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連載コラム

第1回「これこそコロンブスの卵だ! お客さまの観点を究める『覆面調査員は見た! 感動のサービスあきれたサービス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)(1)」

[ 2008年1月8日 ]

 覆面調査員の本と聞き、がぜん興味津々になった。 それが本書、本多正克著『覆面調査員は見た! 感動のサービスあきれたサービス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン 2007年)を知るきっかけである。他のサービス本とどこがちがうのか? と思って読みはじめると、そのちがいはすぐにわかった。
 ここに書かれているのは、単なる個人の経験でも、勉強したことの復習でも、聞きかじった観念論でもない。責任を持って店の隅々を観察した結果得られた、とれたての真珠のように輝く至言なのだ。これらは、お客さまの視点から紡ぎだされたものであり、たとえ心が痛くても、耳を傾けるべきことにちがいない。いってみるなら、覆面調査のプロフェッショナルが、その面目に賭け、お店の経営者から、店長、スタッフにまで提言するのが、まさに、この本、この1冊なのである。


1 本書の魅力

 著者の本多正克氏は、「日本一の覆面調査員」といわれる。覆面調査とはなにか? 本書によれば、ミステリーショッパーともいい、その呼び方から想像されるように、「一般のお客様を装って、お店のサービスを総合的に評価する制度(p1)」のことであり、さらにこうも説明されている。

調査員が一般客になりすましてお店を利用し、数多くのチェックリストに基づいて、そのお店の清潔度、接客態度、商品やサービスの質、雰囲気などを評価して、最終的な結果を各店舗にフィードバックする(同)。
 

著者がこの世界の第一人者というのは、アメリカ全土やヨーロッパ13国、日本国内でも、あらゆる業種業態の店で、幅広く覆面による調査をおこなっているからだ。著した本は、すでに何冊も刊行されている。『お店の運営改善マニュアル 売上アップにすぐ使える!』(すばる舎 2007年)、『覆面調査員が明かす繁盛店の極秘ノウハウ 3万店舗以上を調査&改善』(同 2007年)、『ミステリーショッパー・マーケティング』(あさ出版 2006年)などである。このなかから本書を選んだのは、〈覆面〉という観点から繰り出されるサービス論に、少なからぬ好奇心を抱いたからだった。

 それにつけてもこの本は、なんと斬新なのだろう。
 筆の進め方が鮮やかといってもいい。混沌と喧騒のなかに埋もれた問題を探り当て、独特の触角から解決策を見出していく。といって独善的なものでは決してない。ここには、覆面での徹底調査を通じ、体に叩き込んだ顧客の観点というものが、しっかり息づいているのである。
 それはおのずと、基本の重視に結びつく。いうに及ばず、この基本こそ最重要なのだ。著者は、基本の崩れを強く戒めながら、再構築する手掛かりを提示する。それも予想外の方向から虚を突くように光を当てるのである。これはコロンブスの卵だ、と感嘆させられたのも、そのせいか。
 大事な一節が太字で強調されたり、結論が項目ごとに「感動を呼ぶポイント」として添えられたりもありがたい。ではそこだけ先にと取り掛かったら、参りました、それ以外の文も読みたくなり、つまりは完読してしまった。そこかしこで心の機微に触れるため、文章がスッと入ってくるのも一因だろう。
 いずれにせよ、すらすらと読みやすく、かつ、飛びっ切りためになるのが、本書、一番の魅力といってよい。


2 どこか意表を突く話

 最初は、あるイタリアンレストランでの話。はじめだけに印象に残る。この店では、忙しくなるとスタッフの視野が狭くなり、入店したお客さまに気がつかないことがままあった。そこで著者は提案する。多忙なときこそ、ふっと我に返り全体を見渡そう、と。具体的には、全員の定位置を決め、一定時間ごとにその場所に戻り、10秒ほど立ち止まる。すると全体が見渡せるというのだ。どこか意表を突く話である。そのお店はこの方法で、見事によみがえったらしい(p15)。
 こんなふうに、どのページも、一見、小さいが、あってはならない問題に、現場の知恵で対処できるよう、答が教え導かれている。そこがミステリー小説を読むみたいで、一気に引き込まれてしまうのである。

