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連載コラム

小売イノベーションの地平を開く『小売業の業態革新』(1)

[ 2009年12月22日 ]

小売業の業態革新

 

 こんな本を待っていた!
 そう思わされるのが、この本、石井淳蔵・向山雅夫編著による『小売業の業態革新』(中央経済社 2009年)である。経営書出版社の雄、中央経済社が満を持して放つ『シリーズ流通体系』全5巻の第1巻でもある。
 ちなみに他の巻は、第2巻が『流通チャネルの再編』、第3巻が『小売企業の国際展開』、第4巻が『地域商業の競争構造』、第5巻が『日本の流通政策』という、最近では例のない充実のラインナップなので、ぜひ通読をお勧めしたい。

1 本書の流れ

 本書『小売業の業態革新』を手に取って眺めると、帯のキャッチから意欲が伝わってくる。大きく「『流通学』誕生」、つづいて

日本における代表的な小売業態を取り上げ、その歴史的な生成過程に着目しつつ、業態(ビジネスモデル)が誕生して社会に定着し、発展・進化していく機制を解明する
 
とある。ではそれを現す内容は? と目次を開けば

第1章 わが国小売流通世界におけるパラダイム変化
第2章 商業集積
第3章 総合量販店の革新性とその変容
第4章 食品スーパーの革新性
第5章 百貨店の革新性とその変容―高級化の進行と効率の追求
第6章 ショッピングセンターの革新性とその変容
第7章 コンビニエンスストアの革新性―セブン‐イレブンの事業システムを通して
第8章 専門量販店の革新性とその変容―ドラッグストア業態に焦点を当てて
第9章 ネット型小売の革新性とその変容―楽天市場の変遷を通して
第10章 製造卸による小売業展開における競争構造の変化―SPAの源流
第11章 小売業態研究の理論的新地平を求めて

という組み立てであった。第1章の総論をはじめとし、商業集積、総合量販店から製造小売までの各業種のあいまに、ショッピングセンターが挟まれ、業態研究の展望で締められる。自然な順番といってよい。

2 本書の意図

 目次から考えると、この本は、戦後小売業のイノベーション史といえるかもしれない。あの小売企業はなぜ成功したのか、失敗したのかが、メスで解剖されるように、あるときは鋭利に、あるときは苛烈なまでに解明されている。でありながら結果として、小売のイノベーションとはなにか――この答に導くのがミソでもある。
本書の意図は、冒頭「『シリーズ流通体系』の刊行にあたって」と「はしがき」で明らかにされる(「はしがき」には、意図だけでなく、本書のエキスも凝縮されている)。
 いつの時代も変革期であるにせよ、とりわけ現在はその「真っ只中」という。「流通は新たな担い手を求め、彼らが流通の新しい地平を切り拓き、明日の流通をつくり出していく(p1)」。ついで変化のあり様をこう分析する。

1つの方向性をもった大きな変化というよりも、むしろ流通のさまざまな局面が相互に関連しあいながら大きなうねりを見せている。しかも、変化の局面の重なり合いはますます多様になるだけではなく、加速している(同)。

 この変化の「全容を理解するのは困難である」。だが「現実が大きく複雑なうねりを見せれば見せるほど、その大筋の方向性を俯瞰することの意義はますます大きくなっているはずである。このギャップを埋めるためには、最先端の研究者による共同研究がどうしても必要になる」。そこでその共同研究により「現実の大きなうねりに多面的に迫る」のが『シリーズ流通体系』刊行のねらいと打ち明ける。

 本書の前半は商業集積、総合量販店、食品スーパー、百貨店と、いずれかといえば既存の業態を、ショッピングセンターからの後半は、コンビニエンスストア、専門量販店、ネット型小売、製造小売と先進業態を選んでいる。本稿では後半に着目し、第8章のドラッグストア、第9章の楽天市場の部分を紹介し、そして最後に(順序は逆になるが)、第6章のショッピングセンターの新しい手法にも触れてみたい。

3 ドラッグストアとその代表格、マツモトキヨシの躍進

 第8章のドラッグストア業態には、20年間、売上トップを誇るリーディングカンパニー、マツモトキヨシが登場する。しかしその前に、なぜ、薬局や薬店がドラッグストアという形に変わったのか、すなわち業種から業態に動いたのか、その発想はどこにあったのかが考察される。
 その答は、医薬品の関連商品をただ集めて「ワンストップショッピング」にするのではなく、「『薬』をなぜ使用するのかという消費者の生活局面や使用局面からのライン拡張」を図るという点にあった(p206)。薬から広がっていく「病気」「治療」「予防」「健康」「美容」という流れで新しいコンセプトが設定され、新業態が試みられたのだ。

消費者の購買行動パターンにもとづいて商品ラインの拡張を遂げ、ワンストップショッピングに対応したスクランブル・マーチャンダンジング(異種商品ライン追加による販売強化)が、ドラッグストア業態における品揃えのキーワードになるのである(p207)。

 これはヘルス&ビューティ(HBC)という「特定の生活シーンに対応して、特定顧客層のライフスタイルで仮構された部分市場に対して専門化(特化)し、業種横断的な品揃えを志向すること」にほかならない。このような努力が、消費者にドラッグストアを認知させたともいう。
このあとで、ホームセンターなど、競合する他業態に対し優位性を保ったのは、ふたつのトレードオフの関係をクリアしたからと説く。ふたつとは、品揃えにおける利便性と専門性、そして利益における低価格と高収益の問題である。どう解決したかは、208~212ページに詳述されている。ポイントのみあげれば、雑貨や食品といった低価格の日用品で集客を図り、そのお客さまに粗利益率の高いHBC商品をお買いいただき、そこで利益を上げるという「粗利益率ミックス構造」を作ったところにあるとのこと。

