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連載コラム

革命は九州から――小売革命のための一書、牧尾英二著『利益第二主義』書評編(2)

[ 2011年6月14日 ]

前回よりつづく)

 仕入れ方針は、店舗コンセプトにのっとり画期的といってよい。地元業者を最優先させつつ、原則として買取り条件、適正仕入れで裏取引なしを標榜、実践してきた。換言するなら、生産者、メーカー、問屋との地域連合体を形成しているのだ。そのスタンスは、バイイングパワーで仕入れ値をたたくのでなく、「たくさん売ることで自然と安くなる(p173)」のを待つところにある。

この店はある程度売れるということがわかれば、無理な値引きを要求しなくても、取引先は原価を引き下げてくれます。売れれば売れるほど、条件をよくしてくれます。仕入先と強く交渉をして、安く仕入れてたくさん売るか。そういう交渉はしないで、たくさん売ることで自然と安くなるか。考え方だと思いますが、仕入先との関係を考えれば、自然と安くのほうが当然いいのです(p173)。

 卓見ではないだろうか。仕入先への姿勢は、さらにこう加えられる。

私どもは、「利は元にあり」という信念から、取引先を大切にしたいと常に考えてきました。従業員には、取引先を大事にすることがお客様にとっても喜びになると話しています。原則買取、返品なし、委託なし、付け届けや接待は受けず、バックマージンを求めずというAZの基本的な考え方を、創業時から機会あるごとに従業員に言い続けてきました。買ってあげるのではなく、仕入れさせていただきありがとうございますというのが、私どもの姿勢なのです(p176)。
「買ってあげるのではなく、仕入れさせていただきありがとうございますというのが、私どもの姿勢」というところでは、うなってしまった。メーカーや問屋のマーチャンダイジングに頼らないのも、おのずから納得できようというものだ。その結果、ビールや焼酎では、九州一、日本一のアイテムも登場している(p83~84)。

5 A‐Zの価格方針と販売促進

 価格の方針にも迷いがない。
 エブリディ・ロー・プライスで特売なしなのだ。その理由は非常に明快。お客さまの生活費が10%くらい低くなるように、一般よりも8~10%売値を安く設定しているのである。

私どもの店での買い物を中心に生活していただければ、地域のお客様の生活費が年間で10%くらい安くなるようにと、開店に際しては、一般的な小売業よりも売り値を8~10%安く設定することにしました(p61)。

すごい!

 A‐Z最大の特長は販売促進にある。いや「ある」のではなく「ない」といったほうがいいかもしれない。「ない」のはなにかといえば、販売促進がないのだ。もっとも「ない」と言い切るには、若干の抵抗もある。より詳しく述べるなら、どのスーパーマーケットでも日常的に実施される、バーゲンセールと折込チラシがないのである。なぜないのかは、ホームセンター時代の経験による。

じつは、ホームセンターの時代に、コストを抑える目的で、チラシをなくすテストを行ったのです。約一年半、ノーチラシに挑戦してみると、驚くことに、売上げがまったく下がらないうえ、チラシの経費が減ることで利益が大幅に上昇したのです(p70)。

 じつはこのホームセンター時代、チラシの誤植事件が起こった。1万円の商品を1000円と誤記してしまった。このときにどう対処したかが注目される。予定の1万円でいったか、それとも誤記通り1000円で売ったか。その対処は102ページ以降にあるので、自分だったら、自店だったらどうするかと想像しながら、ぜひとも当たっていただきたい。

 さてチラシ以外のプロモーションといえば、これも少ない。しいていうなら、マスメディアの活用くらいだろうか。活用といっても広告宣伝を打つわけではない。お店のニュースバリューが高いため、メディアのほうが取り上げるだけだから、お店が活用しているのとはちょっと異なる。それでも、販促の役割が果たされているのは、このくらいかと思われる。さらに考えるなら、なににもまして、お店の存在そのもの、顧客志向の売場づくり自体が、販促といえないだろうか。

6 A‐Zの接客とサービス

 販促施策が少ない分、接客とサービスにかかわるものが多いのが、お客さまを大事にするA‐Z風だ。
 接客の基本はこう明かされる。

私どもは、赤ちゃんからお年寄りまですべてのお客様を平等に考えて、生活用品をAからZまで品揃えしています。ですから、接客でも、すべてのお客様に平等に、明るく思いやりを持って、やさしく丁寧に接するよう、従業員にお願いしています。ビジネスに限ることではありませんが、小売業ではお客様に対したちょっとした心づかいが、店の信用を厚くしていきます(p153)。

