問題を解決し、価値観を築き、目標をめざし、経営プロセスにかかわることで生まれる。それは、愛、温もり、相性といったことばで語られるものだ(中略)。
「心の関係」によって、組織は一風変わった人物やアイデアを快く受け入れることができる。リスクに耐え、あやまちを許すことができる(p64)。

 進化とかイノベーションのテーマを考えるとき、この点はかなり重要な指摘となろう。
 それはとにかく、ここからひとつの結論に至っていく。

私は、今日の環境に適した最高のマネジメントは、「こころの関係」にもとづく参加型マネジメントだと確信している(p65)。

 つぎはどういう展開になるのか、とワクワクしてしまう一文である。

6 5章~10章

 以下、5章の「投手と捕手」から10章の「オーナーと従業員の理想の関係」まで簡単にみていく。5章の「投手と捕手」は、仕事の意味、仕事上の役割から「すぐれた投手にはすぐれた捕手が必要(p71)」という結論。ごく当然のことながら、こう指摘されないと、なかなか気づかない真実でもある。
 仕事の意味についての言及が鋭い。

仕事とは本来、生産的で、やりがいがあり、有意義で、人を成長させ、実り多く、充実し、癒され、楽しいものであるべきだ。仕事は私たちにとって、最大の恵みのひとつだ。詩的にさえなりうる(p69)

といい、これが「仕事の新しいとらえ方」と言い切る。また仕事上の役割についても

多くの場合、実行も創造と同じくらいクリエイティブでなければならない(p70)

と言明する。
 たしかに、たとえば店内催事を企画することと実行することは、ふたつがふたつとも、同じように重要なことである。
 あと前に紹介した7つの権利が、ここで詳述されている。しっかり読み込みたい。

 6章から8章は簡単に紹介するにとどめる。
 6章の「遊軍リーダーを活かせ」では、そのときそのときの力を発揮できる人を活用す ることを(前にも若干触れているが)、7章の「資本主義の未来のために」では、参加型について考察をめぐらし、8章の「これが『偉人』だ」では、著者の父親を含め、様々なリーダーシップに思いをはせる。

 9章の「『語り部』の役割」には、著者がCEO、会長をつとめた会社、ハーマンミラーの価値観が、研究主導型からスキャンロン・プランまで9つ紹介されている。このことについては重んずべきテーマなので詳しく紹介したい。
 スキャンロン・プランとはなにか。本書によればスキャンロン・プランとは

参加型マネジメントを実現する、生産性向上を考慮した成果配分方式で、アメリカではかなりの数の企業で実施されている(中略)。
スキャンロン・プランによって、従業員は創造性と創造プロセスを重視しながら、多様な才能を発揮することができる。この方式を原動力としてアイデアを生み、問題を解決し、変化と争いに対処することができる(p119)。

 これにつづく1節は、他に換えがたいほどの貴重な見解といえる。

ハーマンミラーのような集団には、個人としての多様性と、企業としての多様性がある。企業としての多様性とは、各個人が集団に役立てるために持ち寄る才能、能力、熱意のことだ。その多様性を正しい方向に導き、うまくまとめれば、集団の最大の強みとなる(中略)。
多様性をまとめるプロセスとは、思いきって他人の強みに頼ることである。何かについて自分よりすぐれた人がいれば、その人に対して自分の弱みを認めればいい(p119~120)。

 「思いきって他人の強さに頼る」と断言する姿はいさぎよい。
 会社の体質との戦いは、換言するなら官僚体質との戦争となる。このあとに書かれているその戦い方は、誰にとっても参考になるだろう。

官僚制は私たちの才能や能力を平均化してしまう。だからこそ、部族の語り部である古老たちは、つねに企業の「再生」に力を入れなければならない。価値体系を維持し、活性化しなければならない。 企業内の価値をこまかく吟味し、官僚制を根絶やしにして、従業員一人ひとりを支える。こうしてつねに再生していけば、従業員は企業生活につきものの危機に備えることもできる(p122)。

 「官僚制は私たちの才能や能力を平均化してしまう」はひときわ大切な指摘になる。
 これまで紹介したようなことが、この企業ではなぜ実現できるのか、その秘密を解明したのが、10章の「オーナーと従業員の理想の関係」である。ここではオーナーシップについて語られている。
 この章には本書の秘密を解く鍵が存在している。あえて割愛するが、どんなことが語られているか、これはなんとしても当たっていただきたいと思う。

次回につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

バックナンバー

PAGE TOP