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連載コラム

第4回「未知なる大陸、デリバリー世界の魅力を伝える! 三田村蕗子著『お届けにあがりました!』(ポプラ社)(2)」

[ 2008年4月3日 ]

(前回より続く)

 治療食デリバリーも注目されていい。
 高血圧や糖尿病などの生活習慣病で悩んだり、いつかは、とおびえる人も少なくないだろう。そんな現代人に朗報なのが、この治療食デリバリーである。現在、「病状改善に役立つ食事をデリバリーする会社が増えている(p190)」が、ファンデリーという企業は、さらにもうひとつ手を加えた。

栄養士が治療食を配達し、その場でカウンセリングして栄養指導を行う。業界初「栄養士のアドバイス付き」デリバリーなのである。対象は、糖尿病、高血圧症、通風、高脂血症、腎臓病の疾患を持つ人で、週に一回、一週間分(七食以上)の治療食を配達している(同)。
 

名づけて「カウンセリングデリバリー」という。
 カウンセリングの時間は15分から20分だが、一食700円という価格を考えると、「一人に何時間も割いていては、配達件数がこなせない」のもたしか。この背景には、治療食は制約が多く、作り手に負担が掛かることや、そのしんどい食事療法から逃げたい心情があるという。そうなると、病に敏感な人や、現に伏せている方には、とりわけありがたいサービスといえよう。

 花を贈る話には"浪漫"が感じられる。
 バブルのころ、法人需要は7割ほどを占めていたらしい。「花の法人需要」と聞くと、もしかして企業の受付か応接室の花? と首をかしげるが、そうではないみたいだ。その真相は意外なところに潜んでいた。なんと「会社の経費を使って、中年の営業課長や部長あたりが飲み屋の女性に花を贈るケースが本当に多かった(p203)」のだとか。にわかには信じがたい話だが、当の花屋さんがいうのだから、まるっきりの虚構ではないだろう。その分いまは、売上が落ちたが、当時とは反対に「心を込めた贈り物が増えたから」「やりがいという点ではいまの方が上(p202)」という。
 だが街の花屋さんをめぐる環境は厳しい。「法人需要」が減っただけでなく、商店街はさびれ、大型スーパーやホームセンターが安い花を扱ったりで、店をたたむ例が目立つ。ところが救世主が現れた。インターネットである。この新しい手段によって「花を贈る行為がぐっと身近なもの」になった。ことに男性層の利用が急増したそうだ。花屋企業の花大が取り組むネットショップ「花急便」の利用者は、男女ほぼ半々である。

リアルの花屋での男性客の少なさを考えるとこの男性比率は驚異的だ。想像してみてほしい。花屋で花束を買い求める男性客の姿を。悲しいかな、下心むき出しのオヤジしか頭に浮かばない人が多いのでは(p204)。
 

そう露骨にいわれると、男子たるもの若干の反発がなくもないが、これまで花を買ったことなど皆無に近いので、かすかな反発心もたちまちしぼんでしまう。だらしないといえば、誠にもってだらしない次第。だが著者は、すぐに、そんな哀れな男性陣に助け舟を出す。

彼女や妻に花を贈りたいという気持ちはあっても、照れくさくて行動に移せないシャイな日本人男性は依然として多い(p204〜205)。
 

その一例となるだろうか、本書と同じ出版社、ポプラ社刊行の『立花隆秘書日記』(佐々木千賀子著 2003年)には、こんな記述がある。

日常的に花を贈ることに慣れていない男性編集者たちが、不器用な手つきで可愛い花かごを抱えて現れた。照れくさそうに花を手渡す一瞬、彼らは臆病でシャイな少年に戻った(p266)。
 

これは、ノンフィクション作家、立花隆さんの秘書を務める著者が入院したさい、多くの編集者が見舞うシーンに出てくる。もしかすると、花を贈る男性は、押しなべて皆「シャイ」になってしまう、のかもしれない。
 もっともそういう「シャイ」な男性の行動も、インターネットの登場で様変わりした。

ネット経由ならば男性は抵抗なくどんな花でも注文できるし、持っている現場を人に見られることもない。どんなに業界あげてキャンペーンを展開しても効果薄だった「男性から女性へのフラワーギフト」定着を、ネットはやすやすと成し遂げてしまった(p205)。
 

そのあとでいくつかの事例をあげつつ、こうまとめる。

義務やつきあいに支えられた法人需要はまあ別として、そもそも花は楽しい気持ち、幸福な気持ちの象徴なのだ。お仕着せや慣習、義務感からではなく、故人も含めて贈る相手のことを考えながら花を選び、花を贈る。ネットを使った新しいデリバリービジネスは、花を買い求める本来の意味を実感させてくれる(P210)。

