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連載コラム

本格的な店舗経営のテキスト『新・小売業経営の条件』(3)

[ 2010年12月1日 ]

前回よりつづく)

5 商品回転率と粗(荒)利益

 商品回転率での指摘も鋭い。まずは基礎知識。

どんな商品でも、商品回転は利益の源泉である。成功している小売業は、商品回転率がその業界平均の三倍はある。商品回転率というのは一般的な言い方だが、本当は商品回転数と言う方が正しい。商品回転率(数)とは、商品が仕入れられてから販売し終わるまでの、商品資本の循環速度を示すものである。商品回転率は一年間で平均在庫が何回転したかで表現される(p159)。

 ここで著者は「計数は、行動の指針になっていなければ意味がない(p161)」という。では商品回転率を上げるには、どんなアクションが必要になるのか?

商品は単品ではなく、できるだけセットで、コーディネートして複数単位で売らなかったら、回転率はよくならない。そこで陳列方法が問題になる(p161~162)。

 すなわち陳列こそが問題なのだ。
 ディスカウントストアにからんで、価格弾力性から交差弾力性に話が及ぶ。「価格を一%引き下げれば売上げが五%伸びるといった関係(p164)」が価格弾力性だが、これは、電気製品、婦人靴、玩具、ブランド商品などでは高いものの、紳士服飾品や米では低い。低いものへの対処として登場するのが、交差弾力性なのである。

 これはなにかといえば、「商品によっては価格を下げても見合うだけの伸びはないが、店に来る客数が以前よりもはるかに増えて、他の品物を買ってもらうことによって、そのギャップを十分カバーすることができるというシステムのことである(中略)。たとえば、紳士服飾品や米などは価格弾力性は低い。すなわち消費者は、価格について比較的無関心である。電器製品、婦人靴、玩具、ブランド商品などは価格弾力性が非常に高く、消費者は価格変化に敏感である。そこで交差弾力性を考えるのである(p165)」
 話はさらに価格につづく。著者はそのポイントをこういう。

要するに、価格が強い武器になるのは、単なる安さでも、戦術的安さでない。価値ある商品であること、そして、価値ある品揃えであることが、大前提であることを忘れてはならない。武器は価格ではなく、価値ある品揃えなのである(p167)。

またこのようにも指南する。

一口に価格と言っても、単純な概念ではない。多くの場合、価格は二次的で、購買する時の限定的要因にすぎない。顧客は常に価値を買うのであって、価格を買うのではない。比較して、価格よりも価値が大きければそれを買うのである。流行品は時間が価値になる。
したがって、店側としては、価格に表現されていない価値についても考慮しなければならない。その価値は鮮度であることもあり、機能性とか耐久性、故障なしとか、補修サービス付きということもある(p179)。

 これらの指摘は、価格か価値か、それとも両方かで混迷がつづく現代小売業に、明快な指針になるものと思われる。

 「売る」ための6つの条件として、顧客、商圏、ニーズ、使用価値、価格、他の影響要因などをあげ検討を加えたあと、いよいよ最重要な荒利益のテーマになっていく。
 なぜ荒利益が最重要かといえば、オペレーションやマネジメントのコストがここから出ていくからである。前回の売場生産性も労働生産性も、分母は荒利益であった。まさに「これが伸びないと経営を圧迫する(p181)」のだ。ではその荒利益をどう拡大すればよいのか、ということがつぎの課題になろう。この手段が、「荒利ミックス」と「バランスドセーリング(均衡販売)」というアプローチなのである。各々、どのような意味であろうか。

 まずは荒利ミックス。 
 同じ荒利益といっても、個々の商品と、店全体のもの(売上総利益=実現荒利益)では、意味が異なる。単品の荒利益は個々のものとしても、店全体の荒利益はどう決まるのか。著者は答える。「実現荒利益率というものは、部門の売上構成比とその部門の荒利益率を掛けたもの、その積の合計である(186)」と。この合計を相乗積といい、これを高めるには、荒利益率の高い部門を広く取るのが方法となる。
 荒利益率の大きい主力商品を軸に、回転率の速い動員力商品、それに関連商品や補助商品、さらに市場偵察商品を組み合わせ、荒利益ミックスを図るのである。
つぎにバランスドセーリング(均衡販売)について説く。

この手法は「店の総合的な売上高が最大限の総利益(荒利)をもたらすように計画された売り方」という意味であり、「年間の販売計画において動員力商品(値入れを高くできないもの、利幅の厚いもの)のバランスをとって総利益を最大限にする」という意味である(p187~188)。

