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連載コラム

第9回「店づくりの原点と未来を求めて----「お店のバイブル」コレクション(1)」

[ 2008年9月2日 ]

 新刊、既刊を問わず、私が、これまで小売業の本を読んだのは、いったいどれほどか、もはや見当もつかない。そのなかから、心に残ったいくつかを、今後、ときどきは、短い形ででも紹介したいと考えている。
 第1回は既刊本から選んだ。そのため、出版社で品切れ中の作品もあったが、だからといって、せっかくの名著を書評できないのは残念至極。そこで、あえてご案内する次第である。読者の方々には、図書館や古書店などでの閲覧や入手を、ぜひご検討いただきたいと思う。

渥美俊一著『商業経営の精神と技術』(商業界 1988年)

 著者の渥美俊一氏がなにかに書いていた。
 自分のライフワークは、本格的なチェーンストアを作り上げることである、と。だいぶ前のこととはいえ、この文章に触れたとき、正直いって、氏のあまりの大きさに圧倒された。そういうライフワークもあるのかと、いささかショックを受けたのだ。その後も、このような志を持った人が日本にいたとは、という驚きは、容易に醒めなかった。
 本書の帯には「商業経営指導の第一人者が書下ろした商業復権の思想と急成長への王道」とある。このなかの「商業復権の思想」というキーワードに注目したい。

 序に本書の成立ちが記される。恩師である倉本長治氏の『商店経営の精神と技術』(『倉本長治著作選集』第2巻所収 商業界絶版)の現代版を意図したものであるという。だがその前に、30年にわたるコンサルタント経験をまとめた提案だとも述べている。ここからは、師の教えを血肉として、ひとつの道を構築したことがうかがえる。
 加えて「あとがき」における信念の吐露が感動を呼ぶ。本書で明らかにしようとしたのは、「商業経営へのたくましい志と、それを実現するための定石(じょうせき)」である。これらは、先人たちの血と汗の結晶で、いわば「人類文明の一部を形づくる経験法則集」だから、「ここからしか、客数の増大も、生活への貢献も生まれ出てはこない」。さらに、本書は行く手を眺望する手引書に過ぎないと控えめに記し、そして最後に、一緒に、走り出そう、懸命によじ登っていこうと呼び掛けている。
 構成は6部にわかれる。商業復権への道、ビジョンと経営戦略、商品と仕入れの原則、店舗の本質、成長の経営数字、組織・管理・教育。充実の一書である。

石原靖曠著『実学入門 だから客が集まる小売業の鉄則』(日本経済新聞出版社 2004年)※品切れ

 店は「お客のため」にある。
 帯のキャッチフレーズだ。副題は「目指せ!ソリューションストア」。著者は小売業の現状を憂いていう。メーカーの生産システムを取り入れたチェーンオペレーションによって、作業の標準化や生産性の向上を図ってきたが、店そのものをおろそかにして、本来の顧客志向を忘れてしまった。これでは本末転倒ではないか。いまこそ「お客がその店で何を得られるのか」を追求するという原点に還らなくてはならない、と。
 日本でもアメリカでも、大企業チェーンが容易に勝てない地方の小売店があるという。こうした卓越した店のマーチャンダイジングから、価格政策、オペレーションと情報システムの活用、店舗政策と売場づくりなど、その機能を明らかにしたのが本書である。
 これらの政策を通して、従業員・現場の力を生かす組織づくり、CS(顧客満足)を志向するソリューションストアを実現しようと提唱する。日米の優良小売店も取り上げ解説する。日本では、ヴィレッジヴァンガード、ショップ99、東急ハンズ、ヨドバシカメラなどが取り上げられている。
 最後にその鉄則が8つ明かされる。

1 小売業の成功は、大企業になることではない。小さくてもお客の方を向いた「良い小売業」になれ
2 小売業はお店がすべて。集荷やシステム、高い生産性は、お客にとって何の価値もない
3 従業員が生き生きと働き、知恵を出せる風土をつくれ
4 単なる物売り業から、ソリューションストアへ進化せよ
5 これまで効率を高めると思っていたことの反対側に、高い効率はある
6 顧客ターゲットを確定し、新たな業態を開発せよ
7 マイノリティ(少数派)をしっかりつかめ
8 チェーンストアの時代から、インディペンデントリテーラーの時代へ

