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連載コラム

革命は九州から――小売革命のための一書、牧尾英二著『利益第二主義』書評編(3)

[ 2011年7月7日 ]

前回よりつづく)

 相場の変動が激しい菊の生花を100円で売ったとき、A‐Zの代表取締役社長である著者、牧尾英二氏は、心配する担当者に、「もしトータルで赤字になった場合は損失分を私が個人的に負担するから安心してください」と伝えたという。
 ここから学べるのは、担当責任制の厳格さ、と同時に運用の柔軟さだ。さらに、社長みずから個人負担で赤字を補填するという話には、グッとくるものがある。スタンドプレイという批判があるかもしれない。そこは取りようだが、お客さま商売の現場でスタンドプレイは通用しないことを考慮すると、私が無条件で共感せざるを得なかったことは白状しておきたい。その結果については、113、114ページをご参照!

 親切な制度として、すでに触れたお急ぎレジに加え、片道100円での買い物バスも注目される。買い物バスという着想の斬新さには、ちょっとめまいさえしてくる。阿久根市の3人にひとりが65歳以上、山間にお年寄りが多く住む集落が点在、過疎地なのでバス交通はあまりない、というような環境への対処として、A‐Zは、自宅とお店を結ぶ買い物バスを考案した。その内容も驚くべきものだ。

買い物バスの料金は、片道一〇〇円が基本で、遠隔地でも一五〇円です。前日までに電話予約をいただくと、お客様の家の玄関先までバスがお迎えに行きます。買い物後にはまた自宅までお送りします。一人での利用から受け付けており、予約で運行しているので、バスの経路はとくに決まっていません(p122)。

 これらはそのまま高齢者への対策にもなろう。高齢者対策といえば、お年寄りと障害者を対象にした5%のキャッシュバックシステムが印象深い。このシステムの背景にはなにがあるのだろうか。

AZスーパーセンターは初年度、銀行予想の倍の売上げの六二億円を記録しました。当社の予想も五〇億円でしたから、およそ二割多かったことになります。私どもには企業として成立するために最低限必要な利益さえ出ればよいという理念がありますから、予想より儲かったお金を地域のお客様に少しでも還元したいと考えました(p118)。

 そこで、州税の6%を65歳以上の人に還元するアメリカの店舗を参考に、同様な施策を実施しているのである。しかもこれは今後とも続けることを表明している。

「AZカード」では、年間一億円以上を還元していますが、販促や宣伝のために行っているサービスではないので、当社が赤字にならないかぎり続けるつもりです(p120)。

7 A‐Zの店舗施設などハード面

 店舗施設などのハード面でも、学ぶ点が少なくない。店舗の設計法もそのひとつ。これまでの方法では、建設費が高くついて事業にならないという問題があった。そこで発想を180度変え、店舗設計に自動車の設計法を応用、奇抜で強い店にした。その結果、A‐Zあくねのオープン日に発生した大地震に、びくともしなかったことで、その強靭さが実証された(p65)。

じつは、AZスーパーセンターのオープン当日に、鹿児島県を中心にした南九州一帯が、地元の人も経験したことがないほどの大きな地震に見舞われ、阿久根市では震度六を記録しました。お客様に被害はないかとたいへん心配しましたが、私どもの店舗はびくともしませんでした(同)。

  この着想は、あるいは、東日本大震災で被災したお店、いや今後の大地震に備えたい、すべてのお店の参考になるかもしれない。ついで、設計法の各論部分も引用したい。ここらを読むと、こんな風に強くかつ安くしたのかと舌をまいてしまう。

自動車の設計の考え方を多く取り入れることで、建設業界の前例を否定しました。たとえば低コストの一環として、基礎部分を除いて鉄筋を床には配金せず、金属チップをコンクリートの中にまぜる工法を開発しました。また骨組みの軽量化も図りました。こうして一坪あたり一四万五〇〇〇円の建築手法の実現に成功したのです(同)。
実際の建築に際しては、工区を分けて、少しずつ工程を横へずらしながら同時に縦に工事を進めることで、工期を大幅に短縮し、コストを下げました(p65~66)。

