日経メッセ > リテールテックJAPAN > 連載コラム > 新・お店のバイブル > 革命は九州から――小売革命のための一書、牧尾英二著『利益第二主義』店舗レポート編(1)

連載コラム

革命は九州から――小売革命のための一書、牧尾英二著『利益第二主義』店舗レポート編(1)

[ 2011年3月3日 ]

 これは店を見るしかない。
 そう思わされたのは、この1冊、鹿児島のスーパーマーケット、A-Zの生い立ちといままでの活動を、社長みずから執筆した牧尾英二著『利益第二主義 過疎地の巨大スーパー「A-Z」の成功哲学』(ダイヤモンド社)を読んだときのことである。
本書は、以前ご紹介した、渋沢栄一著『論語と算盤』(角川ソフィア文庫)と同様、ベレ出版の内田眞吾氏から教示されたものだ。教えられて気がついたが、テレビ番組の「クローズアップ現代」とか「カンブリア宮殿」でも拝見していた。お客さまの満足を第一にした大型店舗が、求められるものをふんだんに揃え、その支持を広げている。フーン、すごい店があるんだなぁ、と映像を見ながら驚いたものの、記憶は、喧騒とした日常のなか、いつしか薄れていた。
 本の存在を知ったのは、そのあとしばらく経ってから。一読後、これはなんとしても見ておかなくては、と強く思った。顧客第一だけを拠りどころに、徒手空拳で「理想の小売店」を創り上げたその店を、一刻も早く目に焼きつけたい。
 とはいえお店の場所は、なにしろ九州地方の南端、鹿児島県である。行かねばと思ってから数ヶ月、ようやく、もちろんこの一書を持って、訪問を果たした。訪れたのは、A-Zの1号店、A-Zあくね。正面玄関に立ったとき、ついに! の思いを深くしたのは、いうまでもない。
 ここでひとつお断りしておきたい。本コラムは本来、書評なのだが、今回と次回は訪問記になる。本書については、ご紹介する前に、おおまかにでも、お店をレポートすることが有益と考えた次第である。

1 A-Zあくねの食品売場に入り込む

 A-Zあくねがある阿久根市に向かおうと、九州新幹線の出水(いずみ)駅で、おれんじ鉄道に乗り換えた。おれんじ鉄道は、ワンマンバスと同じシステムのワンマン電車であった。切符は車内の自動販売機で買う。こういう電車ははじめてだ。とまどう私に、運転手兼任の車掌さんから「どこまでですか」と声を掛けられたが、えーと、駅名はなんだっけと思っている間に「阿久根駅ですか」と当てられビックリした。その日はまさにビックリデーだったのだが、これはその第1弾となった。なんにせよ、A-Zあくねをはじめ、阿久根市を訪ねる人は多いのかもしれない。
 阿久根駅で降りると、タクシー10数分で、A-Zあくねに着く。駅前の商店街は、地方によくあるような、寂しい雰囲気を醸し出していた。運転手さんからアレコレ聞いているうちに、町はずれにある、その大きい店に到着する。勝手がよくわからないので車は、ひとまず正面玄関に着けてもらった。

 お店を拝見する前に、A-Zの基礎知識を本からおさらいしておこう。
 A-Zとは、株式会社マキオが、展開するスーパーセンター業態店舗で、鹿児島県を舞台にする巨艦小売店である。1997年に出店した1号店のA-Zあくねが5455坪(1万
8000平方メートル)で、その後開店した、2005年のA-Zかわなべは6515坪(2万1500平方メートル)、2009年のA-Zはやとは1万坪(3万3000平方メートル)。現在は以上の3店を有するが、今後、曽於郡大崎町店に大崎店を、宮崎県西諸県郡高原町に高原店をオープンする予定。
 A-Zあくねの扱い商品は「食料品、衣料品、家庭用品、レジャー用品から神仏具、さらには自動車まで(『利益第二主義』p78)」の生活用品。その数なんと30万点超。年商100億円以上。年間の来店数は約650万人以上。駐車台数1500台。24時間営業。年中無休。従業員約350名(現在の店長は、驚くなかれ! 女性のパートさんである)。
 オープン前、アナリストやコンサルタントは、A-Zあくねの規模に対し、マーケットが小さいから難しいのではとネガティブな反応で、銀行と行政も同様だったという。
 こういう困難な状況で出発した、そのAZあくねにやってきた。人口が少ない過疎地でこの大型店はじっさい成り立っているのか、お客さまはどの程度入っているのか、山のように揃えられた商品群は肉眼でどう見えるのか。そして、お客さま第一は、どのように貫徹されているのか。その辺を含め見どころを、順次当たっていきたい。

 視察の余裕は2時間ほど。
 のんびりはできないだろうから、早め早めの気持ちでいこう。われながら、いささか興奮気味のよう。さて入っていきなりぶつかるのが「お急ぎレジ」である。5個以内なら、ここですぐ精算できるという親切な施策だ。こんなレジ、見たことがない! あとで知ったが、同じレジカウンターが、もうひとつの入り口近くにあり、こちらには「5個までレジ」と表記されていた。
 入り口左側の食堂、右側の花屋さんを横目で見、あとでねとつぶやきながら数歩進むと、店内全景が開けてきた。なんという広さ! 大きさだろう。これはもう太平洋である。一目でワンフロア、5455坪の巨大さに圧倒された。
 左側が食品ゾーン、気を落ち着けて、ここから進入していく。生鮮三品をはじめ各売場がダイナミックに展開され、少なからずのスタッフが仕事にいそしんでいる。そんななかを歩いていくと、いくつか欲しいものが目について、ついつい指が伸びてしまった。それが増えるにつれ腕が重くなり、ならばこの際と買い物カゴを手に取る。 
 今日は日曜日、背広にネクタイ、旅行カバン、とそんな人間はほかに見当たらず、これだけでも充分に怪しい。いくらカゴを持っても、怪しいものは怪しいのだ。だがカゴでカモフラージュしようとは思っていない。買いたくなるものが、それだけあったのだから、しょうがないですね。そのうえで、コソコソとメモを取ったりしているので、すでに正体はばれているだろう。聞かれたら聞かれたで、事情を話すしかない、そう開き直って、堂々とメモすることにした。
 
