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連載コラム

本格的な店舗経営のテキスト『新・小売業経営の条件』(5)

[ 2011年2月2日 ]

前回よりつづく)

 つぎに原価と数量の決定に進む。
 頭のところで基本的な考え方が示される。「仕入原価は、売価と荒利益高決定の基礎をなすもの」である。その売価を競合店より安くしなくてはならない以上、この困難な課題の実現に向け、「古いシステムを否定する」ことを勧める。といっても「仕入原価を安くする知恵よりも、仕入先にも有利になるよう、たとえば買取り・返品なしの直仕入れの方向へシステムを変える工夫をすべき(p285)」と、あるべき姿を希求する点が印象的だ。
 原価決定での注意点は、問屋を減らす、製造原価を知るなど13項目にわたる。詳細は本書に当たってほしいが、そのなかに「仕入れの合理化」に触れた部分があり、ここは確認しておきたい。

仕入れの合理化とは、現金仕入れ、買取り・返品なし、計画的仕入れ(商品開発を含む)の三つである。結局、仕入れが有利になるのは、相手もまたそれによって有利になることでなければならない(p289)。

 ひと口で「合理化」といっても、自分の店のエゴに走らず、ともに栄えるいわば、〝Win‐Winの関係〟を構築すべきことが提言されている。

 数量の決定は、原価に影響することもあり簡単ではない。「なぜなら、資本主義の不確定の将来マーケットに対して『余さず切らさず』というのは経営の原則であるが、単品で見ると余ったり、切れたりすることが多いからである(p291)」
 このあと、著者のある体験が披露される。さるスーパーマーケットで、靴下と下着の同じものを3つずつ買おうとしたが、揃っていなかったそうだ。「靴下や下着などは一着ずつ買うものではない。担当者が買物慣習に無頓着で、欠品に注意していないのである。文具など、品種、品目の多いものにこういう例が多い(同)」と、嘆きつつ一喝している。多品種を扱う業種は注意したいものだ。こういった事態を避けるための留意事項や補充時のチェック項目は、当然ながら記されている。重要なところなのでぜひご参照いただきたい(p291~294)。

 売価についてはまず原則が語られる。
 売価こそが競争力と売上を決めるので「競争店よりも低い価格で、お客の信頼に応える品質のものを提供することが前提になる(p294)」として、4つの原則を掲げる。

(1)売れる売価を決めてから、仕入原価を決める。
(2)売価が高いか安いかを決めるのは、その商圏内の有力店(百貨店、GMSなど)を見ている、お客の側である。
(3)売価基準を決めるのは、その商圏内でその商品を一番売っている店である。これをプライスリーダーという。その商圏内で、その商品の占有率の高い店のことである。
(4)売価は同じでも、利益率は仕入原価によって違ってくる(p295)。

 そして、価格は競争上、有利な武器になることから、著者は「積極的な価格政策」を推奨する。

その目的は、地域マーケットの価格リーダーシップを握ることである。ことに食品や雑貨、実用衣料など生活必需品は、専門店に関する限り、価格のリーダーシップを握る競争になる。それには価値と価格の関係を知らねばならない。単に安いだけでは売れない。価値と比較し安くなければならない(p302)。

 仕入れ最後のテーマは、仕入先の評価である。「仕入先を選ぶには仕入先評価基準を持たねばならない。客観的評価基準がないと、個人的つながりや不正が起きやすい(p312)」。もっともなことだ。ここから、納品能力に限界がないか、商品企画力はあるか、互いに納得できる品質基準を持っているかなど、12項目の基準が教示される(p312~313)。そのうえでこうまとめる。「こちらが問屋、仕入先を評価しているということは、相手もこちらを評価しているということである(p313)」と。

8 成長論その2

 本書のラストテーマは「成長の論理」である。成長の準備編がその1なら、この実現編は、成長論その2といえよう。このおもな課題は、出店と多店舗展開、そして革新のふたつだ。ここではじめて「店が多くなれば、資金よりも何よりも、マネジメント能力のあるマネージャーが必要になる(p318)」と、店長論が登場する。マネジメント能力とは「組織の生産性を上げるための能力」であり、組織の生産性とは「少ない人数で効率的な仕事をすること」である。成長には、これを成し遂げられる店長の存在が必要不可欠という。
「店舗を正しく管理・運営する店長を置き、これに経営者としての責任を与えなければならない(同)」。文中の「経営者として」に目が留まる。「名ばかり店長」ではいけないという、叱咤の声が聞こえてくるようだ。で、その責任とは数値責任である。だがそれだけでは足りない。

トップはその数値的責任を達成できるような知識と技術を、予め与えておかなければならない。上手な管理・運営をする有能な店長がいなければ、計画的に目標を達成することはできないからである。もちろん店長には、教育・訓練が必要である。数値責任を与える場合、ただ頭から与えるだけでなく、話し合うことが必要である。管理にはレベルアップと納得が前提条件になる(p318)。