 照明とか空調など電気がらみの説明は、ほんの1ページ半だが、エキスがぎっちり詰め込まれている。照明と空調は、商品レイアウト決定後に決めること、たとえば照明なら、各売場の特徴に合わせ数とルックスを変えること、夜は5段階で明るさを落としていくこと、空調では、暖房装置を備えていないこと、すべての必要電力をAZ発電所という自家発電からまかなっていること、飲食以外の水は地下水を利用していることなどが、簡潔に描かれている。このうち電気関係の記述は、節電時代を先取りしているようにさえ感じられる。
 なお、A‐Zあくねの敷地面積は5万1515坪(17万平方メートル)で、東京ドーム3・6個分もあり、駐車台数は1500台という。

8 A‐Zのマネジメント

 いかに素晴らしい店づくりを志向しても、遂行する店舗マネジメントがいいかげんでは、できることもできなくなる。その大切な店舗マネジメントを説く、第5章の「従業員は自ら育つもの、マニュアルでは育たない」は圧巻といってよい。現代小売チェーンが陥ったブラックボックスを、見事なまでに浮き彫りにするこの章は、すべてのページ、すべての行に命が宿っており、私が持っている本のこの辺りは(ほかもほぼ同様だが)、ほとんどが赤い線で埋まってしまった。
 圧縮して述べたい。A‐Zでは――本当に目を丸くしたのだが――本部なし、教育システムなし、マニュアルなしなのである。他店見学もしない方針。

私どもの従業員には他店を見ないようにお願いしています。他店はどこも素晴らしく、つい真似したくなるからです。本当に大切なのは、地域のお客様の声。従業員は、売り場に出てお客様と接し、自ら学び考えることによって成長していくものです。そのため、接客や売り場作りなどのマニュアルはありません。研修などの社員教育も行いません(p9)。

 お客さまの声と商品の動きが一番のデータである。つまり、売場でお客様から学ぶのだ。
 A‐Zマネジメントの真髄は「管理小売業は目指さない」という一点に現われる。「管理」しないで現場重視を貫くのだ。

管理販売型の小売業では、管理職になると、視線がどうしても内向きになり、お客様のことは二の次になって、「管理をしなければならない」と思ってしまいがちです。パソコンを叩いたり、伝票情報を読むことが管理であるとか、デスクワークをすれば仕事だという、へんな錯覚が蔓延している気がしてなりません。デスクに張りついてしまうと、どうしてもお客様から距離が遠くなってしまいます。管理販売をやればやるほど内向きになって、売る側の都合が優先されてしまうのです(p142)。

 「管理販売」をおこなうすべての店がそうとはいえないにせよ、ここに、ややもすると失われがちな、大事な指摘があるのは疑いがない。

管理販売を行わないという経営方針なので、今年はいくら売上高をあげようとか、いくら利益をあげようという計画はありません。いわゆる販売計画や利益計画は、いっさい存在しないのです。ですから、現場に対して、そうした数字を押し付けるこもありません(p143)。

 業界の前例も、すでに述べたように否定する。

A‐Zのフレームは、それまでの流通業の常識、前例を否定するものです。だから経験者ほど、仕事のやり方に違和感を持ってしまいます(p137)。

 では、なぜ、「前例否定」に至ったのか。

最初から前例を否定しようとしたわけではありません。常にお客様の利便性を優先して考えた結果、小売業の常識や前例を否定することになったのです。逆に言えば、前例を否定しなければ、過疎の田舎町である阿久根市に、私どものような業態の小売店をオープンすることはできませんでした。また、自動車の技術者だった私をはじめ、小売業の経験がない素人だけでスタートしたからこそ、業界の常識にとらわれることなく仕事に取り組むことができ、お客様に支持される店作りができたのだと思います(p75)。

 いまだからこそいえる苦しみが、行間からにじみ出てくるように想われる。この箇所を、著者の血の叫びだといえば、言い過ぎだろうか。だがこの一節に、苦境に立つ小売店が、現状を突破するヒントが隠されているのは間違いない。ここから私たちは、多くを学ぶことができる、これこそ小売業の大逆転発想につながるのだ。
 そもそも、A‐Z創業時には人の採用が困難であった。以下の事情による。

開店してもうまくいかないという評判が広まってしまったため、従業員を募集しても小売業の経験者はまったく来てくれません。結局、近隣の主婦や地元の新卒など、未経験者ばかりを採用することになり、素人集団でのスタートとなりました。私どもは、当時新卒の採用で一〇人の人材が欲しくても、来てくれるのは一人か二人という企業イメージでしたから、求人に応募してくれた方は、本当にありがたくてすべて採用しました(p52)。

