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連載コラム

第8回「みずから経営する"モデル店"の成果が結実! 『小さなお店でガッチリ稼ぐ法』(2)」

[ 2008年8月1日 ]

(前回よりつづく)

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 さて、お店の経営を左右する、価格についての基本スタンスは、以下のようなものだ。

お客様にとって、提供される商品やサービスに見合う価格であればいいのです。価格をいくらにすれば購入してもらえるかを考える前に、お客様に本当に喜ばれるように商品やサービスの質を上げてから、値付けするという考え方もある(p101)。

 このスタンスを踏まえ、年配者向けに至れり尽くせりのサービスをおこなう旅行会社「ベタベタサービス」の事例を示し、「商品に付加価値をつける(p111)」ことの重要性を指南する。付加価値とは「お客様の潜在的なニーズを推し量ったものであるべき(同)」ともつけ加えているが、このくだりは何度でも読み直したい。
 112ページからは、キーワードのひとつ「売上構造表」に触れられる。ここは学びどころ、正座するつもりで、じっくり向かいたい。
 これにからんで、数字の重要性が教示されている。お酒を飲めない客にも来てもらう低アルコール商品の開発、料理がなくなったころに出す100円メニュー(「あと100円作戦」)などで成功させた居酒屋を参考に、身近な数字でアイデアに結びつけようと呼び掛ける。売上を1000万円アップさせる話を、1日ひとり100円とわけて目標を掲げた例から、

1000万円という数字は、普通の人には大きすぎて実感できません。それなら、身近に感じられるまで、数字を小さくしてみるのです。そうすることで、その金額を上げるアイデアがたくさん浮かぶようになります(p122)。

とコーチする。
 商品力の章でも鋭い指摘がつづく。「『ウチだけ』というのを持っていると、人をたくさん、しかも遠くからでも呼べる(p127)」「客の立場からすると、どれかの商品を示して欲しいというのが本音です。それではじめてその店を認識できるのですから。『これだけはどこにも負けない』という商品があれば、お客様としては『なるほど』と納得します(p150)」「仕入れた商品になんらかのオリジナリティをつけないと、他店との差別化ができず生き残っていけません。ここでいうオリジナリティは、商品に何か景品などをつける方法と、サービスをつける方法があります。コスト面や人の手がどれだけかかるかを考えて実施しなければなりません(p152)」といった盲点を突くものである。

3 販促力の指南

 販促力をめぐる記述も体感的で読ませる。こちらも本書の柱なので熟読してみよう。著者は、学生時代に早くも英会話教室をはじめている。それから30年、「心に届くチラシ」を考えつづけてきたが、そのきっかけになったエピソードが披露される。

あるとき、チラシに私が英会話教室を始めたいきさつを載せました。すると、いままではなかなか鳴らなかった受付の電話が鳴ったのです。説明会をしてもたくさんの人が集まりはじめました。一風変わったチラシを出す人間を見にきただけかも知れませんが・・・。とにかく私が自分で書いた部分は読んでくれたのです(p161)。

で結論づける。

チラシはお客様への手紙です。小さな店が大型店に対抗できるのは、経営者自らを売ることしかありません。チラシの中で経営者が自分の声を載せることで、お客様がそれに共感し信頼してくれます。 商売は、人から人へと商品またはサービスが渡っていくもの。商品は「温かい心」という真綿で包まれてこそ、お客様は購入したことに心から納得するのです。温かい心は「お客様との信頼」で成り立ちます。売る人間の顔が見えるチラシをお客様に届けたいものです(p163)。

 心を打つ美しい文章である。そのあとで、「狭い分野で1位を取る」「徹底的にアピールする」といったマスコミ活用法の秘訣を述べてから、テーマは「お客を振り向かせる販促とは」に進む。ここで作者は、販促の基本的な考え方を明らかにする。

店は空気と同じで、長い間その場所にいると、あって当たり前という感覚になってしまいます。常にお客様に店の存在をアピールしていかなければ忘れ去られてしまうのです。 販促の最大の目的は、商品をより多く販売すること。そのためにさまざまな媒体を使ってお客様に来店や購買を促したりするのです。しかし、その元々の目的というのは、お客様に商品や店自体の存在や価値を"知らしめる"ところにあります(p168)。

 販促が必要不可欠という背景に「小売店では、一般に1年で約3割のお客様が流出する(p172)」という危機感があることは、承知しておきたい。
 このあとは各論に移っていくが、販促には「有形」と「無形」があるという。有形とは、POP、チラシ、ハンドビラ、ニューズレター、店頭看板、ポスターで、無形はスタンプカードやポイントカードなどのこと。これらには異なる目的があるのに、取りちがえて使う店が少なくないそうである(p169)。
 たとえば折り込みチラシの目的は、あくまで「来店促進」であり、商品販売に焦点を合わせると、どうしても「バーゲンハンター」を呼び込んでしまう。ポイントカードなどは「再度の来店を促す」もので、ポイントをつけるとき「ひとこと付け加えるかどうか」で効果が大きく変わるという(p170)。本来の目的に沿った使い方を考えなくてはならないのである。

