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連載コラム

リーダーシップはアートである――マックス・デプリー著『響き合うリーダーシップ』(5)

[ 2014年12月2日 ]

前回よりつづく)

7 11章~15章

 ここからは各論だろうか。
 11章の「リーダー必須のコミュニケーション術」は、読み応えがある。綿密に追いたい。著者はいう。活力のある組織には連帯感があり、これを保ち強めるのも、リーダーシップのアートである、と。

活力のある組織には、たいてい連帯感がある。相互依存、相互利益、互いへの貢献、そしてシンプルな喜びからなる連帯感だ。これが保たれ、強まるように配慮するのも、リーダーシップの「アート」のひとつだ(p136)。

 とはいえ、連帯感を保ち強めるには「すぐれたコミュニケーションがぜったいに欠かせない(同)」。本章ではそのノウハウが提示されている。
  
 このコミュニケーションの全体像は、意味合い、効果、機能、運用ポイント、義務の5つの視点から説かれる。
 意味合いでは、連帯感の重要性が指摘され、その実現のため、正直でオープンなコミュニケーションと態度によるコミュニケーション、とりわけ後者の大切さが、つぎのように教示される。

組織の連帯感や価値観の基本を伝えるいちばんの方法は、態度によるコミュニケーションだ(同)。

 しかもこのことは、つぎのようにも換言される。「すぐれたコミュニケーションとは、相手の一人ひとりに敬意を払うことにほかならない(p137)」。いつもそうとは思っていたが、こうまで明快に記されると、どこか参ってしまう。
 「態度によるコミュニケーション」という箇所が目に入ったとき、ハッとした。これまでこのことに、少しばかり無自覚にすぎた気がする。たしかに態度が示すものは端的といってよい。コミュニケーションの基本は言葉だとしても、態度こそ、より雄弁なのかもしれない。

 そして、コミュニケーションの効果(「達成されるもの」)についてはこう記される。

すぐれたコミュニケーションは、人々が教え、学ぶための必須条件だ。成長する会社に生じるギャップを埋める方法であり、人々が連絡をとり合い、信頼を築き、助けを求め、業績を監視し、ビジョンを共有できる方法だ(同)。

 すなわち、すぐれたコミュニケーションの効果とは、相互連絡、信頼構築、サポート要請、業績モニター、ビジョン共有の5つの面で役立つことであるといえよう。

 コミュニケーションの機能はふたつあり、教育機能と「解き放つ」機能である(p141)。これらのことも深く言及されており、コミュニケーション論で最も力が入っていると思われる。なんとしてもご参照いただきたいところである。
 運用ポイントでは「利用しやすいツール」が要。

むずかしいのは、すぐれたコミュニケーションを手軽で利用しやすいツールにすることだ。それが実現すれば、わざわざ考えなくてもそのツールを選び、使うことが多くなる(p138)。

 実務面からとらえると、これこそまさに、コミュニケーションの知恵であり武器であろう。
 義務としては、知る権利の尊重、それと内容を吟味する技があげられている。詳しくは、139ページから141ページまでを当たってほしい。
 
 ついで、12章の「『ピンクの氷』は危険の兆し」では衰退の兆候が、これでもかというくらい羅列されている。ここも必読部分。
 このなかに「危険の兆し」として

  • ● お祝いや儀式の時間がなくなる
  • ● 従業員が、貢献、精神、美徳、美、喜びなどを大切にする価値観ではなく、ビジネス・スクールで学んだドライな基準にしたがおうとする
  • ● 過去と将来に対する考えを数字で示したくなる
  • ● 指標を設けたくなる
  • ● リーダーが、人でなく組織構造に頼る

などを発見して驚く(p148~149)。逆ではないか、とお考えのおのおの方(私も同じだったが)、ご用心、ご用心。

 これ以降、13章の「勤務評定のポイント」、14章の「会社の施設のあり方」、15章 の「後継者の選び方」とつづくが、各章とも、リーダーシップの観点に立った有意義なノウハウとポリシー、信条が開陳されている。

8 16章 あなたは泣いていますか?

