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連載コラム

小売イノベーションの地平を開く『小売業の業態革新』(2)

[ 2010年2月1日 ]

前回よりつづく)

4 ネット型小売、楽天市場の急成長

 第9章は、ネット型小売において、日本最大の売上規模を持つ「楽天市場の研究」である。
 章のイントロで、急成長するネット型小売の現況が示され、それが、いかなる革新的な契機で誕生し、業態として成立したのかが明らかにされる(p229)。そのうえで、ネット型小売のうち、楽天市場、アマゾン・ドット・コム、ヤフー・ショッピングの利用が圧倒していることに触れ、さらに理論的な確認としてアマゾンを例に、ナビゲーション機能、ロングテール現象、インフォメディアリー(「顧客情報を豊富に蓄積しているために、ECをコントロールできる企業」のこと。p237)の概念を検討している(p234~238)。

 さて「世界一のインターネットサービス企業」を目標とする楽天市場である。その概況につづいて最も重要な一節が記される。

1996年11月に、楽天市場の開設準備が始まった。先行していた大手モールが次々と撤退していたが、三木谷は成長する市場を信じていた(p238)。

 すべては、創業者、三木谷浩史氏のこの確信からはじまった。その根拠は「カタログやDMおよびその配送費の面で、圧倒的なコスト優位性があり(p239)」、既存通販を大きく超えられるという点にあった。ついで、大企業の失敗例から、掲載情報の更新、出店費用、顧客との対話という3つの課題を抽出し対処する(p239~243)。
 掲載情報の更新については、加盟店がコンピュータの素人でも「簡単に変更できるツール」を開発した。出店費用を「破格の低価格」に設定したのも「仮想空間の良し悪しは、店舗がどれだけの数のユーザーに認知されているかで決まる」という三木谷氏の考えに拠っている。それを「楽天市場を銀座四丁目の交差点にします」とたとえた。
 顧客との対話がなにより大切なのは、リアル店舗でもわかることだが、「当時、既存の電子モールでは、問い合わせや意見の返事などはモール側の業務(p242)」というのが一般的だったらしい。だから加盟店は〝楽〟であった。楽天市場はこれに疑問を呈する。

三木谷には、加盟店がユーザーとの重要な対話の機会を失っているようにみえた。ユーザーからのクレームや質問などは、ビジネスの改善に活かせる。このユーザーと加盟店が直接対話できる仕組みが重要であった(p242)。

こうした課題に対する格闘からコンセプトが次第に見えてくる。

三木谷らは、楽天市場のコンセプトを参加者が自由にモノを販売できるマーケットプレイスの創造とした。そのイメージは、楽天市場という名前の由来にもはっきりと表れていた。それは、織田信長が開いた「楽市楽座」であった(p243)。

 1997年2月にオープンしたあとの状況は、営業活動、システム支援、店舗サポート、競争という4つの視点から描かれる。
 最初の月は、売上が18万円、加盟店は知り合いが義理で出した13店舗だけと、惨憺たる出発になった。その状況を打破せんと、営業スタイルは、飛び込みによる「ドブ板営業」とする。だがインターネットの勃興期でもあり、営業はさながら「啓蒙活動」だったという。

こうしたことが功を奏し、徐々にではあるが加盟企業は増えていった。なかには「店をたたむ予定が楽天市場で売れるようになって廃業をやめた」という店も出てきた。楽天市場には、中小企業や小売業を「エンパワーメントする(力づける)」という目標があった(同)。

 この点は、成功の大きな要因と思われる。
 システム支援面では、開店当初の店舗ページ構築、受注管理につづき、販促戦略、メール活用も登場し、4つの機能が揃った。これらのシステムは加盟店の要望やアイディアも組み入れる「共同で作り上げたもの」だった。この結果、加盟店数は急速に拡大する。
 システム支援とともに重要になったのが、つぎの店舗サポートである。1997年、配置されたECコンサルタントは、売上向上のための要因分析を「加盟店と二人三脚で」おこなったとのこと。さらに2000年には楽天大学が創設される。

楽天市場の加盟店が積み重ねてきた成功事例のエッセンスをフレームワーク化し、講座がスタートした。楽天市場の加盟店舗に「どのように客の心をつかむか」といったスキルを教える制度であった(p244)。