 なんども熟読したいところである。

島田陽介著『これが流通の新常識です。』(インデックス・コミュニケーションズ 2003年)※品切れ

 いま「経営の常識」が大転換している!
 これが、島田陽介著『これが流通の新常識です。』(インデックス・コミュニケーションズ 2003年)の帯にあるキャッチフレーズだ。だがこれは表側ではなく、裏側に、挑むように大きく書いてある。では表側にはなにがといえば、これが読者への挑戦状なのだ。「さて、このうちどれが古い常識でしょうか?」と問題文があり、その下に以下の6つの質問が並べてある。では、せっかくなので考えてみよう。

●「プロジェクトX」流のモノづくりこそ、不況突破のカギだ
●トレンドに敏感であることが成功の決め手
●ニッチ(すき間)を狙えばライバルが存在せず、売上はあがる
●ディズニーランドや海外旅行こそ、ほんとうの生活の楽しみ
●"安くて良いモノ"は、立派に「価値」のある商品である
●価格の安さがすべてである

 この答はすぐ下側に、小さな字で書かれている。「実は、このすべてが『旧常識』。エエーッと思ったあなたは本書を必読!」と。そうなると、いくつかに「エエーッと思った」私は、まぎれもなく読むしかないということだろう。

 読み終わると、なるほどそうだったのか! とうなずける。
 著者は「はじめに」で読者に警告を発する、というか脅しを掛ける。いま流通業の現場で大変なことが起こっている。それは、合併・買収、外資の進出、倒産ではなく、もっと具体的なことだ。同じコトバの意味や経営の基本的考え方、つまり経営の常識が変りはじめているということである。そういわれると、そんな気もしてくる。では、そういうことがなぜ起こるのか?
 理由は4つあるという。著者の主張に耳を傾けてみたい。その1は本質的な転換である。価格訴求から価値提案へ、時代は変った。「もしかすると、あなたの常識は、三〇年以上前の、すでに有効期限の切れた、常識かもしれない(p2)」。その2は、現場での常識が変ったということ。つまり、小売業の方向は「大衆実用品ではなくエブリディなライフスタイル商品を売る」ように変化したので、これまでの正しい常識は間違った常識になる。その3は、企業の力は、もはや売上でも店の数でも安売りでもない。個々の店でカスタマーを見つめ判断できる人を増やすことと、店舗での判断を品揃えに生かすシステムづくりである。その4は、新しい組織は売場から作らねばならないと述べ、こうつづける。「パート、アルバイト、新入社員から『新しい常識』を学ぶことが重要なのです(p4)」と。
 ちょっと行き過ぎでは、と思われる方もいるかもしれない。そうかどうかを判断する意味でも、本書を一読していただければと思う。

鈴木豊著『さよなら小売業! 四重奏経営でライフスタイル提案業を目指せ!』(PHP研究所 2004年)※品切れ

 書名に惹かれた。
 ----さよなら小売業! いささか不安をかきたてるタイトルである。気になる。小売店は消滅してなくなるのだろうか? どういう意味なのだろう、そう思ったときには、もう手が伸び、ページをめくっていた。その趣旨は、はしがきに詳しい。
 外資の進出、価格競争、同質化競争などの環境分析のあとに、こうつづく。

こうした熾烈で過酷な競争環境から抜け出し、自己のアイデンティティを確立することは小売業が生き残るための重要な鍵である。そのためにも自らを小売(物売り)という狭い殻に閉じ込めてはならない。いまこそ勇気を出して小売業という伝統的な規格社会から脱却すべきなのだ。そして目指すべき方向こそがライフスタイル提案業である(p1〜3)。

 もちろん小売全滅ではなかった。これなら、ねらいはよくわかる。著者をみると鈴木豊氏であった。氏の著書ならほとんど読んでいる。小売業を描くその筆致はいつも熱い。その熱っぽさにひかれ、ついつい読了してしまう。

