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連載コラム

本格的な店舗経営のテキスト『新・小売業経営の条件』(1)

[ 2010年10月1日 ]

 小売業の本格的な経営書として、最もふさわしい本は?
 こう問われたら、私は迷わずこの書を推す。それが、川崎進一著『新・小売業経営の条件』(商業界 2001年)である。根元から店舗経営を考え直したい、そう思うときもまた、この本をお薦めしたい。2001年の刊ではあるが、ITの時代でも、小売り経営の生の姿こそが、つねに変わらぬ肝心なことであり、その意味でもじっくり読み進めたいと思う。
 加えていうなら、小売店の本は、どうかすると、経営は経営、販売は販売とフィールドがわかれがちだ。不可分な両方を総合的にまとめる本は、そう多くない。本書は数少ないその1冊といえよう。

はじめに――本書の流れと石田梅岩の思想

 表紙の見返しに鋭いフレーズを見つけた。「企業は成長しつづけなければならない、ただ大きくなるのは成長ではない、膨張である、成長とは段階ごとに自らを『革新』することである、今、過去の歴史が示すことは、自己変革を怠った企業が衰退を余儀なくされていることだ」という一節である。この何行かに、本書のエキスがギュッと搾り出されている。ここを幾度か読んでから、おもむろに目次を開こう。その章立てはといえば

第1章 創造的再生すすめる国際化の波
第2章 経営体質の強化
第3章 成長への階段を上る準備
第4章 売場の生産性
第5章 小売業のマーチャンダイジング
第6章 利は仕入れシステムにあり
第7章 成長の論理

 となっている。
 大きい流れは、グローバル化などの厳しい環境をみたうえで、体質強化、成長の準備、生産性向上、マーチャンダイジング、仕入れ、成長になる。これらの章立てからわかるように、著者の経営学は、経営と販売を統一的に説くのだが、じつは石田梅岩の商業哲学の影響を色濃く受けている。石田梅岩とは、アメリカの歴史家、ロバート・ベラーが「日本資本主義の近代化、合理化の出発点」として評価した江戸時代の思想家である。その石田哲学の真髄を、本書はこう解説する。

商人は、売り先への誠実がなければ商人とは呼べない。いわば、消費者への誠実が第一義であり、そのため倹約を守り、経費を三割削減して利益を一割減にするという方法をとるのである。ひたすら消費者(お客)に奉仕することを心掛け、欲心を起こしてはならない。欲心を出せば貪欲になる。貪欲になれば心の道を外れる。それはやがて必ず倒産すると考える。「奉仕に明けて奉仕に暮れるなら、必ず栄える」と説く(p47)。

 このような思想を前提として、本書では、原則を踏まえた、小売店の経営論が緻密に展開されていくのである。

1 小売店の環境と経営姿勢

 第1章は「創造的再生すすめる国際化の波」と銘打たれているが、店を取り巻く環境と経営姿勢についての記述である。読みはじめると、その最初のほうにあるフォード効果の話に目が留まる。いきなりのキーワードだが、いったいなんのことだろう? と首を傾げつつ当たってみると・・・・・・。

「フォード効果」とは、成熟社会になればなるほど、最寄品の店舗密度(単位人口当たり店舗数)は低くなり、店舗規模は平均的に大きくなる。買回品の方が店舗密度は相対的に高く、店舗規模は最寄品と比べると相対的に小さく、店舗数は増加すると見る(p15)。

 現在、さまざまな業種が、大型化や多店舗化の波に襲われている。これが、フォード効果の法則から、かなり普遍的な現象であることが伺われる。ここで著者は、飲食料品店の大型化と、婦人・子供服店の店舗数増加を例示している。
 つぎに、小売の零細性、経路の複雑性(多段階性)、低い労働生産性(欧米との比較上)という、日本の流通機構の歴史的特性が指摘され、そのうえで、経営理念に関し重大な思想が提示される。

技術なき理念は盲目であり、理念なき技術は自らを滅ぼす暴力になる(p20)。

 ここでの「技術」には、販売のテクニックやスキル、ノウハウなども含まれる。この一行は、石田梅岩の思想を想い起こさせるものでもあり、心して受け止めたい。
 この考えを踏まえつつ、店の経営には5つのMが必要という。マネジメント、マーケティング、マーチャンダイジング(商品計画)、マネー(資金)、マン(人材)のことだ。その一つひとつに事例が取り上げられている。MDでいうなら、アメリカ小売業の高い荒利益率には理由があって、買取り・返品なし、メーカーからの直仕入れなど、仕入れ合理化(マーチャンダイジング)の卓越さが存在するとのこと。

まず、価格ラインを絞って現存制度を最高能率に利用するにはどうするか、量仕入れをして現金割引を受けるにはどうしたらよいか、アウトレット店舗をいくつ持つ必要があるか、集配機能をこちらが受け持ったらどうなるか、州の異なるところから発生する仕入れ価格差はどこまで利用できるかなど、小手先を超えた本格的な仕入れ戦略がある。その頂点にプライベートブランド(PB)、本格的な製販合同戦略がきて、共有財産としてマル秘の消費者調査データがある(p23)。

 「顧客満足が第一」の項には、東急ハンズの心温まるエピソードがあった。水道の蛇口を求めるお客さまに、スタッフが思った以上の時間を取り、さらに一歩進めて物理的な説明までおこなった。「たかが蛇口に」と感動したそのお客は、嬉しさのあまり、新聞に投書までしたそうだ(p34)。

