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連載コラム

本格的な店舗経営のテキスト『新・小売業経営の条件』(2)

[ 2010年11月2日 ]

前回よりつづく)

3 成長論その1

 つぎに展開されるのは、成長への準備である。成長論その1だ。ここでは、トップの要件、具体的目標、経営戦略、生産性、収益性、安全性など、成長の基盤になるテーマが徹底して論じられる。
 筆頭はトップの能力と条件であり、これは7つあげられている。先見力、知識力・情報力、決断力、利益力・資金繰り力、理念力・人事力、人材育成力、健康力である。
 このうち知識力と情報力については、江戸時代の朱子学者やお庭番まで持ち出し、そのちがいと重要性を訴える。利益力・資金繰り力では力を込めてこう書く。

成功したトップは数字をしっかり押さえているし、内部留保を厚くする努力をしている。大事なのは、現在の資金の蓄積だけではなくて、回転差資金をつくる取引の余裕があるかどうかということである。回転差資金とは、支払勘定回転と販売資産回転の差から出る資金のことである。支払いは、常にきちんとしておき、信用があることが前提である。ここで重要な条件は、自己資本の蓄積分を減らさないということ、もう一つは無計画な固定資産投資がほとんどないことである(p99~100)。

 理念力・人事力についての記述も力強い。

小売業経営は、企業の成長と運命をともにする若者のエネルギーを必要としている。才能ある若い人を引き付け、動機付け、確保できなければ、競争には生き残れないからである。若い人を引き付けるには、企業は同族や経営者の家族のためといった目的を超えて、確固たる企業理念(企業に対する考え方=価値観)、社会観を持たなければならない。そのため一族であっても、理念を理解せず任にも耐えない人には、ポストを与えてはならない。これは人事の鉄則である(p101)。

 さらに、理念には3つの内容を含むべきとして、事業目的・達成すべき目的(市場差別化)、ビジョン(願望)、価値観(顧客満足度100%)を示す。
 人材育成についても、まことに歯切れよい。「トップは現場から目を離してはならない。トップは現場を定期的に巡回するスケジュールを持たねばならない。そして部下を育て権限を委譲しなければならない(p102)」といい、また「これからの小売業経営にとって、人材こそ重要な投資であると考えなければならない。価値ある中堅幹部やスペシャリストを育成することができるかどうかが、企業の成否を決めるカギになる(同)」とも言い切っている。
 
 ついで記されるのは、成長の必要性とその〝ひずみ〟への対処についてである。ことに成長に伴うマイナス面は放置できない。成長とはいえない単なる膨張(水ぶくれ)現象、在庫肥大化、ロスの膨大化、組織の硬直化などは、どこでもあり得る〝負〟の側面であろう。これに対し著者は「成長管理」が不可欠という。成長管理とは「成長から発生するマイナスを監視し、正しく成長する要件を作ること(p107)」であり、以下こうつづけている。

具体的にいうと、成長管理において重点を置かなければならないことは、店舗数増加、売上高増大に伴って組織開発をしっかりやることと、成長に見合った資金の造成が可能になるようにすることである(p107)。

 加えて、成長を測るには、6つの増加率を利用せよと提言する。それは、営業利益、経常利益、総資産、自己資本、売場面積、店舗数のことである。ここに売上そのものはない。「成長とは単に売上高が伸びることではない。もともと売上高は売上総利益(粗利益)を大きくするための手段にすぎない(中略)。これこそ経営活動の基礎であり、そこから純利益も生まれる(p104)」という思想があるからだ。

 ここで成長の基礎条件が明かされる。これは非常に重要なテーマとなろう。項目だけ拾うと、変化の観察、成長の必要性の再認識と決意、宣言、信頼の獲得、数字への慣れ、財務など計数に強い中堅幹部、他社より10%よい人事・給与制度、長期計画(将来の目標達成のために、いまなにをすべきか)、私物化しない――以上の9点である(p108~114)。
 わけても、私物化については、若い世代の力を引き出すためであろう、非常に手厳しい。「下三日にして上を知り、上三年にしてようやく下を知る」ということわざを引き、「若い協力者」を惚れさせよと教示する。せっかくだから、この際、これらのことが、自社ではどうなのかと、チェックしてはいかがだろう。
 
 このあと、経営理念、経営戦略、組織活動の目標設定について論じられ、話は生産性に移っていく。生産性での問題意識は「なぜ日本は店の生産性が低いのか?」である(売場の生産性については後述)。

企業は同業で同規模ならば、ほぼ同一の資源を入手することができる。しかしそれでも、その働き、すなわち生産性に違いが出てくるのである。その格差は、トップの能力の違いであると言ってよい。この生産性の高い経営のことを、質的経営というのである。質的差異の重大な要因は、資源の活用度とその成果ということができる。 生産性を高めるための絶えざる改善は中堅幹部の仕事である。しかし戦略的な、全体の生産性を向上させるため配送センターなどの設備投資をしたり、人的資源を育成することなどは、トップの重要な仕事である(p125)。

 いよいよ利益について議論されるときがきた。
 まず著者は、利益と売上は別なもので「戦術的工夫をしなければ、利益は出ない(p131)」)と述べ、利益をとらえる4つのポイントを示す。総合的計画的な経営努力(利益こそ経営の判定者)、将来マーケットのリスク補填(最低必要な利益額は要確保)、投資利益率(総資本利益率)で判定、社会的費用(保険、退職金、税金など)を支弁する能力。4つめの社会的費用については、おのずと粗利益高、つまり「経済活動から生まれた付加価値の中から支弁される」のだが、さらに加えて記す。