 はしがきには、本全体の見取り図となる重要な図表がある。これは、ライフスタイル提案業の核となるのが、「四重奏経営(カルテット・マネジメント)」が一目でわかるものである。本書のエキスといっていい図なので、ここはじっくり眺めてみよう。
 大きくは4つにわかれる。バス、ピアノ、バイオリン、そしてトランペットである。まだこれだけでは、よくわからないが、一つひとつは別なものでも、同じ曲を演奏することで、ハーモニーを出さなくてはならないのだろうとは想像できる。それがこの比喩の卓抜なところである。
 それぞれは以下のような意味を持つ。

バス→効果の追求→知的生産性の向上(人時生産性の採用)
ピアノ→感動体験の場→生活シーンのカテゴリー編集(ライフスタイル・アソートメント)
バイオリン→満足の提供→もてなし精神の発揮(ホスピタリティ・マネジメント)
トランペット→利益の還元→信頼関係の形成(リレーションシップ・マーケティング)

 各項の冒頭に、有名人の名句や格言が掲載されるが、これが意外に、思考や感性を磨く訓練になる。たとえば「虹が見たければ雨を我慢しろ!(ドリー・パートン)p17」「雑草とは何か? その美点がまだ発見されていない植物である(エマソン)p107」「いい食事をすると、みんな仲良くなるのは不思議なことである(サミュエル・ピープス)p126」「間違いと失敗は、我々が前進するための訓練です(チャニング)p163」「有能な者は行動するが、無能な者は講釈ばかりする(バーナード・ショー)p167」というような教示には、いろいろ考えさせられた。
 いずれにせよ、本書を読み込むことで、個々の店が「さよなら小売店」といわれないようにしたいものである。

本商工会議所・全国商工会連合会編『販売士検定試験ハンドブック』(株式会社カリアック《商工会議所福利研修センター》)

 それは、私が売場の仕事を一通り覚えたころだった。
 店の業務について、少しでも勝手がわかると、自然、店づくりや売場づくり、陳列といったものに興味が湧いてくる。そしたらいつしか、近くの店や一流店を見て回るようになった。で、回るに伴って関連する本も読みはじめた。
 ところが、いったん読みはじめると、店の本というのは、たまげるほどに数多いのだった。新刊だけでも、それはもう次々と刊行されてくる。これが月に数冊、ときには10冊以上もあり、ひところは、なんと、それを片っ端から読みあさった。われながら、マニアというかオタクというか、無謀以外のなにものでもなかったと思う。そのあと、徐々に絞り込んだが、それでもとうてい追いつかない。眠る時間は削られるし経費は掛かるし、これはもうたまらないと悩みつつも、読書意欲はなぜか衰えない。そこで考えついたのである。なにか一冊の本に、バーンとまとまっていないか、と。
 そしてついに探し当てたのが、日本商工会議所・全国商工会連合会編『販売士検定試験ハンドブック』(株式会社カリアック《商工会議所福利研修センター》)である。
 われながら意外な結末にあ然としたのだが、それにもまして成果もあった。この本のいいところは、小売業の基礎知識が、すべて網羅してあるということだ。とはいえ、なにしろ、販売士になるための由縁ある教科書だから、「楽しい読書」という訳にはそうそういかない。それでも売場のノウハウを体得中の身としては、砂漠の砂が水を吸い取るように、この本の多くを吸収したものである。
 そんなことから、詳しい紹介は差し控えるが、お店の「教科書」のひとつとして、当ハンドブックをお薦めしたいのだ。初心者はもちろん、ベテランの方々にも、基本を再確認できるため、それなりに刺激になるだろう。この点、店長クラスは1級、主任クラスは2級、売場担当レベルは3級と、それぞれの段階に合った3種のテキストがあるところは、重宝といってよい。
 もっとも、勉強するというスタンスに加え、生の店で戦いつつ、かつ、他の店を観察、つまりストア・コンパリゾンしながら参照すると、それこそ、血となり肉となるものとも申し添えたい。
 なお、この販売士検定試験ハンドブックは、1級、2級、3級とも、小売業の類型、マーチャンダイジング、ストアオペレーション、マーケティング、販売・経営管理の各5冊にわかれている(ご注文は、株式会社カリアック《商工会議所福利研修センター》まで)。

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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