ドラッグストアは、粗利益率の高い医薬品や健康食品から得られた収益を原資として、洗剤などの日用品を大幅に値引きするという粗利益率ミックスを武器にして、スーパーマーケットやコンビニエンスストアから食品や日用品を購入する消費者を奪う仕組みを創り出している(p210~211)。

 なるほどなぁと納得させられるが、このことは別な観点からも説明される。

従来の薬局・薬店で蓄積された専門性の良いイメージを損なうことなく、医薬品から連想される商品を幅広くなおかつ低価格で提供するのが、ドラッグストア業態の大きな特徴といえよう。美と健康に対するニーズが、人間の生活においては重要度が高いものであるため、ドラッグストアはそれをうまく「コーディネート」し、消費者に受け入れさせられ、新しい消費スタイルとして定着させたものと考えられる(p213)。

 第8章の後半では、同社のイノベーションモデル――「マツモトキヨシ型ビジネスモデル(マツキヨ型モデル)」に斬り込む。切り口は、店舗イメージ戦略、物流革新、グループ化戦略、PB商品の開発と販売という4つになる。以下にひとつずつみていこう。
 
店舗イメージ戦略の核をなしたのは、都市型立地、多種多彩な店づくりの創意工夫、テレビコマーシャルなど宣伝広告の3要因である。その目当ては若者層の獲得であった。  
都市型立地の実験店を上野のアメ横に出すとき、みな不安感にかられたが、松本南海雄氏の「何しろやってみなきゃ分からない(p217)」というひと言で出店が決まったそうだ。このエピソードは、同社の革新風土の存在を印象づける。

ふたつ目、店づくりの創意工夫――仕掛けのバラエティには目を見張らされた。そのねらいは、いま述べたところの若者層の取り込みにあった。間口の全面開放、セルフコーナーの大胆拡大、照度を大きく上げた照明、サンプルやテスターの常設、生活雑貨の広範な品揃え、2階への導入アップを目指した階段陳列棚の設置などがその例といえよう。
 これらの施策により、マツモトキヨシは「健康な人が美容と健康を増進するために利用する店」という新しいコンセプトを創り出した。

マツモトキヨシは今までの暗くて気軽に足を運べないという薬局・薬店に対して若 年層が抱いていた店舗イメージを一新し、ドラッグストアの定型を作り上げた(p217)。

のである。
 3つ目の宣伝対策もイノベーショナルだ。山手線から見える収支度外視の看板や、山口もえさんの「何でも欲しがるマミちゃん」で一躍有名になったテレビ宣伝などが忘れられないシーンである。この辺の事情を、同社、開発担当の飯村征也氏にお聞きすると、以下のようなコメントをいただいた。

全国枠でのテレビCMをはじめ、東京ドームにおける巨人戦でのバックネット部分への会社名掲載、K-1等のメジャーイベントの協賛など、従来の同業者がまったくおこなっていない企業PR戦略により、本格的な店舗展開前に、マツモトキヨシの名前は全国に浸透していました。我々、店舗開発部隊が出店に先駆け各地で開発営業をおこなうなか、相手方の企業や個人の方の多くがドラッグストア「マツモトキヨシ」をご存知だったのは店舗開発にとっても非常にプラスとなりました。 

 この発言から、宣伝活動が開発営業にも大いに有効だったことが伺われる。

 さらに、このような店舗コンセプトを同業他社が導入したことも、ドラッグストアが一大ブームとしてブレイクした理由となる。

マツキヨ型モデルの意義は、同社にとどまらず、同業他社にもビジネスモデルが波及して業界の標準フォーマットとなることで、単なる一企業のビジネスモデルの域を超えて業態生成の契機になったといえよう(p218)。

 つぎは物流革新のこと。
 物流面では、スピード納品できる独自の物流センター構築で「バラ納品」が可能になり、また、1日3度配送する「多頻度小口物流」導入により小在庫による高回転率化が試みられ、最後に、店での業務を含め、一元管理する調剤備蓄センターの開設でノウハウを形成する、等々のイノベーションが試行された。物流の視点から、マツキヨ型モデルの絶対的成功を期して「それを支えるインフラの整備を着々と推し進め(p220)」たのである。
   
 3つ目はグループ化戦略だ。
 業務提携、M&A、フランチャイズシステムなどを駆使したグループ化の目的は「柔軟な店舗展開や商品の共同仕入れ・企画・販売(p221)」という点にある。
 マツモトキヨシの出店は独創的といってよい。初期には本社がある関東に集中出店したが、つぎの段階で関西、九州、中国、東海など全国に拡大するという2段階展開であった。ただし直営店とグループ企業との2本立てというのが基本。「大都市と首都圏では直営店、各地方では提携先企業というかたちでドミナントを形成し、さまざまな地域への出店を可能とした柔軟な店舗展開を実現している(同)」のである。その理由は、大都市と地方との消費者ニーズのちがいにあるという。
グループ活動は出店だけでなく、共同仕入れや企画、販売にまでおよぶ。また「業界内外での価格競争が激しさを増すものと予想される中で、同社の利益を確保するために、今後の展開として製薬メーカーを買収し、製販の一体化も視野に入れている(p222)」という。

 4つ目はPB商品の開発と販売だ。
 マツモトキヨシは2000年前後からPB商品を本格的に導入した。「共同仕入れ機構NIDからNB(ナショナルブランド)商品のほかにPB商品も仕入れてきた(p222)」が、競合他社と同じでは差別化できないと危機感を抱く。そこで独自のPB商品「MKカスタマー」を開発し成功した。これで「収益面で大きく寄与するだけでなく、競合店の差別化をはかること(P223)」ができたのである。

 本章は、このようにマツモトキヨシのイノベーションの要点を、コンパクトにまとめている。

(次号につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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