 そのあと、荒利益を増やすため、売上増大、値入率アップ(そのための仕入先別取引条件の見直し、売価設定の見直しと改善)、交差比率への注目などが提言されている。

6 小売業のマーチャンダイジング

 さあ、いよいよ後半、小売店の本業についての解説がはじまる。
 一番手は、小売業の柱のなかの柱、マーチャンダイジングである。だがその前に、小売業者の使命というものが、簡潔な文章で書かれているので、これを紹介したい。お店は単に「もの」を売るだけだろうか。本当にそれだけの存在なのか? お店の仕事にいそしみながら、こんな疑問を胸に浮かべる人も少なくないだろう。その答がここで明かされる。

小売業者とは、人々が生活していく上で、必要な「もの」と「サービス」を、必要な時に、必要な人に、必要な量を、必要な場所と方法で提供する人のことである。したがって、小売業者は、商品を売ることによって、世の中の人々の暮らしを守り、生活を提案していく社会的使命を担っている(p208)。

 美しい文章が強い説得力をもって、迫ってくると感じるのは私だけだろうか。そしてこのことを踏まえ、マーケティングとマーチャンダイジングの意味を説明する。

マーケティングとは、消費者の生活を基点として販売を考えるということである。マーチャンダイジングとは、そのマーケティングを基礎にして「商品を提供すること」である(p209)。

 つづいてマーチャンダイジングの7つの機能を述べる。7つとはなんだろうか。それは、商品政策、商品計画、在庫管理、仕入れ(含む商品開発)、提供方法の工夫、マーケットの調査と実験、販促宣伝のことである。
 このなかの、在庫管理や仕入れにからみ、日本のバイヤーが「マーチャンダイザーの仕事も、在庫コントローラーの仕事も、契約の仕事も引き受けている」ことを指摘し、その責任範囲を表で示す(p214)。在庫コントローラーについては、別個にこう解説されている。

単なる在庫係ではなくて、商品に投下された資本が効率的に活動させられているかどうかを計数的に明らかにし、実務をするバイヤーに警告・助言する役割を持っている人のことである。したがって、部門別の売上高や荒利益高、荒利益率、坪効率、商品回転率、交差比率などが、予算や目標通りに行っているかどうかを本部で管理し、店長、バイヤーに開示し、助言しなければならない(p213~214)。

 「提供方法の工夫」は、本文ではもっと具体的に「売場における効率的な提供方法を工夫すること」とあるが、これはインストア・マーチャンダイジングのことで、「店舗内で、限られた売場スペースを最大限利用し、効果的な陳列技法やスペース割りを行うことによって、消費者への訴求効果を高めること(p216)」を指す。
 マーケットの調査と実験の対象は、動線、通行量、注目率、滞店時間、時間帯別客数、品切れ、在庫、商圏・競争、欠品などである。当然ながら、大事な項目がいくつもある。お店により、大変かもしれないが「やる気があれば比較的簡単にできる(p217)」という、心優しき文章もセットされている。
 販促宣伝はただ漫然とではなく、「一定の予算を持ち、年度の計画を持ち、そして測定効果がなければならない(p217)」
 そして、マーチャンダイジングの目的からみて大事なのは、単に売ることだけでなく「商品投下資本の生産性(GMROI)を最大にすることであり、そのための知識であり技術である(p218)」と締める。

 ここで、マーチャンダイジングの総論から各論に移る。品揃え、商品戦略、プライスゾーン、マークアップなどがおもなテーマとなる。

 品揃えでは、その構造が示される。
 品目、品種、品群(カテゴリー)、部門、グループという体系で品揃えすべきことが説かれたあと、効果的な分類について、留意事項が5つ記される。とりわけここは熟読すべきだろう。簡単にまとめると

(1)分類は、売場の大小ではなく、カテゴリー(品群)に沿うべき

(2)できうる限り最小単位にそろえる。靴下なら素材別というように

(3)分類の数は、「カテゴリー相互間の明確な線で区分できる数に限定すべきこと」。通常なら6ないし8まで

(4)成否をわける要素は、主力ラインの量とそのディスプレイ・スペース

(5)部門と品群の分類は、割り当て面積が充分かどうかを決めてからおこなう

となるが、詳しくは224ページに目を通していただきたい。

(つづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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