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連載コラム

第3回「未知なる大陸、デリバリー世界の魅力を伝える! 三田村蕗子著『お届けにあがりました!』(ポプラ社)(1)」

[ 2008年3月5日 ]

 もう「出前」とは呼ばせない。 バージョンアップというべきか、新機軸というべきか、業態チェンジというべきか、古くからある出前は、いまや「デリバリー」というお届け業になった。似て非なるものに生まれ変わったのだ。そのデリバリーのさまざまな姿、スタイルを、生活者の視点から、幅広く、かつ快活にルポルタージュしたのが、本書、三田村蕗子著『お届けにあがりました!』(ポプラ社 2006年)である。


1 豊饒なデリバリー世界

 これまで配達には「労多くして功少なし」というイメージが付きまとっていた。それが、この本をひも解くや、私の考えはまるで変わってしまった。ありていにいうなら、すっかり"洗脳"されてしまったのである。
 まえがきには、出前とデリバリーのちがいが明快に言及されている。「いま、出ました」が通用し、ちょっとくらい遅れても許されるのが出前。これに対し「指定した時間にきっちりと届けるのがデリバリービジネス(p5)」。届けるのは、DVD、ケーキなどのモノだけではない。なんと、ハウスクリーニングや書類のシュレッダー、イベントにマジシャンといったサービスさえ"配達"するのだ。骨組みは変わらないにせよ、「かゆいところに手が届く機能(同)」を付加した商売がデリバリーというものらしい。

 著者は問う。あらゆる店があるのに、なぜか買い物がままならない。ショッピングの時間が取れない、取れる時間や曜日には店が閉まっている、ショッピングセンターには車で行くのが前提、これではまるで「買い物難民」ではないのか、と。言われてみれば、そんな気も・・・。で「それを埋めるのが、店に足を運ばずとも店の方から私たちに歩み寄ってくれるデリバリービジネスだ(p7)」。というわけで、この本では、多種多様、むしろ豊饒とさえいっていい、驚愕のデリバリー世界が紹介されるのである。

 目次を開けると、あります、あります、蕎麦(そば)、牛乳から、クリーニング、お寿司、おそうじ、すこし飛んでペットサービス、イベント、家電、酒と水、家事代行、出張美容、体育教師、在宅検診、洗濯、そして出張ソムリエ、オフィスのおやつ、治療食、スーツのテーラーメイドまで、ものすごい! としかいいようのないラインナップだ。
 これから、本書のデリバリー報告を、いささか無理やりにではあるが、飲食系、生活系、イベント系の3つにわけ、その一端をご紹介したい。


2 飲食系デリバリー

 スタートは飲食系デリバリー。
 最初の蕎麦屋(そばや)さんの話は、最初だけあって印象的(p9)。蕎麦の出前持ちは「かつぎ」と呼ばれ、江戸時代からあったという。明治・大正の風俗画には、山のような出前盆を手に持ち、肩にかつぐ姿が描かれており、その数は最大で50杯!とか。それがいまでは、この「かつぎ」、かなり減っているそうだ。
 そのあと話題は中華料理に移り、「本業として出前に挑戦」する中華料理店「チャイナクイック」の手法が紹介されるが、これがまたおもしろい。「指定の時間に到着したデリバリーのお兄さんは、我が家の狭い玄関先で面の入った容器を取り出し、おもむろに保温ポットの中に入ったスープを注ぎ入れたのだ。ラーメンの最終調理工程を客先で行うなんて、いったい誰が予想しただろう。だがこのアイディアのおかげで麺はのびず、スープも熱いまま(p14)」。加えて、のびない麺の開発にも力を入れているとか。思わず手をたたきたくなる。

 牛乳デリバリーはヘルシー志向(p25)。もう廃れたろうとしか思わなかった牛乳の宅配が、じつは何年も伸びつづけているのだという。驚いた! 根拠のない思い込みは怖いですね。牛乳市場は、スーパーマーケットの台頭でいったん落ち込んだものの、宅配専用商品の開発、「高齢者狙い打ち路線」、牛乳を入れる保冷箱の普及、流通を担う販売店の近代化(早朝だけでなく午後や夕方の配達、顧客開拓から配達、代金回収、事務管理までのマニュアル化)などで巻き返したらしい。