企業というものは、経済的機能と社会的機能にふさわしいだけの利益を生むことが必要なのである。しかし、利益を得ようと思って値入率を高くしても、決して利益を得られるものではない。単に価格をつり上げるだけでは、顧客は来なくなるからである。店はお客のためにある(p133)。

 味わうべき一節である。
 ではこの利益はどこから生まれるのであろう。「通俗的な言い方をすれば、利益はお客の不満や不便、不足を解消し、お客に満足を与えることから生まれる。適正利益を生めないような企業は、社会から委託された資源――人、もの、資金の保全を損なうもので、一般経済の成長能力までも危うくすると考えるべきである(p133~134)」。厳しい言い方だ。愛ある叱咤というべきか。つまり、この利益の蓄積こそが焦点になるのだが、これにはどう対処すべきか。もちろんその答は出ている。

トップは、利益目標を部門ごとに設定して、その達成率を評価する必要があり、それによって全体の企業活動の成果も評価しなければならない。 多くの企業では、利益目標は作るが、その目標をさらに各分野の仕事の具体的行動目標にまで割り当てていない。利益目標は、具体的な仕事の行動目標にまで落とし込んで初めて意味をもつ(p134)。

 安全性も重要。積極的に展開を図る企業は、資本と資産のバランスを取らねばならない。それらの運用に「遊びや無駄がないようにする」のがポイント。

企業の安全性というのは、企業活動の間に、増殖する総資本に占める自己資本の割合を確保することである。成長企業でも、小売業の場合、総資本に対して自己資本が二〇%を割ったら要注意である。三〇%以上は絶対必要である(p136)。

4 売場の生産性を上げるために

 小売店の基本資産は、むろん売場である。
 なぜなら、売場こそ、店の持つすべての「可能性(潜在的能力)を実現する唯一の場所(p142)」だからである。この売場の生産性をいかに向上させるべきか。
 ここで著者は、驚くべきテーゼを打ち出す。それは

売場生産性は労働生産性に含まれる

というものだ。えー、なんで? と飛び上がってびっくり仰天。だが著者の考えはゆるがない。しばらくの間、そのとらえ方を順番に追ってみたい。まず、売場生産性、労働生産性、各々の意味はこうである。

売場生産性とは、坪当たりの荒利益
労働生産性とは、一人当たりの荒利益

ふんふん、それで? と耳を傾ける。

売場生産性とは坪当たりの荒利益だから、坪売上(坪効率)に荒利益率を掛けたものだ。また、労働生産性とは一人当たりの荒利益のため、一人当たりの売上に荒利益率を掛けたものである。これらを読むと、荒利益率が両者に入っていることがわかる。ひとまずこの点を押さえたい。 つぎに著者がいうように、「労働生産性に売場生産性が含まれる」のであれば、労働生産性をもっと探ってみたい。いま掲げたように「労働生産性は一人当たりの売上に荒利益率を掛けたもの」である。荒利益がふたつの生産性の共通項である以上、問題は「一人当たりの売上」だろう。 考えを進めると、「一人当たりの売上」とは、坪売上に一人当たり売場面積を掛けたものでもある(この一人当たり売場面積の「一人」には店のスタッフ以外の、たとえば経理部や人事部のメンバーも入っているので、店舗要員の比率を出し、換算しなくてはならない。本書ではそうなっているが、説明上この点ははぶきたい)。 以上を式に書き換えると
売場生産性=坪売上×荒利益率
労働生産性=一人当たりの売上×荒利益率

となる。このうち労働生産性の「一人当たりの売上」は「坪売上×一人当たり売場面積」だから

労働生産性=坪売上×一人当たり売場面積×荒利益率

 と表される。一方、売場生産性=坪売上×荒利益率であった。この売場生産性の式をにらみながら、労働生産性の式を見ると・・・・・・、驚いた! 売場生産性を構成する坪売上と荒利益率の、ふたつがふたつとも、なかに入っているではないか。すなわちこの式で、一人当たり売場面積と荒利益率の順序を入れ替える。

労働生産性=坪売上×荒利益率×一人当たり売場面積

坪売上×荒利益率は売場生産性のことだから、式はこう完成する。

労働生産性=売場生産性×一人当たり売場面積

 こうして、売場生産性は労働生産性の一部を構成するものとなった。さらにこの式はつぎのように変えられる。

売場生産性=労働生産性÷一人当たり売場面積

 ということは、売場生産性を高めるには、一人当たり売場面積を縮めるか、労働生産性を高めることが決め手になるのである。
で、こう結論づける。

最終的に重要なのは、労働生産性であり、これが収益性の基礎である。その意味では、労働生産性は全経営効果の中心概念なのである。労働生産性目標を欠くと、企業は方向を見失うであろう。また労働生産性の測定尺度を欠いた企業は収益性のない企業、成長することができない企業になる(p150)。

 店舗の収益性を考えるとき、すべては、この労働生産性から出発するのであった。さらにいうなら、売場生産性をなす坪売上と荒利益率のうち、坪売上は坪在庫と在庫回転率の掛け算から算出される。ということは、売場生産性を高める要素は、在庫高と商品回転率にもあることを示す。「要は、この三つの構成要素のバランス(p148)」にこそ眼を向けるべきなのだった。
 以上のことは、本書を読むまで気がつかなかったし、気づきようもなかった、斬新で画期的な観点といってよい。研鑽に終わりなし、という感を深めた次第である。

 さて、このあと話は、「売る」「売れる」「売れている」というスタンスのちがいに移る。「『売る』(行動)という表現には、人間の意思がある(p152)」「販売とは、一般論としての『顧客欲求の創造』技術(p158)」「相手の心を読み、相手の本当に欲しいと思うものを喚起させなければならない(同)」といった教えには、啓発されるものが多い。

(つづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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