 店長論は、同じ著者の『新・店長の条件』(商業界 1996年)も非常な名著なので、ご併読いただきたい。

 ついで論じられるのは「革新」=イノベーションのことである。革新とはなにか? 著者の論をじっくり聞いてみたい。

成長には「革新」が必要である。革新とは改善ではない。商品の主力を変えるだけでは革新ではなく、改善であり、改革なのである。 革新とは、これまでのやり方、これまでの管理方式、これまでの取引先、これまでの立地の考え方、これまでの宣伝、これまでのサービス方式、これまでの人事管理・教育など、現状を一度否定して全く新しく考え直すことである。新しい収益構造を作ることである。それには、マーケットを出発点として新しい知識・情報を必要とする(p321)。
計画を持った適切な努力をした結果でなければ、本当の成長ではない。ただ売上高を追う成長は、大きくなっても虚業にすぎない。初めの段階でよりよい慣行(行動様式)を作ること、よく訓練された従業員を作ること、必要なスペシャリストを育成していくこと、問屋を選別する能力のあるバイヤーを育成することなど、これまで慣れ親しんだ方法を放棄して、革新企業としてなすべきことを着々と構築しなければならない。そこに、本当の成長の路線がある(p323)。
革新への着実な手を一つ一つ打たないで、成長の目標を売上高だけに置くことは最も危険である。なぜならそれは、成長を肥大化と混同しているからである。事実、肥大経営になって倒産寸前になっている企業がある。これらの企業は今、リストラと称して後退戦略を果敢に進めている。こうした後退戦略は、従業員の士気を最低にする。したがって、浮上するのは難しい(p324)。

 これぞまさしく洞察といってよい。ここらを読むと、現場で実感したものが、見事なまでに理論化されていることに、誰もが驚きを感ずるにちがいない。
 最初の引用は、革新を定義するものだ。革新とは「マーケットを出発点として」まったく新しい収益構造を作ることという。つぎは、革新の各論である。企業文化、優れた従業員、スペシャリスト、バイヤーと人材養成にからむものが並ぶ。そして3つ目の引用文はこうつづく。「成長はしなければならない。しかしそれは、幹部の将来までも考えた、よりよい体質の企業になるためである。規模によって違うが、原則として成長は適正成長であるべきである」。この一文に触れてふと感じた。「適正成長」という考え方は、ビジネス思考というよりも、むしろ哲学と呼んだほうがいいのかもしれない、と。

 成長への組織的な準備も欠かせない。ここでも5つの解説が加えられる。財務体質の分析、企業体質の強化、強みの決定、トップのロマン、またはミッション、組織開発と従業員教育である(p325~326)。そして行動の前に最終チェックを、ということで10の項目が示される。

 手持ちの経営資源は、すべて戦略の方向に統一されているか
 全員一致、沈黙を破る熱意に燃えているか
 全員は何によって報われるかを知っているか

 あと7項目あるが、これらは、キツイといえばキツイ内容だ。だが成長のためには最小限必要となるものでもある。ご確認のほど(p330~331)。

 出店にからんで、財務管理、経営分析の手法が説明される。損益がトントンになる売上高を表す損益分岐点売上高、「売上高から損益分岐点売上高を差引いた金額を、売上高で割った比率(p343)」である安全性比率、支払利息の支払い力をみるインタレストカバレッジ比率などが教示されている(p333~345)。

 出店の投資について守るべき財務原則も指南される(p345~351)。大きくは3つ。第1は、売上を総投資額の2・5倍以上にすること。第2は、赤字にならないというだけでなく、投資に対しての利益を見ること。「新規の出店によって経営全体の総資本経常利益率が、前年の数値を維持できるなら、まず出店は成功と言ってよい(p346)」。第3は、投資額の30%は自己資本で調達することである。さらにいうなら、不動産分配率は、15~18%が目標で、「せいぜい二〇%前後までにしなければ、必要な利益は出てこない(p350)」ということ。

 最後の最後に、著者は、長期経営計画の策定を勧める。長期経営計画とは「企業の将来ビジョンを明らかにして、それを長期にわたって実現するための戦略方向を、現実化する計画である(p364)」。長期計画を成功させるカギは、5つのステップ――財務体質の分析(自己資本構成比と資金余裕率をスタンダードにしておく)、新戦略のための組織計画と教育計画、人事政策と人員計画、設備投資(出店)や情報システムへの投資の準備、資本調達計画と経営資源の配分――のなかにある(p366)。

 ただしこれらのステップには、ふたつの機能が、明確に含まれていなくてはならないという。
 新業態開発や実験製品開発を含む「新しいマーケット戦略に対する核心機能」、それに「上級管理職のリーダーシップによる強力な統合管理機能」のふたつである。これらはきわめて重要なものだ。

長期計画は、先を考えるとは言っても、具体的には「本日何をなすべきか」を決める、今日の計画なのである。長期計画は企業がビジョンを実現するための計画ではあるが、現在の時点で何をなすべきかを決めるところに価値がある。長期計画は単なる希望や期待数値であってはならない(p367)。

9 まとめ

 以上、細かくみてきたが、本書は、小売業が〝ゴーイングコンサーン〟として、経営をつづけていくために、必要不可欠な1冊となるにちがいない。改めて、小売業の全業種業態、すべてのお店に、この本の活用、駆使をお薦めしたい。
 現在は、M&Aなどで業界再編成が進み、経営と販売の歯車がかみ合わず、各々が空転する危険性をはらむ時代になった。経営サイドは販売サイドの言葉を理解できず、販売サイドにも同じことがいえる。あたかも両者は、言葉を解しない外国人同士だ。したがってここでは、両方を理解、推進できる翻訳者が必要となる。
 だが残念なことに、その翻訳者は、すべてのお店、チェーン店、企業に必ず存在するとは限らない。そんなとき本書は、翻訳者の役割を果たし、両者が少しでもつながるよう、強く働き掛けるであろう。この本を通じて経営陣は販売の言葉を知り、販売側は経営の言葉を知ることができる。経営と販売を統合し得る機能があるのだ。
 そんなことも踏まえ、『新・小売業経営の条件』の1ページ1ページ、1行1行、あるいは行間まで読み込んで、生の経営に生かしていただきたいように思う。

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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