 ちょっと寄り道になって恐縮だが、2007年の秋、中村航著の『星空放送局』(小学館)が刊行された。宮尾和孝さんのイラストがさわやかなミニ絵本である。手紙と月、星をモチーフにした3話構成のショートストーリー。その第1話に、牛乳好きの少女が、月の砂漠やモンゴルの平原で、恋人が奏でるギターの音色を聞きながら、牛乳を飲むことにあこがれる、というシーンがあった。
 こんなささやかな物語にも牛乳復活の流れが感じられる。といえばすこしコジツケだろうか。それはとにかく、このなかに

何かを届けるって、とても素敵なことですね。 何かを届ける人に、私もなりたいです。

という心の声を見つけ感動を誘われた。3つの話に共通するのは、「願い」を届けること。じつはこの第1話、つぎの第2話とともに、3つめのラストストーリーにもかかわっていく。「願い」はどう届くのか? ジブリアニメの「魔女の宅急便」もそうだが、なにかを「届ける」という行いは、そのこと自体に、思わぬドラマが潜んでいるようにも感じられる。併読をお勧めしたい。


3 生活系デリバリー

 さて、つぎの生活系デリバリーでも、目の覚める例がつづく。
 たとえば、洗濯物を特別のバッグに丸ごと詰め込み、時間を指定し渡すだけで、洗って乾かし、たたんでくれるというサービス(p45)や、たった2時間で、キッチンなりバスを隅々までクリーニングする「お掃除のデリバリー(ハウスクリーニング)」(p57)もある。ハウスクリーニングの代表は、ダスキンと住友不動産とのことだが、これをじっさい依頼すると、こんな感じになるという。

プロ仕様のスポンジやぞうきん、ブラシを駆使して、これまで私が「なかったことにしてきた」コンロ奥の汚れをはじめ、油の飛び散ったキッチンを磨き上げていく。そして、二時間後(中略)。コンロの焦げ付きをきれいに取り除き、組み立て式の吊り棚を解体して汚れを落とし、排水口の中までピカピカである(p58〜59)。
 

たしかにこれでは「中毒」(住友不動産)になるかもしれない。
 似通ったものだが、後半にある家事代行サービスも頼もしい(p158)。当サービスをおこなうマエストロサービスコーポレーションでは、当初、独身男性を想定するが、いざはじめると共働きの夫婦、それも水周りの掃除が大多数だった。一方、同業のアールメイドでは、水周りに加え、「リビングや玄関の掃除・整理整頓」が主力のせいか、「マンションを新しく購入した共働き夫婦の利用がもっとも多い(p161〜162)」という。買ったときのきれいな状態を維持したい、週末が掃除だけではイヤ、といった声に対応している。

 小売店の参考にひときわなりそうなのが、家電の大手チェーンに囲まれ窮地に陥った家電店、「でんかのヤマグチ」(町田)の危機突破策だろう。ポイントは、10年掛けて、粗利益率を10%アップし35%まで持ち込もうとしたことだ。そのため目指したのは、安売りではなくその逆の「高売り」であった。アフターケアの充実に方針をシフトさせ、「細かい要望に応えながら市価よりもやや高めの薬売りよろしく、絞り込んだ優良顧客を相手にモノとサービスのデリバリーを充実させていった(p126)」のである。

 ハイビジョンに力を投入、小さいテレビをサービスするといった大胆プロモーションを含め、初期設定、再設定と、なにかあれば即日対応をモットーに、「御用聞きする電器屋」としての信頼関係を築いた。その結果、8年目で目標を達成した。この粘り強さ! ハイビジョンの販売数にいたっては日本一とか。他方、進出した家電店は、閉店に追い込まれたらしい。ちなみにパソコンは、この店で売っていない。低粗利だからである。
 この事例にからんで、宅配便を利用したパソコン修理サービス、レノーブの仕事も紹介される。ダンボールを持ってくるクロネコヤマトのパソコン宅急便を利用すれば、箱がなくても使えるところがいいという。著者は、その延長でこんなふうに訴える。

メーカーや店に至らない点があれば、それを補うサービスあり。既存の店やサービスに不備な点があれば、ユーザーの立場に立ったサービスが新たに生まれて支持される。安さだけをウリにする店が増えれば、そこに飽き足らない消費者も出てくる。独善的で似たり寄ったりの商売がまかり通る世界は、新たなビジネスの可能性が広がる世界と同義語だ(p131)。
 

よくよく吟味したい一節ではある。

(次号につづく)

《筆者紹介》

青田恵一氏(あおた けいいち)

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店――V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス――進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店―メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策―」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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青田恵一氏の「新・お店のバイブル」バックナンバー
青田恵一氏の「お店のバイブル〜旬な1冊、効く1冊〜」バックナンバー

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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