日経メッセ > リテールテックJAPAN > 連載コラム > 新・お店のバイブル > 革命は九州から――小売革命のための一書、牧尾英二著『利益第二主義』書評編(1)

連載コラム

革命は九州から――小売革命のための一書、牧尾英二著『利益第二主義』書評編(1)

[ 2011年5月11日 ]

 革命を巻き起こす書である。

 本書を一読したあとの率直な感想だ。本書とは、鹿児島県のスーパーマーケット、A-Zの代表取締役社長、牧尾英二氏が著した『利益第二主義 過疎地の巨大スーパー「A-Z」の成功哲学』(ダイヤモンド社)のことである。
 これまでのチェーン店は、おもにアメリカ発のチェーン理論でやってきたと思われる。どちらかといえば、先に店のスタイルがあって、それに合う形での出店を追求してきたのではなかったか。勢い、その手法は、本部主導による管理、効率に、重きを置いた標準主義となる。そのゆえに、本来、最優先すべき顧客、またそのニーズが、やや置き去りにされるきらいはなかったろうか。だから少なくとも今後、この路線を維持していいのかどうか、という課題は残されている。
 本書は、結果としてこの問題を鋭く突きつける。A-Zという、かつてない鏡に映る顧客の姿は、現代の小売業に、なにを問い掛けているのだろうか。この本は、A-Zというお店の報告を主流としつつ、その底流で、あるべき小売店の姿を追究するものだ。A-Zはどう理想を実現しようとしているのか――これから何回かにわけて、それをたどってみたいと思う。

1 A-Zあくねの概況

 この本では、A-Zの出発点である1号店、A-Zあくねが中心に描かれるため、改めてその概況を眺めておきたい。
 A-Zあくねは、1997年3月、鹿児島県の阿久根市に出現した。出店時の市人口が2万7000人(現2万4000人)の過疎地である。だが過疎地でも、小売ビジネスとしては、土地代が安く競争があまりないわりに、店舗面積当たりの消費人口は多少ある、という利点も存在していた(地元スーパーは、この利点を生かさず、大型店は進出しないだろうと、あぐらをかいていたらしい)。
 先行するマキオホームセンターがあったとはいえ、当初、それ以外の経験者がおらず、店の運営は懸念された。いやそれ以前に、経営自体が成り立つのか、行政や銀行筋からかなり疑問視されたという。本書における、この局面を乗り越える戦いは印象的といってよい。 
 そこで著者は、経験者不在というマイナス状況を、プラスに転換する。そのキーワードは、前例否定、素人発想である。どこまでも顧客の立場に立ったうえで、素人――生活者の発想で前例を否定しつつ、店の運営と経営に励んだのだ。その結果、1日、1万7000人の来店客を迎え、大不況のなかでも売上増がつづく、といった奇跡的な成長を果たした。
 以下、本書の中身を、A-Zの客層と店舗コンセプト、立地状況、MD(商品政策)、価格方針、販売促進、接客・サービス、店舗施設などハード面、マネジメント、経営哲学というような流れに分解、再編成しご紹介していきたい。

2 A-Zの客層と店舗コンセプト

 はじめに、客層と店舗コンセプトの記述を読んでみよう。
 客層は、スーパーマーケットのメイン・ターゲットたる婦人層だけでなく、あくまで総合客層である。赤ちゃんからお年寄りまで、すべてのお客さまととらえられている。したがって顧客ニーズも、生活にかかわる全局面に対応するものとなる。
 店舗コンセプトにからむ文章は、店の誕生にからむだけに数多い。

あちこちで買いまわりをしなければ揃えられなかった生活必需品が一か所ですべて揃う店舗。 いつでも安さを追求するエブリディ・ロー・プライスの店舗。 いつでも買い物ができる年中無休の二四時間営業の店舗(p37)。
この町で暮らす人々の家事労働のお手伝いをしたい(p60)。
過疎地に大型スーパーを造るということには、おこがましいようですが、道路、上下水道、電気などに準ずる、インフラ整備に近い意味があるのです。その店があることで、その地域の人たちは衣食住に困らない生活ができる。こうした発想が、のちに開業するA-Zの大きなテーマとなりました(p37~38)。

 そのほかの文章にも、「生活総合店」「地域の社交場」などのキーワードがよく出ており、「地域生活者に寄与」「地域の生活者のお手伝い」という店舗コンセプトをよく表している。具体的コンセプトは、生活必需品、とりわけスモール商品(比較的小さい商品)の「ワンフロア・ワンストップ・ショートタイム(p91)」になる。あえて繰り返すが、ワンフロア、ワンストップ、ショートタイム、これらの3つがすべて実現できてこそ、お客さまにご満足いただけるという考え方である。
 このコンセプトから帰結される経営目標は、驚いたことに売上とか利益ではない。ではなにかといえば、通常の3倍を目指すという来店回数と買上点数なのである。とはいえ、買い過ぎないよう呼び掛けたりもする。じつは、このような業態コンセプトは、アメリカに先行例があったそうだ。

