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連載コラム

革命は九州から――小売革命のための一書、牧尾英二著『利益第二主義』店舗レポート編(2)

[ 2011年4月6日 ]

前回よりつづく)

3 A-Zあくねに〝書店〟があった!

 突然、目の前に〝書店〟が出現した。それを見たとたん、えー、本屋さんまであるのか、と腰を抜かした。40坪前後だろうか。まさかこの店、A-Zあくねに、しかもそのど真ん中に、これほどの本があるとは! 夢にも思わなかった。でもたまげたあとで、店全体のコンセプトがどう書店に反映しているのか、興味津々にもなった(なお虚をつかれて愕然としたのと、仕事が書店・出版コンサルタントということもあり、この辺がやけに詳しくなるがご容赦いただきたい)。

 書店MD(商品政策)は、生活必需品というコンセプト通り、雑誌中心に構成されている。中心といっても本当の中心で、雑誌台は20台以上あるが、普通の書店でいうと100坪、200坪並の規模だ。『月刊文藝春秋』(文藝春秋)が4面という、いきなりの多面展示である。売れるものは精一杯売り伸ばすという方針のよう。
総合雑誌の場所に、他の本の多面展示もあった。だが雑誌ではない。なにかといえばそれは、同店の代表取締役社長、牧尾英二氏の著作である。『利益第二主義 過疎地の巨大スーパー「A-Z」の成功哲学』(ダイヤモンド社)は5面展示。氏の本は、ほかのものも並んでいた。3面展示された『「生き残る」会社の法則 過疎地で年商100億円!』(ベストセラーズ)だ。知らなかった! いつのまに刊行されたのか、こちらも読みやすそうなので、やはりカゴに入れる。同じところには、サム・ウォルトン著『私のウォルマート商法 すべて小さく考えよ』(講談社+α文庫)の2面展示も。
 ここで売場内を見渡すと、中央の台は、雑誌に加え、児童書6本、企画台6本、実用書(雑誌に組み込み)。奥の壁棚には、表側から、コミック6本、文庫、文芸系、ビジネス・実用系が各2本という構成だ。ビジネス・実用系には、辞書4段、新書1段も含まれる。

 A-Zなら、効率主義だけではない、なにか別の切り口があるのでは、そういう目で売場内を回ると、健康志向が強い〝書店〟と気づいた。
たとえばエンドには、健康書と健康料理書の特設什器が設けられている。そこには、自然 療法のプロフェッショナル、東城百合子氏の著作『家庭でできる自然療法』(あなたと健康社)を皮切りに、アトピッ子地球の子ネットワーク著『食べることが楽しくなるアトピッ子料理ガイド』(コモンズ)、梅崎和子著『アトピー料理BOOK』(第三書館)、傳田光洋著『皮膚は考える』(岩波科学ライブラリー)、土田直樹著『オールアース時代がやってくる 快適な住まいに電磁波対策は欠かせない』(ホノカ社 地方・小出版流通センター扱い)、ワクチントーク全国著『予防接種へ行く前に』(ジャパンマシニスト社)などの本が、棚差し、表紙見せ、平積みなどで、バラエティ豊かに展示されていた。
 木村繁・医薬制度研究会著『医者からもらった薬がわかる本』(法研)と、大森一慧著『一慧の穀菜食Book/手当法』(宇宙法則研究会)も発見。
 こうリストアップすると、品揃えから、そのコンセプトが伝わってくるように思われる。よく見たら『家庭でできる自然療法』の表紙に張り紙が! でコメントが書かれている。ん? どれどれと手に取ると「みんなの本、大切に! まいまい文庫(株式会社マキオ)」とあった。株式会社マキオとは、いうまでもなく、A-Zの店舗を展開する会社のこと。もしかして、この「まいまい文庫」が書店名なのだろうか。
 その『家庭でできる自然療法』を開くと、「誰でもできる食事と手当法」という副題通り、生活に溶け込みながら、健康を維持し病を治すコツが満載の、大変な良書であった。これもカゴ入り! 本書は、流通に乗せない、出版業界でいうところの直扱い商品である。
あとがきは

この本は一般の書店に出さず、宣伝も広告もせず、読者から読者へ・・・と九十万部が世に出て、人から人へ伝えられて参りました(p414)

という一文からはじまる。90万! うーん、すごいとしばし二の句が継げなかった。購入した本には、1978年発行、2010年7月7日920版である旨、記録されている。これまた驚愕すべきものだ。A‐Zはこういう書籍をも、きちっと置いているのだなぁと舌を巻いた。

