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連載コラム

すべての店長のバイブル――川崎進一著『新・店長の条件』(1)

[ 2013年4月1日 ]

 私が店長になったのは29歳のとき。
 それから本部に移動するまでの約10年間、店長の仕事に没頭した。新しい店ができると、その店の店長を兼任もした。私は京都の店の店長だったが、大阪とか東京の店とも店長職を兼任した。いまでは、いくらなんでも考えられないことであろう。


画像 店長時代は――誰もがそうだが――私も本当に様々な事態に見舞われた。突発的なことがしょっちゅう発生した。天井の一部が落ちてくる、雨の翌日に床が水浸する、信頼していたアルバイターが突然こなくなる、レジの清算額が10万円以上も合わない、レジ前でお客さまが急に倒れる、万引き犯を追いかけた従業員が思わず犯人を倒してしまう、店のスタッフがタクシーにはねられる等々、めったにないはずのトラブル、思わぬ事故がつづいたものである。

通常の仕事でも同様だった。いまでいう店長マネジメントの範囲でも、問題が続出した。そんなとき、「店長の仕事を、1冊の本でつかめないものか」とよくそう思った。しかしそのころ、店長というキーワードの入った本は、ほとんどなかった。しょうがないのでマネジメントは、店舗のマーケティング本とか、スポーツ監督のリーダーシップや野球コミックとか戦闘アニメから、経営についてはドラッカー博士の本から学んだ。いわばテーマごとに、ひとつずつ勉強したことになる。

だから、その後、店長の仕事を1冊にまとめたものが出はじめると、大いに重宝と感じられた。それから、店長本は時代とともに増え、大きな書店には数十冊以上揃えられ、棚1段を超えるまでになっていく。私はそれらを、片っ端からむさぼるように読みつづけた。
個々の店長本には特長があった。ノウハウブックもあれば、体験ものもあった。思いが込められているのも、そうでないのもあった。だがどの本も有益に思えた。このなかから1冊選ぶなら、どれになるだろう。
そう思うとき私は、内容の確かさ、業種や時期を超えた普遍性、事業所トップとしての店長業務に対する理解とそれに対する思い、そういう基準でみると、やはりこの本、川崎進一著『新・店長の条件』(商業界)になると考える。今回以降は、この一書を紹介して参りたい

1 本書について

著者の川崎進一氏のことは、2012年にご紹介した『店長のためのやさしい〈ドラッカー講座〉』の最後にも登場したし、この連載でも、同じ著者の『新・小売業経営の条件』(商業界)を、2010年10月から2011年2月にかけ、書評していることもあり、若い方でも当コラムをお読みの方には、なじみが深いと思われる。

 本書のねらいは、商業界サイト(http://www.shogyokai.co.jp/)における本書の紹介文章でわかる。

売業を取りまく環境は大きく変化しているが、小売業の原点「店はお客のためにある」は変わらない。変化する時代の中でそれを実現するための店長の役割と責任、部下を育てる店長の条件を説く。

 表のカバーを開くと、カバーの裏にある袖のところに「リーダーシップ力のある店長の資格」が、「本文より」という書き添えとともに10個あげられている。それは以下のようなものである。

① 結果に対しては、言い訳せず、責任をとる
② 部下の才能の芽を育てる人であること
③ 部下のやる気を封ずるようなことをしてはならない
④ 自尊心を傷つけてはならない
⑤ 部下と一対一で接触せよ
⑥ 問題にこだわりすぎると堂々巡りになる
⑦ 行動には基準をつくれ
⑧ 権限の委譲と自由放任的リーダーシップとは区別しなければならない
⑨ 部下のたるみに目をつむるな
⑩ 評価は慎重にせよ