4 イベント系デリバリー

 イベント系デリバリーも少なくない。
 この分野をあまた発掘したことが、本書のまさに画期的な点といっていい。とりわけ、ホームパーティから講習会まで「客先に足を運び、レストランと同じようなソムリエによるワインのサービスを提供する」出張ソムリエ、北九州市は寺井剛史さんの話が興味深い(p73)。

専属ソムリエとしてホームパーティの趣旨や目的、料理の種類や味、メンバーの嗜好を事前にヒアリングした上で、最適なワインを届けてくれる(中略)。要望があれば、追加料金で給仕のサービス、ワインのレクチャー、料理の準備や片付けの手伝いのほか、予算に応じた料理のデリバリーにも応じている(p75)。
 

仲間うちのワイン講習会やテーブルマナー講習会の講師なども守備範囲になる。
 いまや9割のビジネスマンが経験しているという「男おやつ」も目を引く現象だ(p99)。「男おやつ」とは、仕事の合い間におやつを食べることを指す。従業員は、事務所の専用ボックスから好きなものを取り出し、代金を納める。デリバリースタッフは、週に1回ほど、商品を補充し現金の回収をするだけ。「富山の置き薬の現代版」という。

 販促効果を上げるため、演奏家、マジシャン、大道芸人、占い師、似顔絵師、ネイリスト、カラーコーディネーターなど、「多彩なエンタメ系職人を複合的にデリバリー」している企業、グリーンリビングもおもしろそう(p116)。クライアントの要望を聞くうちに、ヨガやエステのリラクゼーション施術者を含め、登録スタッフが2000人を超えたんだそう。

自動車メーカー主催のパーティに、演奏家やネイリストのほか、ジャグリングしながらカクテルを作るバーテンダーを派遣するという芸当が可能なのは同社の最大の強み。集客力が高いイベントを模索するクライアントにとっては、さぞかし頼りになる存在だろう(p117)。
 

そのほかにも、美容師の出張サービス、栄養士のアドバイスデリバリー、体育専門の家庭教師などなど、きりがないほどの例がつづく。ここまでくると、潜在ニーズの総集本といっても過言ではない。こんなサービスがあったのか、と目からうろこがもう何枚も落ちてしまう。


5 なぜ、なんのためのデリバリー?

 まとめのエピソードは最後を飾るにふさわしい。
 東京・世田谷区の下高井戸商店街で、高年層を意識して、お店24店の商品でカタログを作り、ファックスと電話で受注、次の日に配送する「しもたか宅急便」をはじめた。料金は300円。ところが予想に反し、「客の反応は冷めていた(p232)」。元気なうちは歩いて買い物に出掛けたいからである。そこで、商店街での購入商品を、当日中に届ける新たなサービス「しもたか手ぶら便」をスタートする。これが当たった! 受付所にショッピング客が集まり、商店街との接点ができたのだ。
 これらを踏まえ、本書は以下のように結ばれる。

下高井戸商店街の例が示すように、「自分の足で買い物できる喜び」「元気に買い物できる幸福」について私たちは少し考えた方がいいかもしれない。どこに出かけ、何を買い、何をデリバリーしてもらうのか。何の手間を省き、何に手間をかけるのか。自分の価値観や生活スタイル、さらには健康状態と照らし合わせながら吟味して選び取った時、旧態依然の出前から脱却したデリバリービジネスはより価値を増すはずだ(p235)。
 

そして、最後の最後に「さて、あなたは何をデリバリーしてもらいますか」と問題提起する。

 こんなふうにフレッシュな観点なら、どの店でもデリバリーに挑みたくなるにちがいない。本書を紹介するのは、業種によっては、店づくりと並行して、このようなデリバリービジネスを複合できないか、と思うからでもある。配達とか出前といった従来イメージとは異なり、かつ、お客さまのニーズに沿うものなら、固定客化に結びつく可能性も低くはない。この本は、そんな未知なる大陸といえるデリバリーの魅力を、たっぷり伝えている。ぜひ一度ご堪能あれ!

《筆者紹介》

青田恵一氏(あおた けいいち)

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店――V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス――進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店―メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策―」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

バックナンバー
青田恵一氏の「新・お店のバイブル」バックナンバー
青田恵一氏の「お店のバイブル〜旬な1冊、効く1冊〜」バックナンバー

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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