 話を戻し〝書店〟のガイドをつづけたい。ビジネス書では、『エッセンシャル版 マネジメント』(ダイヤモンド社)や『ドラッカーの遺言』(講談社)をはじめとするドラッカー著作群と、その関連書が目立っていた。岩崎夏海著『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(ダイヤモンド社)のミリオンセラー化、いわゆる『もしドラ』ブームの反映か、それともお店の志向だろうか。
 関連書は、牛越博文著『これだけは知っておきたいドラッカー』(文藝春秋)から、NHK「仕事学のすすめ」制作班編 『柳井正わがドラッカー流経営論』(NHK出版)、佐藤等編著・上田惇生監修による『実践するドラッカー 思考編』と『行動編』(ともにダイヤモンド社)、藤屋伸二著『20代から身につけたいドラッカーの思考法』(中経出版)まであまたあり、もちろん『もしドラ』が中核商品。
 もっとビックリしたのは、あまり見掛けない、中野明著『ポケット図解 ピーター・ドラッカーの「マネジメント論」がわかる本』(秀和システム)である。これは『もしドラ』が『マネジメント』の小説版とするなら、フローチャート編に該当する。ぜひ一緒に読みたいものである。というわけで、これまたカゴへ!
 奥側のエンドには、永岡書店の文庫コレクションと、妊娠、出産、育児をモチーフに、命の尊さを謳いあげる映画「うまれる」のコーナー。前者では、安保徹著『免疫の新常識』や石原結實著『石原結實式 老いない体をつくる生き方』と、やはり健康志向に貫かれている。後者では、池川明・豪田トモ著『えらんでうまれてきたよ 胎内記憶が教えてくれること』(二見書房)がアピール中。

 返金はできない旨の表示がおもしろかった。「お客様へ お願い!! レジ精算後の雑誌等の返金はできません。ご了解下さい」。このなかの「お願い!!」がとりわけよかったと思う。
 DVDとCDはウィンドーのなかに収まっている。カギは掛かっているだろうとガラス戸を引っ張ったら、少し重いが開けられた。これはうまいやり方だ。万引き防止に配慮しながらも、お客さまが手に取れるという高度のテクニックである。などと感じいっている間に、時間がなくなってきた。われ知らず、書店に時間を取り過ぎた。ラーメンを食べる時間を、20分から30分は残しておかねばならない。
 

4 A-Zあくねの印象をまとめると

 薬はどうか、むろんあるだろうなと思ってお聞きすると、正面口から入り、右側に曲がったところだった。入店したときは左サイドに回ったので気づかなかった。ここからは、もうしょうがない、ザーッと回るしかない。その前に、花屋さんを覗こうと売場に入った。値段を見たら、いやぁ安いこと安いこと、前から中央までのものは、200円台と300円台。もっと奥は園芸売場で、そこを通り抜けてから、残っている売場を一走りした。メイン通路を進み行くだけで数分は掛かった。駆け足で見たなかに、ネジとナットがあったが、これがまた、世界中から総結集したのか、というほどの数で、ひっくり返ってしまった。
 途中、キャッシュバックのカウンターにぶつかる。ここは、60歳以上のお客さまと身体障害者の方に、お買い上げ金額の5%分をキャッシュバックする場所だ。本を読んでいたからそう驚かなかったが、知らずにいたら、今度は飛び上がっていただろう。

 店の印象をまとめると、広い、多い、安いに尽きるだろうか。あとしいてつけ足すなら、選びやすい、歩きやすいである。じっさい店内は、歩いても歩いても、道はどこまでもつづいていた。通路幅が、広すぎず狭すぎずというのもいい。
 そんななかから購入してしまったのは、カニミソ、梅ようかん、つけもの、小豆最中、甘納豆、レッドグローブなどなど、本と合わせ、5000円ちょっと。そういってよければ、いつしか手に取ってしまったのだが、どこか快い買い物であった。
 待望のラーメンは、さっぱりしていてうまかった。以前、おばあちゃんの原宿と呼ばれる、東京・巣鴨の地蔵通り商店街で食したラーメンもさっぱり派だったが、それに匹敵する。胃に優しく消化によく、それでいて美味。やり方も、企業の食堂のように、セルフ形式だったのが楽しかった。

 帰りしな、外に出たところで「兄さん、ちょいと待ちな」と声を掛けられないか、不安がまったくなかったといえば嘘になる。だが現実にはそんなこともなく、ホッと一息、そそくさとタクシーに乗り込んだ。運転手さんの話では、A-Zあくねは、そうとう地域に溶け込んでおり、店ができてから、周りの人々の生活は、かなり変わったようだった。むろん、良い意味で。

 地域とともに
 地域密着
 顧客第一

 よく聞くキャッチである。よく聞くわりに、このことを実現、達成できているお店は、どれだけあるだろうかといつも想う。だがA-Zあくねでは、間違いなくこれらが根付いていると、体感できた。『利益第二主義』に書いてあるコンセプトを思い出す。生活必需品なら、要望があればなんでも置いてみる――すべてはそのことを実現するためだった。これだけの大規模スペースと年中無休、24時間営業も、そのためにこそ必要なのであった。
 ふと思う、このようなこと、過去、誰もやっていないのではないか。そういう意味でこの店には、先輩も指導者もいない。スーパースターもいないし、むしろ不要だろうと思い至った。そうだ、これこそ本当の小売店なのだ! そう感じ入りながら帰路についた。こんな風にして、九州のビックリデーは幕を閉じたのである。
                        

 (次回から、書評に入ります)。


新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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