実際、店長の仕事をつづけた身からいえば、それぞれ簡単なことではない。
たとえば①の「言い訳せず責任をとる」は、責任は取っても、少しばかりの言い訳はしたような気もする。②では、「部下の才能の芽」と「芽」という1字が入っていることに注目したい。人材は養成しようと努めはしたが、「才能の芽」を伸ばすという明確な意識があったかどうか、正直、確たる自信はない。⑦の行動基準になると、これはもうからきし駄目だったと思う。
 そういう反省を込めながら、この本を改めて読み進めていきたい。


 ところで本書のタイトルは「新・店長の条件」である。ここでふと考える。「新」という1字はなぜ入っているのだろうか。その理由は「まえがき」で明かされる。
 そもそもこの本は「商業界で既に一〇〇回を超えた店長セミナーの講義案を踏まえて整理したもの(p3)」である。著者は店長の本を執筆するのは3回目だという。そのときどきの、時代の要請に合わせ書き継いできたのだ。ではこの3冊目は、どういう理念で書かれているのか。「まえがき」はこう伝えている。

「店はお客のためにある」とは変わることのない公理である。変わるのは、この公理の下で、いかに新しい方程式を解くかという技術である。 その一つは、店長を主役とする顧客満足経営の強化である。 その二は、店の労働生産性の向上である。 その三は、部下の能力アップである。 その四は、これらのことをすすめる店長を援助する組織の確立である。 このような課題で三回目の「新・店長の条件」を執筆した(p5)。

 本書の刊行は1996年4月である。このころから現在につながるテーマ――CS(顧客満足)の強化、労働生産性の向上、店舗スタッフの能力アップ、店長への支援組織の確立などが、小売業の大きな課題になっていた。これらの課題にどう答えるべきかが、本書執筆の動機であった。
全体の流れは目次に表れる。以下に並べる目次をながめると、いま述べたようなモチーフが、ここに反映されていることが、一目でつかめてくる。

まえがき
第1章 店長の役割と責任
 店とは何か
 期待される店長の役割
 店長(ストア・マネジャー)の役割はどう変わってきたか
第2章 これからの新しい店長の役割とは
 店長の新しい地位と主要な役割
 事例・店長一日のスケジュール《時間管理のために》
第3章 よき顧客関係をつくりだすには
 店長は地域における会社の代表である
 顧客と店の信頼関係をつくりだせ
 顧客の心をつかむには
 お客の苦情から率直に学べ
第4章 組織管理
 経営組織の目的
 企業の体質や社風(企業文化)を決めるのは中堅幹部である
 労働生産性を上げるには
第5章 能率的作業の仕組づくり
 店内作業の指導者は店長
 マニュアルのつくり方、使い方
 ストア・マネジャーの部下の訓練ガイド
第6章 効果的な管理の仕方
 管理の意味
 最低必要な管理の方法
 自分で自分を管理するのが一番
第7章 店長のリーダーシップ
 リーダーシップとは
 日本的管理を変革せよ(一)
 日本的管理を変革せよ(二)
第8章 店長が行う訓練と教育
 現場における訓練と教育の責任者は店長
 教育・訓練計画の立て方
 パートの教育・訓練の新しい方向
第9章 売上げを伸ばし営業利益を確保するには
 売上げ一辺倒から営業利益重視へ
 収益性を高める陳列・演出のチェック
 現場チェックは収益のかなめ
 売上げ不振の原因をチェックして対策を立てよ
第10章 店の利益計画は店長(地区長)が立てよ
 店長の新しい地位と権限の拡大
 損益分岐点の理論と計算の仕方
 経費の削減法
あとがき

 はじめに、店長の役割を明らかにしたうえで、つぎに最も大事な存在、お客さまとの関係をいかに構築するかを考察する。そのあと店長としての仕事に、組織、作業、管理、リーダーシップ、訓練・教育、売上、利益といった切り口から、アプローチしていく。
 ついで、組織を回すため効率のよい作業を促し、そのためには上手なマネジメントとリーダーシップが不可欠、とりわけ人材を活用し養成する訓練と教育が要となり、その結果として、売上も利益も拡大していく。本書は、こういう流れで構成されていると思われる。
 

次回につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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