以前、私が自動車関係の仕事でアメリカの地方都市に出張した際、畑に囲まれた、人口二万人の小さな町の大型店が、老若男女、家族連れで昼夜を問わず賑わっていた光景が念頭にあったからです(p43)。

 ここにヒントを見出したとはいえ、もちろんそれだけで店舗開設を決行したわけではない。風土の異なる日本で成功できる要因を、考え詰めて構想したものと思われる。つぎから述べる各要素は、その裏づけとなろう。

3 A-Zの立地状況

 ここで重ねて、A-Zあくねの立地と商圏に触れる。
 阿久根市は、最近、政治方面での話題を集めたが、もともとは漁業と農業が中心の町である。市自体の人口は、店ができたころは、先に述べたように2万7000人だ。商圏人口は多くても5万人と見積もられ、クルマで1時間圏ととらえても、せいぜい10万人まで。ところが行政や銀行からは30万人が必要といわれ、その対応が柔軟でなかったことは前述した。

4 A-ZのMD(商品政策)

 A-ZのMD(商品政策)方針はシンプルといえる。「毎日の生活に必要なすべての商品を揃える(p64)」ことであり、お客さまが求めるならなんでも置く、いわば〝オール品揃え主義〟である。著者はこれを「積み木方式(p7)」と呼ぶ。お客さまから要望があった商品を、積み木を積むように、一つひとつていねいに揃えていく手法だ。それも以下のようにである。

売れる、売れないに関係なく、お客様が要求される生活関連用品や消耗品をフルラインで揃えれば、お客様に重宝がられて喜ばれるだろう(p37)。
「売れる、売れないに関係なく」の言葉に目が留まって動かない。しかしそれでは、死に筋が発生するだろうが、これをどうするのか。
効率よく売り上げるためには、通常、売れ筋商品への絞り込みが行われます。しかし、小売業で一般的に「死に筋」と言われる商品も、地域のお客様の日々の生活に必要なものであればすべて揃えています(中略)。  小売業は在庫管理が生命線と言われますが、いわゆる死に筋商品を検証してみると生活者に必要なものがたくさんあります。わらじ、ふんどし、梅を干すのに使う大きなざる、など、年に数個しか売れないような商品でも売り場に置いてあるのは、日々の生活でそれを必要とするお客様がいらっしゃるからです(p79)。

 「売れる、売れないに関係なく」は、むろん言葉だけではなかった。もっとも、なんでもかんでも、やみくもに揃えているわけではない。そこには確固とした経営理論がある。それを証明する、つぎのフレーズをお読みいただきたい。

めったに売れない商品でも、効率を無視して品揃えをすることで、お客様の来店頻度が上がり、来店一回あたりの買上点数が増えることも期待できます(p82)。

 ねらいはここにあったのだ。だがねらいだけでなく、お客さまへの思いなり応対からもこう断言する。

お客様からは、「あれはないの? これはないの?」と、次々と要望が出されます。販売効率を優先していたら、こうしたお客様の声に応えることはできません(83)。

 かといって新商品の選び込みはある。その方法はこうだ。

お酒の新商品が出ると、とりあえず売り場に並べます。そしてお客様の支持が得られれば定番として残っていきます。店の品揃えを決めるのはお客様なのです(p84)。

 POSシステムの限界も指摘される。

これは売れない、売れても効率が悪い、売れても儲からない。POSではこうした商品はすべてはじかれてしまいます。それらを丹念に拾い上げていくのが、私どもの品揃えの基本です(p85)。

 POSデータからはじかれた商品を「丹念に拾い上げていく」のが基本、と著者はあっさり書いているが、この点こそが、まさに革命の一端と考えられる。
ついで記される現代小売業を痛撃する一節を、私たちは、胸に刻み込まなければならないだろう。

アメリカと比べると、日本の小売業は供給する側の都合を押し付けているように感じました。人口が多いところに出店して、品揃えは売れ筋商品に絞り、回転率を上げる大手小売業の考え方は、消費者の視点から考えられたものではありません(p61)。

 ここでは、販売面だけでなく経営もろともに、生活者の立場に徹すべきことが示唆されている。賛否はあっても、よくよく思案したいところだ。
 ともあれ「生活必需品のフルラインナップ」を目指し扱う商品は、たとえばA-Zあくねでは、増床されたとはいえ、出店時の23万点から36万点に増えた。
 おもな商品は、スモール商品だが、「生活必需品のフルラインナップ」を掲げる以上、大きい商品も射程に入らざるを得ない。だから車まで販売するようになったのだが、かといって通常のディーラーとはちがい、そこはあくまでA-Zらしく、雑貨感覚での販売を志向している(p124~133)。つぎに書かれるガソリンスタンドや車検の話には、A-Zは「なんでも名人」なのかとも思わされ、それこそ気さえ失うようだ。

(次回につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

バックナンバー

PAGE TOP