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連載コラム

第2回「これこそコロンブスの卵だ! お客さまの観点を究める『覆面調査員は見た! 感動のサービスあきれたサービス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)(2)」

[ 2008年2月1日 ]

(前回より続く)

 137ページには、「最も接客が上達するのはどのような人なのでしょうか?」という問題提起がある。これははなはだ大事な問いなので、私たちも一緒に考えてみたい。・・・
 さてどうでしょう。答は出ましたか? 注目されるその答とは「常に事前に勉強してくる人」であった。そう聞くと予想外な感がなくもないが、著者はこう説いている。

驚いたことに、入社して初めての休日にすべての商品を暗記して、お客様に商品名を言われたら、その置き場所と商品についての説明がすぐにできるようにしてきた新人スタッフもいたそうです(p137〜138)。
 

努力を積み重ね、一定水準に達しても、いつしか限界感が出てくる。そんなときは目標を持つことが、ひとつの突破口になる。著者は目標になる人物をイメージしようとアドバイスする。「サービスの質を高めたいと思うなら、サービスの達人だと思う人を常にイメージしておく(p144)」ことが大切なのだ。それも、こんなにすごくなりたい、と心から思える人を選ぶのが決め所らしい。
 著者はさらに詰めていう。その人と仕事をしている姿をイメージしよう、と。たとえば自分と対談しているシーンを想像しようとも。これはお勧めであろう。頭のなかで誰と語り合おうが、文句をいわれる筋合いはないのだから・・・。そして説く。「人は目標が明確になり、そこへ向かって進み始めると、非常に強いエネルギーを持つようになります(p147)」と。
 この延長で「志を持とう」とも訴える。志というと、かしこまってしまい、どこかに抵抗感が生まれやすい。だが著者はそうではないと語る。ブロックを積み上げているふたりに「なにをやっているのか」と聞くと、ひとりが「ブロックを積んでいる」と返したのに対し、もうひとりは「城を作っている」と答えた。という話を引きながらこういう。

いきなり「志を持て」と言われても、現実にはなかなか難しいかもしれません。もしあなたが毎日をいやいや過ごしているのであれば、なおさらです。志というのは、無理やり設定できるものではありません。ですから、まずは「こんなふうになったらいいな」とか、「こんなふうにしたくない」というものを見つけてみましょう。最初は漠然としているかもしれませんが、日々考えていくうちに、「これだけはいやだ」とか「これだけは実現したい」というものが見えてくるでしょう。それだけでも、今までよりは、もっと大きな視点から自分の仕事について考えられるようになるはずです(p150)。
 

志ということを、これほどわかりやすくとらえた見方は、そう多くない。


4 クレーム・トラブルへの対応

 この部分は、ページ数こそ少ないが、得がたい言及が光っている。ここではまず問題を提示しておきたい。こんなクレームなりトラブルが起こったらどうすべきか?

(1)雑貨販売会社の例。注文した商品が1ヶ月も届かない。「苦情の電話を入れたら5分も待たされた」とお客さまが激怒している(p175)。
(2)和菓子店の例。杖をついたご年配の女性が、段差のある場所に近づいたので、スタッフが危険を察して手を差し伸べたら、「私はそこまで弱っていない」と怒り出した(p182)。
(3)ドラッグストアの例。見やすいようにPOPや表示物を大きくしたところ、あるお客さまから「目障りだ」と不満が出て、もとに戻すかどうか悩んでいる(p184)。

 これらは、じっさいの事例だが、答はそれぞれのページをご参照いただきたい。対処の仕方と心構えが、まさに「圧縮」されている。
 これにからんで話は、マニュアルの重要性にも及ぶ。「p166」。それも「p167」として例があげられる。

すぐに○○タクシー(重症の場合は救急車)を呼ぶ→店長が付き添う→タクシー代は店長が払う→病院で終わるまで待つ→落ち着いたら住所・氏名・連絡先を聞く(p167)