 そして楽天市場をめぐる内外の競争状況に触れられていく。注目は、内部での、赤字と黒字の店舗格差の問題と店同士の販促連携の動きである(p245参照)。
 このあとビジネスモデルの変更に筆がおよぶ。業績拡大に伴って、新たな課題が浮かび上がってきた。

個人ユーザーが増えていく中、楽天市場のシステム負荷は増大するが収入は固定のため利便性向上にコストをかけるのは難しいという問題が起こっていた。加えて楽天市場への加盟店数の増加も緩やかになり成長の限界説や、利益が加盟店の「数」に依存するというビジネスモデルに批判もではじめていた(p245)。

 これへの対応として、ECコンサルタントの組織を、新規店開拓、店舗開設、既存店サポートの3つにわけ、かつ料金制度を変更する。料金面では、月商100万円を超す売上に、システム利用料として追加料金を課したのである。反発はあったが、加盟店数に大きな影響はなかったらしい。「こうして、ECコンサルタントのサポート能力が、楽天市場の売上げに直結するようになった」のだ。ECコンサルタントと加盟店との具体的なやり取りは246ページをご参照のほど。ともあれビジネスモデルが以下のように変わったことが、その後の躍進の源泉になっている。

楽天市場のビジネスモデルは、固定家賃で貸す「不動産モデル」から、売上げの一定割合をフィーとして受け取る「フランチャイズ・モデル」に移行していったのである(p246)。

 最後に本章は、楽天市場の革新性が「創発的ナビゲーション機能」にあるという見解を打ち出す。展開的にいえばこれは「ネットワークを活用しリーチとリッチネスの水準を創発的に向上させようとする仕組み」のことだ。リッチとリッチネスについては、少し戻って235ページに説明がある。ここを読むと、リッチとは顧客へのアクセス数(または製品の提供数)、リッチネストとは「情報の質」を示すことがわかる。
 創発的ナビゲーション機能を具体化するのは、リーチの能動的拡張とリーチネスの創発的拡張のふたつという。大事なところなので詳細を聞いてみよう。
 前者の「リーチの能動的拡張」とは、加盟店とユーザーの数が相乗的に増えることだ。ここで指摘されるつぎの一節は、ターゲットとそのニーズに応えることの重要性を表す。

楽天市場では、加盟店数が(リーチ)が増えユーザー数が(リーチ)が増え、さらに加盟店数が増えユーザー数が増える。こうした「リーチがリーチを生む」というような相乗効果を、楽天が自ら意識し能動的に循環させ、リーチを拡張させていった。とりわけリアルの零細小売業にターゲットを絞り、彼らが加盟しやすい低い固定費や素人が操作できるシステムなどの条件を整備し、それを地道に説明する営業活動を通して、加盟店数を能動的に拡張したことが重要であった(p247)。

 後者の「リッチネスの創発的拡張」については、こう記される。

楽天市場では、出店数(リーチ)の拡大に対しリッチネスを高めるために、加盟店と顧客が直接対話し相互学習することにより創発を起こしやすい環境をつくった。直接の対話は、サービスや品揃えの改善だけではなく、顧客との新しい関係が生まれるなど創発の契機となりうるのである(同)。

 そして、さらにもうひとつの新たな革新性が加わる。それが「リッチとリッチネスの創発的拡張」だ。

個々の加盟店(リーチ)が、他店の顧客との創発(リッチネス)を相互学習し、リッチネスを高めていくというマネジメントである。ECコンサルタントによる成功ノウハウの共有や楽天大学などによる教育効果のことである(p248)。

 いわば、このような〝創発的企業文化〟の醸成に、楽天市場が成功した秘密が隠されているのである。

5 ショッピングセンターの新動向

 第6章では、ショッピングセンターの歴史から現在、環境変化(法的規制と緩和)、事業スキームの変化(キャッシュフロー重視、所有と経営の分離、不動産証券化などの新資金調達手法)、デベロッパーとテナントの関係変化、そして、SCマネジメントの新たな動きについて言及している。
 最後の「SCマネジメントの新たな動き」に注目するなら「新たな動き」とは、プロパティマネジメント(PM)、CSR(企業の社会的責任)、地域貢献の3つを意味する。3つのなかで、とくにプロパティマネジメントに目を向けていきたい。

