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連載コラム

第19回【ノートシリーズ1】小売店頭論の最高峰――流通経済研究所編『インストア・マーチャンダイジング 製配販コラボレーションによる売場作り』を解剖する(8)

[ 2009年8月6日 ]

前回よりつづく)

今回は、インストア・プロモーション施策の選択基準となる販促効果計数と、インストア・プロモーション施策の実施上の課題を研究したい。多様なインストア・プロモーションから、なにをどう選べばいいのか?このとき役立つのが「販促効果係数」というアプローチである。

 前回は、インストア・プロモーションの活用法を、単発販促からPDCAサイクルへ、カテゴリー動向の把握、実績・トレンド・売価反応などのブランドの現状分析という3つの観点から学んだ。今回は、インストア・プロモーション施策の選択基準となる販促効果計数と、同じく、インストア・プロモーション施策の実施上の課題を研究したい。

 これだけ多様なインストア・プロモーションがあると、誰もが、なにをどう選べばいいのか、わからなくなる。このとき役立つのが「販促効果係数」というアプローチである。これはいったいなにかといえば、文字通り、販促の効果を表す係数だ。「ある販促を実施した際の売上の伸びを示す指標(p144)」のことで、計画立案の策定局面で必要となる。 
一つひとつの施策は、つぎのような考え方に基づいて実行される。

販促効果係数が大きい場合は、積極的に該当販促を展開すべきだと判断できます。販促効果係数が小さい場合は、実施内容の見直しが必要になります。場合により販促展開を縮小し、定番売場の充実を検討します(p146)。

 ついで、販促効果係数の代表として、実施頻度が多い価格プロモーション、エンド陳列、チラシ掲載の各係数が紹介されているが、このうち価格プロモーションの係数に関しては、価格弾力性の問題がていねいに解説される。

 価格弾力性とは「売価を一定割合変化させたときの販売数量の変化の割合(p146)」のこと。要するに、安くするとその結果、どれだけ販売数が増えるか、である。これには法則のようなものがある。カテゴリーやアイテムによって効果が異なるのだ。たとえば、購買頻度の高いカテゴリーは価格弾力性が高い。消費者の価格感度が高いからである。

 また商品力の強いアイテム(よく売れる単品)は、通常の売上が大きいため価格弾力性は低くなる。ただし値引きによる売上の伸び率は小さくても、売上金額そのものは大きくなるとのこと(p148)。うーん、勉強になる。

 エンド効果係数とは「商品をエンドに陳列することで定番販売より何倍の売上が期待できるのかを示す数値(p148)」である。一方、チラシ効果係数とは「商品をチラシに掲載することで定番販売より何倍の売上が期待できるのかを示す数値(同)」のこと。これらは、アイテム単位、カテゴリー単位で計測される。さらにまたこのふたつの係数を掛け合わせ、同時展開の総合効果も算出できるという。

たとえば、ある商品のエンド効果係数は2、チラシ効果係数は1・6とします。この場合、エンドとチラシを同時に展開したときに期待される売上の伸びは3・2であると予測されます(同)。

 さらにこう補足する。「これらの指標を使うことによって、商品ごとに効果的な販促手法を選択することが可能になります(同)」。この例として、エンド向きカテゴリーはレンジ専用食品、チラシ向きカテゴリーはインスタントカレー、エンド・チラシ向きカテゴリーはインスタントシチューなどとあげたうえで、こう結論づける。

類似する調理品関連カテゴリーであっても、その効果に違いがあることが見てとれます。効果的な販促手法を選択する上で商品の特性を的確に把握することはそれだけ重要である(p149)。

 締めとして係数の算出についても触れられる。

価格弾力性、エンド効果係数、チラシ効果係数の3つを算出するときは、統計処理が必要になる。そのさい、エンド効果係数とチラシ効果係数の算出では、POSデータだけでなく「商品別の週次・日次特別陳列有無、チラシ掲載有無の情報」などの「売上に影響を与える要因データ」を指すコーザル・データも不可欠という。これらのデータから回帰分析で数値を出すのである(p150)。

 インストア・プロモーションの手法を知った。その方法も学んだ。つぎに教示されるのは、実施に当たって押さえるべき課題であろう。ここでは価格主導型について指南される。
 価格主導型のインストア・プロモーションは短期即効性を持つが、かといってやり過ぎると、定番価格に戻ったときに「損をした」気分に陥る内的参照価格(購買体験による記憶のなかの価格)のダウンというリスクを抱える。ここで「プロスペクト理論」という興味深い心理学が紹介される。これは

人間は同じ程度の損得であれば、得をしたときの効用の増え幅よりも、同じ程度の損をしたときの効用の減り幅のほうがより大きい(p151)。

という現象を説明する理論という。この考え方に基づき過度な価格主導型の危険性について、以下のように警鐘を鳴らす。

価格プロモーションが終了し、定番価格に商品の価格が戻ったときに、その価格で商品を購入すると損をしたという感覚が強くなり、定番時での購買が阻害されやすくなります。そのため、一度過度の低価格での販売を実施してしまうと、延々と同レベルの価格プロモーションを実施しなければならなくなるという事態を招く危険性が高まります。長期的な利益の確保のためには、過度の価格プロモーションは避ける必要があります(p151~152)。

 過剰な値引きは、ブランドイメージの低下をもたらす。ここでも「帰属理論」という心理学を踏まえた実験を例に引き、「大幅な値引きをすると、馴染みのないブランドに関しては、むしろ購入したいという反応が減ってしまう(p152)」と結論づけている。

 長期的な評価についても、厳しいコメントがある。プロモーション効果はあっても「販促終了以降にその向上分と同じくらいの売上落ち込みがあったとしたら、長期的にはよい結果と評価するのは難しい(p153)」。もっともである。
 ではなぜこういう現象が起こるのか? といえば、売出し前の購買先延ばし、買いだめによる需要の先食い、さらにカテゴリー視点でみると、需要の共食いさえ生まれるからである。このリスクが高い商品は、売価設定、特売価格の見直しが必要という(p154)。今後は、営業利益の最大化を念頭に、非価格訴求が重要と訴えられる。

カテゴリー視点で見た場合、顧客の取り合いという目的だけでなく、新規の顧客をターゲットとしてカテゴリーに顧客を呼び込むことを販促を検討する必要があります(p154)。
利益の最大化を評価の基準とする機運が高まっています。また、粗利だけでなく、オペレーションのコストを含めた営業利益の最大化を視野に入れた販促の計画・実施に関するニーズも高くなっており、生産性を念頭に置いた販促計画が今後は重視されることが見込まれます(p155)。
店頭で消費者が商品を購入するときに価格のみの訴求しかなされていなければ、価格にのみ目が向いてしまうのは当然です。現状の課題として、店頭において価格以外の要素を、より積極的に訴求することが重要であると考えられます(同)。

 世界不況下、価格戦争に突入している現在、ここの部分は熟読を重ねたい。

 以上で、インストア・プロモーション自体の骨格はノートし終わった。このあと本書は、スーパーマーケットやコンビニ、ドラッグストアについて、実践的に考える業態別の消費者購買特性とISM、インストア・マーチャンダイジングの適用対象として研究する、カテゴリーマネジメントでのISMの活用、今後を展望するインストア・マーチャンダイジングの展開とつづく。

(次号につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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