というように詳細に記載されていれば、「スタッフも冷静に対処できますし、何よりもお客様を安心させることができるのです」

 作成方法まで教示される(p168〜169)。

(1)考えられるトラブルや緊急事態をすべて書き出す(ミーティング・インターネット・書籍などでも探す)
(2)一つひとつについて、スタッフみんなで具体的な対応手順を検討する
(3)緊急時を想定し、見やすく探しやすくする
(4)マニュアルはPCにも保存しておく

 この辺も非常に参考になるところだ。よく読み込んで実践に役立てたい。


5 チームワーク

 本書のトリは、内部での最大テーマ――チームワークである。
 不思議といえば不思議だが、同じチェーン店なのに、いい店もあればそうでない店も存在する。なぜこんなことが起こり得るのか? その疑問に著者はこう答える。「p193」。そして一例が示される。

このチェーン店全体のやり方では、お手ふきはテーブルの上に置くだけなのですが、このお店だけは一人ひとりに手渡してくれます。また来店したお客様のコートやバッグにも気を配り、コートを預かったり、バッグを置くカゴなどを持ってきてくれるのです(中略)。つまりこのお店では、本部が求めるマニュアル以上のサービスを行っていたのです。それというのも、『徹底したおもてなし』を最重要課題として、チームで共有していたからです(p193)。
 

(キーワード共有による朝礼や研修で、チーム機能がパワーアップしたという。)
 チームワークを高めるツールに「クレド」というのがあるそうだ。クレド? それってなに、と不審に思われるかもしれないが、直訳すると「信条」、わかりやすくいえば「守るべき大切な約束」という意味らしい。で著者は、これをお店で文書化しようと提言する。それも店長ひとりが机上で考えるのではなく、ミーティングでスタッフの意見を組み入れながら作ろうという。

うまく活用されている店舗では、みんなが集まるミーティングなどの場を使って、短期間でつくり上げています。また、最初の3ヶ月間はお試し期間として、「走りながら修正していく」と言う姿勢も大切です(p197)。
 

決定的に重要な〈改革の文化〉についても触れている。「優れたチームは、『良いことを続け、悪いことは修正する』という風土が根づいている(p209)」として、ある旅館の例をあげる。

この旅館では、お客様にアンケートをお願いしていました。このアンケートでよい評価をいただいた場合は、それを表彰に使います。一方、悪い評価については、それを攻めるのではなく、数日以内に改善策を示し、1ヶ月以内に実行するよう全員に徹底していたのです(p209)。
 

で結論づける。「良いことは続け、悪いことは改善できる仕組みをつくろう(p211)」と。

 いよいよクライマックス。
 ベストサービスをつづけるため、最も大事なのはスタッフの満足感である。「サービスのいいお店は、従業員の満足感も高い(p220)」のだ。では満足感とはなにか。それを著者は、居心地とかリラックスと表現する。といって単純に「楽」という意味ではない。

肉体的に大変でも、精神的に張りつめていても、スタッフ同士の信頼感があり、仕事にもやりがいがある。そういうことすべてを含め、「ここで働いていたい」と思わせる風土があるということです(p220)。
 

これを実現した店の例をあげ、3つのポイントを教示する。

(1)なんでも言い合える場を作る
(2)トップダウンによる対処
(3)"褒める"と"叱る"の仕組みを作る

 その店のスタッフの不満は、話し合う場がなかったためであり、それがわかったあとは、毎週、不満や要望を店長に提出し、ミーティングするようにしたという。また、解決策はトップダウンで対処し、そのうえで、頑張った人が給与面でも報われる仕組みを導入した。
 著者は最後にこうまとめる。「スタッフの居心地を高めることができれば、お客様へのサービスの質も高まる(p223)」と。

 お客さまになり切ることをライフワークに選んだ、その著者が繰り広げる、現場感覚に満ちた数々の訴え――ここから、私たちが学ぶことは少なくない。だからこそ本書は、サービスを、顧客の観点から見直そうと思うとき、なににもまして、必要不可欠の1冊となるにちがいない。

《筆者紹介》

青田恵一氏(あおた けいいち)

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店――V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス――進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店―メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策―」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

バックナンバー
青田恵一氏の「新・お店のバイブル」バックナンバー
青田恵一氏の「お店のバイブル〜旬な1冊、効く1冊〜」バックナンバー

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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