小売店の店頭では金銭問題を離れて、こうした態度で臨むことが必要なのである。お客とは知識の差があるからである。しかもそれが、店頭のサービスとして、従業員による個人差があってはならない。それには、店の教育訓練がなければならない。満足は、お客個人に対してでなければならないからである(同)。

 これにからんで経営と利益に関する言及もある。改まって考える、小売店にとって経営とはなんだろう? 著者は、以下のように噛み砕いて述べる。

経営者は「経営」しなければならない。組織に君臨するというだけであってはならない。「経営」するとは、人、もの(商品)、金、知識といった経営の要素を効率的に活用して事業目標を達成し、利益を得ることである。利益はお客の最大満足によってもたらされる。「利益はお客の満足料である」と看破した人は、福島のスーパーマーケット「紅丸」の創業者・大高義雄さんである(p37)。

 このあと、経営成長のためには、資金と人材というふたつの〝テコ〟が必要と断じてから、「毎日の経営に絶対忘れてはならないこと」として、顧客の創造(繰り返し訴えよ)、サービスマナー(笑顔、スピード、マナー)、店内のクレンリネス、アンケートの活用、新しい「経営システム」の選択の5つをあげている。

2 経営体質の強化

 体質強化は、経営の基盤を固める意味で、とりわけ重大になる。テーマも、計数管理や組織づくり、マネジメント、中堅幹部の育成と条件など、小売店にとり生命線のものが少なくない。
 話は収益逓減の法則から入る。またまた、それってなに? と思ったが答はすぐに得られた。業績とは、最初は伸びてもいずれ頭打ちになるもの。「ある時点を超えると、売上高は伸びないところにくる。しかし、経費だけは増える(p52)」。その結果、おのずと「利益はだんだん減ってくる」のだが、これが収益逓減の法則なのであった。この状況を超えるには「将来どうするかを考えることの方が、現在の繁栄よりもむしろ重要(p54)」という。

 計数管理のなかでは、まことに当然ながら、純利益の大切さがうたわれる。これにからんで、1930年代に、スーパーマーケットの原型を作ったマイケル・カレンの基本構想が示されている。

扱う商品のうち三〇〇品目を原価で、次の二〇〇品目を原価に五%掛けた利益で、次の三〇〇品目を原価に一五%掛けた利益で、さらに次の三〇〇品目を原価に二〇%掛けた利益で販売する。そして全経費率を徹底的に低く抑える。その目安は平均マージン(売上総利益率)を最低でも九%にすれば、この経営の純利益率の確保は売上高に対して二・五%にすることができる(p60~61)。

 でこうつづける。「売上高対比利益率二・五%の確保さえできれば、企業は自己資本で拡大することができる、という考え方である」と。加えてこのようにも記す。「売上高の大きい小さいではない。売上高対比で三~二・五%の純利益を確保しながら進んでいくことができるかどうか、このことが成長の条件なのである(p62)」

 組織論も綿密に展開される。
ここでのポイントは、機能、動機付け、効率の3点だ。機能では、ラインとスタッフ、事業部制、プロジェクトチームなどが、動機付けでは、フレデリック・テイラー以来のモチベーション学説が、効率では、組織の自己目的化(官僚的体質の問題、端的にいえば〝縄張り化〟だろうか)が論じられる。組織効率の向上策としては「間接部門のリストラ」を提唱する(p72)。
 著者は、目標を同じく達成するにせよ、組織的、システム的に迫るマネジメントと、個々人を励まし、力を貸していくリーダーシップとをわける。「もともと冷たい資本の生産性を追求するマネジメントシップに対して、リーダーシップは常に温かく人間の心本位でなければならない(p74)」のである。

 ところで、組織という存在は、どんなものでも、いつしか硬直化し、人間が制度やシステムに従属しかねない面を持つ。78ページにはその例が12個もあげられている。チェックをしっかりやっていない、年々在庫過剰になる、工夫・改善を積極的に提案しない、社員に危機意識がない、現金管理が不注意、コミュニケーションが悪いなどなどである。読めば誰しも、こりゃあウチのことかとゾッとしよう。ここを突破するには、新しい組織ルールを開発する「組織開発」が必要となるというが、ここも必読箇所。
 
 経営組織にとって要になるのは、いうまでもなく業績の命運を握る中堅幹部である。したがって、その育成や資格、要件、具体的役割などが、かなりのページを割いて詳述されている。ただ中堅幹部は、どう熱意を持って仕事に取り組むのかが問われるが、著者は、そのため不可欠なのが「目標による管理」という。

一方的な上意下達的目標は、動機付けとしては弱い。つまり、適当にやっておけばよいという考え方を持つようになる。中堅幹部にこのような無責任な考え方を捨てさせ、ベストをつくしたいという願望を起こさせるには、トップのリーダーシップとそれによる自己目標の設定、自己管理(自己育成)しかないのである(p88)。

 制度として「目標による管理」を採用しても、現実、うまく機能する例は少ないといわれる。運用に当たっては「トップのリーダーシップとそれによる自己目標の設定、自己管理(自己育成)」という観点を、しっかりと確立したいものである。

(つづく)


新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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