 なかほどに、手広いお土産コーナー。鹿児島地鶏、かつおみそ、昆布巻きなどが、収まりよく並ぶ。海苔とかキムチは韓国産も少なくない。なにげなく見上げると商品の分類表示があり、これは棚の上部から縦長に飛び出す形。ここだよ、ここだよと呼び掛けられているようで、探しやすい感じだ。
 それにしてもアイテムが多い、なんてもんじゃない。ひとつの商品について、何十、何百と売場でひしめき合っている。お酒とかしょう油、フリカケなどは、列島の隅々から集めたのか、と思うほど。膨大な品揃えを見て、こりゃあ、かなわないぜという気持ちに陥ってか、体が勝手に笑ってしまった。でもそのあと、なぜか見入るのである。
 一番深いところには、なんと「ばくだんおにぎり」。通常の3、4倍はあるだろうか、ものすごくでっかい。しかも155円。横には大きめの弁当。これが199円と299円。その近くにある〝バイキングスタイル〟もおもしろい。ケーキ、天ぷらフライ、おかずなどを対象に、各々のなかで、自由に選べる買い方である。ふーんと思って眺めていると、利用者もなんとなく楽しそう。新鮮な創意と工夫を感じた。
 品切れ品には案内がある。「只今仕入中でございます。しばらくお待ちくださいませ」。「品切れ」という否定語でないのがいい。
 

2 A-Zあくねの物販売場を歩む

 自ら設けた2時間という制限のなか、時間は刻々と過ぎ去っていく。がなにしろ広大すぎる。見終わったのはまだ1、2割か。ラーメンファンとしては、食堂で噂のラーメンも食べたい。しかしこんなんでは、一周さえできるだろうか。あせりつつ、奥側に回り込むと、ホームセンター的なゾーンが現われた。マキオの代表取締役社長である著者、牧尾英二氏は、A-Zの前身であるホームセンターを立て直した経験を持つ。事業をこうして発展させているのだなと、著者の心持ちになり感慨深かった。
 ここで気づいた。「毎日の暮らしのお手伝い!」という、店舗コンセプトを表す表示が、店内のあっちにもこっちにも張り巡らされている。黄色とオレンジ色のコーディネートで、目立ち過ぎないにしても、ほどよくは目立っていた。このくらいなら、客のほとんどが、1日1回は見つけて読むだろうか。照明は、どこも、ベースが蛍光灯でスポットが2個ずつという組み合わせ。

 上方を見ていて柱の数字に気がついた。縦並びに「1」「2」「3」、横並びに「あ」から、ずーっとつづいている。確かめると「つ」まであった。縦と横に番号とひらがなをつけ、案内しやすいよう意図したものであろう。「ハイ、その品は、『カ』の『2』の売場になります」というように案内するのかもしれない。わかりやすい表示である。
 家電売場でPCコーナーを探した。どんな機種があるのか、興味があったからだ。ところが、いくら売場をウロウロしても、PCは見当たらない。思い余って近くの若いスタッフに聞いてみたら、申し訳なさそうに「取り扱いはないんです」という答だった。あとでタクシーの運転手に聞くと、すぐそばに家電ショップがあるそうなので、その店に任せているものと思われる。
 
 ちなみに、この日、数人の方に、商品とか場所を伺ったが、誰からも「いらっしゃいませ」という、お決まりの挨拶ことばはなかった。その代わりというか、話し方は一貫して親身であり、店側と客側、という断絶感がなかったから、それはそれでいいように感じた。しょっちゅう来ていて何度も声を掛けているのに、紋切り型の「いらっしゃいませ」では、なんか事務的で冷たくないか、というような一体的なムードが感じ取れた。私にもそれがむしろ斬新に映ったから、不思議というしかない。このことは本のなかでも、自然な笑顔、明るい印象、誠意の伝達、喜びあふれる仕事ぶりなどの言い方で肯定されている。
 それにつけても、従業員が各売場にしっかり存在し、自分のペースを守ってしかるべく仕事に取り組んでいる姿は、店のスタッフが少なく、目に入っても、どこかあわただしいお店が多いなか、なんだか好感が持てた。「忙しいんだから、もういいでしょう?」というような冷たい態度は、微塵もない。その反対に、「いつでも、なんでも、いくらでもお問い合わせくださいね」というメッセージが発信されていると感じられた。
 
 お客さまの層は、日曜日のせいもあってか、子ども、若者から高年者まで幅広く、全体としては総合客のようだ。おじいさんやおばあさんが、カートを押してショッピングしたり、店内を散歩したり、もの思いにふけったりという姿が、いい感じに映る。憩いの場としても、受け入れられているなと実感した。店への親しみ感がなくてはこうはいかない。百貨店もできた頃は、こんな風だったのだろうかと、なんの気なしに小売の歴史に思いをはせた。

(次回につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

バックナンバー

PAGE TOP