 無理難題を押しつけられたら誰だってとまどう。そんなときどうすればいいか。たとえば、購入した商品を明日までにこのリスト先まで送ってほしい、そう一方的にいわれたとき、いかに答えるか。本来、方針を決めておくべきだが、とはいえ、どの店だってマニュアルにないことを要請されるケースも少なくない。こんなときは「キャッチボールをする(p32)」のが先決という。「こちらはお急ぎでしょうか」とたずねたり、「できるのですが、別途料金がかかってしまいます。今、料金をお調べしますね。お時間はよろしいでしょうか?」などとボールを返すのだ。ポイントは「最後には必ず回答を出すこと」

 つぎの話は意表も突くが味もある。
 某居酒屋チェーン店で、「ありがとうございました」の「あり・・・」しか聞き取れないスタッフがいた。そこで著者はどうしたか? 意外にも、お帰りのお客さまの「背中を3秒間見守ること」を勧めたのである。その目的はふたつあった。ひとつは「背中にビームを送る」ことで、お客さまは、そういう対処をキチンと感じ取ってくれる。もうひとつは、余韻、心地よさといったものが生まれること。ところがいざやってみると、これがなかなか大変で反対意見も出たらしい。だが著者はいう。

その3秒間があるかないかによって、サービスの質が大きく変動してくる(p40)。
 

事実、先ほどの店では、「1人ができるようになり、また1人ができるというように、徐々にできる人が多くなるにつれて、お客様からの褒め言葉も多くなった(P41)」という。

 意表を突く話がつづく。名刺の活用もそのひとつ。名刺の裏側にクーポン券をつけ、かつ表側に個人のキャッチフレーズを載せたお店の例が紹介されている(p50)。なにより「ありがとうございます」シャワーが大事という指摘もある。「感謝の言葉を5回伝えると、やっとお客様に『この人は丁寧な挨拶ができているな』と感じ取ってもらえる(p52)」。だから「感謝の言葉を、少なくとも5回は伝えよう(p55)」と勧めている。


3 アッと驚くそれぞれのアドバイス

 あるかばん店で、かばんが壊れた出張中のお客さまから、「一番壊れにくいかばんが欲しいのですが」というおたずねがあった。ところがお店では、あろうことか、36万円もする商品を選んだ。こう聞くと私など、良心が痛まないのかと、とがめたくもなるのだが、当のお客さまは、驚くことに、これを即決で買い、しかも感謝までされたという。これだから世の中わからない。著者はこのエピソードにこうつづける。

このように、お客様が発した問いかけなどのことの背景には、さまざまな事情や重いがこめられています。それをいかに汲み取るかで、お客さまの満足度は変わってきます(p75)。
 

商品を渡すとき、一言添えようとも呼び掛ける。
 書店で、何冊も本を購入したお客さまに、「重たいので、お気をつけください」と付け加えてはとコーチする。また、雨の日のサービスとして、紙袋にビニールカバーを掛ける店でも、ただ黙々ではもったいない。

「(雨なので)カバーを掛けておきますね」という一言があるだけで、お客様が受ける印象は大きく変わってくるのです。同じサービスをしているのに、ほんの一言があるかないかで、お客様の感謝の度合いが違ってくるわけです(p82)。
 

ストーリーノートの提唱も興味深い。
 ストーリーとは、「お客さまが来店してからお帰りになるまでの対応方法のひと通りの流れ(p86)」である。不慣れな新人スタッフに足りないのは、このストーリーの組み立てだとして、つぎのように記す。

最初はただ思いついたことを書くだけでいいのです。とにかく一冊のストーリーノートをつくり、それに日々修正を加えることで、精度を上げていきます。毎日の研修や実践の中から、必要だと思われる自分の動きや声かけのタイミングなど、接客の流れを細かく追加していってください(p87)。
 

さらに、このノートで成長したという家電量販店の新人の例から、ストーリーを実践し、更新することの重要性にも話を及ぼしていく。その結果、入社半年後には、個人別売上ランキングで、社内トップになったとのこと。その結論は「一冊の『ストーリーノート』で、自分の型をつくろう(p88)」である。

 「ちょっとしたコツや面白情報で、お客様を引きつけよう(p101)」というのもいい助言。ただし、独りよがりでなく、時流を踏まえたコツ、多くの人が楽しめるものが必要とガイドする。普段からのネタ集めが肝心だとも。
 つぎのところでは、ひとつの質問には3つの切り口で答えようといい、「会話の引き出しが多いことが売上に結びついている(p103)」と付言する。

(次号につづく)

《筆者紹介》

青田恵一氏(あおた けいいち)

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店――V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス――進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店―メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策―」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。


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青田恵一氏の「新・お店のバイブル」バックナンバー
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新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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