 各論では、とりわけPOP、ラッピング、携帯メールについて詳述される。
 POPのポイントは、「お客様に訴えたいこと、お客様にとってメリットのあること」つまり「その商品を買う理由(p170)」を書くことだ。これを「あなたがそれを目にしたときに、手に取りたくなるような言葉(p171)」とも表現する。
 お客さまが店に入って、POPを見るのは、ほんの0.2〜0.3秒とか(p183)。したがって、これをより有効とするには、まさしくその創り方が問われる。このPOPの創り方は、お客さまの本音のつぶやきを文字化する「つぶやきPOP」と、お得情報をささやくように伝える「ささやきPOP」のふたつがある(p183〜185)。非常に実践的な指導だが、詳しくは本書をご参照いただきたい。
 ラッピングの重要性にも話を向ける。これを武器にしているお店はどれほどあるかと問いながら、「ラッピングでお客様を喜ばせる方法」を伝授する。注目すべきその答は、177〜178ページに。
 メール販促についても具体的に描かれる。携帯電話重視、タイムサービスの有効性、効果的なアドレスの集め方などが、メインテーマである(p179〜182)。ここらは相乗効果も図れるので、一気に読み切ることをお勧めしたい。

4 まとめ

 企画力の章は、マーケティングというものを、これ以上ないくらい、わかりやすく解説する。店づくりもマーケティングである以上、その基本的考え方はマスターしておきたい。とくにこの部分は、マーケティングってこんなに難しいのか、と頭を痛めている方には、両手を広げて歓迎されるだろう。
 つづいてコミュニティ力が説かれる。これこそ本書のまとめといってよい。
 話の舞台は、ドラッグストアの激戦区にある、20坪ほどの薬屋さん(p216〜220)。この店のターゲットは50代以上のお客さまで、得意テーマは「時間をかけた健康相談」である。毎月、ニューズレターを発行したり、毎日、ケーブルテレビに、15分の健康番組を提供し、「季節に合わせた健康の話題や予防法など、ていねいにわかりやすく解説(p218)」したりして成功している。

 ここで本書は、ニューズレターなどの「創客ツール」を駆使して、「一見客」を「毎日来る客」にすること=顧客創造(創客)の大切さを訴え掛ける。創客には、「創客ツール」の前に、そもそもお客さまが「店に来たくなるもの」、たとえば、「ご主人の人間性、奥さんの人柄、楽しい店づくり」といった「創客ソフト」も欠かせない。著者はこれを、かくれんぼを例に、こんなふうに解説する。

かくれんぼで仲間を集めるときには「かくれんぼするものこの指とまれ」と人差し指を立てます。いまからやろうとしている「かくれんぼ」が、楽しそうであればあるほどたくさんの仲間が集まります。 楽しそうな「かくれんぼ」にあたるのが「創客ソフト」で、友達が握りにくる「人差し指が「創客ツール」なのです。この二つの要素で「顧客創造」のしくみができ上がります(p222〜223)。

 つまり、店の魅力である「創客ソフト」(かくれんぼ)と、それを伝える「創客ツール」(人差し指)、このふたつを合わせた「創客のしくみ」を、またその延長で、店を核にしたコミュニティを作ろうと提唱するのである。まさにその通り! と思わず膝を打ちたくなった。
 最後に自店でのニューズレターの体験を、さらっと紹介しているが、じつはこれが少なからず感動的だ。そのうえで記す。ニューズレターに「載せた本は間違いなく売れていく(p241)」と。ということは、ニューズレターによって、自店だけのベストセラーを創ったのである。そしてここで最終結論が導かれる。

大型店と同じ商品を扱っている小さな店としては、「商品を売る前に店を売れ、店を売る前に自分を売れ」ということを実践しないと生き残れないのです。そして、小さな店だからこそそれが可能なのです(p242)。

 各章の終わりについているマーケティングならぬ、儲けティングシートは、自店の経営を実践に移そうとするとき、その橋頭堡になるだろう。経営目標から、内部環境分析、集客方法、知識・情報の収集発信力、将来ビジョン、お得意さん10人のプロフィールまで、自店のものを書き記すことで、本書は、他の本ではしにくい自己診断を断行できるのである。ぜひとも試されたい。

 こんな一節も見つけた。

私は自分の店で、誰に気兼ねすることなく創客方法を実験・検証しています。失敗もたくさんありますが、うまくいったことも数多くあります(p222)。

 このことば通り、著者は、自店で仮説と検証を繰り返しながら、自信のある原理だけを本書に圧縮し、コンパクトにまとめ上げたにちがいない。そういう意味でこの1冊は、ノウハウ書のスタイルを取りながらも、お店への愛にあふれた原理の書といって過言ではない。もちろんその原理は、「小さな店」だけでなく、どんな店にも有益となろう。しかも、大いに! である。

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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