 あなたは泣いていますか?
 リーダーシップ論でこういうテーマが書かれるのは、珍しいのではないか。しかも、最後のほうにこれが配されているのは、それだけ本質的な事柄だからにちがいない。
 涙を流すべきテーマとして18個あげられている(p183~184)。
 このなかの「顧客を邪魔者と見なすこと」「態度を見ず、結果だけを見るリーダー」「決して『ありがとう』と言わないリーダー」「のびのびとベストを尽くせない仕事を押しつけられること」などの項目には、心中、誰もが心の涙を流してしまうだろう。

9 17章 品格のしるし

 最後の章は「品格のしるし」である。著者は語る。

品格のある会社は社員に自由を与え、自己実現をさせる。同様に、品格のあるリーダーは部下に自由を与える(p187)。

 自由を尊重するのは、社員が潜在能力を発揮して、みずからを「最高の状態」にもっていって欲しいと考えるからである。(「品格のあるリーダーはつねに完全を求める(p189)」のだ)
 ここには「品格のしるし」として、8項目が示されている。味わい深い内容なので、最初の3つだけ紹介しておく(残りの項目は、189ページから190ページでご確認いただきたい)。

  • ● 契約はさまざまな関係のなかのごく一部である。完全な関係には「心」が必要だ
  • ● 知性と教育は「事実」を教えてくれる。知恵は「真実」を教えてくれる。企業生活にはどちらも必要だ
  • ● 時間をさいているからといって、かならずしも関与していることにはならない

 これらを含め、本書を通読してくると、著者が説くリーダーシップ論は、イノベーションを前提に人間をとらえるべき、という画期的な人の見方が基盤になっていることがわかってくる。
 この章には、「真剣なランナーは一〇〇ヤード競争を一一〇ヤード走のつもりで走り、最後の数ヤードで人に抜かれないようにする(p188)」という、学ぶべきエピソードも紹介されている。

10 まとめ

 「あとがき」で、リーダーシップに関する、とっておきの挿話が披露される。ここでは割愛するが、「あとがき」だけに、本文を読まれたあとで、当たってしみじみ感じ入っていただきたく思う。

 最後に重ねて申し上げるが、この本はまことに優れている。
 200ページのソフトカバーではあるものの、中味は400ページ、500ページの本に匹敵しよう。改めて述べるなら、その秘密はふたつある。ひとつは、重要テーマで展開される、数項目から20項目にわたるポイント列挙だ。一読後(もしくは一読前でも)、ここだけ通読するのも方法だろうか。
 もうひとつは、各所にちりばめられたエピソードの数々である。その部分を四角い枠で囲んでおき、通しで拾い読みすることもお勧めしたい。 
 さて著者はみずからこの本の読み方を指南している。

本書には、あなたが自分の経験で埋めて、自分のものにするための余地がある。ここで示した考えを私は何年もあたため、変容、発展、成熟させてきた。出版後もずっとこの作業を続けていくが、あなたにもそうしてもらえるものと信じている(p28)。

 リーダーシップは人間の性格もからむ、ある意味やっかいなテーマである。だから人によって答は変わるだろうし、正解そのものがあるのか、という根本的な問いさえ成り立つのかもしれない。著者が「あなたが自分の経験で埋めて、自分のものにするための余地がある」というのも、その裏づけといえるだろうか。

 いずれにせよ本書のテーマが、リーダーシップの本質は人間を生かすこと、いや生かし切ることにある、ということだけは間違いない。そのことは、「響き合うリーダーシップ」というタイトルからも直に伝わってくる。愛の精神が一人ひとりのメンバーに伝わり響いてこそ、リーダーシップはできていく。そのことを熱く訴えるのが本書の生命といってもよい。
 現在リーダーであるかなしかにかかわらず、リーダーシップに悩んでいるすべての方々に、刺激的な参考書として、この1冊『響き合うリーダーシップ』を強くお薦めしたい。

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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