 ここで店名の由来が披露されているが、ポイントは「すべてのお客様に平等に、明るく思いやりを持って、やさしく丁寧に接する」ところにある。なんだ、そんなことか、と思ってはいけない。ここに書かれている平等、明るさ、思いやり、優しさ、丁寧さといったことを、忙しい店頭で実現するのがいかに困難か、どの業種であれ、どの店であれ、現場で働いている人は痛感しているはずだ。
 もっとも、だからといってマニュアルは認めない。

たとえば挨拶ひとつでも、マニュアルによる教育では、頭はこの角度で下げてとか、相手と話しているときはネクタイのここを見てとか言われますが、相手の人に、この人は挨拶してくれているんだ、親しみを持ってくれているんだという気持ちがきちんと伝われば、それでいいのです。マニュアル的な、わざとらしい挨拶をするよりも、ちょっとした会釈しただけの挨拶のほうが、相手にとって気持ちのいい場合もあります。自然でいいのです。そのナチュラルさが相手にいい印象を与えるようなものであればいいのです(p147)。

 では売場の担当者はどういうことを心掛ければいいのか? この文章はこうつづく。

レジや店頭に立つ従業員にとって、明るい印象をお客様に与えることが何よりも大切だと思います。自分はいま、お客様にどんな印象を与えているかと考えてみる。一生懸命に仕事をしている姿、真剣に仕事に取り組んでいる姿は、自然とお客様に好印象を与えるはずです(p147~148)。

 著者の意見に反対の人でも、この一節は、玩味する価値があると思う。なぜなら人間の仕事、あるいは生き方の本質に触れているからだ。
 商品配置との絡みで言及される、つぎのような一節もある。

たとえば、お客様が、ある売り場付近をうろうろしたあとに、「国旗はどこに置いてあるの?」と聞かれれば、聞かれた場所に国旗を置くのがいちばんよいのです(p94)。

 目を見張るべき見解である。ここを読んだとき、すぐ、この見方は「素晴らしい!」と思った。お客さまは「この辺かな」と思いつつ、訊ねることが多々あるからだ(もっともこのことは、スタッフが、各売場に適正に配置されている店にこそ、当てはまるのだが)。
 サービスといえば、大型小売店にもかかわらず、敢行されている24時間営業には、刮目(かつもく)せざるを得ない。なぜ苦労の多い24時間営業を決意したのか?

年中無休24時間営業にはひとかたならぬ思いがあります。人の命(時間)は限られています。日常生活の買い物は家事労働ですから、それぞれの人が空いている時間にいつでも用が足せるようにし、限られた時間を他のことに有効に活用してもらえたらという思いから、二四時間営業に挑戦したのです。さらに、それを大型店でワンストップで提供できれば、その人の時間はかなり節約できるはずです(p14)。

 ここには、お客さまの時間、人生、生命といった観点が見い出せる。かといって経営的にどうかも気になる。しかしそれも、19時から8時までの売上が4割というのだから、決して無謀なことではなかったろう。ニーズは確実に存在した。こういう施策もやってみなければ、当否はわからないのだった。

 ところで、今年の3月11日、周知のように東日本大震災が発生した。私事になるが、私の故郷は、福島県の海通りにある相馬市で、当日、他地区同様、地震と津波に襲われた。現在も、相次ぐ余震、原発問題、放射能汚染といった危機の只中にある。
 そういうことも含みつつ考えると、A‐Zの災害時におけるサポートには、とくに感動させられた。まずは、1993年7月の豪雨で、店舗裏の堤防が決壊、駐車場と道路も冠水、店内もひざ下まで浸水したときの話。

そのときもお客様は水の中を来店され、ブルーシート、ぞうきん、バケツなどを買い求めてくださいました。周辺の店はすべて閉店しており、私どもが営業を続けるしかなかったのです。その後も、記録的な台風が上陸したおりには、他の店は早々と閉店してしまうため、やはり私どもが対応するしかありませんでした(p111)。

 この辺は涙なくして読みつづけられない。つぎもやはり災害時の話。

電気が来なくなると、冷凍品や冷蔵品の保存ができなくなります。そこで、停電になった日に、肉や魚を通常価格の九割引でお客様に提供しました。これも売り場の担当者が自主的に決めたことですが、私も当時は、ずいぶん思い切ったことをしたものだと感心しました(p110)。

 心底喜んでいる著者の、そんなそこはかとない気持ちが伝わってくる文章だ。

(次回につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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