 プロパティマネジメントに当たっていくと、もうひとつのキーワードが出現する。それがアセットマネジメント(AM)だ。AM、PMとたまたま揃ってしまったが、もちろん午前、午後を表す記号ではない。ではいったいなにか? 
 日本経済研究センター監修・日本経済新聞出版社編『経済・ビジネス基本用語4000語辞典』(日本経済新聞出版社)にはそれぞれこう書かれている。

〈アセットマネジメント〉

投資家のために資産(アセット)を総合的に管理・運営する業務。いわゆる投資顧問業務。オフィスビル、マンションなどの買収・売却で保有資産の構成を組み替えたり、テナントの入れ替えや賃料を引き上げたりして、不動産から得られる収益を増やす。不動産投資信託(REIT)などの不動産ファンドから業務を受託し、手数料収入を得るケースが多い。個々のビルの管理・運営対象とするプロパティマネジメントとは違い、保有する資産全体を運用する(p6)。

〈プロパティマネジメント〉

不動産用語で、不動産所有者に代わって、物件の維持管理や運営全般を担いながら、その不動産が生み出す収益の向上を図るマネジメント業務。建物の修繕や設備管理、清掃、警備などのメンテナンス業務から、収益向上のための経営上のコンサルティングまで、幅広い業務を行う。家賃の下落や空室期間の長期化などの際に、対応策を提案するなど、従来の管理業務にとどまらず、収益向上を重視するのが特徴(p502)。

 かいつまんでいえば、アセットマネジメントとは「投資用資産全体の管理代行業務」であり、プロパティマネジメントとは「所有者などから受託しておこなう不動産資産の価値向上業務」となるだろう。
 
 イメージがクッキリつかめたところで、本書に戻ろう。
 キャッシュフロー経営、所有と経営の分離を背景に、アセットマネジメントとプロパティマネジメントの取り組みがはじまっていると述べ、その役割分担を以下のように説明する。

AMは、対象不動産の資産価値を高めることを目的としてAM計画を策定・実行する。具体的には、対象不動産の購入あるいは売却を行い、テナントリーシング計画や施設の管理方針等を決定する。 AM戦略のもとで、SCの資産価値の向上と収益最大化のための効果的で効率的な施設管理運営をめざすのがPMである。PMは日常のSC管理運営を通じて収益最大化と運営管理コストの精査、最適化を主眼として活動する。収益を向上させる上でのコスト削減は有効であるが、地域生活者のマーケット商業施設の特性を捉え「コスト・品質・安全」のバランスを考慮した的確なコスト管理を行う必要がある(p172)。

 プロパティマネジメントは、1930年代にアメリカで確立した。日本では1990年代のバブル崩壊後にはじまったが、依然「未消化の状態」という(p173)。アセットマネジメントは高い賃料など短期メリットを追うあまり「長期的戦略」に消極的で、プロパティマネジメントも「投資家の視点が一義的」で、ややもすると「顧客の視点が横に措かざるを得ない」そうである。この点をクリアするには、「顧客満足の実現と経営視点のバランス」を両立し、収益最大化とコスト最適化を図るしかない。

PMは地域生活者視点での主張を鮮明にし、AMに対し精緻なデータに基づき理解と納得を得るよう勤めることが肝要である。一方AMはSCという商業施設の特性を理解し、長期的視点で判断することが求められる(P173)。

 そのうえで、共通の目標である「SCの資産価値の向上と収益最大化」のため、双方が具体的な数値目標を確認し「リアルタイムの事業収支データ分析および精緻なマーケット分析による生活者情報」などを共有することで

従来の管理運営のレベルを超えたSCマネジメントの高度化を促す(同)

ことが必要と強調する。そして最後にこう希望を記している。「PMの導入は、今後のSC発展の道をより確かなものにする」と。

 最後に改めて振り返ってみると、本書で取り上げられた小売業には、ひとつの特長が見出せる。かしこまっていうなら、それは、顧客視点と経営視点の融合である。具体的には、お客さまの観点に立つ情報システムの駆使と、創造的な顧客インターフェイスの構築といってよいだろうか。すべてのお店にとって忘れてはならないモチーフである。
これらの先進小売業から学べることは無限に広がるが、本書は、間違いなくその最適なテキストとなろう。

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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