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連載コラム

第22回【ノートシリーズ1】小売店頭論の最高峰――流通経済研究所編『インストア・マーチャンダイジング 製配販コラボレーションによる売場作り』を解剖する(11)

[ 2009年11月9日 ]

前回よりつづく)

 今回は、本書解説の締めとして、インストア・マーチャンダイジングの今後を展望する。

(9) インストア・マーチャンダイジングの展開とまとめ

 最後のテーマである。
「展開」とあるが、むしろ、次ステップへの展望といえようか。
 はじめに店頭重視の必然性を復習する。インストア・マーチャンダイジングの重要性は「消費者の買物行動が多様化するにつれて、これまで以上に大きくなっていきます」とその意義を改めて訴える。店頭を意味する〝第一の真実の瞬間〟に着目し、成功した世界的企業を例に「店頭重視が必然」と説くのである。
 つぎに外国からの「日本の店には個性とか差別化の要素が見受けられない」という指摘が、背景を軽視して戦術だけに走ったという、インストア・マーチャンダイジングにも当てはまることを憂慮し、ここから戦略と戦術の統合に話が及ぶ。

店頭戦略が経営課題に直結し、経営層レベルでも店頭戦略への関与を求められるようになってくると、現場の戦術で対応するという考え方から一歩進展させる必要が出てきます(p228~229)。

 そのうえで、アメリカで成功している「トレーダージョーズ(スペシャリティストアとも呼ばれる)」というスーパーマーケットを紹介する。

お金をかけずに小奇麗な店舗を演出し、プライベートブランドを活用することによって、比較的低価格でよい品質のものを手に入れることができるお店です。都市部を中心に約300店舗を展開しています。 彼らはチェーンとして顧客ターゲットを明確に持っているといわれています。具体的には「大学の研究者など、インテリだが薄給で、旧式のボルボ(ブランド力もあり頑丈で耐久性がある)を乗り回しているような人々」といったようなイメージです(p229)。
品揃え面では、低価格を訴求しつつもオーガニック商品などのユニークな商品を提供しています。これは、ターゲットとする「他とは違うよいものにこだわりはあるが、お金はかけられない」という知識層に受け入れられるような商品を訴求しているのです(同)。

 ついで、消費者行動を全体像でとらえることを勧める。だから、現実の買物行動が「どんな意識によっているか」を吟味する消費者洞察(コンシューマー・インサイト)にも、注目が集まるのだ。「消費者洞察をすることで、消費者の意識により近づいた戦略・戦術の立案が可能になります(p230)」。さらに、その消費者洞察が、インストア・マーチャンダイジングと連動することで、大きな価値を生み出していく旨を記していく。大切な部分である。

 消費者行動の測定と分析は進化しているが、このテーマは、これまでのPOSデータ、客動線データ、アンケートやインタビュー調査から、インターネットによるブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などの言語情報、脳波の測定による感情の把握ができる「知見を抽出する取り組み」の進展というところまで広がっている(p232~233)。

 最後に論及されるのは、計画購買への対策である。非計画購買の誘発というのが、インストア・マーチャンダイジングのメインテーマだったが、計画購買への対策を採ることで、業績はさらに上げられる。その意味からこう述べている。

計画購買とは「ある店である商品(またはカテゴリー)を買う」という店舗来店前の意思決定です。「ある店で」という消費者の意思決定に自店舗が入らなければ、店に訪れることもなく、非計画購買も発生しないわけです。 お店を出せばお客様がついてきてくれた時代とは異なり、店舗間競争がますます激しくなっています。カテゴリーレベルで複数店舗を使い分けることも珍しいことではなく、特徴を持った店でないとお客様の支持を得ることができません。どのような特徴を持つかという店の戦略が消費者の計画購買にも大きな影響を及ぼすことになります(p233~234)。

 計画購買の成功例として、イギリスのテスコをあげ、顧客カードの導入、小売業自身のブランディング、自社商品の活用などをあげる。
 また、計画購買を促す方法として「店頭のメディア化」というキーワードを持ち出す。その一例が、「店頭に複数のテレビモニターを配置して、コントロールされたコンテンツ(映像)を配信する(p237)」インストアTVである。「ここにさまざまな情報や広告を載せて配信することで、広告効果を得ようとしています(同)」

 この話から、執筆者は、デモンストレーション販売などの「五感に訴えるマーケティング」を提案する。現在、POPやエンドディスプレイなど既存のものに加え、店内でのテレビ放映、液晶を搭載したカート、携帯電話を活用するプロモーションといった、視覚に訴える手法がトレンドであることを披露する。だが同時にこれらの限界をこう示す。

人間の視覚で処理できる情報にはおのずと限界があるため、新たなツールが普及すると店内で検索する商品やエンドディスプレイへの関心や注目が薄くなってしまいます。その結果、本来意図した相乗効果を得ることができずに視覚シェア争いが発生するといった事態が起こる可能性もあります(p241)。

 ではどうすればよいのか? 以下にこの答が教示される。視覚だけでなく、アパレルでみられる聴覚、食品スーパーでおこなわれる嗅覚も生かしてはどうかと。つまりこれこそが「五感に訴えるマーケティング」なのである。
 で最後の最後に、その五感マーケティングの代表格、デモンストレーションの重要性に触れる。

食品のデモンストレーション販売では、商品そのものを展示し(視覚)、調理し(嗅覚)、試食をおこなう(味覚)ことで多くの感覚に訴えかけることができます。食品以外の場合には、試用により触覚が刺激されることになります。デモンストレーション販売は、商品を試させたり味見をさせるだけのものではなく、戦略的に消費者へアプローチするためのツールとして考えるべきです。(同)。

 小売業のなかで、デモンストレーション販売の専門会社を作る動きを踏まえ「デモンストレーション販売を単純なプロモーション手段としてとらえるのではなく、長期的なブランド構築といった要素も考慮することが必要(同)」と結論づけている。

 本書の「まとめ」では、まず「インストア・マーチャンダイジングの基本理念は変わらない」ことが謳われる(p243)。
 つぎに、店頭マーケティングの重要性が高まるにつれ、インストア・マーチャンダイジングの役割がいよいよ大きくなっていくと重ねて書く。そのため本書では

● 店頭重視の拡大と戦略との統合化
● 計画・非計画購買の考え方に基づく戦術の進化

というふたつの方向性を提示したという。
 だがインストア・マーチャンダイジングは、顧客ニーズや競争状況の変化、技術進歩などにより変わっていく面もある。だが「消費者の行動に基づく店頭での戦術の体系化」については変わることはないとして、ゴールデンゾーンの例を出す。これは「平均身長の変化や、通路幅の変更、什器の変更」によって変わってくるが、その基本的な考え方をこう訴える。

数値自体よりも、その根底にある「お客様が見やすい位置、手に取りやすい位置は買われやすい=売上が高くなる」という考え方が重要なのです(p243)。

 顧客第一という基本は、確かに変えらないし変わってはいけない。そのうえで本書をこう結ぶ。

このように、本書で述べた内容の背景を理解しながら、店頭施策を見直すと違った光景が広がってくるはずです。流行に左右されない視点を持った上で、流行を取捨選択していくことが必要となるのです(同)。


 次回は、本書『インストア・マーチャンダイジング 製配販コラボレーションによる売場作り』の最終回。インストア・マーチャンダイジングの生かし方を総括する。             

(次号につづく)


新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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