 しかし素人集団が幸いした。「素人は、小売業の色に染まっていないので、素直に話を聞いて、素朴にひたむきに、お客様の役に立つことを考えて仕事に取り組んでくれます(p137~138)」「私どもが成長することができたのは、そうした従業員たちが、真摯に仕事に取り組んでくれたおかげです(p138)」というような「素人重視」の文章には、「素朴」「ひたすら」「真摯」といった、非常に大切なキーワードが登場する。いまこそこれらが、小売店に必要不可欠なものにちがいない。

 そうなると指示とか命令はどうなるのか? それがまたまた驚くことに、店長の役割はあくまでコーディネートであり、指示命令はしないというのだ。「自発主義」の集団とでもいうべきだろうか。

AZには商品部もなければ、バイヤーもいません。三二部門の下に、社長がポツンといるだけです。オペレーション上では、もちろん店長はいますが、店長は店舗全体のコーディネーター役であり、店長もトップダウンで指示を出すことはありません(中略)。普通の小売業では当たり前に行われているような、社長が店長に何か注文を出し、店長がさらに現場に注文を出すといったことは、私どもの組織では起こりません。私と店長が三二の売り場責任者に話すことは、私どもの経営理念や経営戦略、たとえば、地域の生活者のお手伝いを常に心がけましょうとか、原材料が高騰しても値上げはできるだけ避けてくださいといったことに限定されます(p156~157)。

 最初のほうに「三二部門の下に、社長がポツンといる」とあるが、「上」ではなく「下」と、さりげなく書いてあるのを、心に留めたい。いずれにせよ、このところに描かれているのは、ある意味、ショッキングな事柄だ。私を含め、そんなこと、とてもできないと思う人は少なくないだろう。賛否はとにかく、じっさいA‐Zでこれを実践しているのは、まさに事実である。しかし、A‐Zはどうして、そこまでするのか、支えるものはなんなのかと思う。が、その答もここにある。

組織作りの根底にあるのは、人間は限りなく平等であるという思想です(p157)。

 ここで私たち読者は、またしても、ああ、そうだったのかと驚愕することになる。
 組織の考え方は逆ピラミッドがよい――そういう理論を学習したことはあるが、不勉強にして実行しているお店は、聞いたことも見たこともなかった。そのうえ、正社員とアルバイトとの差別もなく、さらに加えて、定年制もない。定年は自分で決めるという。そんな店、いったい、どの国のどこにあるのかと思ってしまうが、どう考えても、わが日本の鹿児島県にあるのは、まぎれもない。

 それでは担当者が、最も心掛けるべきはなんなのだろうか。おそらく100人が100人ともわかっているはずの、つぎの言葉がその答となる。少なくともここだけは、自分の店で本当に実践できているか、とみずからの胸に問うために、何回も何回も読む込むべきであろう。

私が何よりも従業員に望むことは、常に売る立場でなく買う立場にたって仕事を続ける姿勢です。素朴で素直で誠実に、平凡で当たり前のことをコツコツと行い、世のため、人のためになるよう、サービス精神を持って仕事をしてほしいと思います(p152)。

(次回につづく)

新・お店のバイブル
執筆者:青田 恵一

福島県出身。中央大学法学部法律学科卒業。中小企業診断士。
長年、小売店(八重洲ブックセンター、ブックストア談などの書店)に勤め、店長、営業企画課長、事業推進部長などを歴任。数々の出店と店舗指導に関わる。
現在、コンサルタンティング会社「株式会社 青田コーポレーション」代表取締役。
経営コンサルティング、店舗診断・提案、研修、出版、執筆などに従事。書店中心に商品レイアウト変更や販売促進を得意テーマとする。
2001年 日本エディタースクール「編集コース」終了。
2003年 『よみがえれ 書店——V字回復へのヒント』(青田コーポレーション出版部発行、八潮出版社発売)を刊行。
2004年 『書店ルネッサンス——進化・視察・出版営業・未来・電子ペーパー』(同)を刊行。書店進化論や、電子ペーパー報告などを収録。
2005年9月には「たたかう書店—メガブックセンター・責任販売・万引き戦争・ジャンル別マネジメント・新古書店対策—」(同)を刊行、「よみがえれ 書店」シリーズ完結編として注目を集めている。同書は日本図書館協会選定図書にも選ばれた。

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